【日用品のネット販売】“普段使い”のECインフラへ、各社が攻防

【2012年12月号】日用品のネット販売を巡る動きがここに来て慌しくなってきている。この分野のネット販売実施企業としてはリーディングカンパニーであるケンコーコムに対し、住友商事系の爽快ドラッグが売り上げを急拡大。12月からスタートするNTTドコモのスマホ向け直販サイトで日用品の商品を供給するなど「売り場」拡大にも注力して急激な追い上げを見せている。

さらにヤフーとアスクル連合が日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」を開設し、日用品のECに参戦。ヤフーの集客力とアスクルの商品力や物流力を組み合わせ、約半年で売上高180億円、5年後には年商2000億円規模を計画するなど鼻息も荒い。

このほか、日用品のネット販売を巡ってはGMSやスーパー、ドラッグストアなどの有店舗小売事業者が取り組みを積極化。無論、ネット販売最大手のアマゾンジャパンも日用品のEC展開を活発化させている。

これまでネット販売では、どちらかといえばし好性の強い商品がメーンだったが、ネット販売の一般化に伴い、日常的に使う「日用品」についてもECで購入しようとする消費者が増えている。日用品は重くてかさばるものが多く、そもそも通販購入の利点は多い。

今後、EC利用で親和性のあるスマートフォンやタブレット端末の普及が進んでくれば、さらに多くの幅広い層の利用が予想される。誰もが生活する上で必要不可欠であり日々、購入せざるを得ない日用品の購入先となれれば、“普段使い”の「馴染みの通販サイト」になれる可能性が高い。そうれれば膨大な日用品はもちろん、他の商材についても「普段、日用雑貨を買っている馴染みのところ」として、他の商材もここでまとめて購入しようという“ネット販売のインフラ"という存在となれる可能性が出てくるわけだ。

こうした状況を踏まえ、各社は将来的な“普段使い”のECインフラのポジションを獲得すべく、ここに来て大手仮想モールなどと連携を行いながら、攻勢を強めているようだ。日用品のネット販売専業各社が同市場の将来性をどう捉え、どのようにシェアの拡大を図っていこうとしているのか、その方向性などについて見ていく。

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【ケンコーコム】楽天と協働進め、大手資本参入に対抗

「当社を取り巻く環境は激変し、大競争時代に入っている」。今中間決算の説明会で、ケンコーコムの後藤玄利代表は、日用品のネット販売の現状についてこう語った。

健康関連商品や日用品のネット販売でリーディングカンパニーとして走り続けてきたケンコーコム。だが、この数年は、売上高で競合の爽快ドラッグに急速に追い上げられ、セブン&アイホールディングスの「セブンネットショッピング」やマツモトキヨシの「eマツモトキヨシ」など有力小売業がネット販売を積極化し、攻勢をかけられるなど多種多様な競争相手に取り囲まれている状況だ。こうした有力な小売業やネット系企業の日用品ネット販売を巡る動きに対し、「大手資本がECの将来性に気づき、シェアの獲得を狙っている」(同)と強い警戒感を見せる。

ケンコーコムの警戒感を表す出来事のひとつといえるのは、2013年1月1日付で予定するアマゾンジャパンとのドロップシップ契約の解消だろう。

ケンコーコムとアマゾンは、2005年7月にドロップシップ契約を締結。ケンコーコムにとってドロップシップは、自社が保有する豊富な品ぞろえとECプラットフォームを活用した新たな事業の柱と期待するもの。アマゾンはドロップシップ事業を始めて間もない頃からの有力なパートナー企業で、同事業の売り上げを考えると、その影響力は小さくはない。

それでも、ケンコーコムがアマゾンとのドロップシップ契約を解消するに至った背景には、アマゾン側の品ぞろえ拡充がある。ドロップシップサービスを提供し始めた当初にアマゾンがメーン商材としていたのは書籍やDVD。だが、その後、アマゾン側が自社仕入れによる取扱商品の拡充を進めるのに伴い、美容や健康関連商品などケンコーコムが扱う商品とバッティングするケースが増加していたという。つまり、ケンコーコムが本業とするリテール事業で、アマゾンが競争相手となりつつあったわけだ。このため、ケンコーコムはアマゾンへのドロップシップサービスの提供を「(これ以上)やらないほうがいい」(後藤玄利代表)と判断。契約を解消することにしたという。

すでにケンコーコムは2012年8月頃から、アマゾンとの取引縮小を進めており、現在では、「ほとんど売り上げは立っていない」(同)状況とする。

気になるのは、アマゾンとの契約解消による影響だが、13年3月期中間決算でのドロップシップ事業売上高は、中小パートナー企業との取引拡大などで、前年同期比20.2%増の8億1200万円と2桁の伸び。だが、単月ベースのドロップシップを含むその他事業の売り上げをみると、12年8月度が前年同月比0.7%減、9月度が同16.0%減。さらに10月度は同17.5%減とマイナス幅を大きくしている。

母数としては小さいかも知れないが、ドロップシップ事業単独で考えると、やはりアマゾンとの契約解消のインパクトは大きいようだ。

古くからのパートナー企業との契約を解消し競合対策に乗り出したケンコーコム。これについて同社は、あくまでも自社の経営判断であることを強調するが、他のネット販売関係者の間では、アマゾン追撃の構えを見せる親会社・楽天の意向が働いたのではないかとの見方も根強い。アマゾンとの契約解消によるマイナスを楽天との協働で挽回し、今期の業績も当初予想は達成できると見る。

有力小売業者の参入やネット系事業者の通販サイトの開設などで、日用品ネット販売の競争激化が予想されるなか、ケンコーコムでは、今後、事業者の淘汰が進み、最終的に生き残れるのは、“優れたサービス”を提供できるところと予測。“優れたサービス”の提供を自社の課題と位置づける。

ケンコーコムが指す“優れたサービス”とは、豊富な品ぞろえと、顧客対応や商品配送などのサービス、そして顧客に満足してもらえる適正な価格での商品提供。要は、顧客の様々なニーズに対応した商品展開と高いサービス品質で継続利用を促し、商品とサービスの両面から顧客に納得してもらい、価格競争から脱却した展開を目指すということのようだ。

ここでポイントの言えるのは、やはり“適正な価格”。NBの日用品の場合、価格戦略が販促の常套手段とも言えるが、バイイングパワーの違いや配送料の兼ね合いなどを考えるとGMSやドラッグストアなどの小売に分があるのが実情。そうした事業者がネット販売に参入してくれば、従来よりも厳しい価格競争に巻き込まれる可能性もある。また、価格と並行して重要なのが送料無料の購入金額の設定。送料無料の購入金額ラインについては、他のネット販売事業者と同等以下の水準を維持せざるを得ない面がある。これは、売り上げを伸ばしながらも利益がなかなか乗らない状況が続く要因のひとつでもあり、同社としても、送料無料の購入金額設定は、「成長と収益を考える上で、重要なパラメータになる」(同)とする。

ネットおよび小売の有力事業者が展開に本腰を入れ始めた日用品ネット販売。この状況に対しケンコーコムは、親会社の楽天との協業を通じ“優れたサービス”の提供を目指す考え。現在のところ、特に目立った具体的な新たな施策は示されていないが、「楽天とケンコーコム双方のノウハウとインフラを活用する方向で調整しているという。

「日用品は継続的に買われる商品。そのルーチンのなかに組み込んでもらえるよう取り組んでいく」とするケンコーコムの後藤代表。今後、楽天との協働を通じてそのような施策を打ち出してくるのかが注目される。

【爽快ドラッグ】今後の成長にらんだ投資を積極化

日用品を扱うネット販売専業でケンコーコムと双璧をなす爽快ドラッグ。2012年3月期売上高が前期比40%増の125億円と勢いを見せる同社だが、同業のケンコーコムの楽天子会社化、アスクルとヤフーによる日用品通販サイト「ロハコ」の開設など、日用品ネット販売を巡る昨今の動向に対し同社の小森紀昭社長は「影響はあるだろう」とする。その対応策として進めているのが、他企業との連携などを通じた売場の拡大、物流体制の強化などだ。

爽快ドラッグでは、年率40%程度の成長維持を目標としており、今期の着地点は160億円を計画。5年後には700~800億円程度の売り上げ規模構築を構想する。利益面では、前期に累損を一層。これを受け、物流センター機能の強化・拡充や基幹システムの刷新など、今後の展開をにらんだ設備投資を積極化している。

爽快ドラッグが今期の重点施策として、まず取り組んでいるのが売場の拡大。すでに自社サイトのほか、「楽天市場」や「ヤフー!ショッピング」「ビッダーズ」など有力仮想モールへの出店を行っているが、さらに中堅クラスの仮想モールへの出店や、他の企業との提携などを進める考え。

この施策でポイントとなりそうなのが、他企業との提携。その第1弾と言えるのがNTTドコモが今年12月に開設を予定するモバイルの直販サイト「dショッピング」での商品展開だ。

「dショッピング」に対しては、約11万点の商品のうち、医薬品などを除く7万点程度の商品を提供する予定。「dショッピング」での受注商品を爽快ドラッグの物流拠点から発送する形になるようで、爽快ドラッグは「顧客に提供する商品やサービスは『dショッピング』のもので、当社はあくまでも裏方」(小森社長)とする。

一方で、ドロップシップについては、すでにケンコーコムなどが展開しており、爽快ドラッグが他企業との提携を進める過程でバッティングが発生する可能性もあるが、爽快ドラッグによると、日用品ネット販売を検討する有力企業が連携を打診してくるケースも少なくないようだ。

この理由のひとつは、企業イメージ。これは親会社のイメージと言ってもいい。爽快ドラッグの親会社は住友商事。歴史と幅広い事業テリトリーを持ち、全方位的な取引を行う大手総合商社のよりフラットなスタンスのイメージが爽快ドラッグにも反映されているらしい。NTTドコモでは「dショッピング」のパートナー企業として爽快ドラッグを選んだ理由について、「資本や物流体制などがしっかりしている企業を選んだ結果」としているが、親会社である住友商事の信頼性が判断材料のひとつとなったことは考えられる。

爽快ドラッグによると、NTTドコモのほかにもいくつか提携企業の候補が出てきている状況で、さらに提携企業が拡大していく可能性がありそうだ。

一方、自社ネット販売や提携企業の拡大を進める上で大きなカギとなるのは物流体制の増強。この部分ではすでに、大阪に所在する物流センターの機能強化を進めており、12月中にも体制が整う見込みだ。

内容としては、従来6000坪だったスペースを6500坪に拡大し、必要な設備を増強するというもので、商品発送のスピードアップを主眼とする。

同センターでは、通販サイトで扱う商品の一部(アイテム数は時期によって異なる)を在庫しているが、自社で在庫を持たない商品の場合、受注後に取引先のメーカーや卸から取り寄せる必要があり、発送までに時間を要していた。これに対し、今回の物流センター拡張および設備の増強で自社在庫商品の拡大などを図り、よりスピーディーな対応を推進。今後も、取扱商品数の拡大に対応した物流体制の強化を進める意向で、2013年度中に大阪の物流センターをさらに拡張するほか、翌年度以降に東日本で物流センターを新設することなども計画する。

年率40%ペースの成長を目指す総会ドラッグ。現状、新規顧客の獲得も順調に進んでいるが、日用品ネット販売を巡る昨今の動向を見ると、今後、顧客の取り込みが厳しくなることも予測される。そのため、次の一手として重視しているのが獲得した顧客をいかに固定化させるかだ。

日用品の場合、現状、価格志向が強く、獲得した顧客が他サイトに流れてしまうことも考えられる。これに対し同社は、「(サイトによって)ついている顧客層が違う」(小森社長)ことに着目。併せ買いやリピート購入促進につがる、自社の客層のニーズに対応した商品・サービスの提供で囲い込みを進める構えだ。

この部分では、新たなCRMシステムを導入し、顧客データベース分析の高度化を推進。まだ、テスト的な段階だが、これまでの展開で成果も出てきており、「来年度からは面白いことができると思う」(同)とする。

また、MD面では、独自性の観点から、メーカーとの共同開発によるダブルチョップ的な商品の展開などを構想。すでにティッシュやペットシートなど一部商品で容量を変えリーズナブルな価格で提供する試みも行っているが、リピート性の高い商材で本格的な展開ができれば、マグネット商材として機能することも期待できるわけだ。

共同企画商品の展開でポイントになるのは、やはりバイイングパワー。爽快ドラッグとしても、高い成長性を維持し一定のシェアを獲得することが重要と見ているようだ。

アスクル&ヤフー】 両社タッグで年商2000億円へ

激戦区である日用品ECに最後発で挑み始めたのはオフィス用品の法人向け通販最大手のアスクル。今年5月に資本業務提携を結び、現在、同社の筆頭株主となっているヤフーとともに新たな通販サイト「ロハコ」を新設した。

ヤフーが標榜する「スマホファースト」の戦略に合わせ、まず10月15日からスマートフォン版とタブレット版サイトを開設、11月下旬に予定しているパソコン版サイトの開設でグランドオープンする。スタート時点では飲料や加工食品、文具、マスク、おむつなどの生活雑貨。同社が得意とする価格優位性が高いメーカーと共同開発したプライベート ブランド(PB)商品など約7万点を取り扱う。今後、さらに取扱商材を拡充していく考えだ。

また、競合との差別化を図るため、配送サービスを強化。東京23区内であれば、特別料金を徴収することなく当日配送)。北海道や東北地域などを除く他の地域は翌日配送とし、こうした即配エリアを今後は首都圏や関西圏など大都市を中心に広げていく考えだ。

ヤフーの力もフル活用。購入額に応じてヤフーの独自ポイント「ヤフー!ポイント」を付与したり、決済はヤフーの「ヤフー!ウォレット」を導入。集客面でもヤフーのポータルサイトからの誘導やヤフー利用者に向けたキャンペーンなどを展開している。

同社としては事実上、半年となる初年度で売上高180億円、黒字化の達成を目標としている。また、来春にも予定しているヤフーの仮想モールおよびネット競売の出店・出品者向けの物流代行事業を含めて5年後には個人向け通販関連単体で年商2000億円規模にまで拡大させたい考えだ。

立ち上げ直後のため、成否の判断はしづらいが、アスクルの商品力や物流力、ヤフーの集客力は疑う余地はない。一定の成功を収める可能性はもちろんある。しかしながら、競合のケンコーコムや爽快ドラッグもまた商品、物流、集客を強化している。アマゾンやイオン、7&iグループといった大手流通など他の有力事業者も同様だ。日用品という消費者にとって最も身近な商材を制し、「“普段使い”のECインフラ」となれる事業者はどこか。ここ数年が勝負となりそうだ。

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