機能性表示食品制度活用の大手、EC企業が市場二分
通販新聞社が行った2019年度の「健康食品通販売上高ランキング調査」は、上位100社の売上高総計が前回調査比2.8%増の6547億6700万円だった。市場は、研究開発力を強みに製品の差別化を図るメーカー、ウェブマーケティングを強みに台頭するECの新興企業が二分している。メーカーにとっては、15年に始まった機能性表示食品制度が追い風。一方、EC市場は広告の規制強化が着々と進んでおり、市場環境の整備から従来のマーケティング手法を踏襲して成長を図るのは、難しくなっていきそうだ。
機能性表示食品制度、メーカー に追い風1400社に総額20億円を返金へ
健康食品通販市場全体は、成長戦略の一環として導入された「機能性表示食品制度」が、大手メーカーにとって有利に働く。
制度導入当初は、景品表示法によって機能性表示食品を扱う企業への一斉処分が行われた「葛の花事件」、「歩行能力の改善」を表示する機能性表示食品の相次ぐ撤回に企業の不満が蓄積するなど、制度の健全な育成を図る上で、行政と業界の攻防があった。企業にも制度の育成を阻む施策に対する失望感が広がっていた。
ただ、執行の透明性確保や、制度の円滑な運用を粘り強く政府に働きかけた業界団体の努力もあり、制度育成に向け行政と業界の足並みが揃いつつある。
消費者庁は今年4月に景表法執行の予見性を高める目的で広告やエビデンスの留意点を示した「事後チェック指針」の運用を開始。運用では、事前相談の窓口を業界団体に設け、連携しつつ機能性表示食品をめぐる諸問題の事前の解決を図る。企業からすれば、不意打ち的な景表法処分を回避できるようになるため、今後、制度を活用する企業の事業展開に大きな追い風となりそうだ。
免疫表示」解禁で市場活性化へ
もう一つの追い風が、業界で長く禁 忌とされてきた「免疫表示」が解禁さ れたことだ。
政府は今年3月に閣議決定した「健康・医療戦略」の中で「機能性表示食品等について科学的知見の蓄積を進め、免疫機能の改善等を通じた保健用途における新たな表示を実現することを目指す」と触れ、これによって食品における「免疫表示」が一気にポジティブに傾いた。
今年8月、制度において、初めて「免疫機能の維持」という表示が認められたのは、キリンホールディングスの「iMUSE(イミューズ)」ブランドだ。高い訴求力のある「免疫表示」を行える初めての製品であり、市場が一気に活性化する可能性がある。資本提携でキリングループ入りしたファンケルも免疫訴求のサプリメントの発売を予定している。キリンは、製品の機能性表示成分となっている「プラズマ乳酸菌」の原料供給を行う方針も打ち出しており、乳酸菌市場で認知が高まる可能性がある。
健食の通販市場は、他を圧倒する広告露出で認知を高めたサントリーウエルネスが長くけん引してきた。ただ、サントリーの健康事業を象徴する「セサミンEX」は、全般的な〝健康イメージ〟で知られ、依然として「いわゆる健康食品」としての展開に甘んじている。届出表示が睡眠ケアなど一部に限られることが背景にあるとみられ、今後、研究開発力を強みにするメーカー間の競争が激化していくことになりそうだ。ランキング上位でもカゴメやアサヒカルピスウェルネス、大正製薬が100億円を突破。味の素、ライオンも本紙推計で売上高は100億円を突破しているとみられ、制度活用の行方が注目される。
ウェブ広告市場、適正化進む
一方、増収率ランキングで上位を占める企業の多くはEC企業だ。背景には、広告メディアをめぐる規制環境があると考えられる。テレビや新聞などマスメディアは、広告考査により、広告内容が一定の健全性が保たれているのに対し、一部のウェブメディアは、実質的に規制が行われておらず、これを巧みに利用するEC企業も少なくないためだ。ウェブ広告の運用に長けた広告代理店が自ら通販に参入するケースも増えている。
ECの広告市場をめぐる規制環境は徐々に変化している。17年には、グーグルのアルゴリズム変更で、比較サイトの検索順位低下など広告適正化が進んだ。また、健康情報のキュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」をめぐる薬機法の問題などを受け、19年以降、広告掲載側のメディアでも一部で広告審査基準の厳格化に向けた動きが進んでいる。
ヤフーは今年8月、2019年度に約2億3000万件の広告を自社基準に抵触するとして非承認したことを公表した。健食や化粧品関連は約978万件もの広告を非承認にしていたことが分かった。
これら自社の広告審査基準を持つメディアや検索ポータルに対し、〝抜け道〟となっているのが、アドネットワークを通じて配信される広告だ。各媒体社のウェブメディアは、多くが自社で広告考査の基準を持たず、アドネットワークに広告配信を委託している。委託を受けた側も、一部のアドネットワークは、広告の考査基準を持たず、インパクト重視の広告を垂れ流している。