消費者庁が機能性表示食品に「規格基準型」を導入する構想を描いている。届出実績が豊富で科学的根拠が一定程度定まったものを対象に、消費者庁が規格基準を策定して利用しやすい制度にする考え。さくらフォレスト事件による企業や制度の混乱を受け、制度維持に向けた改革案として示している。ただ、制度維持を目的にした消極的な育成策。企業自治による柔軟な表示が可能な制度の魅力を削ぐ可能性もある。
「健食は過度に期待を持たれていない」
「残念ながら健康食品は、健康・栄養政策の中で過度な期待を持たれているわけではない」。構想が飛び出したのは今年10月、健食の業界団体の連合体である健康食品産業協議会が「食品開発展」の中で開催したセミナーの席上だ。これに招かれた消費者庁の依田学審議官(食品担当)は、冒頭の発言に続き、消費者庁のスタンスを「健康・栄養政策を担う厚生労働省の考えを消費者に伝える立場」と説明。24年度に始まる厚労省の健康政策「健康日本21(第三次)」において、栄養バランスの取れた食事、適度な運動、睡眠等を軸に政策決定されていることを引き合いに、「栄養の偏りや生活の乱れを安易に健食で解決しようとせず、あくまで補助的なもの。健食を食べなさいとは言っていない」と、セミナーを傍聴した200人近い業界関係者に釘を刺した。
機能性表示食品制度は、13年の成長戦略スピーチで安倍晋三元総理の号令を受け、成長戦略の一環として15年4月、健康寿命の延伸への貢献を期待されてスタートした。食と医の狭間で制約を受ける健食の機能性表示に、事業者裁量による「届出制」を採用することで規制改革を行い門戸を開いた。機能性表示食品制度の過去への回帰を告げる審議官の発言は、国の健康政策の転換を意味する。
届出実績豊富な成分を規格化
そもそも、「規格基準型」とは何か。現状、機能性表示食品を含む保健機能食品制度は、栄養機能食品、特定保健用食品(トクホ)と建付けの異なる表示制度が乱立している。
栄養機能食品は、国の規格基準に沿い、事業者が自由に活用できる「自己認証型」。ただ、表示範囲は限定的で分かりづらいといったデメリットがある。トクホは、国の審査を経て許可される「個別許可型」。しかし、消費者委員会、食品安全委員会における審査を経るなど手続きに時間を要し、開発にも数億円単位の費用がかかるとされる。
もともと栄養機能食品やトクホのような限定的な表示範囲、許可に必要な労力など各制度のデメリットを補い、事業者の自己責任による「届出制」を採用することで、これまでにない柔軟な表示を可能にしたのが機能性表示食品だった。消費者庁はこれを変えるという。栄養機能食品のような「規格基準型」を採用しつつ、表示範囲も広げるというものだ。
規格基準は、ギャバやEPAなど、届出実績が豊富なものを選び庁内の審議会などで検討の上、策定していく考えを持っている。制度内でこれを実現するか、トクホ、栄養機能食品など隣接する制度を含め設計の見直しを行うかは「今後議論する」(依田審議官)という。これと併せ、食品安全委員会、消費者委員会への諮問が必要なトクホも審査手続きの簡素化を検討していくという。
消費者庁はすでに、24年度の予算要求(科学研究費)で、欧米、ASEANなど諸外国の食品表示制度を調査し、国際整合性を意識した制度設計の見直しにつなげる考えを示すなど、「規格基準型」の構想はかなり具体化している。
機能性表示の自由度はなくなる
さくらフォレストに対する景表法処分では、届出表示の「根拠」に踏み込み、同一根拠の届出製品を含め騒動が拡大した。依田審議官は、さくらフォレスト事件の一因が行政の関与が一切なく、制度的に不安定な環境に置かれる届出制にあると指摘。「(国が)許可したものでないとなる規制当局が合理的根拠とは言えないとなれば景品表示法の対象になりうる。制度的に繰り返されないとも限らない」、「永続的にこの制度に安住してよいのかと申し上げたい。もう少し国に関与させてほしい」と、国が一定程度関与する改革に理解を求めた。
「規格基準型」のメリットは、企業努力で研究レビューの質向上を図る必要がないことにある。トクホのような疾病リスク低減もうたえるという。許可表示となれば、景表法処分のリスクも減るだろう。依田審議官は、国の策定した規格に合わせることで、海外のヘルスクレーム制度との相互調整など、国が海外進出を積極的にサポートすることができるとしてそのメリットを強調する。「許可制」と「自己認証」の要素を併せ持つ安定的な制度は、景表法リスクに不安を覚える事業者に魅力的に映る。だが、果たしてそうだろうか。
最大のデメリットは、表示の自由度がなくなることだ。健食と機能性表示食品の関係と同様、国が定める「規格基準」の誕生は、機能性表示食品の位置づけを相対的に下げる可能性もある。
そもそも、国が許可したトクホであるからといって景表法は免れない。17年には、消費者庁が日本サプリメントの販売するトクホを対象に、品質管理を怠るなど「許可要件を満たさず優良誤認にあたる」として、景表法処分を下している。このことが、トクホの管理義務強化につながっている。前年の16年にはライオンの販売するトクホの広告を対象に、診療機会の逸失などのおそれがあるとして健康増進法に基づく初の勧告(行政指導)も行われている。「許可制だから」という安住の地はないのだ。表示に有利性・優良性があればトクホであっても景表法処分の対象になる。
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