「Yahoo!マート」も参戦! 即配EC、クイックコマースの行方

  • 2022年2月25日
  • 2022年6月24日
  • 特集1

「注文後、すぐに商品をお届けします」──。利用者から受注した後、すぐ短時間で配達するいわゆるクイックコマースを展開する事業者が増えてきた。Zホールディングスも傘下企業とともに本格展開を開始した。クイックコマースは米国など海外で急成長しているが、国土が狭く、商店が多い日本では展開が難しいと見る向きもある。日本におけるクイックコマースの現状と今後の行方とは。

スポンサードリンク

Zホールディングスが本格参戦で盛り上がるか、日本の即配ECサービス

 受注から数十分程度で日用品などを配送する即配ECサービス、いわゆるクイックコマースを日本で展開する事業者が増えてきている。現在の主なプレイヤーは「UberEats(ウーバーイーツ)」に代表される配達員が飲食店の料理を利用者の元へ届けるフードデリバリーサービス事業者のほか、飲食店向けの酒類販売を行ってきたカクヤスが一般消費者向けにも日用品などの即配を実施中。こうした事業者に加えて、Zホールディングスがグループ会社を率いて今年に入り、クイックコマース事業に本格参戦をスタートした。コロナ禍を背景にEC全体の利用者が増え、また、フードデリバリーサービスの利用者も格段に増えた。

 すでに一定の利用者をつかんでいる米国や中国、韓国のようにクイックコマースが日本でも今後、盛り上がりを見せる可能性もあり、新たなビジネスモデルや強力なライバルという観点でもEC事業者はその行方を注視する必要がありそう。一方で、数年前に先がけてクイックコマースを展開していたアマゾンが早々に撤退。また、いち早く日本でクイックコマースを展開していたフードデリバリー事業者も今年に入り事業を終了させるなど、一筋縄ではいかない手ごわいビジネスという側面もある。日本におけるクイックコマースの現状をみていく。

ZHD、アスクルや出前館らグループ各社と連携して最短15分配送

 Zホールディングス(ZHD)は1月26日、グループ傘下各社と組んで、日用品や食品、飲料などを注文から最短15分で配送するクイックコマースサービスの本格展開を開始した。2021年7月末から「PayPayダイレクト」というサービス名称で都内の一部で実証実験を行ってきたが、21年10~12月の2カ月間で注文数が10倍に増加するなど「強い手ごたえを感じた」(秀誠ZHD執行役員兼ヤフー執行役員COO事業推進室事業推進統括部長)として、本格展開を行うとし、サービス名称を「Yahoo!マート」と改称した上で、規模拡大を進める考えだ。

 同サービスはZHD傘下のアスクルが仕入れたティッシュペーパーや洗剤などの日用品や冷凍食品、生鮮品、水、酒などの商品をあらかじめ都内の拠点に在庫しておき、同じく傘下の出前館が展開中のフードデリバリーサービス「出前館」の配達網を活用、顧客宅に即時配達するもの。

 利用者は「出前館」のアプリやサイトから飲食店の料理のデリバリーを注文するように「Yahoo!マート」を選んで注文できる。現状、コンビニ店舗の居ぬきやオフィスビルの一室などに設けた商品在庫拠点は都内7区に8カ所(板橋区大山、渋谷区代々木上原、中央区日本橋、墨田区横川、港区三田、新宿区神楽坂、大久保、台東区上野)設けており、各利用者が登録している住所に応じてサービス対象エリアの利用者のみ「出前館」のアプリやサイトに「Yahoo!マート店」が表示される仕組み。利用者からの注文を受けて各拠点の庫内作業員が受注品をピッキングし梱包。拠点周辺におり、「出前館」からマッチングされた配達員が商品を受け取り、自転車やバイクで利用者のもとに届ける。配送時間は注文から15分から1時間程度となるよう。注文は総額800円から受け付ける。配送料は420円(注文額1500円以上は310円)。

 2021年7月末から同様のスキームでまずは東京・板橋区に拠点を設けて約300種類の商品を販売する実証実験を開始。その後、拠点を5つまで拡大し、サービス対象エリアを広げていく中で注文数は同年10月から12月の2カ月間で10倍以上まで増加。また、継続購入者の平均注文頻度は3.7日に1回と高く、中には1カ月間で70回、総額17万円分購入するヘビーユーザーも現れるなど、顧客数や注文頻度が着実に伸長してきたことなどもあり、本格的な展開に踏み切ることにしたという。

クイックコマースに本格参戦した ZHD グループ各社(1月 26 日開催の記者会見の様 子=左から出前館の清村取締役、ZHD・ヤフーの秀執行役員、アスクルの輿水取締役)
出前館から日用品を注文できる「Yahoo! マート」

 本格展開のため、今後、取扱商品数を拡充する。すでに実証実験開始当初の300SKUから約1500SKUまで商品を増やしてきたが、さらに取扱商品を拡充する。これまで通り、アスクルが展開する事業者向け通販事業や日用品通販サイト「ロハコ」で販売する商品を軸にしながら、直近で投入した冷凍食品・アイス、牛乳や卵、納豆などといった日配品のほか、現状は一部の拠点のみ取り扱う野菜や果物などの生鮮品や昨年末に販売した2万円のおせちや2022年1月29日に販売した全国の有名駅弁など季節・催事商品などアスクルではこれまで販売していなかった商品や、アスクルの取引先でマーケティング面などで連携する複数のメーカーと組んで、新商品の先行販売なども行っていく考えで、当面は3000~4000SKU程度の商品数を目指していくという。価格帯は現状、“スーパー以上、コンビニ未満”という状況だが、テストを含めて割安な価格設定を行うなどし、売れ行き等を検証していく考え。

 なお、現状の商品カテゴリー別の売上構成は「食品」が34%、「水・飲料・酒」が18%、「日用品」が17%、「冷凍食品・アイス」が16%、「チルド・日配品」が15%。「(実証実験のスタート当初は)米やカップ麺、ソフトドリンクなどの常温加工食品が売れ筋だったが、最近では冷凍食品や日配品などの売り上げが大きく伸びている。また、トイレットペーパーや電池、洗剤といった食品以外の日用品も非常に売れている」(アスクルの輿水宏哲取締役)という。

 サービス展開エリアも拡充する。すでにお出前館は47都道府県でフードデリバリーを行っているが、「Yahoo!マート」の展開のためには在庫拠点が必要なことから現状、東京23区の主要エリアに8拠点を構えている拠点数をさらに増やして2022年の春をメドにまずは東京23区をカバーできる体制とし、その後、東京23区以外の東京の市や他の都市圏などでも拠点を構え、展開していきたい考えという。

 ZHDでは「Yahoo!マート」の事業の売り上げ目標は明らかにしていないが、「集客(ヤフー、LINE)・商品(アスクル)・デリバリー(出前館)の3つの領域のNo.1アセットで『ほしいものが今すぐ届く』という新しい買物体験の提供を通してクイックコマースという新たな市場を作っていきたい」(ZHD)としている。

利用者からの「Yahoo! マート」の注文商品を拠点スタッフがピッキング、梱包して、「出前館」の配送員がピックアップし、利用者まで最短15分以内に配達する

最大手や品ぞろえ豊富なフードデリバリーのクイックコマースは

 「Yahoo!マート」はグループのフードデリバリーサービス「出前館」の配送網を活用したモデルだ。このように現状、クイックコマースはフードデリバリー運営者が抱えるギグワーカー(単発で仕事を請け負う人)が主に担う配達員に料理と同様、日用品についても配達専用店(ダークストア)でピックアップさせ、自転車やバイクで近隣エリアに配送してもらう形が目立つ。主なフードデリバリーサービス運営者のクイックコマース事業を見ていく。

 まず、フードデリバリーサービスの最大手と目される「UberEats(ウーバーイーツ)」では2021年12月15日から、「UberEatsMarket(ウーバーイーツマーケット)」という名称でクイックコマース事業を開始している。都内にダークストアの第一号店「日本橋兜町店」を開設して、食品、美容・衛生用品、日用雑貨、生鮮食品、冷蔵・冷凍食品のほか、「コストコ」の冷蔵食品やベーカリー商品を含めスタート時点では合計1100点を取り扱う。同店を中心としたエリア限定だが、30分以内に利用者のもとに配達するよう。最低注文額はなく、配達料は50~500円(1回の注文額2000円以上は無料)。今後も対象エリアを拡大していく方針で「日本橋兜町店に続いて、今後都内で店舗を拡大させていく予定」(同社)という。

 なお、「UberEats」では自社のダークストアからのクイックコマースは昨年からとなるが、コンビニ大手の「ローソン」と組んで、店頭から商品をピックアップして配送する形でローソンの商品を即配する試みは2019年からスタートしている。

 フードデリバリー「Wolt(ウォルト)」は2021年12月2日から、「WoltMarket(ウォルトマーケット)」という名称でスタート。ダークストアを北海道・札幌市内に2店舗同時に開設して展開。取り扱う商品は生鮮品を含む食料品や日販品、日用品、ベビー用品、介護用品など2000品目超で、クイックコマースを展開する主な事業者の中でも現状、最多の品揃えをほこる。受注から約30分程度でサービス対象エリアに即配する。2022年1月27日には札幌市内と函館市内に、また、同2月22日には広島・広島市および呉市にそれぞれ新たなダークストアを開設しており、サービス対象エリアを徐々に広げている。

 配送料金はダークストアから1km未満は50円、1~2km未満は150円、2~3km未満では250円、3km以上は350円、4km以上は450円。なお、配送エリアは5kmまで。また、サービス料金として注文額の10%(最大300円)を徴収している。

[ この記事の続き… ]

韓国から参入など注目すべきク イックコマースは?、日本のクイックコマースの今後 は?、については本誌にて→  購入はこちら >>

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG