ネット販売において、「テキスト+静止画」という従来の商品説明スタイルよりも圧倒的に表現力があり、訴求力も高まる「動画」。すでに多くのECサイトが動画を活用して様々な展開を行っているが、中でも注目されているものの1つが生配信動画の活用だ。動画の表現力に加えて、ライブ放送ならではの臨場感も加わることで、“化学反応”を起こし、大きな成果につながることもあるようだ。使いようによっては業績アップの1つの起爆剤となる可能性もありそう。すでに様々な形で生配信動画を活用したECを展開する注目各社の現状を見ていく。
“テレビ通販クオリティ”の動画に
“双方向性”をプラスし一定の成果
【事例① ジュピターショップチャンネル】
テレビ通販大手のジュピターショップチャンネル(JSC)は毎日深夜1時間のインターネット専用の生放送番組「ネットLIVE」の配信を行っている。
通販専門チャンネルとして24時間生放送を行っている同社が手がける動画はやはり他社のものとは一味違うクオリティで、テレビ通販で培ったノウハウや収録技術などを総動員しつつ、ネットならではの“双方向性”を加え、同社が展開しているネット施策の中ではトップレベルの効果をあげているよう。アパレルや家電などテレビ通販でも人気の高い商品などでは特に効果的で売上面でも一定の成果を出しているようだ。
ただし、ECの目玉施策の期待値には達していない、と現状には満足していないようでさらなる進化を図っていきたい考えのようだ。
ユーザーの声にすぐ対応
「ネットLIVE」ではアパレルやジュエリー、食品、家電、化粧品などなど様々なジャンルのおすすめ商品を日替わりで深夜12時から1時間に渡って配信中だ。
同社ではネット販売強化策としてここ数年間、テレビでは紹介していない商品をネットだけで販売する「ネット限定商品」の充実を図ってきた。その一環でテレビ通販番組で実施しているその日の目玉商品を紹介する「ショップスターバリュー(SSV)」のように、ネット限定商品でもそ
の日の目玉商品を紹介する「ネットだけ
SSV」を開始した。これを踏まえてさらに同社の強みである「映像(動画)」を活かし、2015年4月から「ネットだけSSVライブ」として、その日、ネットで一番の目玉商品を紹介する映像をネット上でライブ配信する試みを開始。そして同11月からはそれまで週1回程度と不定期だった「ネットLIVE」を毎日深夜12時からの1時間の生配信として本格的にスタートさせている。なお、生配信後はアーカイブ動画としていつでも視聴することができるようになっている。
「ネットLIVE」ではネットならではの機能や演出を考えて、顧客参加型の双方向の番組作りを行っていることが特徴だ。
機能面では現在、視聴している人数や販売中の商品の受注数を「残り○○個」といったカウントダウン方式でリアルタイムに表示して、ライブ感を醸成しているほか、ライブ動画の下に利用者が商品についての質問や番組の感想・リクエスト、出演者への質問などを送信できる「メッセージ機能」を設置した。利用者のメッセージは原則、すべて画面上にリアルタイムで表示するほか、番組司会者の手元のパソコンにも届けられる仕組みで「もうちょっと生地のアップが見たい」「商品の特徴をもう少し詳しく説明して」といった利用者からの声に対して即時に対応し番組に反映させている。
また、「いいね!ボタン」も設置。利用者が生配信中の動画で紹介している商品が気に入った場合、同ボタンをクリックすると、動画画面の周りにハートマークが表示される仕組みだ。「いいね!」がクリックされるほど、画面周りのハートマークが増えていく仕掛けで他の利用者がどのくらい「いいね!」をクリックしているか、リアルタイムでビジュアル的に把握できるようになっており、ライブならではの楽しさを演出している。
制作面も本業のテレビ通販番組で培ったノウハウやショッピング映像の制作に長けた専門スタッフが専門機材を活用したクオリティ高い映像に加えて、視聴端末がテレビではなく、パソコンやスマートフォンでの視聴を前提としていることを考えて、画面が小さくとも視聴しやすいようにテレビ通販番組よりも「寄り(被写体に近付いて撮る事)の映像」を中心にしたり、また、「テレビ通販のように商品の特徴をメインに構成するのではなく、より気軽に見て頂けるように、時には(紹介商品のメーカー担当者など)ゲストの人のキャラクターにフォーカスしたトーク展開にしたり、逆に徹底的に様々な角度から“寄り”で商品を見せたりと柔軟な番組作りを行っている」(オムニコンテンツ企画開発本部オムニチャネル推進部ネットライブグループ・竹内一平グループ長)など様々な工夫を施している。
ネット施策としては高い成果も…
では「ネットLIVE」の成果はどうか。現状、同社が展開中のネット施策の中では「トップレベルの効果を上げている」(執行役員・中馬和彦オムニコンテンツ企画開発本部副本部長兼オムニチャネル推進部長)としており、具体的な伸び率などは明らかにしていないものの、紹介商品のコンバージョン率はそれ以外の商品と比較して高く、売り上げアップにも寄与しているよう。特に同社のテレビ通販でも人気のあるアパレルやジュエリーのほか、ネットでは比較しやすい掃除機などの家電製品は非常によく売れているようだ。
ただ、ライブ動画による「プラスアルファーの効果」は認めつつも「ネットLIVE」への誘導導線が同社サイトのトップページのファーストビューの中央という最も目立つ“一等地の位置”に置いていること。また、売れ行きのよい商品はすでにテレビ通販で人気の商品であったり、特売品などであること。さらに、映像制作についてもテレビ通販並みのリソースをかけていることなどを勘案すると、「ECを大きく成長させるための目玉施策として、テレビ通販×ネットのハイブリットモデルを作り上げようとスタートさせたため、期待値は高い。効果があるかないかで言えば、“ある”ことは確か。また、採算も取れており、施策としては継続していこうと考えているがそれはあくまで『ネット施策としてはよい』というもので、最低限のところはクリアしているが、期待値や目標には達していない」(同)と現状には満足していないようだ。
今後は「ネットLIVE」は配信時間を現在の深夜帯のみから他の時間へも広げていくことなどを検討しており、継続的に強化していく方向だが、「しっかりと映像で商品を説明して納得してもらいながらライブ感ある演出との相乗効果で大きな売り上げを上げている『テレビ通販』をインターネット上にそのまま持っていけるか、というこれまでのトライアルの結果、なかなかeコマースでは難しいと分かった」(竹内氏)としており、同社のネット強化策は「ライブ動画」を軸にという形というよりも、今年下期から来期上旬にかけて順次、リリース予定のヴァーチャル試着機能などを含めた新アプリなどの他のネット施策などとの連動性を考えながら、トータルでECを強化していく考えのようだ。