企業にとって「当り前」のSDGs
越境ECなどを行うビーノスグループにおいて、ブランド品の買取販売などを手がけているデファクトスタンダードでは、環境問題などへの対応に以前から全社的に取り組んでいる。近年は「SDGs」という言葉が、企業活動の中でも特に重要視されるようになってきたが、同社の場合、当初からリユース企業として社会に果たすべき責任を全うしている。現在では「廃棄ゼロ」という大きな目標も策定するなど、その取り組みは加速。仙頭健一社長が考える、企業にとってのSDGsの在り方とは。
リユース事業そのものが、環境に対して貢献
海外への出荷量が3倍に拡大
─2021年の中古ブランド市場を振り返っていかがでしょうか。
当社の場合は、(国内の)「toC」と2年前から注力している「海外」での視点となりますが、まず、国内について2021年はコロナで緊急事態宣言の期間とも重なって、なかなか外出する機会が少なかったと思います。ブランドファッションはその影響を受けやすいジャンルでもあり、伸ばしづらい1年でした。年の後半は宣言が解除されたこともあり、それに伴って売り上げも復調傾向となっています。
海外については、当社としてもかなり伸ばしているところで、1年前と比べて出荷量が3倍近くに増えています。これは我々が新しい販路を追加したり、マーケティングの取り組みの成果もありますが、同じコロナ禍でも日本よりも海外の方が消費意欲の回復が進んだことも理由にあると見ています。また、SDGsやサステナブルと言ったリユース文化の(海外での)浸透も効いていると考えており、加えて、もともと中古品を購入したことがないような顧客層が購入するようになったことも底上げにつながっているのではないでしょうか。
─海外ではどのような形でマーケティングを進めていますか。
国内での販売方法をそのまま行っても、その国ごとの売り方・売れ方があるので難しいでしょう。例えば、中国では2021年からTモールに出店しましたが、中国はライブコマースが主流となっているため、ブースの設置も含めてスタートしています。商品は国内にあるので、自社で撮影場所を作って中国語を話せるライバーさんを起用しています。また、顧客対応についても、売るだけではなく、商品に対しての質問が来るので、その対応も重要となります。
日本では新品に対しての中古比率が30%近くとされていますが、中国では5%程度です。そのため中古商材に対しての不安や疑問がまだまだあるようで、それについてきちんとした言語で対応するカスタマーサポートもマーケティングの一つだと考えています。ライブコマース上での対応やメールなど、あらゆる手段で対応しています。もともと、グループで越境中心のビジネスを展開しているので、各国の顧客対応はリソースとして持っていて、それを活用することで円滑に進められています。
─海外での認知拡大に向けて取り組んでいることは。
各国のSNSを使っていて、今は中国を中心に行っています。時々私も出演していて、認知してもらい、かつ安心して使ってもらえるよう、ブランディアをきちんと理解されるための情報発信をしています。また、米国では(越境ECプラットフォームの)「eBay」を以前より行っているので、「ブランディア」で検索して購入されるサイト内での指名検索は徐々に増えました。リピーターがついているということでしょう。
「廃棄ゼロプロジェクト」の立ち上げ
─いつ頃から環境問題などへの対応をはじめたのでしょうか。
当社では、「SDGs」と言うキーワードが世の中に出る前から環境問題などについて長年取り組んできました。大前提として、不要なものを買い取って必要とされる人に販売するというリユース事業そのものが環境に対して貢献できているところだと思っています。
そのため、リユースを通じた社会貢献活動に以前から力を入れていた背景があります。SDGsには、環境以外にも様々な項目で努力目標が設定されていますが、当社で提供している範囲も非常に多岐に渡ります。寄付もそうですし、働き方に関してもいち早く「ソーシャルワーク」という形で自宅に居ながら働けるネットワークを構築してきました。
─環境問題の対策として、直近での取り組み事例は。
2021年に始めた施策の一つとして「廃棄ゼロプロジェクト」というものがあります。宅配買い取りを受け付けていますと、どうしても買い取りすることができないものも存在します。具体的には、品質表示などのタグが切り取られてしまっていて法律上再販ができないもの、あるいは破損して買い取り対象とはならないようなものなどです。
そうした買い取れなかったものは、お客様に対して返却を希望されるか伺っても、大体が「そのまま廃棄してほしい」ということを要望されますし、当社としても廃棄する方が作業としては一番簡単になります。ですが、廃棄ではなくきちんと活用していこうというのが、このプロジェクトの考え方です。
2021年に特に注力した内容では、廃棄する衣料を協力会社に無償提供してアップサイクルし、別素材として有効活用した取り組みがあります。これは、不要となった衣料品を圧縮加工して
「PANECO®(パネコ)」というリサイクルボードに変えるものです。もちろん、ただ、廃棄衣料を提供するだけではありません。我々のところでもきちんと活用していくことが責任の一つでもあるかと思いますので、例えば、国内で展開している買い取りの実店舗の壁面であったり、テーブルなどにその素材を使っております。
─この取り組みではどれだけの成果を挙げられたのでしょうか。
廃棄衣料の量はその月にもよりますが、当社の場合、2021年はトータルで月間約4トン(1万点以上の商品数)ぐらいの廃棄が生まれていました。しかし、その内の約6割をこの取り組みで再活用できています。
─リサイクルボード以外にも、廃棄衣料を再活用している取り組みはありますか。
物量自体はそこまで大きなものではありませんが、服飾関係の大学や専門学校にリメイク用として廃棄衣料を無償提供している取り組みがあります。
例えば、大妻女子大学(家政学部被服学科染色デザイン研究室)に無償提供した際には、同校で5種類の技法を用いてアップサイクルし、アートフラワーであったり、傘を染め直したり、テディベアなどを作ったりしていました。
─もともとの衣料とは全く異なるものへと生まれ変わっているのですね。
これは、服から服に作り直しても、再びその服が不要となってしまって廃棄になる可能性もあるため、あくまでも「思い出」として取って置けるようなものをテーマにしてアップサイクルに取り組んでいたようです。
他に提供した大学や専門学校の事例を見ましても、防災用品に変えたり、子供服にリメイクして寄付にチャレンジしたりなど、提供した各校によってそれぞれ異なる内容の取り組みをしていました。
─こういった活動を通じて、会社として得られたものとは何でしょうか。
当社としてはこれらの活動の中で、少なからず実店舗に来店される方には、パネコを使っている意図などを分かりやすく伝えるようにはしていますので、そこで当社の想いなどを感じ取ってもらい、ファンになってくださった方もいるとは思っています。
とは言え、こういった活動は何か見返りを求めて行うことではないと考えています。例えば「リサイクルボードと通常のボードを比べると、どちらのコストが安くつくのですか」という話になった時、どうしてもリサイクルのために加工賃などがかかってしまうため、パネコの方が多少割高になってしまいます。
そうしたことを考えますと、損得や何か見返りを求めるような考えを持っているのであれば、無理に取り組む必要はないかと思います。そうではなくて、長い目で見た時に、環境や自分たちの事業自体を長く行うためには、こうした活動を自社で行うことは当り前のことだと思います。
─海外事業も展開されていますが、SDGsの考え方は日本よりも海外の方が進んでいるというイメージでしょうか。
SDGsに関して、海外では日本よりも取り組み意識が高いと感じています。事業とはまた異なる観点ですが、例えば投資活動においてSDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みに消極的な企業は、最初から投資の対象に入らないということもしばしばあります。こうしたことからも、海外でのSDGsへの取り組み姿勢は高いと見られています。
短期での見返りを求めずに取り組むこと
「結果が出る」を重視した働き方の整備
─SDGsには、環境以外にも様々な内容の項目があります。
環境対策以外のことで申し上げますと、「働き方」への取り組みがあります。まず、当社としては、コロナ禍においてかなり早い段階からリモートワークを取り入れており、それを行う上でのネットワーク作りは早期に構築しています。
一方で、2021年に入ってからは緊急事態宣言が解除された時期もあって、世の中的にリモートワークを行う必要性が薄れるなど出社するという選択肢も再び出てきました。
─当時は様々な会社で方針が分かれたような記憶があります。
これは色々なところで議論されたことでもあるのですが、この1年間でリモートワークやリアル(通常の出社)のそれぞれの良い点・悪い点などが見えてきた部分があります。そのため、今は各部署の判断に委ねる環境を作ることができています。
私自身は、リモートかリアルかどちらの働き方が良いのかということではなく、大事なことは「どうしたら一番良い結果が出せるのか」ということだと思っています。「全体の何割をリモートにした方が良いのか」、「対面の時間をどれくらい増やすべきか」といったことは、各部署やフェーズ、プロジェクトによってそれぞれ異なると思います。そのため、会社が一律で働き方を指定して決めるのではなく、各部署で判断して働き方を決められる仕組みを作ったということが当社の大きな特徴かと思います。
その結果、部署によっては週に4~5日出社しているところもあれば、週に1~2日出社の部署もあります。とにかく、各部署では「一番結果が出る」ということにフォーカスしてもらって、そのためにどのような働き方をすれば良いのか考えてもらっている状況です。会社としてはそうした働き方に応える環境をつくるということが重要で、実際に結果も出てきているため、非常に良いことだと感じています。
完全な「廃棄ゼロ」を目標に
─今後について、会社としてもっと注力すべきポイントなどはありますか。
引き続きSDGsに関わる取り組みを進めていきます。当社として事業にも直結して一番貢献しやすいのは「つくる責任つかう責任」の項目のところだと考えています。先ほど、廃棄約4トンの内、6割を削減できたということを申し上げましたが、逆に言えば廃棄ゼロまではまだ至っていないということです。例えば、靴や子供服など、まだまだ生かし切れていないところがあるので、こういったものも有効活用していきたいです。
また、お客様に対してきちんと商品の状態を良くして使ってもらいたいということがあります。商品の寿命をいかに長くするかということは非常に大事なことだと捉えています。そのため、実店舗では商品購入時に革製品などの手入れに使えるメンテナンスクリームなどをお渡ししています。手入れするだけでも物持ちはとても良くなりますので、こうした取り組みを当り前にしていきたいです。
─改めて、SDGsとは。
繰り返しになりますが、企業にとってSDGsとは「当り前のこと」なのではないでしょうか。当社としてはもともと当り前として行っていたことでもあり、それが最近になって「SDGs」という言葉として注目されてきたことだと思うので、短期での見返りを求めずに取り組むことで、自分たちの事業やお客様のためにつながっていくのではないかと考えています。
仙頭健一(せんとう・けんいち)氏
2002年4月富士通サポートアンドサービス(現・富士通エフサス)に入社、06年3月ネットプライス(現・BEENOS)入社、12年2月モノセンス社長、14年12月BEENOS取締役(現任)、17年10月BeeCruise取締役(現任)などを経て、19年12月に現職に就任。
◇ 取材後メモ
SDGsが声高に叫ばれる昨今、エネルギーを大量消費するような製造業や運輸業とは異なる通販企業の場合、何に手を付ければよいのか分からないケースは多いかと思います。同社ではリユースならではの取り組みを展開していますが、自分たちの事業への還元を念頭においた内容ということで、色々とヒントになる部分は多かったのではないでしょうか。SDGsは引き続き、企業の宿題として社会から求められるテーマになると思います。先行企業である同社が、次に打ち出す新たな取り組みに今後も注目していきたいです。