アパレル EC の余剰在庫問題
記録的な暖冬に見舞われた2019年度。アパレル通販各社では、稼ぎ頭であるはずの重衣料が軒並み大苦戦を強いられた。売れ残った在庫は処分をするにも、保管をするにも常にコストなどの問題がつきまとう。2月からは新型コロナウイルスの影響で、暖冬とはまた違った形の機会損失による余剰在庫が発生する懸念も出てきている。しかしながら、近年はこうした在庫消化の悩みに対応すべく様々な角度から販売を支援するサービスがあらわれている。実際の活用事例とともに、その取り組みを見てみる。
倉庫を提供して在庫セール開催
ファッション関連商品に特化した物流サービスを手がけているOTS(オーティーエス)では、荷主企業のアパレル在庫問題の解消に向けたサービスを以前より提供している。
同社ではECを含めたアパレル企業の商品について倉庫での保管や入出庫をメインに、物流加工などの周辺業務も実施。比較的高単価で少量多品種を扱う荷主企業が中心となっている。
同社の田中優一郎社長自身が過去にアパレル企業に在籍していた経緯もあって、アパレル業界の在庫過多問題の行方については非常に憂慮していたという。「具体的な出口を作っていかないと倉庫の中にずっと在庫が留まってしまう。その出口を提供したかった」(田中社長)と説明。数年前より荷主の在庫状況を見ながらいくつかの荷主企業に話を持ちかけていき、その後「カイテン倉庫」として5年前より本格的なサービス提供を開始した。
同サービスの具体的な流れとしては、“消化”の依頼を受けた在庫について、まず、同社が連携している外部のフラッシュセールサイトで販売。ここで全体の半分程度を販売できるという。次に、同社の物流倉庫のスペースを600~1000平方メートルほど部分的に開放して、一部の取引先や自社の従業員(約850人)とその家族などで構成された顧客を対象にした限定のセールイベントを開催して、高い割引率で販売する。
倉庫でのセールは半年に1回のペースで実施しており、1回に2日間の期間でそれぞれ半日程度の時間を使って展開。売り上げ手数料として荷主から5%を徴収する形となっている。
一部商品に関しては同社が荷主企業から買い取って追加手数料を受けて販売代行まで行っているものもあるが、基本的には荷主自身が抱えている状態の在庫として販売している。このセールに参加するのは10社程度で、多くが3年ほど前の古い型の在庫を販売。B品やサンプル品なども含めての販売となるが、これで全体の3割弱程度が消化できる。
そして、ここでも売れ残った場合は、同社が連携している中古品買取業者を紹介して、引き取りを依頼するという流れ。この段階で依頼を受けたほぼすべての在庫の消化が完了する。
全部で3段階の販売チャネルを経て消化に当たるサービスだが、すべてにおいて共通するのはブランドイメージを棄損しないということ。それぞれ、一定の顧客だけに対しての限定的な販売方法であるということに加え、最後の中古買取業者の選定についても、「ネットでの販売はしない」「ライセンスの関係で特定の国には販売できない」といった荷主側が希望する売り方、売り先などの条件を遵守した業者のみを使っている。
なお、同サービス全体を通じて見ると現状では約20社の荷主が利用しており、年間で1万点程度の在庫が消化できているという。
同サービスを開始する以前は、売れ残った在庫は荷主企業が各自で費用をかけて消化に向けたファミリーセールや廃棄を実施していた。しかしながら、その一連の消化の取り組みについても入荷・出荷に伴う物流費、廃棄自体のコストや長期保管に伴う無駄なコストなどが発生。加えて、昨今は環境問題の高まりによるブランドイメージの悪化など様々なリスクが顕在化している状況にある。
ここ数年はアパレル業界全体で在庫量自体を抑えるという傾向があるにも関わらず、余剰在庫の消化への関心は年々高まっており、同社に依頼してくる企業は増えているようだ。
元々、余剰在庫の存在自体が荷主企業にとってはデリケートな話題でもあることから、同社も同サービスを提案するに当たって、当初は声をかけづらい面があったという。しかしながら、「在庫を預かっている立場なので困っているかどうかは(荷物の動きなどを)見ればすぐに分かること。今は逆に相談を受けるようにもなった」(田中社長)とし、荷主と物流企業という信頼関係の上でサービスが成り立っていると分析している。
ブランド側としては当然ながらまず、プロパー販売を最優先しており、そこに一番リソースをかけていることから、在庫の扱いにはあまり目が行かないケースが多い。しかしながら、「会社トータルでの収益バランスを考えると、(在庫消化の)出口をうまく考える方が良いと思う」(田中社長)とし、在庫の扱いに目を向ける重要性を説いた。
今後同社では半年に1回しか販売機会がない倉庫セールをさらに発展させた形として、同社自身が在庫消化専門の仮想モールを立ち上げて、顧客を限定した形でのネット販売を行うことも計画している。「アクセスできる制限をしっかりやって、オープンにしない形で常設のOTSアウトレットセールを行う」(同)とした。商品撮影などもすべて同社が行い、荷主の条件提示の中で販売する考え。2020年中の開設を目指している。
日本の冬物在庫を南半球で捌く
イーベイ・ジャパンが運営する越境ECプラットフォーム「eBay.com」では、アパレル商品を取り扱う日本企業の出店者が、国内事業では捌ききれなかった在庫を海外向けに販売するための販売チャネルとして活用する事例が見られているという。
イーベイは、日本とは気候やトレンドなどが大きく異なる様々な国(最大約190カ国)に向けて出品できることが最大のメリットとなっており、特に日本と真逆の気候に当たる南半球に向けては、日本ではシーズン外れとなったアパレル商品の動きが活発になる時期が毎年あるという。
「毎年、6月以降には、日本では全く売れなくなっているコート、ジャケット、ブーツなどがオーストラリアを中心に売れ出してくる」(中里力カテゴリーマネジメント部部長)と説明。オーストラリアに関しては、同国内のマーケットプレイスの中でもイーベイが利用者数比率で最も高いことや、元々日本ブランドの人気が高いということも手伝って、日本企業にとっては非常に販売しやすい環境となっている。
具体的に、冬物に関しては6~8月頃、夏物に関しては10~12月頃が一番の売れ時となっており、日本では滞留在庫となりやすいような大型サイズ商品なども海外の消費者には受け入れられているようだ。
イーベイの場合、月額約6000円で1000点まで出品できる安価なプランもあることから、売れ残りのファッション商材を消化するための販売チャネルとして割り切って同サイトを活用している出店者もおり、実際に効率的な消化ができているケースが毎年見られているようだ。
また、イーベイでは、購入者が個人だけでなく法人もいることから、大量購入の需要も期待できるほか、サイト内で出店者と購入者が個別に交渉できる機能もあるため、交渉次第ではその後のリピート購入などにもつながるような継続的な関係性を構築できることもある。
加えて、ブランド価値の保護という点では、海外向けの販売であることから国内での安売り処分とは違ってイメージの悪化を心配する必要もない。また、現地ではシーズン中の商品となるため必要以上に大幅な値引きをせずとも、通常価格のままで販売できるケースもあるとしている。
「元々アパレル企業にいたので、気候によって在庫が過剰に残ってしまう苦しさは経験していた。当時、ECに海外からのアクセスがあり需要もあったので、国内がダメなら海外でという意識は持っていた」(同)とし、現状の出店者に向けても季節を選ばず世界に向けて効率的に販売できる価値の共有を広めている。
なお、南半球以外の地域で見ても、近年はアジア向けの販売が好調で、中でもタイは日本からのファッション商品を購入する比率が高まっている。年間を通じて温暖な気候であることから日本の夏物商品が常に売れやすい環境にあるほか、靴商品などに関してブランド品ではない日本の一般流通品でも人気が高いため、南半球とはまた違った観点で、在庫の消化先候補の一つに考えることができるようだ。
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