急成長が続く、東南アジア向け越境EC

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ブルーオーシャンへの期待

世界4番目の経済圏に注目

 越境ECを行う上で、昨今、注目されつつあるのが、約5億7000万人という人口規模を抱える東南アジア市場だ。発展途上国が中心ながらも、ネット普及率では63%、総GDPでは約3兆USドルと、世界4番目の経済圏を有しており、今後の将来性が大きく期待できる。同市場での越境ECの可能性について、アリババグループにおいて東南アジア6カ国でEC事業を展開する大手ECプラットフォームの
「Lazada(ラザダ)」と、東南アジア・台湾などでECプラットフォームを展開する「Shopee(ショッピー)」の事例を基に、詳しい事情を探った。

東南アジアの市場規模(ラザダ提供資料より)

アプリ経由の購入が一般的

 コロナ禍の影響で越境ECを巡る状況に多少の変化が見られるようになったものの、依然として日本企業にとっては市場規模が魅力となる中国が、その第一候補となっていることは間違いない。しかしながら、先行企業や大手ブランドなどの寡占化が進んでおり、後発企業が大きな成功を収めるためにはハードルが高くなっているのもまた事実だ。

 「今から、中国の越境ECに百万円を投資して参加しても、石ころ1つを海の中に投げ入れるようなもの。しかし東南アジアであれば、それが茶碗に石を投げ入れるほどの出来事に変わり、それだけ大きな反響が期待できる」。ラザダの日本市場担当者はこう語り、ブルーオーシャンとしての東南アジア市場の魅力を説明する。

 東南アジアからの日本への旅行需要は5年ほど前からあったが、コロナ禍の現状ではそれがほぼなくなっている。以前の東南アジア訪日客は日本で電化製品や化粧品、ゲーム機などを土産物として購入していた。旅行ができなくなったことから、その需要が越境ECに置き換わり始めたという。

 元々東南アジアでは、EC化率自体はそこまで日本と大きな変わりはなく、流通金額ベースでは10%未満だとされている。その中でもシンガポールは経済水準の高さに加えて、国土が小さく、配送リードタイムが短く済むことから、比較的EC化率は高いという。また、隣接国に国境を越えて買い物に行く習慣も珍しくないことから、越境ECに対しての心理的障壁も低いようだ。次いで、フィリピンのEC化率も高いとされている。

なお、東南アジアでのECでの購入経路としてはスマートフォンアプリからが一般的で、PCでの購入は限られているという。ラザダにおいてもPCからの購入比率は1%程度となっており、これには現地の消費者のPC保有率などが関係している。

 東南アジアのEC市場を見ると、ラザダやショッピーが主要な売り場として挙げられるが、それぞれのカバーエリアや出店者層などが異なることから、一概に規模を比較することは難しい。ラザダでは、以前からフィリピンやベトナムなどで強みがある一方、ショッピーは台湾での強みを持つなど、得意地域もそれぞれ異なっている。

2つの売り場を持つラザダ

ラザダが手がける「ラズモール」

 ラザダの利用者の多くは現地の30代を超えている世代の人達。2012年に始まったサービスであることから、最初の利用者であった若年層が売り場の成熟とともに、年齢を重ねていった状況となっている。「ある程度しっかりした仕事を持ったミドルクラスで、教育水準も高く、家族を持って経済的に安定している人達が多い」(ラザダの日本市場担当者)と分析する。

 特に越境で日本の出店者からの商品を購入する層としては、金銭的な余裕があってコロナ以前までは日本旅行に行っていたような人たちが中心。コロナ以前は手を出しやすいような安価な化粧品や文房具など20USドル~50USドル未満のものが越境ECで買われやすかったが、今では化粧品をはじめ、ドライヤー、髭剃り、ゲーム機といった電化製品、ホームリビングのような高単価な商品も人気に。加えて、家庭を持つ層も多いことから、子供用の玩具、ベビー用品なども売れ筋となっている。日本製品だからこその安心・安全が現地での評価につながっているようだ。

 現状、ラザダではすべての出店者が参加できる通常のマーケットプレイスと、有力なブランドの出店者だけを集めたモール「LazMall(ラズモール)」の2種類の売り場が存在する。

 ラザダでは昨年夏頃から日本企業の出店誘致を本格化しており、2021年の春時点では200~300社が出店している。直近では日本国内でホームセンター事業を展開するコーナンなどの大手企業も参加している。

 ラズモールについて、現状では世界から1万8000以上のブランドが参加している。ここに参加するにはまず、マケプレで実績を積み上げた上で、一定の配送リードタイムや商標登録、ブランドとしての安心・安全の担保といった各種審査をクリアする必要がある。審査自体は毎月あるが、クリアすべき項目が多いこともあり、マケプレの出店からラズモールへの参加には最短でも数カ月程度かかる見込みだ。ラザダでは日本企業の出店者に対しては質が高いと認識しているため、日本出店者向けの優遇があり、いくつかの特別の項目が免除されることにもなるため、最速2カ月で申請できるとされている。

 厳しい審査でありながらも、クリアしてラズモールに参加するメリットは大きく、大型セールイベントなどに優先して参加できることや、検索アルゴリズムでの優位性もあることからトラフィックが大きくなるという。

 また、出店者にはラズモールの参加企業の証であるラベルも表示されるなど、消費者から選ばれやすい環境を得られるようだ。

 なお、ラザダでは日本企業の出店を支援するパートナー企業として、ビーノスグループやトランスコスモスなど4社を公式企業として認定している。日本企業の出店希望者は、それらのパートナー企業を通じて参加することが定番の形となるようだ。

物流サービスが一つの鍵に

 東南アジア向けの越境ECの大きな特徴として、東南アジアは島国が多く、発展途上国でもあるため、配送インフラが大陸国ほど発達していないということがある。

 そのほかにも一例として、フィリピンでは銀行口座の保有割合が人口の2~3割程度というデータがあるように、消費者の多くが現金主義でもある。当然、ECの決済はクレジットカードによる引き落としではなく、代引き決済が中心。

 前述の物流インフラの事情も考慮すると、ECプラットフォーム側は、物流体制や決済の仕組みで現地事情に即した仕組みが必要となってくる。

 ラザダでは自社物流体制を持っており、日本の出店者についてもその仕組みを利用することができる。まず、日本の出店者の場合、受注が入ってから、大阪と成田にある物流センターに商品を配送する。そこからは、国際物流事業者の手で対象国まで航空輸送し、その後、現地の配送業者によって消費者まで配達・決済まで完了するという形。

 国内から先の物流はすべてラザダのパートナー企業である物流事業者が請け負っている。「ラザダの物流として完結するので、返品や返金対応もすべてこちらで行える。仮に返品があった場合、現地などのラザダ倉庫に取り置いて保管する。日本にまで持ち帰るのではなく現地で処理できる」(ラザダの日本市場担当者)と説明。返品商品であっても2次販売が可能な状態であれば、同じ注文があった際にはそちらの在庫を優先して提供するようになっている。

 物流費に関しては、例えば成田からシンガポールまで配送する500gの荷物の場合、ラザダ物流では民間のBtoC輸送サービスや国際郵便サービスなどよりも、おおむね1割~3割程度安い料金で提供するという。これに紛失や盗難も含めて、最大100USドルまで補償する保険も標準サービスとして付いている。

 なお、日本国内のラザダ倉庫までの物流費と、対象国までの国際物流費については出店者側の負担となるが、商品価格に上乗せして販売しているケースがほとんど。現地国内での配送料金は消費者負担となる。

 現状、コロナ禍であるため、配送状況にばらつきはあるが、日本のラザダ倉庫に入庫してからはおおむね9~14日間で現地の顧客までの配送が完了するスキームとなっている。これが、国際郵便の場合、一部の国・地域向けの荷物がコロナ禍で一時引受停止するようなこともあり、物流がストップしてしまうというケースもしばしば見られたという。ラザダにおいては自前で物流システムを構築しているため、大幅な遅延などはなく商品を流通させることができているようだ。

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