オンライン接客の最前線
2020年は新型コロナ感染拡大の影響で4~5月に緊急事態宣言が出され、多くの実店舗が臨時休業を余儀なくされたこともあり、店頭販売員の活用方法としてオンライン接客に注目が集まった。一環として、店頭から販売員などがライブ配信で商品を紹介し自社ECなどで購入できるようにする“ライブコマース”が再び注目を集め、サービス提供会社も増えた。ライブコマース市場の現状や注目サービスの取り組み状況を見ていく。
ライブコマースは中国などでは当たり前のチャネルになっており、消費者の抵抗感は少ない。実店舗やECモールに偽物が溢れる中、企業よりも身近な人やインフルエンサーに信頼を寄せる傾向が強く、中国のライブコマース市場は19年に6兆円を超えたとも言われる。
日本でも数年前からライブコマースに着手する企業はあるが、成功パターンが見出せないこともあって定着したとは言いづらい。そうした中、コロナを機に店舗休業中でも顧客とのコミュニケーションが図れるオンライン接客を強化する小売りが増え、消費者のEC利用も拡大したこともあってライブコマースが再び脚光を浴びることに。
不振にあえぐアパレル企業や、画面越しに使い方を見せられる利点もあってコスメなどでもライブコマースに挑戦する企業が相次いだほか、百貨店などの商業施設、楽天やヤフー、KDDIといったECプラットフォーマーもモール内で出店企業が登場するライブコマースに乗り出している。
実店舗再開後も多くの企業が継続的に取り組んでニューノーマル時代の販売手法を磨いている。複数視聴者に向けた事例が多いが、特定の顧客と1対1で行うライブ接客も増えている。
ライブコマースに取り組む企業は増えたものの、とくに複数視聴者向けの配信ではライブ配信中に大きな売り上げを作るのに苦戦している企業が多く、お得感や限定感を出すなどの工夫も必要のようだ。一定の成果を収めている企業では、毎週土曜日の午後8時に配信開始など、枠を固定してテレビ番組や人気ユーチューブチャンネルのように決まったタイミングで配信し、視聴を習慣化することが大事という。
また、複数視聴者向けサービスの多くはライブ配信だけでなく、アーカイブに配信動画を残す機能もあり、アーカイブ動画をコンテンツと位置付けて訴求力強化を図る企業も少なくない。
1対1のライブ接客ツールは、新客獲得よりも既存顧客のLTV向上などを目的に導入する企業が多いようだ。ユーザー目線で見ると初回利用のハードルは高いものの、自宅に居ながら馴染みの店舗スタッフに接客してもらえるという特別感を味わえるサービスで、コンバージョン率の向上が期待できる。
コロナ終息後もライブ接客の経験値は生きることや、小売り企業のDX化やOMO推進の流れはとまらないことからも、数年先と見られていたライブコマースの拡大期はコロナによってだいぶ前倒しになったとみてよさそう。
ライブコマースは短期的な売り上げ拡大を狙うのではなく、中長期的なブランディング戦略やLTVの観点が不可欠で、顧客との関係性を強める手段のひとつとして取り組むことが大事になる。一方、ライブコマースのツール自体も増えている。現状ではアパレルやコスメ、百貨店などがさまざまなツールを使ってライブ配信を続けているが、いずれはツールを絞り込んでいくことが予想され、21年は大手取引先の取り合いによる各ライブコマースツールのポジション争いが激化しそうだ。
サイト内行動把握し接客
トランスコスモスは、20年10月に国内独占販売権を獲得したオンライン対面接客ツール「HERO(ヒーロー)」を通じ、ショップスタッフを起点にしたOMO戦略をサポートする。
「ヒーロー」は、欧米では“バーチャルショッピング”として浸透。消費者はお店に行ったかのような買い物体感を得られ、販売員も顧客が来店しているような接客をできるのが強み。店舗スタッフなどがチャットやビデオ通話でライブ接客を行うが、「ヒーロー」を使うと顧客が何の商品を見ていたか、いま何を見ているか、カートに何が入っているかなどのサイト内行動を把握した上で接客できる。
販売員のデバイスにはスタッフごとのオンライン貢献売上高や顧客数などが表示され、実績を可視化できることでモチベーションアップにつながる。
顧客が「ヒーロー」の導入サイトで接客アイコンをクリックすると顧客から一番近い店舗を優先的に探し、アイドルタイムの店員にコールが鳴る。「ヒーロー」を通じた接客を受けたことのある顧客であれば前回の販売員に優先的につながるアルゴリズムだ。
顧客が電話番号かメールアドレスを登録すれば、販売員から新商品の案内などをプッシュできる機能もあり、その際も前回のやり取りが残った状態でコミュニケーションが図れる。
導入企業は管理画面で各店、各販売員の評価を把握できるほか、顧客とどういうやり取りをしているのか、リアルタイムのトークをチェックしたり、成功体験を社内で共有できる。また、「ヒーロー」の販売員用アプリにトレーニングできるコンテンツも用意しており、テスト期間以降もライブ接客のスキルを高めるトレーニングができる。
欧米では「バーバリー」や「フェンディ」などのハイブランド、「ナイキ」や「アディダス」といったスポーツブランド、コスメ、インテリア、百貨店まで導入企業は幅広い。
「ヒーロー」を介したオンライン接客でEC購入率は平均10倍に、セットアップ率の向上などから購入単価は約1.5倍に増加する実績が出ているほか、最寄りの店舗とつながるため利用者の約3人に1人が来店するという効果もある。
ニューヨークを拠点とするコスメブランド「クレドビューティ」はチャットだけでなく、販売員がビデオ通話でスキンケアの手順からメークのレッスンまで行うことで購入率が15倍、購入単価は2倍になった。ハイブランドの「クロエ」は写真やビデオ通話を多用して商品の細部を見せるほか、商品のストーリーを伝えたり、周辺商品も紹介することで購入率は8.8倍、購入単価は約2.5倍に上昇したという。
国内でもTSIホールディングス傘下のコスメやアパレルブランドが導入しているほか、21年1~2月にはD2Cブランド「シールーム・リン」を展開するLEMONADEと、スニーカーのセレクトショップ「アトモス」を運営するテクストトレーディングカンパニーが導入する。
押し売り感のないライブ配信
パロニムは、映像内の知りたいモノにタッチすると詳細情報へ誘導できるインタラクティブ動画技術「TIG」を活用した双方向型ライブストリーミングサービス「TIGLIVE(ティグライブ)」の提供を20年11月に開始した。新サービスは従来型のライブコマースとは異なり、実店舗でのコミュニケーションに近いオンライン購買体験が可能なライブストリーミングサービスだ。
一般的なライブコマースでは配信者が販売したい商品を決め打ちしてライブ配信する“押し売り通販感”があるのに対し、同社サービスは導入企業の在庫管理システムと「ティグライブ」の管理システムを事前に連携することで、実店舗内の全商品の中から視聴者が書き込んだ質問やコメントに沿ってアイテムを紹介することができ、店舗の世界観やホスピタリティを重視したライブコマースが可能という。
また、4択などの独自アンケートも設定でき、視聴者の投票結果に沿って進行するといった配信者と視聴者の距離を近づける演出ができるのも利点だ。
導入企業は、ハンディタイプのタグリーダーを視聴者が気になる商品の値札(JANコードやQRコード、RFIDタグ)にかざすだけで、ユーザーの視聴画面に詳細ページや購入ページなどへの導線を表示できる。スマホとタグリーダーをブルートゥースで接続するだけで「ティグライブ」の配信ができるため、固定の配信ブースだけでなく、店舗内外を自由に歩き回りながらロケレポ風の演出も可能だ。
「ティグライブ」の導入第1弾は、11月10日に靴小売り大手のエービーシー・マートがモデルでユーチューバーの古川優香さんと佐藤ノアさんを起用したライブコマースを「ABCマートグランドステージ渋谷109渋谷店」から配信。古川さんと佐藤さんのふたりは視聴者のコメントを気にしながら生配信を行い、商品の値札をタグリーダーで読み込んでは試着し合って自分たちの意見を発信した。
12月18日と23日には、ららぽーとなど三井不動産グループの計6施設が初開催したライブコマースイベントでも「ティグライブ」が採用され、アパレルブランド「スタイルミキサー」と、台湾発のライフスタイルショップ「誠品生活」にスタイリストやモデルが来店して商品を紹介した。三井不動産グループとのライブコマース企画は8月まで継続的に実施する予定だ。