角井亮一●イー・ロジット代表取締役社長 物流拠点をドミナント開設し波動に対応

 通販物流のイー・ロジットが3月26日、JASDAQスタンダードに新規上場した。設立から21年での株式上場で、市場拡大が続くEC市場において、クライアント企業の荷量増加に対応するためのフルフィルメントセンターの拡充、そしてスタッフの働きやすい職場環境の整備を一層推進していく。通販企業向け物流代行事業の運営に加え、コンサルティングや著作活動にも尽力する角井亮一社長が語るEC物流のこれからとは。

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ECではスピード感が異なるため、イー・ロジットを設立

設立当初から上場を念頭に

─株式上場を考え始めたのはいつ頃ですか。

 創業当時からパブリックカンパニーということを意識し、監査法人も初年度から入れていました。実家の光輝物流がプライベートカンパニーだったので、自身が立ち上げる企業はパブリックカンパニーにしたいと考えていました。社内的に上場へ向け本格的に動き出したのは2017年で、そこから勉強しながら進めてきました。次のフェーズも考えているので、まだまだこれからも頑張っていかなければなりません。

─ということは、東証の「プライム」(2022年4月に市場再編が予定され、現1部市場に相当)を目指すといことでしょうか。

 そうです。我々は今回の上場で約8億円を調達しましたが、シリコンバレーでその話を聞かせると、「そんなので上場するの」と驚かれました。「資本金1億円で上場が可能なのか」とも言われました。“プライム市場への上場で100億円調達”ということがあって初めて、シリコンバレーでは「上場したね」と言われます。今回上場したと言っても、シリコンバレーのベンチャーから見ると、「ちょっと増資したんだね」という感覚のようですね。

─2000年の創業ですが、そもそもイー・ロジットを設立した狙いは。

EC企業の物流を受託するという事業目的があり、その際に既存の企業(角井社長の実家の物流会社である光輝物流)で行うよりは新しい体制で取り組んだ方が良いというアドバイスをいただきました。ECはスピード感などが全く違っていて、既存の物流では対応できないと考えました。

─当時からEC市場の成長を見通していて設立されたのですか。

船井総合研究所に所属していた1996年に同社初となるネット通販に関するセミナーを開催しましたが、それがきっかけと言えます。市場の成長というよりも、大きく変化していくだろうなと当時は感じていました。セミナーの参加者も皆さんが熱をもって聞かれていました。ただ、当時は、まだまだ小さい市場でした。当然、どれだけ広がるかは想像がつきませんでした。また設立時にアメリカのシリコンバレーへ赴き、ネットの物流を行っている企業の役員クラスの方々とお会いさせていただきましたが、彼らも興奮しながら仕事をされていて、高揚感を強く感じたことが印象深かったですね。

─日本もアメリカのようになるとの見立てをしていらした。

 そう。やはりアメリカの進化と日本の進化は似ています。

─設立以降は、どのような道のりを辿ってこられたのですか。

 当時、無料で登録できるECサイトがあり、2000社ほどが登録されていて、そのサイトと提携して自動で申し込みができてイー・ロジットと契約できるような取り組みなどを行いました。規模の大きな企業は非常に少なく、小さいところばかりでした。

─そこから御社はどんどんと成長されてきたのですね。

というよりも、市場の変化だと思います。設立当時、受託した1社目は大企業で、売り上げは月商で2000万円ほどでしたが、それ以外のところは本当に小さい企業ばかりで、どうやって売り上げを伸ばすかと皆さん苦労されていました。当社としても売上拡大のために、カタログ送付(メール便)ビジネスにも取り組んだりしました。その後にそのビジネスを止め、今に続く通販物流に集中することを決断しました。このタイミングでの選択と集中ということが大きな転機になりました。

─今後の成長戦略は。

 基本的には3つあり、1つ目が、我々の事業はフルフィルメントビジネスであり、そこからもっとバリューチェーンを生んでいくこと。我々のお客様がもっと伸びるような機能を提供していきます。当社へ委託されたお客様は当社とのお付き合いを通じて伸びるところが多く、それ故に長くお付き合いいただくことが重要と考えており、お客様のさらなる事業成長に寄与するよう取り組んでいきます。2つ目は、新規のお客様の拡大。エリア的にも国内だけでなく東南アジアを含めた戦略を持っています。そして3つ目がフルフィルメントセンターの拡充です。新規でつくることはもちろん、既存センターも含め進化させていくことであり、つまりセンター機能の強化です。この機能強化の例として過去の事例を挙げると、センターに写真スタジオを作ったりしてきましたが、新たな機能を強化してイノベーションを図っていきたいです。

─今回、約8億円を調達資金しましたが、その使途も主にフルフィルメントセンター開設に投資するのですか。

 開示資料でも記していますが、フルフィルメントセンターの開発や既存センターの改変・作り替え、そして現場スタッフが安心して働ける環境をより整備していくことが主なところとなります。特にスタッフには安心して働いていただき、長く働いていただきたい。そして頑張ろうと思ってもらって、そのような思いを持つスタッフ皆でより良いサービスを作っていき、さらなる成長を目指していけるようにします。

6月に埼玉・草加に新拠点

─フルフィルメントンセンターは、全国の主要都市に置くようなイメージを描いているのですか。

 我々は基本的にはドミナントで開設しています。それにより、波動対応ができるというのが一番の強みになります。6月には埼玉・草加市に新拠点の開設を予定しており、東京の東側エリアは6拠点体制となります。十分にしっかりとお客様の伸びに対応できるキャパシティができます。政令指定都市すべてに拠点を擁するというようなことは考えていません。

─大阪にもフルフィルメントセンターが1カ所ありますが、今後、大阪もドミナントで開設し波動に対応できるようにするのですか。

 その通りです。

─ドミナント開設というのはこれまでの経験で培ったノウハウに基づくものなのですか。

 我々独自の考えに基づくもので、当社ほどの規模で行っているところはないと思います。全国の主要エリアに拠点を構えるというところが多いが、我々はそうではありません。拠点間のコラボレーション、拠点間同士が協力できる体制を築くことを最重要ポイントにしています。一方、通販企業すべてそうだと思いますが、それぞれ考え方をお持ちであり、お客様のブランドの独自性のある世界観や価値観を物流でも表現できるようにしていくことも重視しています。現場では基本的に標準化をベースとして作業に取り組んでいますが、プラスアルファとして例えば母の日ギフトで1点当たり5分もかかるような複雑なラッピングなど、そのようなことも受け入れられる体制にしています。他社が規格化・画一化で対応できない柔軟性のある対応が行えています。エコへの対応でも緩衝材などで再生紙を使ったりといった、お客様の考え方に合わせて変えることなどもできます。波動への対応に加え、お客様ごとのカスタマイゼーションが我々の強みです。通販会社では同じ化粧品を扱っていても、ポリシーは違っていて、それぞれのポリシーに沿って変えて提供できるということは重要になります。

─角井社長はコンサルタントとしても活躍されています。

 「そこまで見てくれるんだ」とのお声はよくいただきます。このような取り組みを行うところは他にはないし、私自身は物流に関する著書が34冊あり、そういった意味では唯一無二の存在ではあると思います。コンサルティングと実務との関連という観点では、コンサルティングを通じてイー・ロジットのスキルを買っていただき、さらにそこから我々のフルフィルメントセンターという現場でもお付き合いいただけるという流れになります。我々が開催するセミナーでも錚々たるネット通販企業の方がいらっしゃってくれるし、ネット通販専業以外の小売業の方などもいらしてくれます。

─海外市場についても詳しく、海外視察も行っていらっしゃる。

 現在は行ける状況ではないですが、2011年から行っています。当時、年間30日間は海外でと決めて活動していました。30日間というのは結構大変なことでした。最初の頃は東南アジアも入れて、各国EC市場の状況確認を行って年に5カ国くらい視察していました。どこが次に来るかを確認するためでした。

EC物流は今後も再配達問題が大きな課題になる

─コンサルタントの立場として、現状の通販・ECの物流全般での課題はどのようなこととお考えですか。

 再配達問題ではないでしょうか。この問題は今現在こそ隠れていますが、再発すると思います。荷物が大幅に増えながらも、コロナ禍での在宅率の高さで再配達がなかったからうまく配達できましたが、徐々に情勢が変わりつつあります。在宅が減るようになり、元に戻れば同じ問題が起こる可能性が高い。いずれにしても率直に言えば、問題を先送りしてしまっています。

─その再配達が再び増えたときに備え、どういう対策が必要になりますか。

 再配達の数を減らす努力というか、そもそも再配達の件数、送ってから荷物を受け取るといったサイクルの数字というのは、一般の通販企業では把握していません。そこにこそ問題があり、努力しようがなくて、数字がないからPDCAを回して検証することもできません。通販企業の多くは、送ってしまって完了ということにしてしまっています。例えば、ふるさと納税で宮崎のマンゴーの返礼品があった場合、再配達が受け取れない、ワーケーションで遠方にいるという場合、ずっと届けらずに、商品が戻ってしまい、そうなると食べられる状態でなくなります。でも本当はその点にも対応し、送り先を切り替えられるようにすることが顧客満足を考えたら必要不可欠になります。この問題の解決は時間を要すると思います。実際のところは宅配便企業と連携したらすぐ解決する問題だとは思いますが、お互いに別々の事業主体でもあり、恐らく事情があるのでしょう。もう1点が、オムニチャネルの取り組みですね。ネット通販企業であっても、身近なところにリアル店舗があれば親近感を抱かれるので、ネットでも買いやすいし、誘発もできます。ネット通販だけでは忘れられてしまうので、そのためにも店舗も設けたい。ネット通販のお客様に買い続けてもらおうと思ったら、物理的な距離感を縮めるためにもオムニチャネル化が必要になります。まずはポップストアからスタートしていくことを考え
るべきですね。ネット通販だけでなく、カタログ通販もそうですが、ちょっと顧客との距離感があり、縮められないので、それを縮めた方が売れることにもなります。


角井亮一(かくい・りょういち)氏

1968年大阪生まれ。上智大学経済学部を3年で単位修了し、米ゴールデンゲート大学でMBA取得。船井総合研究所、不動産会社を経て、家業の物流会社である光輝物流に入社。2000年にイー・ロジットを設立。物流に関する34冊の書作があり、代表作は「物流革命2021」(日本経済新聞社)、「アマゾンと物流大戦争」(NHK出版)、「オムニチャネル戦略」(日本経済新聞社)。

◇ 取材後メモ

6月に埼玉・草加市に関東圏(東京・埼玉・千葉)で6カ所目となるフルフィルメントセンターを開設する。拠点開設は今年初めに千葉・習志野市に行っており、ほぼ半年で新拠点を設けることになる。急ピッチでの拠点開設は、それだけクライアントの荷量が増えていることに加え、新規クライアントの受託も増えていることがあるようだ。6カ所の拠点はいずれも短時間で移動できるエリアにあり、荷物、そしてスタッフを相互に補完し合えるという大きなメリットがある。セールやギフト期などECでは集中的に販売量が増えるケースが多く、その対応を行える物流業務を継続していける体制を維持し続け、高品質な物流業務の提供を続けることを期待したい。

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