黒字化はミッションのひとつ 宮地和樹● GLS ジャパン CEO 執行役員

GLSジャパンは、フラッシュセールサイト「グラムールセールス」を開設して6年以上が経過し会員数や売上高を含めて市場での存在感を高めているようだ。今期はフラッシュセールの特徴のひとつでもある会員限定サイトのオープン化に踏み切ったほか、配送面の新しい取り組みにも乗り出している。9月1日付けで同社のCEO執行役員に就任した宮地和樹氏に行動指針や足もとの取り組み状況などを聞いた。

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また買って も らえることが顧客満足の一番の証拠

継続客は会社の宝

――前職の三井物産ではさまざまな新規事業を担当されていました。通販関連では、QVCジャパンの事業企画から合弁の立ち上げにもかかわりましたし、中国や台湾でも現地企業とテレビショッピングの合弁会社を設立しました。また、新興国を中心としたEコマース事業にもたずさわるなど、新規ビジネスをプロデュースしてきた経験が多いです。商社では少数派ですが、BtoCの分野にいることが長く、自分の性にも合っていました。

――GLSジャパンのCEOに就任されました。

自分が働くことになるとは思っていませんでしたが、ある人から面白い会社があると紹介され、2015年1月にGLSジャパンの経営陣や個人投資家と会いました。現場で働くスタッフの表情が良く、それぞれの分野でプロフェッショナルなスタッフが地に足をつけて頑張っている姿を見て、率直にいい会社だと思いました。常々、テレビ通販であろうがEコマースであろうが小売業であるということを強く信じていまして、小売業としての文化やモノの考え方を持っている会社だと感じ、好感が持てました。その後、経営トップを探しているという話を聞き、挑戦し甲斐のある会社だと思って引き受けることにしました。

――CEOに就任されての会社の印象はいかがですか。

実際に身を置いてみると、もちろん課題ややるべきことは山のようにありますが、その分、“伸びしろ”があると感じています。やるべきことがあるはずなのに何をやっていいのか分からないというのが一番まずいですが、チャレンジすべきことは具体的に見えています。

――御社の強みを教えてください。

一度買い物を経験したお客様が継続して何度も利用して下さっていることです。ネット販売市場は他社サイトと比較しやすいこともあり、離脱客が多い業界だと思いますが、新規ユーザーの2年目、3年目の継続率がこれまでに知っている企業の中で飛びぬけて高いです。また、継続客の年間購入額や購入頻度は前年よりも増えています。そういう大勢のお客様の支持を頂いていることが当社の宝です。利用者にアンケートをとったりインタビューをすることも大事ですが、また買ってもらえたという事実が顧客満足の一番の証拠になります。

――就任後、スタッフに伝えたメッセージはありますか。

いいお客様がいるということが、最初の2カ月で知った一番勇気の出ることだったと全社員に伝えました。その上で、それぞれの部署が「また買いたい」と思ってもらえるためにすべきことを考えてもらい、何かに悩んだときはそこに立ち返っほしいと伝えました。まだ当社でショッピング経験のない新規顧客を獲得していくことと、既存のお客様にまた買って頂けるためにできることとは何でもやります。

採算規模を確保へ

――ネット販売業界やフラッシュセール市場についてはどのように見ていますか。

全体感としては多くの消費分野でネットシフト、モバイルシフトが進んでいて、日本のECは間違いなく増えます。当社が扱っている分野、顧客層も例外ではありません。その中で、ファッションやフラッシュセール市場についてはまだまだ伸びます。生活必需品を扱っているわけではありませんが、生活に彩りや潤いは大事で、湯水のようにファッションにお金を使うのではなく、お得な価格で購入できれば嬉しいという消費者は多いです。つい最近、ギフトの取り扱いを始めましたが、プレゼントして誰かに喜んでもらいたいとか、人と人のつながりが大事という価値観が高まっています。これは長期的なトレンドだと思います。当社はある意味、消費者が賢い買い方で小さな贅沢をするお手伝いをしていて、フラッシュセールは十分に市場性があると感じています。

――商品の調達面についてはいかがでしょうか。

欧米企業の一部では在庫調整をしていて、フラッシュセールに回る在庫が少なくなっているという報道もありますが、日本は事情が異なっています。当社を含めて、市場のポテンシャルに対してまだ黎明期の段階です。ブランド側はフラッシュセールという販売チャネルを活用したいと思っていますし、消費者のニーズもあります。アウトレットモールも数が増えて根付いていますが、フラッシュセールとは競合していません。アウトレットには独自の立ち位置があり、消費者にとっては遊園地のように1日を過ごす場所になっていますが、毎日は行きません。ブランド側にとっては店舗を出すという負担もあります。アウトレット専用の商品が作られているくらいで、アウトレット市場の拡大にフラッシュセールが影響されることはないでしょう。

――インフラ面などの拡充に積極的です。

2104年4月に物流センターを千葉県市川市に移転・拡張しましたが、15年4月初めには本社オフィスも手狭になったので中央区八丁堀に移転しました。スタッフの採用についても事業拡大を見据えて強化していて、現在の社員数は約180人になっています。もちろん、社員数だけでなく、ひとりひとりの質を重視しています。

――優先的に取り組んでいることはありますか。

小売業においてはすべてがバランスよくトータルにかみ合わないとダメで、これから手をつければ正解というものはありません。会社の業績については、どんなにいい事業をしていても黒字化しなければダメですし、利益を出さなければ継続できません。黒字化というのが私のミッションのひとつです。ただ、売り上げは絶対に必要で、市場のポテンシャルも高いため、引き続き伸ばして採算規模を確保します。費用効率の改善は必要ですが、ここで言う効率とはコストカットという意味ではなく、今までは売上高を最重視で取り組んできたため、ちょっとした工夫で効率改善できる部分が多いと思っています。そうした取り組みが結局はお客様にいい商品をお得に提供できることにつながっていきます。

――事業の成長を加速する上で大事なことは何ですか。

当社は「グラムールセールス」をスタートして6年以上が経ち、スタートアップやベンチャーというステージは抜けつつあります。ダイナミズムは維持しながら、中規模の企業として取引先や消費者から信用されるように会社としての立てつけを良くしていかなければいけません。スタッフがやりがいを持って働けることが一番大事です。失敗することがあっても、ちゃんと成長を感じられることが前進するためのエネルギーになります。そういうダイナミズムはなくさないように経営したいと思います。

事業モデ ルを 工夫したり変えることに戸惑いはない

サイトをオープン化

――売り上げについては。

当社はスタート以来、順調に売り上げを伸ばしていて、2015年12月期の売上高も前年比60%増くらいで着地する見込みです。会員数も200万人を突破して、フラッシュセール市場での存在感は一段と高まっています。ただ、フラッシュセールを名乗っていますが、顧客に再購入してもらうためは、ビジネスモデル自体を工夫したり変えていくことに戸惑いはありません。いまある姿を良しとして固定化しないことが大事です。

――フラッシュセールの代名詞でもある“クローズド”を変えました。

9月14日にサイトをオープン化しました。フラッシュセールはサイトに鍵をかけ、ショーウィンドーから中に入るのには会員登録が必要というビジネスモデルとして欧州でスタートしましたが、サイト認知度の向上や取引先ブランド各社の意識の変化などもあってオープン化に踏み切きりました。これまでは、クローズドであることがフラッシュセールの定義のようなものでした。オープン化して、もし間違えたと思ったらまた戻せばいいだけです。永遠にそうしたことを繰り返していくのが小売業です。店の中に入って商品の詳細や価格を見られるようにしましたが、購入するときは従来通り会員登録が必要で、とくに目立った混乱はありません。

――新客向けの集客で効果が出てきそうです。

その通りです。従来だと、交通広告やテレビCMを打ち、せっかくランディングページまで来てもらっても、会員登録が必要ということで離脱してしまう傾向もありましたが、オープン化したことでサイト流入数は大きく増えています。

――ほかに従来モデルを変えた部分はありますか。

8月後半に、通販サイトに商品の絞り込み機能をつけました。従来は各セールの入り口しか設けていませんでしたが、商品で探したいというニーズもありました。実際に絞り込み機能の利用は増えています。

翌日発送にも挑戦

――新しい取り組みについては。

一部のセールで翌日発送に取り組んでいます。11月20日から12月28日の間、ギフト特集「2015 WINTER GIFT」のセールを実施していますが、これは買う目的を提案した企画です。当社のバイヤーが厳選した約120ブランド、400アイテム程度を販売していて、すべて翌日発送に対応し、有料のラッピングサービスや、自分でラッピングしたい消費者向けのラッピングキットも販売しています。翌日に発送するため、対象商品については在庫を手元に置いて販売しています。

――通常はセール終了後に発送していますね。

当社のアンケート調査では、プレゼントとしてのニーズやラッピングサービスがあればという声がありました。従来もクリスマスなどのギフトシーズンに打ち出してはいましたが、セール終了後に商品を発送していたためギフトのニーズにマッチせず、ボトルネックになっていました。ちょっとした楽しみ、気の利いたものは良い商品のためギフトに合っています。配送のタイミングを早めることでギフト需要をとり込みたいですね。今回の企画では「for HER」「for HIM」「forFAMILY」の3つにセールを分けて展開し、併せて交通広告も打っています。

――自社配送サービスも手がけています。

自社のスタッフがロゴのついた自動車で直接、購入者に商品を届ける「グラムールセールスカー」は非常に好評で、少し台数を増やしています。都内の一部エリアに限ってはいますが、直接お届けすることで消費者の生の声を聞くことができます。購入者が留守にしているときは再配達して手渡しで届けています。また、街中を走ること自体が宣伝やブランディングにもつながります。

――そのほかの取り組みについてはいかがですか。

12月からはスパやレストラン、コンサートのチケットなどの扱いを強化しています。「グラムールセールス」の中に「シティー・エクスペリエンス」という新カテゴリーを立てて展開しています。

◇プロフィール

宮地和樹(みやじ・かずき)氏1982年一橋大学法学部卒、同年三井物産株式会社入社。85年世銀村落給水計画プロジェクトマネージャー、90年ブダペストオフィス副所長、00年QVC Japan Inc.(出向)、03年経営企画部、08年情報産業本部人事業務室長、09年メディア事業部長、12年インターネット事業部長、15年9月GLS JAPAN株式会社CEO執行役員に就任。

◇取材後メモ

GLSジャパンは、積極的なプロモーション展開もあって売り上げは順調に拡大しているようです。従業員数も180人まで増えているため、会社の動かし方も変わってくる時期でしょう。実際、宮地CEOは「ダイナミズムは維持しがら、会社としての信用力を高めたい」としています。長く事業を継続できる力をつけるためにも、今後は売り上げ規模だけでなく、事業の黒字転換を目指すフェーズへと移っていきそうです。また、宮地氏は「いまある姿を良しとして固定化しないことが大事」と語るように、従来のフラッシュセールの定義にとらわれることなく、サイトのオープン化に踏み切るなど、新しい挑戦にも意欲的です。商社出身者ながら消費者向けビジネスの経験が長い宮地氏が新天地でどのような舵取りをするのか、注目を集めそうです。

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