澤田宏太郎●ゾゾ代表取締役社長兼CEO 

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澤田宏太郎●ゾゾ代表取締役社長兼CEO

 ZOZO(ゾゾ)は、2021年3月期の商品取扱高が前年比21.5%増の4194億円、営業利益が同58.3%増の441億円で、どちらも過去最高を更新して好業績となった。デジタル化の波をとらえてアクティブ会員数は前年比で約130万人の純増となる813万人に拡大し、今期の成長に向けても大きな土台を作った。コロナ禍で経営判断が難しい中、さまざまな部分で“本質”が見えた1年だったという。澤田宏太郎社長兼CEOが語るコロナ禍の成長戦略とは。

アパレルのデジタル化がコロナ禍で一気に進んだ

新規ユーザーが定着

─コロナ禍で消費者のEC利用が進みました。

 前期はデジタルシフトが一気に進みました。3~4年くらいワープした感覚です。当社は国内アパレルのEC化率が高まっていくことを想定して事業を展開していますが、3~4年後くらいと思っていた世界が一気に現実になったというのが正直な感想です

─ロックダウンを経験した欧米はDX化が急速に進んだと言われていますが、日本もEC利用という意味ではかなり前進したのでは。

 実際の数値云々よりも、マインドセットの変化が大きいですね。アパレルはサイズの問題があって実店舗で購入した方が安心という人がたくさんいたと思いますが、外出自粛が求められる中で「ECで服を買ってみよう」と試す人が増えました。これは当社が獲得した新規ユーザーの数にも表れています。初めて「ゾゾタウン」で服を購入し、「ネットも便利だね」と思って頂けたお客様が増えた感触があります。実際に一見さんで終わらず、LTVの伸びにつながっていることからも分かります。その積み重ねが前期の業績につながりました。

─取引先ブランドの意識についてはどうでしょうか。

 ブランドさんの意識もかなり変わりました。この数年は実店舗を頑張りながらECも伸ばしたいという考え方だったと思いますが、「ECチャネルが欠かせない」というところまで意識が変化しました。コロナ禍でブランドさんも生産数はかなり抑えているように思いますが、当社が預かる在庫は増えているので、明らかにEC販路での売り方に意識が向いています。

─昨春の実店舗休業で在庫があふれました。

 ブランドさんは自社ECだけで店頭在庫をさばくのは難しかったと思いますし、当社としても在庫を預けてもらえるように早い段階から呼びかけていました。ブランドさんとしても在庫を売り切ってキャッシュ化したいという思いがあったと思います。

─ハイブランドやコスメの出店にも追い風になったのでは。

 ハイブランドさんはまさにその流れです。ECの課題としてブランディング面がありましたが、とくに外資系のハイブランドさんは本国でもデジタルシフトに舵を切ったことが大きく追い風になりました。もちろん、当社としてもブランディングの部分は大事にしたいので、「ゾゾヴィラ」というラグジュアリーブラン
ドやデザイナーズブランドを取り扱うゾーンの中で各ブランドさんの世界観を大事に展開しています。

─コスメについては。

 コスメは偶然というか、コロナ前の時点でコスメカテゴリーの新設を決めていました。その上でコスメの事業展開を考え始めていましたがすぐにコロナの影響が出始め、結果的にコスメブランドさんのニーズもとり込むことができました。

─前期は数多くの新客を獲得し、リピート化しました。

 一度でも「ゾゾタウン」を利用してもらえば気に入ってもらえるという自信が持てました。

─PayPayモール(PPM)店でもユーザーが定着しました。

 PPM店は総合ECモールの中に出店していますので、昨年の春先くらいから消費財のEC購入が増え、モールでゾゾを知って新規顧客としてファッションも買ってもらえるようになりました。そうしたお客様はゾゾ本店では取り切れない顧客層です。サイトを分けてPPM店では違う層を狙っていくという戦略が当たりました。

─コロナ禍でさまざまな経営判断を行うのは難しいのでは。

 前期はさまざまな部分で本質が見えた1年だったと言えます。コロナ禍では本当にユーザーが欲しいものしか売れません。経営判断においても、さまざまな要素がある中で、本当に大事なものは何かがデータから見えてきました。

─具体的には。

 例えば、コロナ禍で「ゾゾタウン」を利用してくれるお客様を分析すると、ファッションにそこまでお金をかけないファッションコンシャス度が中くらいのお客様は動きがあまり活発ではありませんでした。一方で、外出機会が減っても服を買うことを楽しむファッション感度の高いお客様が売り上げを支えてくれたことがデータで明らかになりました。

─戦略にも影響しそうです。

 当社としてはファッションコンシャス度の高いお客様を増やしていくことが大事だということに改めて気づきました。一度でも利用してもらえばリピーターになってもらえるサイトを運営しているということもコロナ禍のような状況でないと分かりませんでした。そういう意味で、経営判断をする上ではノイズがなくなって分かりやすくなりました。

─物流のオペレーションは大変だったのでは。

 多くのブランドさんから商品が集まったことで大変でした。品質を維持しながら物流業務を効率化するにはさまざまな改善策がありますが、結局のところ、在庫を適正水準にコントロールすることがすべてです。昨年4~5月頃に倉庫がパンクしそうになりましたがうまくコントロールし、在庫の充填率をどれくらいに抑えておけば業務が膨らむことなく効率化に向かうかということも非常によく分かりました。

社内ラジオ番組を開始

─リモート中心の働き方で意思疎通やアイデア出しの部分で問題はなかったでしょうか。

 そこも本質が見えました。普段から社員同士、上も下も横も含めて信頼関係のベースが築けていないとリモートワークはうまくいきませんが、当社は社員同士の信頼関係には自信があって、リモートワークは非常に有効です。

─社内での新しい取り組みなどは。

 昨年11月から私がメインパーソナリティーを務める社内限定のラジオ番組「DJさわだのナナメウエラジオ!!」を毎週水曜日に放送しています。私が今考えていることをゲストの社員と話したり、社員から寄せられた質問に答えたりと、さまざまなコンテンツを放送しています。

─ラジオを始めた理由は。

 コロナ禍でリモートワークが増え、私のキャラクターだったり、思いなどを伝えにくい環境になったので、デザイン部門とのアイデア出し会議の中で、「いっそうのことラジオでも始めようか」ということになりました。自分の考えを知ってもらい、社内に浸透させる手段になっています。

─前期は売り場だけでなく商材拡張にも力を注ぎましたね。

 商材拡張の面では、現状で一番力点を置いているのはコスメになります。ファッション商材との相性を考えれば、ゾゾユーザーがアパレルと一緒にコスメも買ってくれるようになると思っています。今はコスメの取り扱いを知ってもらい、まずは1回買ってもらうことを目指しています。

─コスメカテゴリーの目標値は。

 アパレル商材だけで前期の商品取扱高が4000億円を超えたので、コスメも取扱高で3桁億円を早期に目指します。ポテンシャルの高い市場だと思っていて、その次のステージでは4桁億円が目標となります。

─アパレルとの商習慣の違いなどはありますか。

 デジタルシフトの波はコスメ業界にもあり、商品在庫もアパレル商材と同じように倉庫に預けておらい、当社で管理しています。商習慣の違いがあるとすれば追加在庫の補充の部分くらいです。アパレルの場合はこれまでに築き上げた物流体制があり、商品が売れた分だけ毎日補充してもらっているブランドさんもありますが、そうした補充の仕方ができるコスメブランドさんは少ないです。

─フェイスカラー計測の「ゾゾグラス」をフックにした展開など独自路線も打ち出しています。

 スタートはうまくいきました。準備に時間をかけましたし、「ゾゾグラス」というテクノロジーも世の中にうまく発信することができました。「ゾゾグラス」の予約注文件数は100万人を突破し、計測者数は80万人を超えるなど計測率も高い水準で推移していて、テレビCMを含めたプロモーションの効果はありました。

─先行するシューズカテゴリーの状況は。

 シューズは比較的順調に推移しています。足型計測ツールの「ゾゾマット」の計測者数が130万人を突破していますし、「ゾゾマット」対応アイテムは2500型以上で、シューズカテゴリーの30%以上の売上高を確保しています。

─スタート時にシューズの取扱高が約400億円と公表されましたが、その後の成長率は。

 アパレル商材の成長率を若干上回る水準でシューズカテゴリーは成長しています。トレンドが続いているスニーカーにはとくに力を注いでいて、「ゾゾマット」対応のスニーカーは約70%に上ります。

“エンタメ性”が今後の衣料品ECの勝負所になる

デジタル接客アプリを開発

─今期からはファッションを「買う」ならだけでなく、ファッションの「こと」ならゾゾを打ち出しました。

 デジタルシフトが起点としては大きくて、ECで服を買った方が楽ということを多くの消費者が感じ始めています。恐らく次のステップで来るのが、ちょっとしたエンタメの要素です。実店舗と比べてECに足りないのはその部分だと思います。服はある種の高揚感を持って購入するところに良さがあるし、楽しみがあります。その点、ECは汎用的になりつつあります。もっとステップアップするには高揚感や楽しさを感じながら服を選んだり買ったりできるようにする必要があります。そうした要素は今後のファッションEC市場での勝負所になるのではないでしょうか。

─店舗スタッフがデジタル接客を行えるアプリ「FAANs(ファーンズ)」の投入を計画しています。

 ショップ店員さん単位で使ってもらうことを想定していて、スマホの中でデジタル接客が完結できるアプリとして開発中です。

─接客後は「ゾゾタウン」で購入してもらうイメージでしょうか。

 そこまで直接的なものでなくてもいいと思っています。今まで知らなかっただけで実は服についてすごく詳しいショップ店員さんが全国各地に埋もれているはずです。当社としてはそういう店員さんが自分のファッションを表現したり、知識を披露することによってファンが増えるというような世界にしたいです。

─アパレル業界の課題をどう見ていますか。

 アパレル業界はずっとO2Oを考えてきたものの、明確な答えを出せない状況が続いています。コロナ禍の1年を過ごした中で、先ほどの本質の話に通じるが、見えてきた部分があると思います。私の中では「実店舗とECの関係はこうなる」という確信めいたものがあって、恐らくブランドさんも気づいているし、百貨店やショッピングセンターなどのデベロッパーさんも気づき始めていて、あとは踏ん切りをつけられるかどうかという時期に来ていると思います。そこは当社がうまく先導できればいいですね。


澤田宏太郎(さわだ・こうたろう)氏

1970年12月15日生まれ、神奈川県横浜市出身。早稲田大学理工学部を卒業後、株式会社NTTデータ入社。その後、コンサルティング会社2社を経て、2008年5月、アパレルメーカーの自社ECサイト支援業務を手がける株式会社スタートトゥデイコンサルティング(2013年8月にスタートトゥデイに吸収合併)を設立し、代表取締役に就任。2013年6月、スタートトゥデイ(現ZOZO)取締役に就任。2019年9月代表取締役社長兼CEOに就任。

◇ 取材後メモ

消費者のライフスタイルが大きく変わり、これまでのデータや経験が通用しにくい中、経営のかじ取りを行うのは難しかったと思いますが、澤田社長は「ノイズがなくなったことで、本当に大事なことが見えた1年だった」と振り返ります。業績はデジタルシフトが進んだこともあって絶好調で、足もとも好調を維持しています。前澤前社長が退任した約2年前に漂っていた「ゾゾは大丈夫か?」という声はもう聞こえてきません。リモートワーク中に自分の考えていることを従業員に発信するために社内ラジオを始めるなど、澤田色も出てきました。ブランドからの信頼も取り戻したゾゾのさらなる成長戦略に注目が集まりそうです。

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