本格的な流行の兆しをみせる「ソーシャルコマース」。ただ、まだ多くは試行錯誤の域を脱していない段階で、いかに売り上げにつながる成功事例を創出できるかが問われている。こうした状況の中、仮想モール「ビッダーズ」を運営するDeNAがミクシィとの提携を発表。SNS「mixi」内に「今までにないソーシャルコマース」を構築する構想を打ち出した。はたしてどのようなビジョンを描いているのか。EC事業本部の中島真統括部長に戦略を聞いた。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)
これまでのEコマースには疑問があった
すべてスマートフォンに統合
――ECのスマートフォン強化に向けた統合を進めていますが、現在の進捗は。
2011年10月から順次開始しています。対象となるのは「ビッダーズ」と「モバデパ」「ポケットビッダーズ」で、この3つを統合させるのが目的です。そのうちの2つで、フィーチャーフォンの部分をまずは統合します。順番に進めていき、最終的に今年の9月にひとつになる流れです。「モバデパ」はもうブランドを変更して新しい「ビッダーズ」に変わりました。この「ビッダーズ」に「ポケットビッダーズ」や以前のビッダーズを吸収していくイメージです。「ポケットビッダーズ」はスマホとPCは吸収完了しており、フィーチャーフォンの「ポケットビッダーズ」は今月統合する予定です。
――PCサイトやケータイサイトはすべてスマホサイトに置き換わるのですか。
なくなるわけではなく、デバイスはすべて対応します。ただ、スマートフォンサイトを一番に考えて設計し、他はそこをベースにデバイス特有の役割を持たせます。「au one ショッピングモール」はそのまま残りますし、「Mobage」とも今後は「ビッダーズ」として連携していくことになります。
――なぜスマホに特化するのでしょう。
理由は2つ。まず1つは戦略的な側面からです。コマース領域では、当時、PCであまりにも強い競合がいたので、モバイル中心にサービスを展開してきており、モバイル周辺のノウハウ含め強みがあること。もう一つは、長い目で見た場合、サービスはすべてモバイルに収斂されると思っていますので、ここをどう押さえるかを重視したからです。
なお流通総額では、提供開始から43カ月でPCとモバイルのシェアは逆転しました。現在は85%以上はモバイル経由です。モバイルでは2010年秋口からスマホにも力を入れ始め、昨年末にはスマホが全体の20%を越え、スマホの流通は前年同月比でも7000%を超える状況になりました。かなりのハイペースでスマホへのスイッチが行われています。
――ビッダーズの今のユーザー層は。
F1層が中心です。スマホにおいても、以前は男性が多いというイメージでしたが、今は女性にも広く浸透しています。
――出店者の変化などは。
そこは変わりません。ただ、スマホ中心に舵を切ってからいろいろな事業者様に出店していただけるようになりました。今まではネット販売専業の店舗様が多かったのですが、今はリアル店舗中心の小売様やファッションブランド様などいろいろな店舗に入っていただいています。
――出店者の反応は。スマホの特化に難色を示す事業者はいませんでしたか。
前向きに捉えていただいている認識です。そもそも、楽天さんやヤフーさんがある中で出店者様が我々にもっとも期待するのは「モバイルでの販路をどう作っていくのか」という部分だと思うので、むしろ「もっと早くやってくれ」と考えられているかもしれません(笑)。
――統合後、オークションはやめるとのことですが。
オークションは完全にやめます。もともとそこまで注力しておらず、比率も大きくはありませんでした。それに、DeNAとしては別に「モバオク」があったので分かりにくかったと思います。仮想モールの中でオークションを伸ばすのは難しく、モールでBtoCを展開しているうえでシナジーも出しにくい。現在のメーンのモバイルとは顧客層も異なり、商品に一貫性がありませんでした。早い段階での切り替えが必要だと思いました。
「mixi」と仮想モールを共同運営
――先日、ミクシィとの提携を発表し、3月下旬に新しい形のソーシャルコマースを創る構想を掲げました。
具体的な部分はまだお伝えできませんが、もともとEコマースには課題があると感じていたので、そこを解決できるサービスになる予定です。
これまでのEコマースは、オンライン上に溢れている商品に対し、検索など機能的なアプローチで整理する形でした。ただ、それで適切に消費者に商品を届けられているのか、本来の商品価値を伝えられているのか疑問でした。現在は、結果として価格競争など、消費主義的なカルチャーが広まってしまっていると思います。そこで何をすべきか考えた結果が、今回のミクシィさんとの取り組みです。抽象的ですが、これまでの消費主義の逆を目指しました。例えば、過度な広告は一切やりません。ユーザーが自然にコミュニケーションする状況に対してプロダクトが入っていく、というイメージですね。適切なタイミングで商品を買える状況を創り出したいと考えました。
――もう少し具体的に。
具体的な機能などはまだ言えませんが、モール型であるのは確かです。
――「mixiページ」との連携などは。
「mixiページ」との連携をはじめ、「mixi」のさまざまなサービスとも連携できればと思っています。
――対象となるデバイスは。
基本的にはすべてのデバイスで展開します。スマホ、PC中心の設計になる予定ですが、サービス的な差異はあまりないでしょう。
――ミクシィの仮想モールにおける御社の役割は。
出店企業の開拓やサポート、そして共同での企画運営です。
――収益の分配比は。
そこは非公開です。
――ミクシィとの提携発表後のマーチャントの状況は。
出店したい、という引き合いを中心に、発表直後の当日だけで数百の問い合わせをいただきました。
――出店店舗はビッダーズの既存店が中心になるのですか。
既存店舗様とは一緒にやっていきますが、新しい店舗様も多く集まると思います。利用層が重なるとはいえ異なる部分もありますので、そこを踏まえて商品を揃えていきたいですね。
――そもそもなぜミクシィだったのでしょう。
国内最大のSNSであり、大きな売り場がひとつできる、ということがまずひとつ。何より、スマホでどうしても勝ちたい、と考えたときに、最終的なキモは絶対的にソーシャルだと思ったので。ショッピングを考慮したときに、最もイメージがつくソーシャルトラフィックを生成するのは「mixi」だと考えました。それと、ミクシィさんの顧客層と親和性が高いのも理由のひとつです。
今までにあるものを作るつもりはない
3つのSNSと連携へ
――DeNAが描くソーシャルコマースはミクシィとの提携がベースになるのでしょうか。
ミクシィさんとの提携もそのひとつ、ということです。DeNAには「ビッダーズ」というサービスがあり、ミクシィさんと新たに始めるサービスがあり、KDDIさんとの「au one ショッピングモール」があります。これらすべてでソーシャル面に注力していきます。「ビッダーズ」はDeNAのサービスなので「Mobage」が軸になり、これは夏から秋頃にかけて新たな展開を開始する予定です。また、「au one ショッピングモール」については、KDDIさんがフェイスブックと提携していることもあり、フェイスブックとの連携を中心に考えていければ。「mixi」、「Mobage」、「フェイスブック」と、3つのSNSと踏み込んだ連携を志向したいと考えています。
――ビッダーズでのモバゲーとの連携について教えてください。
詳しくは言えませんが、当然ながら「Mobage」と「mixi」には差異があるので、そこを意識した設計になるでしょう。サービスの内容によって連携の仕方は変えようと思っています。ソーシャル、と一括りにしても、そこでのアクティビティや利用する側が大事に思っていることは異なりますので、それに合わせたサービスにするつもりです。
――ビッダーズと「Mobage」の連携は、ソーシャルゲームが絡むのですか。
そういうわけではありません。特定コミュニティと蜜月に連携するとかではなく、もっと全体的な話です。今も仮想通貨が貰えます、といった連携はしていますが、それがより濃くなるイメージです。
――仮想通貨が重要なファクターなのですか。
仮想通貨のカルチャーは独特で、面白いと思っていますが、そこに限定してしまうと少し本来の姿とは異なってしまうかもしれません。実は、「Mobage」とは2011年からトライアルでいろいろ展開しています。例えば、ある商品を購入したら特別なアバターがもらえるとか。一通りトライできたので、その経験を活かして作りこもうと考えています。ひとつ言えるのは、今までにあるものを作るつもりはない、ということ。今までにないものを作りたいですね。
――ソーシャルコマースはまだ成功事例があまりありませんが、新しい形のサービスでそれを創り出す、と。
そう。プレッシャーがかかりますね(笑)。是非、実現させたい。
――スマートフォンでの新生ビッダーズで「mixi」と連携する考えはなかったのですか。
そもそも、ミクシィさんと何か一緒にやりたいという考えはずっとあったのですが、なかなか抜きんでた感じにはならなかったんですね。で、もっと深く連携してサービス展開したい、という話が昨年の秋ごろから出始め、ビッダーズとは別に、むしろ「mixi」として全面的にやるべきだという話になったわけです。
2014年度には流通総額を2倍に
――スマホ版ビッダーズへの集客は。
現状ではパフォーマンス、ボリューム的にSEMがもっとも満足がいく結果が得られていますので、そこでどうマーケティングするかを重視しています。今は検索経由でかなりの数の新規ユーザー様が訪れており、スマホにおける新規ユーザーの割合はアベレージで約40%以上あります。もともとスマホでは検索経由の流入は端末の普及とともに増加していますが、それに加えてPCとスマホでは検索ワードで異なる部分があるので、そこに対応できているのが要因かもしれません。また、詳細は言えませんが、PCとスマホを連携させたサービスも考えています。
――先行する楽天やヤフーも、スマートフォン、ソーシャルメディア活用に近年力を入れています。勝算は。
スマートフォン分野のノウハウなど、これまで培ってきた部分が活かせるので、そこでの差異は持続的に作れると思っています。ソーシャルでも、これまでソーシャルメディアを運営してきた経験があるので、そこでの連携はより強いものを提供できるし、リーダーシップを発揮できると思っています。
――目標は。
2014年度中に、2010年度の流通総額の2倍にすることが目標です。
取材後メモ
突然の発表だったDeNAとミクシィの提携。まだ不明な部分が多く、具体的な機能などを知るには3月下旬のオープンを待つ必要がありますが、少なくとも、取材中の中島氏の言葉をそのまま引用すれば「今までにないもの」であることは間違いなさそうです。仮想モールは楽天とヤフーという2強が先行する状況がもう長い間続いていますが、その状況を打破できるのか。そして、成功事例に乏しいソーシャルコマースで、はたしてどのような結果を見せてくれるのか。スマートフォン中心に舵を切ったDeNAの今後に注目してみていきたいと思います。