ファビウス、二審も適格団体に勝訴――〝定期縛り〟の表示差止訴訟

 適格消費者団体の消費者被害防止ネットワーク東海(=Cネット東海)が、健康食品通販のファビウス(旧メディアハーツ)を相手取り行っていた差止請求訴訟は今年9月、名古屋高裁がCネット東海の請求を棄却した。

 初回価格の強調が景品表示法の「有利誤認」にあたるとして是正を求めていた。Cネット東海は「対応を検討する」としている。勝訴したファビウスは、「通販企業全体が悪であるかのような風潮に一石を投じる適正な判決」とコメントしている。

スポンサードリンク

初回強調、「定期契約と認識できない」

 訴訟は、Cネット東海が2018年1月に提起した。19年12月の請求棄却を受け、20年1月、名古屋高裁に控訴した。

 Cネット東海が問題と指摘したのは、ファビウスが行っていた定期契約に関する表示だ。

 ファビウスは、「すっきりフルーツ青汁」の販売にあたり、最低4回の継続を条件に、定価(3980円)から84%割引した初回価格(630円)で提供する「ラクトクコース」を展開。Cネット東海が問題として指摘したのは、販売にあたり行っていたファビウスの表示になる。初回価格の強調や、申込確認画面における初回支払金額のみの記載が「1回だけの契約と誤認させる」と指摘。また、初回価格を2回目以降の支払金額より強調したり、定価と比較することで、1回あたりの平均支払金額より低額とする表示が有利誤認にあたると主張した。

消費者庁がガイドラインで示した申込確認画面で誤認を生まないの設計例。

継続条件、広告で繰り返し表示

 一審でCネット東海は、「ラクトクコース」の広告について、4回の継続を条件としながら1回あたりの平均支払金額(約2767円)と比較せず、初回価格を強調することが景表法の「有利誤認」にあたると指摘した。また、フォントサイズの違いなど初回の割引価格の強調から、中途解約できないと認識できず、初回のみ購入できるかのように誤認させるとした。

 一方のファビウスは、初回価格と同一画面に4回の購入が必要であることなど継続条件を4回に渡り表示。画面遷移先でも「ご購入前の注意事項(必ずご確認ください)」と表示の上、目立つ背景色とともに、赤字で「特別価格コースのため、途中解約はできません」と表示。同画面のほか申込確認画面でも4回分の支払総額を表示していた。このため、「価格表示にある程度誇張があると認識している一般消費者が、表示をすべて見逃し初回のみ購入できると認識するとは到底考えられない」と主張した。

 地裁は、申込ボタンの真下や広告内に継続条件が繰り返し表示されていることや、途中解約できない旨を目立つよう記載していることから、「どのような契約か関心のある一般消費者であれば、目を通すことが通常想定される」「健全な常識を備えた消費者は容易に認識し得る」とした。申込確認画面も総額が明記されており、「初回のみの契約と認識するとは言えない」と判断している。

 平均支払額と比較していないとの指摘も、「5回目以降も継続して購入できるから、平均支払額という金額自体を想定できない」とし、「社会一般に許容されている誇張の程度を超えて販売価格の有利性があると誤認させるものではない」と判断した。

申込確認画面の「有利誤認」を追加請求

 高裁において、Cネット東海は、一審で棄却された請求を改めて主張している。また、ファビウスが一審判決後に申込確認画面の仕様を変更したことから、これについても景表法上の有利誤認にあたるとした。

 とくに追加請求された点では、申込確認画面の枠内に初回分の請求金額が示され、枠外に総額が表示されている点に着目。「(消費者は)枠に囲まれた部分に重要な内容があると認識して枠外に注意を払わない行動特性がある」との見解を披露した上で、初回分のみ枠内に示し、総額を枠外に表示するなど「有利な部分のみ強調するのは許されず、有利誤認にあたる」と主張した。また、初回支払金額と4回分の総額の表示が「殊更分離している」「文字の大きさ等で初回のみ強調」などとして差し止めを求めた。

 これに対し、ファビウスは、一審から継続して主張されている点には、条件を繰り返し表示することから「見逃すことは通常想定できない」と一審と同様に主張を展開。追加請求された申込確認画面についても「初回のみの強調ではなく、仮に有利な部分のみ強調した表示でも、それだけをもって有利誤認とする法的根拠はない」と反論した。

 高裁は、申込確認画面や広告全体を通じて契約条件が繰り返し表示されていることから「契約内容に関心のある消費者なら、少なくとも1つは見ると考えられる」と評価。重要事項も視覚的に明示されており、「この部分にすら全く目を通さない消費者がいるとすれば、それはもはや保護に値するものとは言い難い。初回だけの契約ではないことを容易に理解する」と判断した。追加請求にも「すべて契約条件は示され、有利のみの強調とまではいえない」とし、原判決を採用した上で追加請求についても棄却した。

誤認発生率は「0.073%」

 一審に続く二審の判決の中では、裁判所が景表法の「有利誤認」を判断する上での重要な見解を示している。Cネット東海が、ファビウスの表示を消費者が「誤認する」として示した根拠に、国民生活センターに寄せられた相談件数を活用したことに対するものだ。

 消費者契約法は、第40条に適格消費者団体が差止請求権の行使に際し、国センに相談情報の提供を求めることができる権限を規定する。これをもとにファビウスに関する相談件数を収集。17年3月に寄せられた100件の相談のうち、54%が初回価格を強調したために定期購入と「誤認した」と指摘した。また、ファビウスは、「ラクトクコース」の月間の申込みを「300人限定」と絞って訴求していた時期があった。ことから、仮に300件の注文を受けていた場合、約18%が誤認していた計算になると指摘した。

 一方のファビウスは2016年度の相談件数は2969件であり、Cネット東海の主張を反映させるとあてはめにより1603件(54%)が誤認した計算になると説明した。

 その上で約1年(16年4月1日~17年4月26日)の商品発送の件数が219万件あり、仮に1603件の相談が寄せられていたとしても0.073%に過ぎないと指摘。「1万件に7件程度の相談でも寄せられることがないよう過度に委縮した広告をしなければならないことになる」「ごく少数の消費者すら誤認し得ない表示を強い、商行為に通常許される範囲の誇張すらも禁じる」と反論した。

 一審は、ファビウスの主張を採用。「17年3月の発送件数約44万件のうち、『初回のみ』との誤認は54件で0.012%に過ぎない」と判断。「0.073%」とする被告の主張も採用した。二審も商品の発送件数に占める割合を中心に、その妥当性を評価した一審の判決を踏襲した。

 相談件数は法執行の妥当性を評価する上でも判断指標の一つになりうる。ただ、その評価は、一側面から行われることが少なくない。販売実績との比較による評価は、これに一石を投じることになりそうだ。

訴訟で「大きな損害」、売上は半減

 ファビウスは、訴訟を通じて「不当表示を行っているかのような情報発信が行われ、レピュテーションに大きな損害が生じた」とする。判決により
「適格消費者団体から過度な要求が行われている現状に一定の歯止めがかかることを期待する」としている。

 ピークに130億円超あったとみられる売り上げは、20年9月期に前年比42.5%減の約62億円と半減。「訴訟の影響があった」(同)としており、損害の回復に向けた訴訟も「検討する」としている。今期はほぼ横ばい。22年9月期は、商品開発の強化で100億円の売り上げを目指す。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG