注目を集めるD2C市場の現状ーーオフライン活用が本格化マス向けのプロモーションも

 “消費者ともっとも距離が近い業態”とも言われるD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)の事業モデルが注目を集めており、2021年はD2Cを冠したブランドがさまざまなカテゴリーで急増した印象だ。

 D2Cは定義があいまいだが、自社で企画・製造した商品を自社通販サイトで消費者に直接販売するビジネスモデルを指すことが多い。また、オンライン上で直接顧客と接する双方向のコミュニケーションを重視しているのも特徴だ。

 中間業者を通さない分、企業の思いやビジョンなどが消費者に伝わりやすいのに加え、ECモールも含めて他社の売り場に依存しないことで、細かい顧客データを収集でき、顧客の情報や意見を新商品の開発に生かしやすいのが利点となる。

 D2Cブランドを手がける企業が増えている背景として、「ショッピファイ」や「ベイス」といった低コストで自社運営の通販サイトを簡単に開設できるサービスが普及したことが挙げられる。

 資金面では、海外だけでなく日本でも革新的なアイデアやテクノロジーなどを強みに短期間で規模拡大を狙うスタートアップ企業に対して、投資が集まりやすい環境が整ってきている。

 コロナ禍で店頭小売りが苦戦する中、SNSを中心に顧客とのコミュニケーションを深めて自社ECで商品を売るD2Cブランドは、アパレルやファッション雑貨、コスメ、食品関連など幅広いカテゴリーで数多く立ち上がってきている。

 当初はスタートアップ企業によるブランド開発が主流だったが、最近では大手メーカーや小売りも参入しているほか、ゾゾやロコンドといったEC専業モールも独自の切り口で立ち上げたD2Cブランドを強化・育成している。

 一方、D2Cは自社ECで販売するスタイルが主流なものの、ECモールや卸を活用するブランドも増えてきている。ダイレクトな販売だけでなく、顧客目線でさまざまな流通チャネルを活用して規模拡大を目指すケースもある。

 また、ブランドの体験の場として実店舗を活用する事例が増加。場所を提供する商業施設などはD2Cブランドの商品を専門に扱うスペースを設けることで、新たな客層の取り込みを狙っているようだ。

D2Cビジネスで先行する海外では、2021年はD2C企業の新規上場が相次いでおり、米国ではアイウェアブランドの「ワービーパーカー」や靴ブランドの「オールバーズ」など約20社のD2Cブランドが上場。22年は日本でも上場するようなD2Cブランドが出てくる可能性がありそうだ。

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オーダースーツの常識を打破へ

 参入が相次ぐD2C市場で存在感を発揮している有力ブランドの現状はどうか。オーダーメードスーツなどを手がけるFABRICTOKYO(ファブリックトウキョウ)は、ショールーム型の実店舗と自社ECを連携させて成功した企業として知られている。

 店舗の主な役割はオーダーメードに不可欠な採寸と、顧客とのコミュニケーションを深めること。初回だけ店頭で採寸してもらう必要があるが、体型データはクラウドに保存されるため、いつでもどこでも「ファブリックトウキョウ」の通販サイトから好きな生地を選んでオーダースーツやオーダーシャツなどを購入できる。

 提携工場と直接取り引きすることで、税込3万9800円からの手ごろな価格設定と最短2週間でオーダーメードのスーツを届けられる体制を構築。

 “高くて時間がかかる”というオーダースーツの常識を覆したことが支持され、売り上げを伸ばしてきた。

 12月末の店舗数は首都圏と関西を中心に15店舗を構える。「コロナ禍ではこれまで以上に実店舗の役割を明確にする必要がある」(森雄一郎CEO)とし、来店はウェブを介した完全予約制に移行。ブランドの認知はデジタルで、データ獲得や顧客接点はオフラインでという役割がさらに強まった。

 最近はリピート化とLTVの一層の向上を目指して商品開発を強化。オーダースーツとオーダーシャツがメイン商材であるものの、ビジネスカジュアルやポロシャツ、Tシャツ、カットソー、ニット、チノパン、マフラーなど品ぞろえの幅を広げている。

 同社では毎月、1対1のユーザーヒアリングを実施。MD面でも顧客から要望のあったアイテムについて、メールやSNSでアンケートをとりながら展開すべき商品を開発してきた。

 また、顧客の意見を受けてサイトのUI改善に努め、利用者が欲しい商品にたどり着きやすくしたほか、コンテンツの充実化も図っている。主力商材のスーツは奥が深いため、商品ページに工場の紹介も含めた生地の特徴を伝えるコンテンツや、おすすめのコーディネート、着用イメージなどの情報を厚くした。

 こうした取り組みもあり、コロナ禍でスーツ業界が市場規模を大きく落とす中、「ファブリックトウキョウ」は順調に成長しているという。同社は10万人以上の顧客を抱えるが、「今後もD2Cらしく直接コミュニケーションをとり、顧客一人ひとりに目線を合わせて価値提供をデザインしていく」(森CEO)ことで、LTVを高めるとともに、くちコミによる新客開拓につなげる。

オーダースーツで人気の「ファブリックトウキョウ」

小柄女性に特化、試着店舗で成果

 newn(ニューン)が展開する身長155cm以下の小柄女性に向けたアパレルD2Cブランド「COHINA(コヒナ)」が支持層を広げている。

 「コヒナ」は顧客接点の場としてインスタグラムを重視。消費者の声を商品企画に生かす目的で始めたインスタライブを毎日配信しているのも特徴で、普段はOLや主婦をしている一般の小柄女性約15人が“ライバー”として活躍。コロナ禍でも毎日配信を続け、11月下旬時点でライブ配信が連続900日となった。

 現在、月に20~30の新作を投入しており、ライブ配信を視聴するたびに新しい服に出会える楽しさや、等身大のライバーによる商品の本音トークなどが視聴者をひきつけている。

小柄女性向けの衣料品ブランド「コヒナ」は試着専用店舗を展開した

 12月下旬時点のインスタフォロワー数は22万8000人に上るほか、業績は事業開始から3年で月商1億円規模に成長するなど、小柄女性に特化したブランドとしては市場での存在感を十分に発揮している。

 20年からはマス向けの販促も開始。同年9月に東京ガールズコレクションに出演したほか、11月には新潟県限定で初のテレビCMを放映している。また、同時期から人気のタレントや女優をモデルに起用したルックブックを公開するなど露出を強化している。

 一方、ヒアリング調査によって小柄女性向けのブランドは気になっているものの実際に商品を見てみたいという消費者が多かったことから、納得してからECで購入してもらうために21年5月中旬から10月末まで、東京・表参道に試着専用店舗を開設した。

 当該店には在庫を置かず、購入はECとしたことで、店舗スタッフは来店客とのコミュニケーションに集中することができた。また、インスタライブで人気のライバーも店頭で接客を行い、共感性の高い接客が売り上げにも寄与したという。

 試着店舗は好評だったため予定を2カ月延長し、5カ月弱の開催となった。同社によると、想定より多くの小柄女性が来店し、既存顧客のエンゲージメントを高められたのに加え、購入者の30~40%が新規会員だったことから、これまで開拓できていなかった層の獲得にもつながり、会期中の売り上げは目標を上回った。

 従来からオンライン上でのコミュニケーションは積極的に行ってきたが、試着店舗では数多くの小柄女性の顔や体型を直接見たり、会話を通じてさまざまな顧客のライフスタイルを知る機会を得たことで、「誰のために服を作っているのかがよりクリアになったし、商品開発に生かせることが多かった」(田中絢子COHINA共同創業者・ディレクター)としている。

 実際、試着店舗の開催後は顧客の悩みや体型をより把握できたことで、服のサイジングを微調整した。また、服のサイズ展開についても、従来からボトムスは多くの商品で2~4サイズで展開していたが、トップスもサイズを増やすことで、さまざまな体型をカバーできるようにした。

 「コヒナ」では既存顧客との関係性を強めるとともに、新客開拓を進めるのに実店舗は有効なことから、今後も定期的にリアルの場を確保していく。

Sparty、バルクオム、GreenspoonのD2Cの取り組みについては本誌にて
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