連載3回目となる今回のテーマは「キャンペーン」だ。知名度抜群の「楽天スーパーSALE」のような大型セールをはじめ、さまざまな企画が常時行われている楽天市場だが、効果を最大化するにはどうすべきなのだろうか。大型セールで獲得した新規顧客をどうやって固定客にするか、といったテクニックも気になるところだ。澤田光雄ヴァイスマネージャーと小寺優摩ヴァイスマネージャーに楽天市場におけるキャンペーンの詳細を語ってもらった。さらにキャンペーンを活用して成功した出店店舗代表として、「博多もつ鍋 炭火ホルモン焼 黄金屋」を運営する、NAOCの佐藤淳EC事業部長に取り組みを聞いた。
「楽天スーパーSALE で獲得した新規客がリピーターになってくれる割合は通常時のそれより高い傾向にあります」
セール前には勉強会店舗にも戦略を共有
─楽天市場ではどんなキャンペーンを実施しているのですか。
澤田光雄ヴァイスマネージャー(以下、澤田):当社では、2つの観点からキャンペーンやポイントプログラムを展開しています。まず「ベースとなる売り上げを押し上げていく」というアプローチ。もう一つが「売り上げの山を作る」というアプローチです。各種キャンペーンについて、明確にどちらかに色分けしているわけではありませんが、2つの観点からうまく組み合わせてキャンペーンを行っています。当社グループサービスの利用者が仮想モール「楽天市場」で買い物をした際に、ポイントを恒常的に増量する施策「スーパーポイントアッププログラム(以下、SPU)」はまさにベースとなる売り上げを作るためのアプローチの代表例です。当社サービスを使えば使うほどポイントが上がり、最大8倍となるように設計されています。
――SPUは常時開催されていますね。
澤田:エントリーも必要ありません。幅広いお客様に「楽天経済圏」のベネフィットを体感していただきたいと思っています。一方、売り上げの山を作る「ブースト」には「楽天スーパーSALE(以下、スーパーSALE)」や「お買い物マラソン」がそれにあたります。ショップの買い周りキャンペーンを軸としており、1ショップで1000 円以上購入すると、セールにおける全体の購入額のポイント倍率がプラスされるというもので、最大で10倍となります。これを通じて、店舗様には売り上げの山を作っていただくとともに、お客様にはお買い物を楽しんでもらいながら還元していく狙いがあります。その他の大きなセールとしては、2017年11月に「ブラックフライデー」キャンペーンを新たに始めました。また、17年末には「超ポイントバック祭」も開催しました。これは、買いまわりではなく、期間中の購入金額に応じてポイント倍率が上がっていくというものです。
――それぞれのキャンペーンにはどのような狙いがあるのでしょうか。
澤田:楽天市場には4万5000 以上の店舗数があり、商品数で言えば2億点以上あるわけです。その商品にいろいろな角度から光を当てていきたいと思っています。例えば買い回りキャンペーンであれば、低単価商品が動きやすい傾向があり、お客様はお試し感覚でいろいろな店で買い物がしやすくなります。一方、ブラックフライデーのようなキャンペーンの場合、購入金額でポイントが増えますから、高単価な商材が売れます。なかなか買えなかった高額商品を「買ってみようかな」と思っていただけるよう、光を当てています。商品のジャンルによって、買い回りの方が相性は良かったり、金額による変倍の方が動きが良かったりします。楽天市場の魅力はもちろん、店舗様や商品の魅力をいろいろな形で引き出せるようにキャンペーンを組み立てている状況です。
――楽天市場におけるセールの花形といえばスーパーSALE ですね。
澤田:12年が初開催となります。それまではお買い物マラソンを年2回開催する形でした。
小寺優摩ヴァイスマネージャー(以下、小寺):スーパーSALEは17年の実績でいうと、四半期に1回、つまり年4回開催しています。スーパーSALEの直前には、必ず店舗様向けの勉強会を開催して、戦略を共有しています。
─具体的にはどういったものでしょうか。
小寺:例えば、お客様の動向に関していえば、最近のスーパーSALE は103時間に渡って開催しているわけですが、まずスタートとラストに注文が集中しています。それ以外にも、平日の12時~13時に注文の山ができていることに着目しました。これは、スマートフォンで買い物をするお客様が増えたことで、会社の昼休みにスマホから注文していることが想定されます。スーパーSALEを効果的に活用するためには、クーポンを配布したり、「スーパーSALEサーチ」に商品登録したりといった施策が必要になります。また、店舗ページの中で、お得な商品を目に付く場所で紹介する作り込みも重要です。
――スーパーSALE専用サーチに登録している店舗は多いのですか。
小寺:登録していただける店舗様は順調に増えています。17年途中からの取り組みになるのですが、一つの目安として、スーパーSALEサーチにおける検索ワードにおいて、楽天市場内では販売しているのに、スーパーSALEサーチではヒットしなかったという商品のリストを作っています。もちろん、数が膨大なのですべてというわけではないのですが、その中でも需要がありそうな商品のリストについては、ECコンサルタント(ECC)と共有して、次のスーパーSALE で店舗様に登録していただけるよう取り組んでいます。スーパーSALEサーチは、割引された商品が登録されている場所として探していただくところですから、そこに登録されていればお客様に買ってもらえる可能性が高いわけです。ただ、裏を返せば当該商品リストは「人気があっても値引きが難しい商品」でもあるわけで、そこは店舗様の戦略次第だとは思います。とはいえ、値引きが難しいナショナルブランドの商品だったとしても、「その店舗様で購入した」という事実が次の購入へのきっかけになるわけですから、検討していただく余地はあると思います。
――大型セールに関しては、「安い時にだけ購入してリピート購入につながらないのでは」という店舗からの心配もあると思います。
小寺:スーパーSALEで購入したお客様がリピーターになる割合は、通常時に購入したお客様のそれに比べて高い傾向にあります。ですから「セール時に1回買ってそれで終わり」というわけではありません。また、スーパーSALEで購入したお客様がリピート購入した場合、50%以上が3カ月以内ということが分かっています。
――スーパーSALEで獲得した新規客に対し、なるべく早く再来店してもらうための施策が重要になるわけですね。
澤田:購入直後に付与する「サンキュークーポン」でいかにリピートしてもらうかがカギになります。スーパーSALEやお買い物マラソンは新規客が獲得できますから、それを固定客に変えていくための取り組みを行っている店舗様が多いです。また、「楽天イーグルス勝利翌日のポイント+1倍」や「5の倍数の日に楽天カードご利用でポイント+5倍」といった定期的に開催されるキャンペーンは、楽天市場を想起してもらいやすいものですから、来訪・購入のきっかけになりやすいです。店舗様にも、そこを見越して、独自でのポイント増といった仕込みをしていただければと思っています。
――お買い物マラソンはスーパーSALEに挟まれた形で開催しています。
澤田:17 年の実績でいうと、3・6・9・12月にスーパーSALEを開催、その間の2カ月はお買い物マラソンを開催するという形です。さらに、年末には「大感謝祭」を開催しています。スーパーSALEで獲得した新規客に翌月のお買い物マラソンで買ってもらう、というやり方もあるでしょうし、セール時以外に何か店舗独自の企画を実施するというやり方もあるでしょう。ただ、お客様にとっても、こうした大型セールはペースメーカーのような存在ですから、例えばコンタクトレンズのように、数カ月に1回購入する商品については、商機を逃さないように、リマインドメールを送信するというアプローチが重要でしょう。
「楽天市場のセールと競合のセールとの違いは熱量やスタッフのやる気です」
スーパーSALEサーチへの商品登録は必須
――黄金屋は楽天市場に出店してから10 年以上が経過しています。
NAOCの佐藤淳事業部長(以下、佐藤):18年7月で出店から丸12年となります。都内にもつ鍋と炭火ホルモン焼きの実店舗を5店舗展開しています。ネット販売に関しては、ノウハウもまったくない状態から1人でスタートしました。06年の冬に初めて楽天市場に広告を出したのですが、もつ鍋のブームもあり、売り上げが急速に増えました。ほとんど手作業で管理している状態で負担が重かったので、翌年に受注管理システムを導入しました。
――楽天市場のキャンペーンをうまく活用して売り上げを伸ばしたそうですね。
佐藤:出店当初はまだスーパーSALEがありませんでしたが、購入する人数が増えると値段が下がる「共同購入」や、「プライベートセール」(編注:ともに現在は実施していない)などは非常に大きな成果を挙げていました。初回のスーパーSALEについては1日だけの開催でした。担当のECC から「大きなセールをやりますよ」という話は聞いていたのですが、どれくらい売れるのかは半信半疑でした。主力商品であるもつ鍋を割引商品として登録したのですが、あまりにも売れるのでびっくりしましたね。1日で2000件注文が入りました。当時は受注対応する人間が1人しかおらず、すべて終わらせるのにとても苦労したのを覚えています。
――それ以降のスーパーSALEも好調ですか。
佐藤:はい。ただ、イベントをどう活用するかというのも重要なんですが、私は楽天さんとのお付き合いは、担当ECCとどうコミュニケーションを取っていくかが大事だと思っています。売り上げが特に好調で、私やスタッフのモチベーションも上がっているのは、ECCといろいろな話ができている時です。私が一緒にやってきて良かったと思えるECCに対しては、原価もきちんと伝えて「これ以上は割引できませんが、こんな取り組みはできませんか」と返し、受け入れられればそれに対して仕組みを整えるといったように、うまく回っているときはほぼ100%実績が出ています。それも想像以上の売り上げになっています。
--ECCからはどんな提案があるのですか。
佐藤:例えば、スーパーSALE内の企画で予約購入が導入されたときに、当社の主力商品である「メガ盛りもつ鍋」に関して、ECCから「割引販売しませんか」と提案を受けて、初めての取り組みなので、商品数を絞って出してみたところ、ごっつい売れましたね。当初は数百セットの見込みだったのですが、大変ご好評いただき、最終的には5800セットも出たんです。また、スーパーSALE中の生放送番組「楽天スーパーライブTV(現・Rakuten ShoppingLive TV)」にも、ECCからの提案で商品を出したことがあって、その時も相当売れました。きちんとECCとコミュニケーションが取れていたからこそそういう提案もいただけたのでしょう。楽天さんが新しい取り組みを始める際には、当社として協力できる部分には協力したいですし、それによって新規顧客を獲得することもできます。
――楽天市場では大型セールが定期的に開催されています。年間の売上計画を立てる上で大型セールはどのように位置づけられるのでしょうか。
佐藤:当社はメイン商材が鍋なので、リピート購入してくれるお客様でも、買うのはいつも12月ということが珍しくありません。ですから、春夏に何を買ってもらうかが課題になります。例えば春なら「塩もつ鍋」、夏であれば「カレーもつ鍋」という新商品を開発するなど試行錯誤していますが、爆発するまでには至っていません。17年からは「父の日に売り上げの山を作ろう」とギフト商品の販促に取り組んでおり、リピーターにしっかりアピールすることで6月にも売り上げの山は作れると思っています。例年であればスーパーSALEが開催される時期なので、18年はうまく活用して売上増につなげたいですね。
――最も売れるのは、やはり冬に開催されるスーパーSALE ですか。
佐藤:そうですね。9月頭に開催されるスーパーSALE だと、まだまだ暑いのでもつ鍋はそこまで動きません。ただ、もつ鍋は嗜好品なので、当社から仕掛けないとなかなか買ってもらえないのが現状です。そこで、17 年は競合店よりも早く仕掛けようと9月末に広告を出しました。そのかいあって、10月の売り上げとしては過去最高で、イーグルス優勝セールがあった13年を超えたほどです。18 年についても、スーパーSALEやお買い物マラソン以外の時期にも、ターゲットを絞った上で広告を出していきたいと思います。広告費をかなりかける形にはなりますが、要は使い方の問題です。きちんと自分たちで計画を立てて行けそうな感触があるものは効果が高いですし、逆にちょっと迷いがあるものは駄目だったりします。ですから、担当ECCに「この広告はどのくらいアクセスが見込めるのか」を事前に相談したり、広告出稿後も費用対効果を検証したりして、精度を上げていく必要があると思っています。
――最も売れる冬に向けて早めに仕掛けるわけですね。
佐藤:競合より先に仕掛けることで新規を獲得し、お歳暮や自家需要が増える12月にリピート購入してもらうという狙いです。例年通りであれば、12月にはスーパーSALEや大感謝祭がありますから、きっちり活用していきます。
――獲得した新規顧客に対するフォローは。
佐藤:まずは購入したお客様に対するフォローメールですね。17 年の場合、9月末に仕掛けて10月頭から出荷が始まったわけですが、想定の2倍以上の注文数になったこともあり、製造や受注対応が追いつかなくなる恐れがありました。ですから「順番に対応しているのでお待ち下さい」というメールを配信するなど、こまめなフォローは欠かしませんでした。
――スーパーSALEをうまく活用する上で、他に重要な点はありますか。
佐藤:広告も重要ですが、スーパーSALEサーチへの商品登録は絶対にやらなければいけないことですね。10%以上の割引で登録ができるので、基本的に全商品登録していますが、特に「半額以下アイテム」からの流入が多い。ですから、利益が残せるセット販売商品を半額登録しています。毎回4~5商品は半額で登録していますね。半額商品で呼び込んだお客様を他の商品に誘導して、きちんと購入につなげていきます。
――クロスセルしてもらうわけですか。
佐藤:半額商品が売れる必要は必ずしもないわけです。お客様の流入を考えると、サーチに半額商品が出ていること自体が重要です。実は、何回か前のスーパーSALEで半額商品を登録しなかったことがあるのですが、期間中の売り上げやアクセスは芳しくなかったですね。セット商品で購入単価を高くすれば利益が出ないことはないので、半額にして登録しています。また、売り上げランキングからの流入もボリュームがあります。スーパーSALEの数日前から数商品を値引き販売し、ランキング上位に入っておくようにしています。広告・サーチ・ランキングからお客様を呼び込み、売り上げの最大化を図るのがスーパーSALE を成功させるためのコツだと思います。
――クーポンは活用していますか。
佐藤:楽天さんが発行している「マルチクーポン」は必ず使っていますし、月に1度開催される「食フェス」の10%割引クーポンも活用しています。また、独自クーポンも発行して売り上げ増につなげています。
――お買い物マラソンに関しては。
佐藤:スーパーSALEではないので、サーチへの登録はありませんが、クーポンの活用法などは変わりません。ただ、スーパーSALE は最安になるように設定していますが、お買い物マラソン時の販売価格はスーパーSALE時よりやや価格を上げて、利益を確保するスタンスです。新規顧客をガツガツ取っていくというよりも、既存のお客様に通常時よりも安い価格で買ってもらうという狙いです。
――現在の楽天市場では月に1回セールが行われているわけですが、売り上げには良い影響を与えていますか。
佐藤:私はありがたいと思っています。「セールの時期が固定化されることによるお客様の買い控え」を気にする店舗もあるかもしれませんが、実店舗でも似たようなことはありますからね。新規客を獲得し、休眠客を掘り起こす機会を自分たちで作れるならそれが一番ですが、できることは限られています。それ以上の売り上げや利益をあげる機会をモール側が作ってくれるわけですから、出店者側からするとメリットでしかありません。
――楽天市場のキャンペーンと他の仮想モールで行われるキャンペーンに違いはありますか。
佐藤:熱量の違いですね。特に、スタッフのやる気という面では楽天さんが一番だと思っています。