小川吉宏●ジュピターショップチャンネル代表取締役社長

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過去の実績を重視しチャレンジ精神がなくなっていた

 通販専門放送でテレビ通販およびネット販売を行うジュピターショップチャンネルが新たな事業として2021年から挑戦を始めたライブコマースが堅調だ。様々なテストを繰り返し、徐々に手ごたえを得ているようだ。2022年4月に同社の社長に就任した小川吉宏氏に直近の業績やライブコマースをはじめとする新規事業の現状などについて聞いた。

過去の実績を重視しチャレンジ精神がなくなっていた

2期連続で減収に

─前期の実績(2022年3月期)は(※売上高は前年比2.3%減の1573億8300万円、営業利益は同10.7%減の178億1200万円、経常利益は同10.0%減の182億1400万円、当期純利益は同1.8%減の136億8000万円)と2期連続で減収減益になりました。要因は何ですか。

 端的に言えば、我々が提供する商品と番組の新鮮味が不足し、お客様の期待に応えられなかったのでないかと思っています。

──新鮮味の不足とは何ですか。

 前々期(2021年3月期)は新型コロナウイルスの拡大に伴い、従業員や取引先の健康や安全を確保する観点からこれまでの24時間生放送をやめて収録番組を交えた編成としました。それにより生放送の時間が減りました。段階的に戻しました(※生放送時間は20年4月に7時間、同5月から12時間、同6月から16時間、21年4月から20時間)が、生放送が減ったことで、その限られた番組では(売り上げを上げることができる)実績のある商品を投入しなければいけなくなりました。

 そうなることで翌年の売り上げにつながるような新商品の投入、新たな種まきがなかなかできませんでした。そうした背景に加えて、全体的な流れとして売り上げを追求しようとするあまり、当社が蓄積しているデータをもとに過去に一定の売れ行きのあった実績のある商品や番組をベースに計画・進行しており、以前に比べてチャレンジ精神がなくなっていたと思っています。コロナ禍を経て、お客様の嗜好は色々と変わっているはずですが、実績に重きを置きすぎたことで多様化するお客様のニーズと合致しなかったのではないかと思っています。過去の成功体験に基づいたものではなく、もう少し挑戦すべきだったと反省しています。

─商品・番組がマンネリ化したことの影響は。

 前々期は巣ごもり需要に合わせた品ぞろえなどもあって平均客単価が下がりましたが、前期は例年並みに戻り悪くなかったです。むしろ、お客様数や購入回数に影響が出ました。

──前期の売れ行きの傾向は。

 前々期はコロナ禍で家での生活を快適なものにする例えば空気清浄機やエアコンなどの家電が非常に好調でしたが前期に関しては、そうした需要が一巡したこともあり、家電の動きはよくなかったです。また、先ほど述べたように前々期に種まきができなかった商材、特にファッション・アクセサリーについても伸びなかったです。一方で前々期に引き続き食品の売れ行きはよかったです。

─新規顧客獲得の状況は。

 成果を上げている施策は昨年8月から発行し始めた初の独自クレジットカード「ショップチャンネルカード」です。決済額に応じて貯まるポイントで当社で利用可能な割引コードを付与したり、送料無料という特典がつきます。特に既存のお客様から非常に好評で、想定よりも多くのお客様に申し込み頂けました。送料を無料とする特典はお得感があったのだと思います。クレジットカードで決済される方は一般的に買い物をする回数が増えるはすで、実際、(ショップチャンネルカード保有者は購入回数が)増えています。さらにこれまでお客様が事前に登録していた住所一カ所の送料のみを無料としていましたたが、今年7月からは「ショップチャンネルカード」で決済頂ければ、登録住所以外でもどこに送っても送料無料とする特典も追加しました。さらに入会数が増えることを期待しているところです。

─リピーターの育成施策は。

 一番の強みは、全身24カ所の推定採寸に加えて、体脂肪率や骨格筋量などの体組成データをすべての人に簡単に提供できるところです。それも片手におさまるようなスマホデバイスだけで各データを取得できます。データの精度についても、熟練のテイラーが採寸した場合の誤差と変わりません。説明書なしで誰でも直感的に理解できる操作性と、安全性も確保している点が強みになります。

試行錯誤のライブコマース 点数は10点満点で8点

今期の前半戦は堅調

─今期(2023年3月期)の出足はどうですか。

 今期は増収を目指し、その目標に向けて前半戦(4~6月)は堅調に推移しており、(前期からスタートした様々な新しい取り組みを進めて、持続的な成長を目指すための5カ年の)中期経営計画の進捗も今のところ予定通りです。

─中計に伴って新規事業として前期からライブコマースやコト・体験型商品の取り扱いを本格化させました。状況はどうですか。

 2021年4月から女性向け動画メディアを運営するCChannel(シーチャンネル)と組んで開始したインフルエンサーが進行役となり、商品を使ったデモンストレーションなどのライブ動画を配信して、専用サイトに誘導し、購入を促すライブコマース「コレイヨ」は色々と試行錯誤を繰り返しています。ライブコマースに関しては、当社のようなテレビ通販事業者のみならず、様々な業態の事業者がチャレンジされており、いまだ「勝ちパターン」を見つけられた事業者はいないと思いますが、当社でも同様で、色々なパターンを試しているところです。

 ライブコマースではテレビ通販のお客様よりも若い世代、20~40代の特に小さなお子様をお持ちの女性の課題を解決できるような商品を紹介しながら様々な取り組みや効果検証を繰り返しています。例えば様々なインフルエンサーを起用してみたり、配信映像についてもテレビ通販番組のような映像がいいのか、あえてスマートフォンで撮影したものがよいか。インフルエンサーのチャンネルとコラボしてみたりとかですね。それでインフルエンサーの影響力がどこまで購買につながるのか、ターゲットに本当に正しい商品を提案できているのかなどを検証してみたりしています。また、ライブ配信中に売り上げを上げることだけをゴールとするのではなく、動画のアーカイブ経由での売り上げであったり、ライブコマースで商品への興味を喚起してテレビ通販で購入を促す形もあると思いますし、そうした目標設定も含めて試行錯誤しているところです。

─現状、「コレイヨ」に点数を付けると何点くらいですか。

 非常によい線は行っていると思っています。(10点満点で)7、8点くらいかな。まず、当社のこれまでの新規事業の中では非常に速いスピードでサービスをスタートできたことに加えて、スタート後も次につながる非常によいトライ&エラーができていると思います。今後も様々なトライを行い、勝ちパターンを見つけていきたいです。(主力事業の)テレビ通販に比べれば規模はまだまだ小さいが定着するまでには時間もかかるわけで、それを我慢できず辞めてしまうと、なにも残らないままになってしまいます。今後もやり続けていきたいです。

コト商品にも手ごたえ

──コト・体験型商品についてはどうですか。

こちらについても非常に手ごたえを感じています。「コトコレ!」という番組を立ち上げて、昨年6月からミラー型デバイスを介して、エクササイズレッスンが受けられる「フィットネスミラー」から当該商材の販売に着手した後、リゾート施設を安価に利用できる会員権やプロのヘアメイクが整え、カメラマンが撮影する女性向けフォトセッション利用券、また、今年3月には阪急交通社と組んで紹介した日本各地を巡るクルーズ旅行など10商品くらいのコト・体験型商品を販売してきました。フォトセッション利用券などはお客様からの反応が高かったほか、クルーズ旅行についても残念なことに(コロナ禍に伴う検疫上の理由で)運航を断念し、お客様には返金させて頂きましたが、想定を上回る申し込みを頂くなど反響は高く手ごたえを感じています。阪急交通社とは北海道を巡る4日間のツアーの販売を開始しているほか、今後、改めてクルーズ旅行についても紹介していくつもりです。旅行・レジャーを中心に様々なコト・体験型商品を展開していきたいと思っています。

新しいチャレンジはじめる

─今期の方針は。

 新しいことへのチャレンジ、変革です。お客様に寄り添って、お客様に心躍る瞬間をお届けするという当社の理念に立ち返ろうと(社員に)言い続けています。すでに新しいチャレンジをたくさんし始めています。

 最近の例で言えば、6月19日の日曜日に「ファッションデー」という衣料品に特化した商材を紹介・販売する特別編成番組を放送しました。当社ではこれまで土日にはこうした特別編成番組はやってこなかった。ターゲットである“大人の女性”は週末よりも平日によく視聴頂けると考えていたためです。そして今回、日曜日に放送したのは大人の女性の中で、働いていらっしゃる方にとっては週末の方が視聴頂けると考えたからです。社内的にはこれまでにない画期的なことでした。当社のターゲットである大人の女性、もっと言えば35歳以上の女性だが、これまで「60歳の専業主婦」とイメージしている社員が多かったわけです。しかし、お客様の中には専業主婦の方も働いておられる方もいます。実際、先のファッションデーの売れ行きも非常によかったです。「大人の女性」には様々なお客様がいます。それぞれ細分化しながら、お客様に寄り添って、お客様のライフスタイルをイメージしながら商品、番組を作っていきたいです。

 このほか、新しい取り組みとしては昨年11月から一部の番組で画面上にQRコードを表示して、お客様がスマートフォンで読み取ると簡単に番組にメッセージを送れ、番組の画面にそのメッセージが表示されるという試みを開始しました。これまでもお客様からの電話をつないで番組で紹介する取り組みを行ってきましたが、QRコードでのメッセージ送信であればより手軽にお客様に参加頂けます。実際に開始してみるとこれまで声を聴けなかった様々なお客様の声が寄せられました。出演者やベンダーからの反応もよいです。当社としてもお客様のライフスタイルが見えてきます。当社では4月からお客様の声を収集・分析する部門を一元化して、担当部門を強化していますが、寄せられたコメントをなどもそこで分析してさらにお客様に寄り添えるような番組・サービスを作っていきたいです。

お客様視点を大切に

─身─4月に社長に就任した。新社長としての方針は。

 大切しているのはお客様視点です。番組、商品を通じてお客様に驚いて頂き、楽しんで頂くことが当社の目的で、それを基軸にすべての行動を決めていきたいです。それが足りていなかったことが前期の減収につながったのではないのかと思っています。常に変化しているお客様の望んでいることを我々は必死になって考えてそれにこたえられるようチャレンジしていきたいです。


小川吉宏(おがわ・よしひろ)氏

1966年11月13日生まれ。大阪府出身。90年、神戸大学卒業後、住友商事に入社。07年にSUMMITWOOLSPINNERSLTD社長、18年に住友商事の繊維事業部長、19年に同社リテイル事業第二部長を経て、20年からジュピターショップチャンネルの執行役員経営企画本部長、22年4月1日に同社代表取締役社長に就任。



◇ 取材後メモ

ライブ配信で特徴を訴求しながら、商品の購入を促すライブコマースという販売手法はコロナ禍をきっかけに一気に花開き、様々な企業が取り組み始めました。もちろん、固定客を中心に一定の成果を上げている事業者も出てきていますが、いまだ「勝ちパターン」を見いだせた事業者はないといっても過言ではないでしょう。映像で商品を販売することにかけては、「プロフェッショナル中のプロフェッショナル」と言えるテレビ通販大手のジュピターショップチャンネルも新たなチャレンジとしてライブコマースに取り込んでいます。テレビ通販では勝ちパターンを構築し、1500億円を超える年商規模まで拡大を遂げたテレビ通販の雄が、テレビとは異なるインターネット上での映像を使った通販でどのような「勝ちパターン」を構築できるのか。注目したいです。

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