宅配便の再配達が低水準に推移、25年度の10%目標達成なるかーーコロナ禍で受取手段の多様化進展

 コロナ禍における2年間で宅配便の受取方法の多様化が大きく進展した。置き配が一気に普及したことに加え、宅配ロボットの実証実験やスマートキーを活用したオートロック式集合住宅への置き配など新たな取り組みも試行されるようになっている。併せて多様化の目的としている宅配便の再配達の削減も一定の成果を上げているように見られる。この2年間の受取方法の多様化の動向を振り返るともに、今後のさらなる再配達の削減が可能なのかを探る。

 国土交通省などが「置き配検討会」を立ち上げたのは2019年3月。その約1年後に新型コロナウイルス感染症が国内でも広がり始めることになった。それまで盗難などを不安視して一般ユーザーに受け入れられにくかった置き配だが、検討会も当初は予想もしなかったほどに、置き配に対する見方が大きく変化することになる。

 「置き配検討会」は、その前身となる「宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会」において宅配便の再配達の削減に向けて1宅配事業者とEC事業者とのデータ連携の推進2再配達の実態の詳細分析3多様な受取方法の推進を行うことを決定し、3を具体的に進める狙いで立ち上がった。置き配に積極的な日本郵便といった宅配便事業者、アマゾンジャパンや楽天グループといった仮想モール事業者、ファンケルなど通販事業者などがメンバーだった。検討会は21年3月までに5回開催し、「置き配の現状と実施に向けたポイント」をまとめるに至った。まさに新型コロナウイルス感染症が拡大し始め、最初の緊急事態宣言が発令される直前でのとりまとめだった。

 国交省が17年10月分から、4月分とともに調査するようになった宅配便の再配達率に関する調査では、15~16%(全体)で推移しいていたのが、20年4月の結果は4月7日に7都府県、4月16日に対象を全国に拡大した緊急事態宣言の発令から一気に8.5%(同)と10%未満まで低下した。

 この再配達率は、20年度に13%程度と掲げていた目標を大きく下回るもの。外出自粛や非対面・非接触という行動様式の必要性から、置き配をはじめとした受取方法の多様化への対応が大きく進展したためと言える。

 その再配達率は、その後に10%を下回ることはないが、11%台(同)が続き、直近の今年4月は11.7%になっている。新たな再配達率の目標である25年度に10%程度の達成まで約2ポイント消滅という状況だ。

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大手宅配がいずれも置き配を

 住居の玄関前や自転車のカゴの中などへの置き配は大手宅配便事業者の中でも日本郵便が先行しており、積極的に取り組んでいた。一方、ヤマト運輸や佐川急便はセキュリティ等の課題等もあるためか、コロナ以前には大々的に実施するにはいたらなかったようだ。むしろヤマト運輸はオープン型(複数の宅配便事業者が活用可能)の宅配便ロッカーへより注力する姿勢を示し、同ロッカーが受取の多様化の急先鋒としての施策としていた。

 ところが、2社とも非対面・非接触の要請から、配達先でインターフォンを通じて、玄関前などに荷物を置くことを依頼されるといったケースが増えるようになった。そして、佐川急便は20年5月に置き配の「指定場所配達サービス」を開始し、ヤマト運輸も同年6月にEC専用の配送商品である「EAZY(イージー)」をスタート。両社とも正式に置き配に取り組むこととなった。

 このうちヤマト運輸のイージーは、配達直前での配達先変更、受取時間の変更も行えるといった新たな機能を有するのが特徴。置き配だけでなく、対面での受け取りでも受取手の利便性を向上したものとした。

 いずれにしても宅配便大手3社とも置き配へ大きく舵を切ったことが、コロナ禍において非対面・非接触の購入手段として通販・ECの需要が増えることに伴い、荷物量が増加する中でも、ほぼ宅配便が逼迫することがなかった大きな要因と見られる。

 25年度を目標とする再配達率10%程度に達するには、11%台となっている現状より2ポイント近い低減が求められる。コロナ禍で大きく低下した再配達率だが、今後、さらに2ポイントの低下というのはそう簡単にクリアできるだろうか。

 前回の目標だった13%程度は、21年度の4月、10月、22年度の4月のいずれとも下回る状況が続いている。今後のコロナの収束はまだ見通せる状況でなく、通販・EC需要の変動、さらにリモート勤務から出勤へのシフトも徐々に進展しているだけに、直近の11%台という再配達率を維持することができるかは定かではない。

ヤマトやアスクルがオートロックマンションでも置き配

 しかし、置き配に関しても新たな取り組みや実験が相次いでいて、再配達の削減を重視するところは多い。ヤマト運輸は今年2月からデジタルキーを活用した「車内への置き配」の実証実験を開始。受取手の自家用車にデジタルキーで解錠可能な専用でデバイスを設置してデジタルキーによりトランクなどを開けてECサイトで購入した商品を置くという取り組みだ。また、同社は3月から、複数のデジタルキーを一括管理できるシステムを開発し、デジタルキーを提供する5社と連携して、オートロック式集合住宅などのエントランスを解錠して、事前に指定を受けた場所への置き配を可能にしている。

日本郵便とアマゾンジャパンはコロナ前の 19 年 10 月に置き配の実証実験に取り組んでいた

 同様な取り組みはアスクルも展開。6月6日から運営する日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」の商品をマンション入居宅へ配送する際に配送員がオートロックを開錠し、顧客が不在時でも玄関横に置き配ができるようにした。都内の一部から対応を始め、順次、対象マンションを拡大していくという。宅配ボックスから自宅まで荷物を運ぶなど顧客側の負担軽減のほか、宅配ボックスに他の荷物でいっぱいの場合、荷物を持ち帰らざるを得ず、配送効率が悪くなる状況を改善したい狙いもあるようだ。

 対象とするはアスクルの物流子会社であるASKULLOGIST(アスクルロジスト)の配送員が東京都世田谷区内に配送する商品で、かつライナフが展開する入館のためのオートロックを遠隔開錠できるサービス「NinJaent-rance(ニンジャ・エントンス)」を導入しているマンションとなる。

 アスクルロジストの配送員はオートロックを一時的に開錠できる専用端末を用いて顧客宅の玄関先まで荷物を置き配、そして完了した様子を撮影し、顧客に当該写真付きの配送完了メールを送信する流れ。従来から商品の置き配指定は「玄関横」または「宅配ボックス」を注文時に顧客が選択でき、対応してきたが、オートロック付きマンションの場合、「玄関横」と指定しても届け先の顧客が不在時には配送員は入館できず荷物は持ち帰り、再配達することになっていたとし、オートロック付きマンションの置き配対応は事実上、宅配ボックスのみとなっていたようだ。


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