ECの主役はウェブからアプリに【伊藤正裕 ヤッパ代表取締役社長】

iPhoneの台頭で、今年に入り一気にブレイクした感のあるスマートフォンと、iPadに代表される電子書籍端末。急速に普及が進む中、これらの端末に欠かせない存在の「アプリ」に今、通販事業者から注目が集まっている。電子カタログが代表的な活用例だが、今後は純粋なEコマースアプリ、つまり「アプリ化した通販サイト」が主流になるとの見方もあり、ネット販売事業者には目が離せない状況だ。楽天やニッセンなど大手通販企業のアプリ開発を手掛けてきたヤッパの伊藤社長は、ECは「ウェブからアプリの時代になる」と語る(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)。

 

 

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アプリは“開いてもらう努力”ができる点で優れている

「今の100倍は良くできる」

――様々な通販カタログのアプリ化を手掛けていますが、御社がこの分野ではパイオニアですか。

通販カタログを狙って、という企業はあまりないですね。電子書籍に関してはいろいろありますが。ただ、我々も雑誌や新聞についてはもともとシェアがあり、強いとは思います。とはいえ、まだ私自身納得がいかないレベルで、今の100倍は良くできると思っています。これからもっと力を入れていきたいですね。

 

――強みはどこにあるのでしょう。

我々は「SPINMEDIA(スピンメディア)」というプラットフォームを提供しているのですが、これは「ワンソース、マルチプラットフォーム」というのが特徴です。つまり、電子書籍にいろいろなマルチメディアやEコマースの仕組みを追加して、マルチプラットフォームに配信する、ということができるわけです。この配信の部分は特許技術なのですが、例えばEコマースの情報を誌面と一緒に表示したりとか、あるいは、動画をサーバーから引っ張ってきて誌面に入れ込んだりとか、いろいろなものを同時に組み上げることができます。要するに、マルチメディアがたくさん搭載できたり、自社のEコマースサーバーと誌面上で親和性を持たせたりできて、それを携帯電話やスマートフォン、タブレットなどに配信することができる、というわけです。

 例えば、ニッセンさんの事例。カタログはぺらぺらめくって受け身で見られることがいいところですが、ここで気になるドレスがあった場合に画面をタップすれば、価格やサイズ、数量などを全部表示して、選べて、自分のリストに入れることができます。誌面に戻ってそのまま他の商品をまたリストに入れるなどして買物を続けることも可能です。で、リストに入っているものを買い物カゴに入れると、ニッセンさんのサイトの買い物カゴに入る、という仕組みです。

あと、広告にも対応していて、いろいろなデータのトラッキングができます。通販カタログで、今までやりたかった『どの商品が見られていてどの商品が見られていないのか』などのデータを追いかけることもできる仕組みになっています。システム部分以外の強みを言うと、我々にはこれまで培った実績とノウハウがあるので、どういうものが受けるか「湯加減」が分かることですね。

アプリで決済まで完結させるべき

――今はスマートフォンだけではなく、iPad用のアプリもかなり出始めていますが、どう見ていますか。

確かに非常に増えています。ただ、我々の開発のウェイトでいうと、今はアンドロイドのほうが多いですね。アンドロイドのアプリは今後11月、12月ごろから大量に出てくるし、こうした多機能端末のデバイスもたくさん出てくるので、そこで一気に普及すると思っています。おそらく来年の夏にはかなり高い普及率になっているのではないでしょうか。なので、iPadというよりアンドロイドもしっかり視野に入れないと駄目な状況ですね。

iPhone、iPadのアプリとアンドロイドのアプリは作り方が根本的に違います。iPad、iPhoneは2機種に対応すればいいわけですが、アンドロイドは下手すれば数十機種にも及びます。画面の大きさもいろいろ違いますしね。万能なデザインにしないといけないので、見た目が個性的だと作りづらかったりします。

 

――両方に対応したい、というニーズはこれから増えると思いますが、大変では。

大変ですね(笑)。ただ、流れとして今は『ウェブからアプリへ』となっています。ウェブでモノを通販したり、というところを、これからはアプリが担うようになっていくわけです。だから、早くアプリケーションに対応して、早くアンドロイドを含めたいろいろなプラットフォームに出していくことを考えないといけないでしょう。

 

――今まではアプリから最終的にはウェブサイトに飛ばす、というケースが多かったですが、アプリですべて完結させるわけですか。

そこは必ず変えるべきだと思っています。アプリケーションのみで決済までちゃんと完結する、という形にするべきでしょう。脱落率も少なくなると思います。我々は今、そちらの方を勧めています。

 

――アプリの強みとは?

アプリは開いてもうための努力ができる、というのがまず一つ。それに、やはりブラウザを開いてURLを入れたりブックマークから飛ぶよりも、速くて簡単ですよね。初心者でも使いやすい。サイトは指でズームイン、ズームアウトをしながらボタンを押していくわけですが、アプリなら最初から押せる状態になっているので、利便性は高いと思います。

 

――アプリを開いてもらうための努力とは例えばどういうものですか。

例えば、いろいろな情報の発信をしていく、というやり方があります。プッシュを上手く使って、自分の気になっているブランドの商品が入荷したらアラートが出るようにしておくとか、あるいは、ユーザーの今までの購買履歴ベースで何かレコメンデーションが来た場合、アプリからアラートを出していく、とか。あと面白いと思うのは、カレンダー連携ですね。ネット販売では多くの企業がよく時間セールをやっていますが、その情報を一回のタップでカレンダー登録できれば、例えばそのセールタイムが始まる前に「5分後からセール開始します!」とアラートが出るとか。自分で「このブランドならアラートを受けたい」など、選べるようにするといいですね。これはiPhoneではもうできます。iPadでもまもなくできるようになります。

あと、アンドロイドの場合はウィジェットが使えますので、例えば通販サイトのウィジェットを作って「新商品入荷のお知らせ」を出していくとしますね。で、ホーム画面に例えばセーターなどが出ていて、それをユーザーが気に入ってタップすればアプリが立ち上げる、とか。これは簡単に作れます。

「本当にお金を稼げる通販アプリ」を作りたい

今後はEコマースアプリも開発

――通販系のアプリの実績は。

通販系アプリのシェアは10~15%はあるのではないでしょうか。今後も増えると思いますし、小さくない割合です。

今は、Eコマースのアプリで、まったく電子書籍に関係ないものも開発中です。まだ詳細はいえませんが、11月中旬にリリースする予定です。

 

――通販系アプリではやはり電子カタログが多いのですか。

そうですね。ですが、これからはカタログのない「ただのEコマースアプリ」も出していきます。サイトをより便利にしてアプリにしたようなものですね。11月に出すのが第1弾です。

 

――今までは通販アプリというと電子カタログが普通だったと思いますが、少なくなっていくのでしょうか。

そうですね。ただ私は両方アリだと思っています。というのは、ただのEコマースアプリの場合、アマゾンのように探したい商品が決まっている場合は、検索してすぐに出てくる利便性がありますが、カタログのようにただぺらぺらめくっていれば欲しいものが出てきた、という受け身の感覚も大事だと思いますので。

 

――先ほどのカレンダー連携など便利な機能が続々と出てくれば、コマースがアプリ主体になるというのも現実味がありますね。

そうです。ウェブサイトを遥かに超えた機能ですから。そして、タブレット系のいいところは、一家に一台という要素があることですね。父親が買って、会社には持っていかないので昼間に奥様が使うとか。そういうシーンが想定できるので、ファミリー向けです。だから客層は広く取れるのではないでしょうか。例えば化粧品でも、今までの普通のケータイの化粧品通販とは少し違う商材も売れてくるのではと思います。

 

――ただ、中にはサービスを終了したケースもあります。向き不向きがあるのでしょうか。

やはりレジャー系はiPhoneの小さな画面では難しいのではないでしょうか。その手の買い物をiPhoneでやるとは思えません。大きい画面で、家でくつろいでいるときに通販を楽しみたいわけですから。ガラケーで化粧品を買う、というのなら分かりますが、カタログ通販企業のように、いろいろなものを見て、悩んで買う、という買い物形態は小さい画面ではフラストレーションが溜まります。

 

――「電子カタログ化」というのはiPhoneでは向いていない、と?

そう思います。これからのアプリは、カタログのある会社の場合は電子カタログとEコマースがワンセットですが、iPadのうえでの話で、iPhoneではカタログはなしで、Eコマースのアプリだけでいいかな、と思います。これはアンドロイド端末でも同様ですが。

 

アプリはシンプル設計にすべきだ

――アプリの開発期間はどれぐらいでしょうか。

平均すると1カ月から1カ月半ぐらいで完成します。ウェブサイトの構築に比べても速いですね。

 

――アプリがダウンロードされるためのコツはありますか。

コツとしては、まずロゴのデザインが重要ですね。あとはネーミング。大手企業でも、分かりやすくて有名な名前を使わないと駄目ですね。それにツイッターの使い方。フォロワーが多い有名な人がつぶやくと一気に伸びますので、つぶやいてもらえるようにマーケティングを練るのもいいのではないでしょうか。あと、マスメディアへ露出するのもダウンロード数は伸びますね。iPadのアーリーアダプタや今のiPhoneユーザーにはメディアに対して敏感な人が多いので、メディアに取り上げられるものを追いかける傾向があるので。

 

――では、逆に注意すべきことは?

いくつかありますが、まずアプリケーションとして完成度が高くないといけません。評価が落ちますし、一度悪いと判断されたものは二度とダウンロードしてもらえません。最低でも、「これは消さずに置いておこう」と思われるレベルには作らないといけないわけです。あと、何でもウェブに飛ばしてしまうのも評判が悪いですね。ブラウザをすぐに開くようなアプリは駄目。なるべくアプリで完結する仕様にすべきでしょう。あとは、最初の1、2分でちゃんと理解されて使われて、面白いと思ってもらえないと難しいでしょう。最初の数分が大事ですね。仮に説明書があっても読まれませんから、シンプルな設計にすべきだと思います。

 

――収益形態は。

通販アプリの場合は、開発費で初期開発を行います。それからライセンスとランニングという形でその後もメンテナンスを行っていくことになります。

 

――何か目標などはありますか。

この1年以内に、『話題を呼ぶ通販アプリ』から『本当にお金を稼げる通販アプリ』へ移行したいですね。iPadを含めたこの手のアプリがもっと普及することが前提なので今はまだできませんが、もっとタブレットやスマートフォンをみんなが持ち始めたとき、本当に売り上げを稼げる通販アプリを実験を重ねて見つけたいと思っています。

iPadなどこの手の多機能端末は普及すると確信しています。例えば来年の夏にビックカメラに行けば、『Wi-Fiタブレットコーナー』というのがたぶんあるのではないでしょうか(笑)。

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