実店舗展開で新局面立地や企画でファンを誘引ーーEC事業者のリアルチャネル活用の現状

 コロナ禍でしばらく苦戦を強いられていた実店舗の販売チャネルだが、外出規制の緩和が進んだ2022年度からは再び活況を呈している。社会全体で買い物のEC化が進んだとはいえ、リアルが持つ集客力やタッチポイントとしての魅力は依然として底堅いものがあり、ここにきて改めて実店舗の活用を本格化する通販企業も出てきている。消費環境が刻々と変化する中、有力通販各社が進める最新のリアルチャネルでの取り組みに迫る。

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ベガコーポレーションが初の卸販売をイオンで開始、来春には直営店も

 家具や日用品などのネット販売を手がけるベガコーポレーションでは9月より、創業以来、初めてとなる卸販売を開始し、大型ショッピングセンターの売り場で自社ブランドの商品展示・販売を行っている。来年春には、こちらも同社初となる直営店舗の開業も計画するなど、これまでのEC専業の売り方だけではなく、リアルの売り場も活用して商圏の拡大や認知向上を図っている。

 同社では9月23日より、運営する家具・インテリア通販サイト「LOWYA(ロウヤ)」で販売する自社ブランド商品について、創業以来初となる卸売販売を開始した。第1弾としてイオンリテールが千葉県内で運営する大型ショッピングセンターの「イオンスタイル幕張新都心」内に、両社でコラボレーションした売り場を開設している。

 ベガコーポレーションではこれまで、自社開発の家具・インテリアをネット専業で取り扱うD2C事業を軸に展開。過去には不定期に都内百貨店などの売り場を使って、自社ブランド商品を展示するポップアップ企画などは行っていたものの、その場での直接販売は行っておらず、リアルならではの商品体験や認知、コーディネート情報の提供などが中心となっていた。

イオンへの卸販売を開始したベガコーポレーション

 しかしながら、「コロナ禍でEC化が他の企業でも進んだが、引き続きリアルの需要は衰えていないと感じている」(同社)と説明。加えて、同社によると、現在の家具・インテリア・周辺領域の国内市場は約4兆3000億円ある中、ECの割合は3000億円程度だという。

 EC化率が上昇を続けているとはいえ、まだまだその規模にはリアルと大きな開きがあり、家具・インテリアをリアルの売り場で触れて、購入したいとするニーズは高いと見ている。そのため、「卸をしながらも、今後、顧客に対してのタッチポイントを増やしていきたい」(同)との判断から、今回の展開に至ったとした。

 今回の売り場となるイオンリテールでは、ホームファッションブランドとして「HOMECOORDY(ホームコーディ)」を展開している。舞台となるイオンスタイル幕張新都心では、3階の約330平方メートルの暮らしの品売り場において、全13スタイルのインテリアコーディネートが体験できる部屋を運営し、その中でロウヤ商品とホームコーディ商品を組み合わせて展示・販売するという形をとった。

 ロウヤからは、リビングやワンルームといった各家庭のスタイルに合わせたソファやチェアなど100アイテム以上を供給。注目商品では「無垢材風テレビ台」があり、3Dペーパーと細脚スチールの異素材をミックスで仕上げ、デザイン性と機能性にこだわった内容で訴求している。

 売り場には商品一覧の案内も置いており、どの商品がロウヤブランドであるかが分かるようになっているほか、看板やサイネージなどでも「ロウヤ」の名前を露出しているため、ブランドとしての認知拡大が期待できるようだ。売り場ではその場でロウヤへのEC購入につなげるような導線などは用意していないものの、イオンリテールの通販サイト「イオンスタイルオンライン」には、一部商品を卸供給して販売している。

 今後についても、ショッピングモールなどに限らず、商品がマッチするようなリアルの売り場への卸販売は広く開拓していく考え。

 なお、2023年の初春には福岡市内に同社初の直営店を開業することも決定している。大和ハウス工業と西部ガスグループの西部ガス都市開発が事業主体として開業予定の複合施設「研究開発次世代拠点」内に出店するもの。賃借面積は約400平方メートルで、こちらでもロウヤブランドの商品を販売していく予定。

 引き続き同社では、EC事業を軸とすることに変わりはないものの、リアルへの進出も積極的に行うことで、ロウヤの検索数の増加や現物を確認できることでの安心感の醸成、既存ファンとの関係深化など、様々な相乗効果が見込めるとしている。

大網は“オタクの聖地”でイベント仕入れ先との関係構築にも寄与

 フィギュア商品や玩具などを取り扱う大網では、「オタク」の世界的な“聖地”でもある秋葉原で展開する実店舗を起点に、フィギュアのイベントや商品展示などを行っている。物販だけを目的としないリアルでの取り組みがファンや取引先のメーカーなどとの関係性構築に大きく貢献。その後の囲い込みや新規商品企画などの差別化につながっているという。

 近年はコロナ禍による突然の外出規制などのリスクを回避するため、リアルでの集客を伴う実店舗の営業範囲を絞り、販路をECにシフトする企業も少なくない。ホビー関連市場でもそういった動きがいくつかで見られているが、長年、通販をメインに事業展開をしてきた同社の場合、実店舗を単なる販売チャネルの一つという目線だけで見ずに、通販をサポートするための拠点としても捉えている。

 同社では2016年に都内秋葉原にコア層向けの中古商品などを扱う実店舗「あみあみ秋葉原店」を開店した。翌年にも同じく秋葉原の商業ビル「ラジオ会館」内に旗艦店を開設し、現在もその2店舗を運営している。

 引き続き、自社通販サイトである「あみあみ」が国内外での販路の主軸であることは変わらない。しかしながら、実店舗については「秋葉原」という世界的にアニメファンに認知の高い街に立地していることで、同社を知らない海外を含めた消費者も「あみあみ」を認知して安心して購入できる窓口になると考えている。

 とりわけ、旗艦店については、各フィギュアメーカーが新作商品などを展示して宣伝することができるショーケーススペースを設けている。300体ほど置けるようになっており、中には2週間に1度程度のペースでメーカーが展示商品を持参して入れ替えを行っているという。


大網が運営する秋葉原にあるラジオ会館店内のショーケース

 展示されているのは量産の販売商品だけでなく、商品の色見本となった貴重な原型の一点物フィギュアも置かれるようで、これを目当てに来場するファンも少なくないようだ。同スペースでは来場者が自由に写真を撮ることができるため、撮影写真がSNSに投稿されて拡散されるケースも多くあり、あみあみ自体のブランド認知拡大につながっているという。

 別の観点として、これらの展示スペースは無料で開放していることから、利用するメーカーにとっても商品情報をリアルでファンに発信できるメリットがある。こうした取り組みの積み重ねが、メーカーとの信頼関係を育む機会にもなり、あみあみ限定の商品・特典のようなコラボ企画が生まれることにもつながるというのだ。

 そのほかにも旗艦店では、規模は小さいながらもイベントができるスペースも完備している。そこではアニメ作品とコラボした展示企画のほか、イベント限定の商品などを先行販売することもあり、集客したファンがその後もECに流入できるような仕組みもできている。「限定商品が増えてくることであみあみの総合力も強くなる。実店舗での売り上げ以上の効果が通販の方にリターンであるようなかたち」(金坂瑞樹副社長)とし、今後も継続して実店舗の運営を行っていくとした。

 なお、コロナ禍でのリアルの販促活動に関しては留意すべきこともいくつかある。毎年、国内でリアルでの大きなフィギュアイベントが2回ほど開催されているが、同社では今年2月に関して感染拡大状況なども考慮して、その参加を辞退している。そのため、あくまでも安全性を担保しながら自分たちでハンドリングできる範囲での独自のイベント開催という形をとっている。

2年ぶりに大規模イベントに参加した大網

 2022年の夏については感染対策を十分に確保した上で2年ぶりに大規模イベントに参加し、リアルでの活動範囲を再び広げはじめている。今後もリアルとネットで並行して情報発信やファンとの交流を深めていく。「(感染が)不安な人達はオンラインを見てもらう。リアルで展示する商品情報もネットに載せることで、顧客に無理なく楽しめるようにした。それが結果的に通販に結び付けば」(同社)とした。


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