オリックス、DHCを買収へ――通販大手「事業承継」の課題が浮き彫りに

 オリックスは今年11月、ディーエイチシー(=DHC)の買収を発表した。DHCは、通販の黎明期からその可能性に着目し、独自の牙城を築いた企業の1社。創業50周年の節目に買収されるニュースは、業界の少なくない企業が抱える「事業承継」という課題を浮き彫りにする。オリックスは、業界でも異端の存在であったDHCをいかに取り込むのか。

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吉田会長、譲渡後に退任の予定

 オリックスは、23年3月期中に、吉田会長から過半の株式を取得する予定。取得価格は、現段階で1000億円以上を見込む。一部に3000億円規模との報道もある。「全株式を取得する予定」とするが、「株は散逸している可能性がある」(業界関係者)との声も聞かれる。現段階の公表は、吉田会長個人との株式譲渡契約のみ。DHCの株主数や、吉田会長の保有比率については「非公表」としている。ただ、「保有状況は把握しており、粛々と取得を進める」とする。

 DHCについては、広範な販売チャネル、国内外の高い知名度、幅広い年齢の顧客の支持を得ていると評価する。オリックスは、国内外に法人営業のネットワークを持つ。今後、これを活用し、メーカーとの協業や卸先の開拓を進めていくようだ。

 一方、近年では、吉田会長による在日韓国人に対する声明が差別的であるとして広く批判を招き、ブランドにマイナス影響もあった。これには「人種などによるあらゆる差別を容認しないことを人権ポリシーとして定めている。DHCが新経営体制のもと社会と協調し、持続可能な会社となるよう株主として支援していく」としており、「DHC」のブランドも維持する方針。投資事業に注力する中で培った企業価値向上のノウハウを活かし、コンプライアンス体制やコーポレートガバナンスを強化する。具体的課題は、「株主ではない現時点で答えられない」とするが、吉田会長は株式の譲渡後、退任を予定する。

低価格追求で営業利益率は悪化

 DHCは、通販の黎明期、新たなディスカウンターとして市場に登場した。同じく通販大手のファンケルが、高価格が主流だった健康食品の「価格破壊」を打ち出すとこれに追随。低価格戦略でしのぎを削った。ただ、近年はファンケルなど競合他社が研究開発力を強みに付加価値戦略に舵を切る中、依然として「低価格・配合量」にこだわっていた。

 18年には、健食全アイテムと化粧品の一部商品で、利益を度外視した25%の割引率を適用する「ぶっとび定期便」を開始。ただ、これも裏目に出たようだ。売上高は、1087億円をピークに下降線。かつて10%を超えていた営業利益率は20年に4%にまで落ち込んだ。

 22年7月期の売上高は、前年比0.5%増の905億3100万円。営業利益は、同52.5%増の166億7600万円、経常利益は同53.8%増の176億2400万円、純利益は同76.7%増の96億1500万円で着地している。コロナの影響に加え、売却を念頭にコストがかさむ店舗の急速な整理により固定費や人件費を削減し、収益改善を進めたとみられる。20年1月に約200あった直営店は、現在107店と半減している。

通販大手の代表経験者を招へい

 DHCは、主力の通販事業のほか、水やビール、リゾートなどさまざまな事業を展開する。オリックスには、新規株式公開を通じた資金回収、事業切り離しによる再売却、株式の長期保有で事業育成を図り、グループに取り込むなどの選択肢がある。「現時点で出資期間は想定していない。中長期で発展を目指す」としている。

 今後、DHCの舵取りを行う専門人材として、化粧品通販大手の代表経験者を招へいするとみられる。「分かりかねる」(オリックス)としているが、DHCはここ1年ほど、これに限らず業界周辺で積極的な採用活動を進めていた形跡がある。

 業界を代表する典型的なオーナー企業の買収を受け、今後、同様の動きが加速する可能性もある。同月には、「あきらめないで」のフレーズで急速な認知を得た悠香も、アリナミン製薬が買収を発表した。売却か育成か。オリックスの動向は、今後、業界がどう産業に取り込まれていくか試金石になる。

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