コロナ禍が続いた2022年だが、行動制限が緩和されたこともあり、オフラインでの消費が回復。特需が続いた前年までと比べると、成長に陰りが見えたEC企業も少なくなかったようだ。さらには歴史的な円安に伴う原材料価格の高騰、さらには運賃や資材価格の値上がりも業界に影を落としている。アフィリエイト広告の規制にステルスマーケティングの規制と、事業に大きな影響を及ぼす法改正もあった。「SHEIN(シーイン)」の日本進出といった新たな動きも注目される。2022年におけるEC業界の10大(重大)ニュースを振り返る。(※ニュースおよび順位は本誌編集部が独断と偏見で選びました)
1位 急激な円安と原材料価格高騰、巣ごもり反動も
2022年度に入ってから、急激に進みはじた円安や世界規模での原材料価格の高騰。ロシアによるウクライナ侵攻やアメリカの金利政策など、様々な要素が絡み合った問題として、日本にも大きな影響を及ぼしている。通販実施企業にとっては、仕入れコストの増加に直結するもので、深刻な影響が出ている。
姉妹誌の通販新聞では10月に、総合、百貨店、食品、化粧品、健康食品、ファッション、家具を展開する有力大手の通販実施企業十数社を対象に、円安や原材料費の高騰に関する影響について調査を実施した。その結果、有効回答を得られた企業のおよそ9割が「影響を受けている」と回答。その内、商品価格への転嫁を行ったり、また、今後、実施を検討しているとした企業も6割程度あった。
10月以降は国内の大手ナショナルブランドなどが一斉に商品価格の改定を行ったことを報じるニュースが見られている。通販など小売り側でもそれに追随する形で販売価格の見直しが始まった。しかしながら、原材料などの高騰分をすべて販売価格に転嫁することは難しく、今まで通りの利益を確保することは厳しい状況。加えて、紙やインク代、フィルムなどの周辺資材の価格も上昇を続けており、カタログやDMといった販促物に関わる経費も増加している。これまで通りの情報発信や訴求方法とは異なるアプローチを考えなくてはいけなくなっており、顧客とのコミュニケーションにおいて各社の創意工夫が注目される。
また、通販市場でもう一つの大きな懸念事項として顕在化したのが、前年まで見られていたコロナ禍に伴う巣ごもり消費の落ち込みだ。感染拡大は依然として続いているものの、人々の間で行動制限に対する意識が薄れてきたこともあり、再び消費活動の範囲がネットからリアルへと回帰。前年の客足を維持することができなかった通販各社では、反動減を受けて2023年度の上半期は前年割れとなったところが少なくなかった。
さらに、下半期についても、百貨店や商業施設などで集客を伴うリアルイベントが徐々に再開されてきている。通販企業としては、以前のように巣ごもり消費という形で顧客を獲得することが難しくなってきているため、コロナ特需だけに頼った戦略からは脱却することが求められている。
寸評 通販企業にとっては仕入れコスト増に直結する大きな問題となっている
2位 アフィリエイト広告の規制が強化
消費者庁は22年2月、21年から行っていたアフィリエイト広告に関する検討会の報告書をまとめた。これを受けて、同法第26条に基づく「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(14年策定)を改正。これまでは、社内体制の整備を中心に構成していたが、新たに「外部委託」の指針を定め、指導、勧告・公表等の運用を積極的に行う。
アフィリエイト広告では、「広告である旨の明示」について、望ましい対応例として、アフィリエイト広告と理解できる文言の使用、表示位置、大きさ、色を含めた表示全体への留意を求める。例えば、「広告」など認識しやすい文言を使用。その上で、事業者名の記載などを例示する。表示位置は、消費者の視線の動きを踏まえ、視野に入る最初の画面内で、他の表示に埋もれないようなものが望ましいとする。使用する平均的な文字の大きさと同程度の大きさ、背景色と区別しやすい色がよいとする。
このほか、指針では、アフィリエイト広告等について、「表示内容の確認」、「表示の根拠に関する資料保管」、「表示管理担当者の設置」、「苦情・相談窓口の設置」、「広告である旨の明示」等の事項を定める。
表示内容の確認は、アフィリエイターとの契約における不当表示を行わない旨の取決め、出稿前・後の内容確認を求める。販売実績のあるアフィリエイターを重点的に確認するなど個別事情を勘案した方法の検討を求める。
広告データを含む根拠資料の保管は、広告主のみで対応が困難な場合、契約条項等でアフィリエイターにデータ保管を求めたり、保管期間を定めることを想定する。法執行では、再発防止の観点から広告の「保管命令」を行うことも検討する。
体制整備では、表示管理担当者の配置と定期的な研修の実施、苦情・相談窓口の設置を規定し、問題のある表示が発覚した場合の修正や提携解除などの対応を求める。
このほか、事業者による情報共有体制は、まず民間主導の構築を促す。公正競争規約も視野に、契約内容のひな型や自主ルール作成を求める。悪質広告主の情報は、官民連携による対応を行い、これら広告主への抑止力にする。
寸評 ステマ広告規制と併せ、ウェブ広告の規制は年々厳しさを増し、競争環境も激化している。
3位「ステマ」が法規制へ
消費者庁は、景品表示法の指定告示(5条3号)でステルスマーケティング(ステマ)を規制する。運用基準で問題事例を具体的に示し事業者の予見可能性を確保する。法執行では、景表法第29条の調査権限(報告徴収、立入検査)を有効活用することで実態把握に努め、実効性を確保する。
現行法でもステマにより行われた表示が「優良・有利誤認」にあたる場合は広告主を対象に規制ですることはできる。ただ、広告であることを〝隠す行為〟自体はこれまで規制されていなかった。
規制は、事業者自身が第三者を装う「なりすまし型」、第三者への利益提供を通じて表示させる「利益提供秘匿型」を広く包含するものになる。形態も不正レビューやインフルエンサー投稿、アフィリエイト広告などさまざまな手法に対応する。告示のため、措置命令となった場合も課徴金の対象にならない。「優良誤認」を対象とする不実証広告規制も適用外になる。
寸評 ステマは世の中に溢れている。事後的に分かる場合はあるが、実効性のある法運用が行えるか注目される。
4位「新生Yahoo!ショッピング」が始動
ヤフーは10月13日、運営する仮想モール「PayPayモール」と「ヤフーショッピング」を統合し新生「ヤフーショッピング」として再始動した。2013年の「ヤフーショッピング」の出店料無料化で増えた有象無象の店舗との埋没を嫌った優良店や出店を避けていた大手事業者を引き込むため、選別された優良な別の売り場を提供する狙いなどから2019年に年商規模など一定条件をクリアした企業のみに出店を制限した「PayPayモール」を新設したが、大手事業者らの誘致が進むなど一定の目的を果たしたことなどから再統合を決めたよう。出店者から売上の3%を徴収するかわりに商品検索結果順位を高める等の販促支援を行う「プロモーションパッケージ」を用意するなどし、利益確保を進めつつソフトバンクやPayPayなどグループのサービスからの送客を強化し、さらに優良事業者とその商品が強く訴求される仕様にすることで競合に水をあけられている仮想モールの流通総額拡大を図りたい狙いのよう。
アスクルでは運営する通販サイト「LOHACO(ロハコ)」でメーカーの廃盤品などを通常価格よりも割り引いて販売する専門コーナー「GoEthical(ゴーエシカル)」を展開中だ。店頭での品ぞろえの変更や通常販売時期が終了したことなどで小売店からメーカーに返品され、これまでは破棄処分としていた店頭戻り品や旧包材活用品を通常価格よりも安価に販売し、廃棄ロスを防ぎ、商品を有効活用する取り組みとして2019年11月から開始したものだ。
一見、アウトレット品の販売とさほど変わらない取り組みに見えるが、実は様々なメーカーが参画して化粧品において廃盤品を販売する売り場は実店舗、通販サイトを含めてもあまりない。化粧品各社はブランド価値の保護やこれまでの商習慣などを理由に廃盤品は廃棄することが基本だからだ。アスクルでは大手メーカーを対象に「ロハコ」で収集した各種データをもとにマーケティング戦略や商品開発などの研究ができる「LOHACOECマーケティングラボ」を組織しており、各メーカーとのつながりが深く、アスクルが目指す方向性などについてもメーカー各社に分かりやすく示していることもあり、「”安さ”ではなく”廃棄削減”に光を当てることで廃盤品を廃棄せずに販売し、世の中から無駄な廃棄をゼロにする」というGoEthicalの目的に共感したメーカーの担当者が社内調整に尽力し、実現できた取り組みだという。
GoEthicalのスタート時点では日本ロレアルの商品のみを販売していたが、2020年3月からはオルビス、同7月からはロート製薬らが参画するなど徐々に取り扱うメーカーの商品を増やし、現状では32ブランドまで拡大している。なお、廃盤品を販売したことで廃棄せずともよくなった累計廃棄削減数は2022年10月下旬現在で54万個を突破している。環境への配慮はもちろんのこと、廃盤品であっても大手メーカーの品質の高い化粧品を安価に購入できるという利点もあり、ロハコの顧客に定着しつつあるようだ。
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