消費者庁、クロスセル・アップセル規制――「広告商品」以外の提案は要注意

 消費者庁が通販のクロスセル・アップセルの規制を強化する。顧客の注文を受ける際、事前に「広告した商品」以外の商品提案を、不意打ち的として電話勧誘販売の規制を適用する。意図せず定期購入契約を締結させられるトラブル増加への対応を念頭に置いており、事業者は一連のマーケティングの見直しを迫られそうだ。

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新聞、テレビの誘引を規制対象に

  22年11月に公表した特定商取引法の政令改正案で新たに盛り込む。パブリックコメントや消費者委員会等への諮問を経て、23年6月までに改正する。

 電話勧誘販売は、企業が電話をかけることにより行う方法、広告等により「電話をかけさせる」場合の違反行為を規定する。改正されるのは後者。これまでも郵便やチラシで販売する商品を告知して誘引し、注文時に別の商品を勧誘した場合、電話勧誘販売として規制を受けていた。改正案は、これに新聞や雑誌、ラジオ方法、テレビ放送、ウェブを加える。

 例えば、「A」という商品のCMを放送して注文時に「B」という商品の勧誘を行った場合、電話勧誘販売として規制を受ける。勧誘において商品の内容や価格、提供期間等で事実と異なる説明をしたり、解約を妨害すれば、「指示」や「業務停止命令」「業務禁止命令」の対象になる。

判断が難しい「関連商品」の提案

 注文時に広告とは異なる商品を提案したり、定期コースに誘導するなどクロスセルやアップセルは、多くの企業で行われているものだ。店頭においても「A」の購入を検討する顧客に「Bもお勧めですよ」といった売り込みを行うのは、通常の商慣習と言える。通販の場合はこれを〝不意打ち的〟として電話販売勧誘の規制を適用する。

ただ、販売商品の告知には一定の幅がある。インフォマーシャルでメイン商品と併せて表示したり、「こちらの商品もお勧め」と踏み込んで言及するケースもあるだろう。関連商品はどの程度告知すれば、問題にならないのか。

 消費者庁は、「例えば背景として映っているだけだとまさか勧誘を受けると思わないかもしれない。一方で密接に関連する商品であれば、言葉で明示的に言及がなくても認識するかもしれない。個別事案の実態を把握して総合的に判断する」(取引対策課)とする。

 また、商品自体は同じでも、定期購入やまとめ売りを提案するケースもある。消費者庁は、「同一商品かは一つの考慮要素。価格や個数の妥当性を含め判断する。パブコメで質問があれば改めて説明を検討する」(同)としている。

強引な定期誘導トラブルが急増

 突然の政令改正はなぜ浮上したのか。国民センターは、22年11月「電話注文時の勧誘で不要な商品を購入したり、意図しない定期購入の契約を結ばないようにご注意ください」と定期購入トラブルの注意喚起を行っている。22年6月、同9月に続く三度目になるものだ。そこでは、一例として、「拡大鏡が通常価格の半額」と広告。新聞折込広告を見て電話した顧客にアイケアサプリを提案し、これが定期コースとなっていたためにトラブルが生じたケースを紹介している。ほかにもテレビ通販による漢方薬の定期購入の問題を紹介する。これら事例は一例だが、消費者庁は、政令改正もこうしたトラブル増加を受けたものとする。

 ただ、政令案は、通販業界に大きな影響を与えるものであるにもかかわらず、特商法改正を議論した検討会(20年2~8月、22年6月に改正法施行)で議論されていない。政令のため国会審議を経ず閣議決定で導入が決まる。消費者庁は、「トラブル事例の増加を把握していた。従前の規制では対処できないものだった」(同)と改正の理由を話すが、なんら検討なく、通常の商慣習を規制するプロセスは問題だろう。

 今回の改正に、事業者からは、「本来、解約を希望する顧客に適切に対応していれば問題にならない事例。一部事業者の問題でまじめに取り組む事業者も規制を受ける」、「一切の議論もなく、個別に検討会を行った契約書面の電子化の問題と併せてさらっと影響の大きい規制を導入する手法は問題」との声が聞かれる。

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