橋爪裕和●タンスのゲン代表取締役

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売上高1000億円へ海外事業強化

 「家具の街」として知られる、福岡県大川市に本社を構えるタンスのゲンは、2002年に家具ECへと参入した。以来、売上高は毎年伸びており、特に近年はコロナ禍による巣ごもり需要を取り込み、2022年7月期の売上高は243億9000万円まで拡大。家具やインテリアECのトップランナーとして業界をけん引している。2023年4月には、EC事業を立ち上げた橋爪福寿社長が会長となり、常務取締役の橋爪裕和氏が代表取締役に就任した。新社長が掲げる同社の成長戦略とは。

トップダウン型からボトムアップ型の組織に変えていきたい

配送危機で商品戦略転換

─会社の歴史を教えてください。

 当社は、1964年に婚礼家具メーカーとして福岡県大川市に九州工芸としてスタートしました。ただ、嫁入り時に家具を一式用意するという風習がなくなってきたこともあり、1991年には大川市と福岡県筑後市に店舗を設け、小売りとオーダー家具中心にシフトしました。その後、2002年に楽天市場に出店、ECへと進出しました。現在、実店舗は設けていません。

─ECをはじめたきっかけは。

 現会長で先代社長の橋爪福寿が、ルートで回ってくる営業マンから「ネットで月500万円売ってる会社がある」という話を聞いて興味を持ったのが始まりです。いろいろ調べたところ「面白そうだし俺でもできるんじゃないか」と思ってECを始めたそうです。周囲からは「ネットで家具なんか売れないだろう」と言われたこともあったようですね。

─ECではすぐに売れたのですか。

 7月15日に楽天市場店を開設し、最初の月の売り上げは20万8000円ほどでした。次の月からは月商100万円を超えるなど、順調に推移しました。当時は楽天市場の店舗数もまだまだ少なく、競合が少なかったこともありますが、すぐに軌道に乗ることができました。

─以降、右肩上がりに売り上げが伸びていますが、停滞した時期はないのですが。

 東日本大震災後に運賃が高騰した影響で、売上高が減った年があります。大型商品を運ぶ配送事業者から、ファクス1枚で運賃が2倍になる旨を告げられるなど、「これではネットでの商売が成り立たない」という状況に陥りました。そこで、商材を大型家具メインから、小型の家具へと切り替えることで対処しました。

─どんな商品を開発したのですか。

 以前は2段ベッドや3Pソファなど、大型の家具ばかり取り扱っていたのですが、布団や寝具、オフィス関連など、なるべくコンパクトな商品を開発するようにしました。海外の協力工場にお願いして、オリジナルの商品企画をどんどん直輸入する体制に変えました。それが当たり、再成長を遂げることができたのです。暮らしに関わる商品を全般的に扱うことで、競合となる企業は多くなりましたが、仮想モールのランキング上位の商品に勝つためにはどうすればいいか、という視点で商品開発をしてきました。

─タンスのゲンが家具やインテリアのECでトッププレーヤーになれた理由をどう分析していますか。

 1つは商品力です。顧客のニーズを 満たすためにさまざまな商品を販売してきましたし、商品開発のスピードが速かったことも大きいと思います。日本のマーケットを注視していることはもちろん、海外の展示会でまだ日本にはない技術や特徴を持った商品があれば、いち早く取り入れてきました。そのために海外に事務所を設けており、とにかく商品開発のスピードには力を入れてきました。もう1つ、顧客対応に力を入れ続けてきたことも他社との差別化ポイントになっています。

─顧客対応ではどんな取り組みをしてきましたか。

 最近の取り組みだと、2023年3月に営業時間を朝10時から夜10時とし、電話とメール、チャットで対応しています。実は夜12時まで対応していた時期もあったのですが、コロナ禍を受けて夜8時までの対応としていました。やはり、夜の時間帯が一番アクセスされ、売り上げも多いわけで、夜10時近くでも購買意欲の高い顧客からの問い合わせに返信するが、購入の後押しになっているようです。

─全て社内の人間で対応しているのですか。

 実は、夜の時間帯を外注していた時期もあるのですが、外部スタッフでは詳しい返答ができずに一次受けとなってしまうケースが多く、翌日自分たちが対応しなければならないため、夜間に顧客対応している意味がなく、内製化することですぐに質問に答えられるようにしました。盆正月や大型連休以外、土日祝日も受け付けており、常時20~25名のスタッフで対応しています。

─コールセンター業界は近年、人員集めに悩まされていますが、人手不足にはなっていないのですか。

 正直なところ、人集めには苦労していますね。人海戦術には限度があるので、システムに投資をして、機械ができることはそちらに任せるようにしています。

─具体的には。

 注文管理の部分で、在庫があって決済に問題がない商品なら、クリックするだけで配送伝票が出るような仕組みを導入しています。顧客対応やシステムでカバーしきれない部分に人員を割くようにしています。

─橋爪社長は入社以降、これまでどんな業務に携わってこられたのでしょうか。

 ほとんどの部署は経験しており、店長や商品開発のほか、カスタマサポート部の責任者として顧客対応に関わってきましたし、中国現地でのEC立ち上げも手掛けました。海外事業に関しても、ある程度ベースができてきたので今後は注力していきます。

─4月に代表取締役に就任しましたが、まずどんなことに取り組みたいと考えていますか。

 一代でEC事業をここまで大きくした現会長の色が強い会社なので、今後はトップダウンからボトムアップ型の組織に変えていきたいと思っています。スタッフからいろいろな提案が上がってくるような組織にしたいですね。時間がかかることではありますが、今いるスタッフの成長を促しながら、新規事業の立ち上げにもつなげていきたい考えです。長期的なビジョンとしては、2040年に売上高1000億円という目標を掲げています。ただ、今のままでは達成は難しいでしょうから、新しいアイデアをどんどん取り入れていきたいと思います。

海外比率を30%に

─売上高1000億円はかなり大きな数字ですが、達成に向けた道筋は立っているのですか。

 商品の取り扱いを増やしていくほか、海外売り上げの比率を高めていく予定です。現在は1%程度の海外売り上げの比率を2040年までには30%にしたいですね。

─海外は中国が中心ですか。

 今のところは中国、あとは最近開始したアメリカ向けですね。現地の仮想モールに出店し、商品を販売する形です。中国では、現地で生産した商品を販売しているほか、日本から羽毛布団などの日本製商品を輸入して売っています。

─販売する国は増やしていくのですか。

 国ごとにマーケットやGDPを見ながら、チャンスがありそうな国に進出していきます。

─海外で家具ECを成功させるためのコツは。

 全く分からないので試行錯誤している段階です。国によって販売の仕方が変わってきますからね。中国には5~6年前に進出しましたが、日本と同じような売り方では全然結果が出ませんでした。現地のマーケットや商流をしっかりと調べないと通用しないことが分かりました。中国はようやくベースができてきた感じで、何となくではありますが、効果的な販売方法が分かってきました。ただ、まだまだ模索中です。

─家具やインテリア以外の新たな商品ジャンルへの参入は。

 適宜、良さそうなジャンルがあれば取り組みたいと思っています。

─Shopifyに切り替えてサイトを刷新するなど、近年は自社サイトも強化しています。

 自社サイトで大きな売り上げを作れるのが、会社にとっては一番良いですからね。仮想モールの場合、最悪の場合、何かの拍子で退店になってしまうケースも考えられるわけで、依存度が高すぎると問題も出てきます。縛りのない自社サイトの強化は今後も続けていきます。

─カスタマサポートや物流での新たな取り組みは。

 カスタマサポートに関しては、顧客との時間を多く保てるように、システム部分での自動化を進めていきたいと思います。物流は、注文があってからできるだけ早く届けられるように、拠点を増やしていきます。

─現在は大川市から出荷しているのですか。

 半分くらいは大川市から出荷しており、関東にも3PL会社に委託して2拠点から出荷しています。関西にも拠点を持つ必要が出てくるかもしれないので、顧客のニーズにあわせて柔軟に対応していきたいですね。

今大川市とタッグを組んで地方活性化にも取り組む

実店舗は作らない

─「大川を、世界のインテリアバレーに」というコーポレートメッセージを掲げています。

 大川市で創業して約60年が経つわけですが、大川市は当社が婚礼家具メーカーだった時期が最も賑わっていました。その頃は人口が5~6万人いたものが、現在は3万人を切るまでになってしまい、若い人も少なくなっています。景気もあまり良くないのが実情です。行政とタッグを組みながら、地方活性化につながる事業にも取り組んでいます。

─2018年には市内に社屋と配送センターを新築しました。

 実は、本社以外にも、福岡市博多区にオフィスを構えていた時期もあったのですが、本社との温度感の違いがたびたび出てしまったこともあり、人材育成の部分などで齟齬(そご)が生まれ、思ったような効果が得られませんでした。

─SNSを活用した販促には取り組んでいますか。

 さまざまな分野で知識やセンスを持っている有名人のパートナーと組んで商品を開発する「タンスのゲン公式アンバサダー」制度を設けています。商品開発にストーリー性を持たせ、インフルエンサーにそのストーリーを語ってもらいながら、共感を持って買ってもらうのが狙いです。

─将来の株式上場は考えているのでしょうか。

 全く考えていません。

─2023年7月期の業績予想は。また、アフターコロナの戦略についても教えてください。

 コロナ禍で売り上げが大きく伸びたときの数字と戦っていることもあり、足元の数字は厳しいですね。前期比でいうとトントンというところです。アフターコロナといっても、商品展開を大きく転換することはなく、インフルエンサーを使った販促などで、今まで当社を知らなかった消費者にリーチし、売り上げにつなげていきます

─その他、今後の目標などは。

 まずは人材育成に注力しながら、国内売り上げに関して、販路を拡大しながら増やしていき、海外販売に注力していくのが今後の取り組みになるでしょう。国内はECが基本となりますが、チャンスがあれば他の販路にも取り組みたいと思います。

─近年はO2OやOMOが脚光を浴びています。実店舗を設ける予定はありますか。

 婚礼家具メーカーから転換を図った際に、店舗を設けていた時期もありましたが、問題になったのは固定費です。ECは販売効率が良いので、O2O的なことをやる予定はありません


橋爪裕和(はしづめ・ひろかず)

1988年8月生まれ、福岡県大川市出身。2012年4月タンスのゲンに入社。ネット通販事業の黎明期より、各事業部の責任者を歴任し、タンスのゲン株式会社の成長を支える体制構築や仕組化に携わる。2013年4月よりタンスのゲン株式会社常務取締役に就任。仕入れから販売に至る事業全体や企業経営に携わりながら、地元企業との連携や海外展開、DX推進などの舵を取り、企業成長に向けたチャレンジを推進している。。



◇ 取材後メモ

仮想モールを主戦場に、EC参入以来、右肩上がりで業績を拡大してきたタンスのゲン。その立役者でもある橋爪福寿氏からバトンを受け継ぐ形で、橋爪裕和氏が3代目社長となったわけです。一代で会社を大きくした、いわば「カリスマ」の後を継いだだけに、橋爪新社長は「トップダウン型からボトムアップ型に組織を変えていきたい」と謙虚に語ります。当面の目標として掲げるのは、売上高1000億円。これまでEC専業の会社が達成した例は少なく、かなり高い目標といえるでしょう。カギとなるのが海外展開です。
「安くて高品質」なD2Cブランドとして国内で受け入れられてきた同社ですが、その国の消費者にあった商品展開ができるかどうかが大事になりそうです。

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