ネット販売との連動や効率化・利便性を追求ーー有力EC実施企業の最新店舗事情

オンラインからオフライン、オンラインからオフラインへと顧客の購買行動を促すマーケティング手法である「O2O」はもはや多くの小売り事業者にとって当たり前の戦略となっているが、コロナ禍の収束がなり、ECからリアルへの回帰の動きが顕著となってきた今、実店舗の役割はより重要となっている。有力EC実施企業が展開する店舗にはどのような工夫が施されているのか、各社の最新店舗事情を見ていく。

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事例1 青山商事:OMO型店舗への切り替え加速、「TSC」を4ブランド集約店に

 青山商事は5月11日より、ビジネスウェア事業の「ザ・スーツカンパニー(TSC)」について、同事業が展開する4つのブランドを集めたOMO型の店舗業態である「SUITSQUARE(スーツスクエア)」に屋号を変更する。今後2年に渡って変更作業を行うもので、店内に設置したデジタルツールなどを活用しながら、ECとの相互送客をより加速させていくOMO戦略を強化する考え。

店内には EC 購入ができるデジタルサイネージなどが設置されている

 TSCは2000年に開業。都市部の一等立地へ出店し、2プライスの明確な価格設定で若年層を中心に顧客開拓してきた。その後、レディースの「ホワイトザ・スーツカンパニー」や、オフィスカジュアルの「ユニバーサルランゲージ」、オーダースーツの「ユニバーサルランゲージメジャーズ」などのブランドも立ち上げている。

 2021年にはこれら4つのブランドを集め、EC在庫を通じて1店舗ですべての商品を販売できる機能を持った店舗となる「TSCSQUARE(ティーエスシースクエア)」を都内・新宿に開設。翌2022年にはそれをさらにリニューアルしたOMO型の実店舗となるスーツスクエアを埼玉県の大宮駅前に開設し、現在までに同様の形態で9店舗を運営している。既存のスーツスクエア店舗については20~30代の若年層に加え、30代後半~40代後半の中間層からも支持を得ており、売り上げ計画を上回る成果が出ているという。今回、コロナ禍での働き方の変化に伴って多様化する仕事着のニーズに対して、オーダーメイドも含めた複数のブランドサービスを提案できるスーツスクエア店舗の更なる拡充を決定。既存のTSC(TSC店舗単体では2022年3月末現在で47店舗)を、これから2年間かけてすべてスーツスクエアの屋号に変更することとなった。

 屋号変更の第1号店として、まずはTSCの旗艦店だった都内・銀座店を5月11日より「SUITSQUARETOKYOGINZA店」としてリニューアルオープンした。

 店舗からECへの送客の鍵となるのは、大型のデジタルサイネージなどを使ってECや全国の実店舗の在庫と連動させる「デジラボ」の仕組みがある。さらに、今回の銀座店舗では、新たに各コーナーに連動したアイテムのランキングや、スタッフコーディネートなどのデジタルコンテンツを配信できるタッチサイネージの「スマートバー」を設置。リアルタイムで最新の情報が確認できるもので、銀座店ではドレスシャツコーナー、レディスコーナー付近に設置し、それぞれ来店客が自由に操作することができる。

 店頭のその場での購入も可能だが、これらのデジタルツールの拡充により、店内にはない在庫のEC購入がさらに進むと見ている。店舗面積についても在庫置き場の省スペース化が図れることから、従来の半分の規模まで圧縮することができた。

 また、接客面の強化としては、体型に関係なく、生まれ持った身体の特徴からその人に最も似合う服のデザインや素材・サイズ感を導き出すことができる「骨格診断」サービスも行い、プロの骨格診断士による分析と、それぞれの骨格に似合う店内商品の案内・アドバイスを無料で提供する。

 そのほか、今回の屋号変更と並行して、店舗からの流入先となるECでのデジタルコンテンツの拡充も進めていく。まずは、EC上にある在庫を店舗に取り寄せて試着ができるサービス
「TAP&FIT」を開始。全国にある実店舗から顧客自身が好きな来店場所を選んで利用できるもので、一部商品に絞って展開し、実際に着ることで納得して買い物ができるようにする。

 加えて、ECの商品ページ内に着用シーンやコーディネートなどの動画コンテンツを埋め込むサービスも導入。両サービスともに、6月1日より開始する。

 ビジネスウェアの多様化が進む中、ECの利点を生かしたOMO型店舗を拡充することで、様々なブランド、サイズ、色柄を1店舗で幅広く体験できるサービスを確立していく。

銀座店は半数がEC購入を見込む

 なお、5月10日には新設した銀座店において記者向け説明会を開催。出席した青山理社長は「デジタルを活用することで小さい店舗でもたくさんの顧客を相手にできる。多店舗展開もより可能になる業態だと思う。面積がそこまで大きく要らないため、(入居先となる)物件も今まで以上に出てくるのでは」と説明。

 同社によると新設した銀座店は旗艦店のため、約370平方メートルと規模は大きくなるが、基本的には約165平方メートル~約260平方メートルあれば規模として十分となり、標準店では約230平方メートル程度になると見ている。銀座店で陳列している商品は8000SKU程度で、店内にあるサイネージのコンテンツでは、様々なコーディネートが見られるようになっている。ECの画面を見ているように購入できるコンセプトとなっており、「店に来てもらってデジラボなどを体験してECで購入できる仕組みがあるので、それでも売り上げは落ちないのでは」(河野克彦事業本部長)とした。

 また、過去に大宮でスーツスクエア店舗を立ち上げた際に「デジラボ」の導入店舗のEC比率は40%程度になるとしていたが、「コロナによりECで買い物することが当たり前になってきている。スーツスクエアは9店舗開設しているが、通常店舗と比べてさらに10%ほどEC化率が高い。40%と言ったが、50%まで上がっている店舗もある」(河野事業本部長)と説明。銀座店の場合、デジラボと(2回目以降はEC注文が可能な)オーダースーツもあるため、その場で購入して商品をそのまま持ち帰る人は半分くらいの割合になると見ており、残りはデジラボを使って、5万点の在庫から選んでいくと想定している。そのほか、4つのブランドを扱うことのメリットとして、客層が広がっていくことや、在庫についても店内の在庫ではなく、全店にある在庫を売れることからロスが少なく、最終の廃棄も少なくできるとした。

 ECやデジラボを強化する中で、物流面でもてこ入れを進めており、特にTSC業態では関東圏内の都心部に店舗がたくさんあることから15年ほど前に100億円程度をかけて、千葉に物流センターを開設。ここでトラックで巡回しながら要るものをもらってきたり、配送したりするシステムが出来上がっており、これらの仕組みを活用しながら、ECとリアルの在庫の上手いバランスのとり方を図っているとした。

 ネックとして、スーツは裾直しなどの作業が必要になること。直しの機能は大規模な各店舗にはあったが、それを一括して千葉の物流センターで行うことにした。そのため今は小さい店舗でも出店できるような体制に切り替えている。「洋服の青山」の全店(2022年3月末時点で704店舗)で同様の仕組みをすぐに導入することは難しいが、TSCの規模であれば現状の千葉物流センターで対応できると見ている。

 今回の屋号変更の完了時期については、2025年の春先までをめどとしている。「これだけ店舗数があると、一気に変えるとコストがかかるので徐々に変えていく。店を変えたり、移転したり、大きな店を縮小して効率化する作業があり、既存店はそれくらいかかる」(河野事業本部長)とした。

 しかし、今のところ看板と屋号に関してはTSCのままだが、そのすべての店舗で5月11日から(4ブランドの商品を)投入しているため、実質、スーツスクエアが提供できるサービス自体は今のTSCに入っている。デジラボも全店に入っていることから、実際には看板の入れ替えだけが必要となるもよう。

 2023年の5月より、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザなどと同様の第5類に引き下げられた。「今まではテレワークなど働き方の変化や出歩く人自体も少なかったが、企業もやはり対面での仕事を再認識している。コロナ前(と同様の水準)とはいかないまでも、8、9割までは戻ってくると思う。無くなったところは『ビジカジ』などスーツのノウハウをいかした新たなジャケット、スラックスなど、スーツから持ってきたカジュアル商品の提案などをしていきたい」(青山社長)としている。

4割強の店舗が試着予約に対応

 そのほか、今回のスーツスクエアへの屋号変更を広く認知させるために、初代アンバサダーとしてモデル・俳優の窪塚洋介さんと窪塚愛流(あいる)さん親子を起用。

 各種クリエイティブでは「生まれ変わる」をメインのテーマに、「新たなスタートを切る」というメッセージを発信。店頭ビジュアルやウェブサイト、JRを中心とした交通広告などの各種販促ツールに順次登場させていく予定。

モデル・俳優の窪塚さん親子が初代アンバサダーに就任
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