輸送業界の低賃金招く原因との指摘に「言葉狩り」の声ーー消費者庁、「送料無料表示」見直しへ

 

 「送料無料」の是非が問われている。言及されたのは、政府が今年6月に公表した「物流革新に向けた政策パッケージ」。ドライバー不足や物流ひっ迫など通販業界にも他人事ではない
「2024年問題」が迫る中、その一端が送料無料表示にあるという。その指摘は妥当するものなのか。

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「送料無料と表示しないでほしい」

 「無料でないものを無料と表記しないでほしい」。輸送業界の発展を図る全日本トラック協会の担当者は、物流ひっ迫に直面する「2024年問題」に触れ、そう通販業界に要求する。

 政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」は、担い手不足など物流産業の問題解消に向け、「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」の3本柱で改革を進める。

 「商慣行の見直し」は、荷待ちや荷役時間の削減など「物流負荷の軽減」、担い手の賃金水準向上に向けた「適正運賃収受・価格転嫁」の取り組みなど6項目。その中で、「適正運賃収受」の妨げになっているのが、通販でよくみられる「送料無料」表示だというのだ。

全日本トラック協会は、政策パッケージの公表と前後して、「送料無料」表示是 正のキャンペーンを展開(画像は、ウェブのバナー広告)

 政策パッケージでは、これを見直すに取り組むと言及する。物流事業者は荷主企業に対する交渉力が弱く、適正運賃を収受できない背景に「送料無料」表示があるとの理由だ。前出担当者は、政策パッケージの内容を「商習慣の見直しは業界だけではどうにもならない。国の後押しはありがたい」と歓迎する。「送料無料」表示には、「そもそも送料は、運送の対価として受け取るもの。現場のドライバーの苦労もある。表示することで物流が軽く見られる。消費者にそういった意識を植え付けてほしくない。荷主、消費者に理解を求めたい」と話す。

「送料無料」は全体のわずか5%

 「2024年問題」は、通販業界にとっても深刻な問題だ。当然だが、店舗を持たない通販は、荷物を運んでくれる物流事業者がいない限り、事業が成り立たない。問題は、荷主、物流事業者、消費者の3者が協力して解決を図る必要がある。ただ、「送料無料」が悪者かのような文脈で語られることには違和感を覚える。

 「運賃交渉といっても(元請けの要請は)値上げか維持。値下げはない。〝それなら運べない〟とかなり強硬にくる」。中堅通販の担当者はこう嘆息する。


運賃交渉は荷主・元請け間だけでなく、元請け・下請け間にもある。適正運賃収受には物流業界の多重構造の課題も影響している。

 全日本トラック協会の担当者が指摘するように、通販において送料は〝タダ〟ではない。企業側の負担を前提に、マーケティング上の訴求を検討する中で生まれた表現が「送料無料」だ。ただ、そのしわ寄せをすべて物流業界が負担しているわけではない。

 「LTVを重視する中で、最終利益を見込める購入額、顧客を対象に『〇円以上』、『〇点以上』『初回購入』といった条件で行っている。競争環境も厳しく、常時、全品無料はないのではないか」(同)、「商品は、広告宣伝費や人権費などあらゆる経費から原価が決まる。送料もその一つ。利益を取る目的はなく、企業努力でコストを吸収している」(通販大手関係者)というのが実際だ。

 運賃の交渉も「アマゾンなど大手の一部を除き、通販は弱い立場。値上げを断って運べなくなれば事業は成り立たない」(同)。政策パッケージは、物流サイドの交渉力の弱さを指摘するが、一律に語れるものではないだろう。

 実際、通販企業による送料への取り組み(日本通信販売協会調べ、21年度)を見ると、協会会員を対象に行ったアンケート調査では、送料を「すべて無料」としているのは、全体のわずか5%ほどにとどまる。「すべて有料」は約6%、何らかの会員組織への加入を前提に無料にする「会員は無料」は約12%、「一定金額以上の購入では無料」が約63%と最も多くを占め、顧客に一定の送料負担を求めているのは、8割に上る。自社の企業努力でコスト吸収を図りつつ、企業間の自由競争の中で微妙な価格設定、表示を行っているのが現実だ。

 その中で、「送料無料」がクローズアップされたことに、別の業界関係者は、「言葉狩り。表示するとタダと思われるというのはこじつけ。ワーディングの問題で本質的ではない」と憤る。

市場に溢れる「無料」表示

 物流業界だけの問題なのか、という視点もある。市場には、「通話料無料」「サンプル無料」など「無料」を掲げる表示は送料にとどまらず、その種の表示は溢れている。これら表示が問題というのであれば、同様に薄利で業務を委託されているコールセンター業界や製造業界からも声が上がってしかるべきだ。だが、これまでのところ、そのような話は聞いたことがない。商品価格は、さまざまなコストの吸収、加味を経て調整され、各コストは、委託事業者らと自由競争の中で交渉され、設定されているためだ。「送料無料」がダメというのであれば、これらあまたある無料表示を含め、広く表記規制の問題に発展する可能性がある。

 反対に数ある無料表示に言及せず、「送料無料」の是正のみ図るのであれば、それは物流業界にのみ特筆すべき規制根拠が必要ということになるだろう。

 ただ、「無料表示」を一律に規制する法的根拠を見出すのは難しい。景品表示法は、表示の有利性や優良性を規制する。「3000円(送料無料)」「3000円(送料込み)」などと表示がウソであれば規制も可能だが、消費者が支払うのは表示額のみ。表示は事実であり、景表法上の問題を問うのは難しい。

 特定商取引法上も送料など通販で求められる義務表示を適切に行っていれば問題にはならない。

物流業界によるロビー活動の影響か

 ではなぜ、「送料無料」は狙い打ちされたのか。

 「2024年問題」の解決を政府に働きかける全日本トラック協会は、国土交通省が20年4月、適正な運賃収受に向けたトラック輸送の「標準的な運賃」について告示して以降、取り組みを強化してきた。「労働時間の制約で賃金も下がる。長時間労働しても全体の水準を下回り、さらに担い手も不足している。

 『標準的な運賃』の告示を背景に交渉しようとしてもはねのけられてしまう」(協会担当者)。「標準的な運賃」の周知に向け、告示が行われた際には荷主業界向け専門紙16紙への広告掲載を行ったほか、今回もウェブ広告で物流の苦境を訴える。自民党トラック輸送振興議員連盟や自動車議連自動車政策懇談会への積極的な働きかけも行っており、政策パッケージも熱心なロビー活動の成果との見方もある。「送料無料憎し」の声もこうしたキャンペーンの中で、これを象徴する問題として、その攻撃対象としてクローズアップされた可能性がある。


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