髙谷成夫●ディーエイチシー代表取締役会長兼CEO

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“組織改革通じ、意識改革へ

 ディーエイチシー(=DHC)は22年11月、オリックスが買収を発表した。DHCは、創業オーナーである吉田嘉明前会長兼CEOが一代で築き上げた会社だが、業績は2018年の1082億円(総売上高)を境に減収に転じている。こうした中、DHCは2023年4月、経営体制を刷新。化粧品通販大手、オルビスなどで代表経験を持つ髙谷成夫氏を代表取締役会長兼CEOとして招へいした。内部昇格の宮﨑緑社長、オリックス派遣の小髙弘行副社長の3代表体制に移行し、今後、組織改革を通じて従業員の意識改革を進め、再成長の基盤固めを行うという。髙谷成夫氏が描く再生のシナリオとは──。

企業に根づく「DNA」見つめ直す

トップダウン経営から脱却

─就任の経緯は。

 オリックスが事業承継案件のM&Aとしてデューデリジェンスが開始した段階で業界、ビジネスモデルに対する知見を求められ、アドバイザーとして関わっていました。買収完了後に打診を受けました。

─外部から見ていたDHC、吉田前会長の評価はどのようなものですか。

 ファンケル、オルビスなど通販の黎明期に同じタイミングで立ち上がってきた経緯もあり、参考にさせてもらっていました。ベールに包まれた会社、強烈なカリスマ経営者によるトップダウン経営のイメージを持っていましたが、そこはスピード感や決断力、一歩先にやられてしまうところもあり、羨ましい面もありました。

─そのトップダウン経営から脱却を図る。3代表体制に移行したが役割分担は。

 社長の宮﨑(緑氏)は経営執行の中心を担います。私は、事業構想、事業戦略など中長期的観点で会社をリードします。副社長の小高(弘之氏)は、オリックスとして多くの投資案件を手掛けてきた中で、成功例・失敗例の経験値を持っています。PMI(M&A後の統合プロセス)や株主とのコミュニケーションで重要な役割を担います。

─意思の共有は図れていますか。

 お客様視点で意思決定の判断を行うことを三者で共有できており、よい形で進んでいます。

─実際に会社に入り、従業員、企業文化に対しての所感はどのようなものですか。

 よい面は会社、商品に高いロイヤリティを持つ社員が残っていたことです。もう少し流出している感覚がありましたが、今なおそのような社員に支えられ、事業運営のベースとなる顧客志向の文化がしっかり根付いていたことは大きいと感じています。反対に極端にトップダウンが強く、横の連携がなかったことも企業文化と言えます。カリスマ経営者が退かれた中で変えていくことが必要だと考えています。

─全社横断型プロジェクト「Project-Bright(プロジェクトブライト)」を立ち上げました。実際にどう進めていますか。

 決済権限の移譲に関する規則、横の連携に向けた会議体の整備など仕組み化を通じて意識改革を進めます。これまでは考えたものを上にあげるだけで会議をやらない文化。ある規模においてトップダウンはスピード感、決断力を発揮しますが、これまでのやり方ではいけないという判断をしています。

─外部から人材招へいの構想もありますか。

 もちろん考えています。

─とくに改革に力を入れていく部門は。

 まず事業運営のリスクになる面は早急な手当が必要になる。品質保証体制、コンプライアンス、ITインフラの整備はすでに着手し、組織として動ける体制をつくりました。今後は、商品・サービスの企画・研究・開発、マーケティング機能の強化が必要になります。

価格訴求見直し、ブランド再生図る

─DHCの強み、コアの価値はなんでしょうか。

企業がさまざまな人達の思いにより積み上げられてきた価値の束のようなものだとすると、これを形づくるDNAはこの会社にも当然あります。それが顧客志向の文化や顧客資産になります。資産とは単純に「リスト」ではなく、このブランドを愛するお客様がいること、そこに真摯に向き合える志向性があることが強みと考えています。

 そのベースは商品とサービスのありようになります。化粧品で言えばオリーブオイルからスタートしています。就任早々、スペイン・アンダルシア州の外れにある原料供給元を訪ねました。話を聞く中で40年前、創業者の吉田という人間がこの日本から遠く離れた異国の地に辿りつき、伝承的な抽出方法で精製された原料を探し出し、自ら交渉し、その貴重な原料で商品を作ったことに感慨を覚えました。まさにこれが一つのDNAであり、商品や品質に対するこだわりというより「執念」、よいものをお客様に届けたいという思いのシンボルになっています。商品・品質に対するこだわりは、今なお会社の根底にあります。もう一つは顧客志向のベースになるビジネスモデルの強さになります。通販、直営店、流通卸というタッチポイントを持っていることは、優れた商品を届け、最高の顧客体験を提供する意味で大きなアドバンテージになります。

─反対に変えていく価値はどのようなものですか。

 基本的なスタンスですが、企業はいかに強みにフォーカスするかだと考えています。内外で指摘される課題は当然認識しています。ただ、弱みを全て解決すればその会社が成長できるわけではありません。人格同様、社格もそういうものです。その意味で強みを磨きます。弱みに手を打つことも必要ですが、直すときには〝ここを少し変えれば〟というのでは変革できません。徹底的に否定文で語ることが必要になります。

 これを前提に本来の品質を今一度伝え、最高の顧客体験を提供するために否定すべきものは何か。プロモーションのやり方が価格訴求が非常に突出して伝えられている点は手をつける必要があります。

─それは弱みですか。

 DHCはブランドのありようとして、ラグジュアリーブランドのように一握りの特別な方に提供すべき商品・サービスを提供しているわけではありません。古臭い言い方をすれば多くの〝市井の人々〟が手に取れる商品・サービスを最高の品質で提供するのがブランド価値になります。その意味で、価格は、重要なファクターになります。顧客体験では、買い物の楽しみやお得感、賢い選択をしたという感覚なども必要になります。それを体現するのは価格だけではなく、価格訴求自体が悪でもありません。ただ、自分達で自らのブランドを棄損するやり方、極端な価格訴求は品質、顧客体験にマイナスに働きます。大事なところが見失われ、価格だけに突出した点はバランスが必要だろうと考えています。。

─どう変えていかれますか。

 プロモーション手法、価格設定、ロイヤリティプログラムも検討する必要があり、簡単ではありませんが全体最適をつくります。「ProjectBright」は三段階ロケットになっていますが、第1弾は組織改革を通じた意識改革、第2段階はいわゆる4P(商品、価格、プロモーション、流通)の改革を基本構想にしています。

流通卸は堅調も通販低迷が課題

─化粧品事業はここ数年、ヒット不在の印象があります。ブランド戦略を含めた改革は。

 ヒット商品を作れればこれに越したことはありません。ただ、新商品を投入し、成功に導くのはリスクを覚悟するチャレンジです。当然、チャレンジもしますが、現状はこの会社の強みを見つめ直し、お客様にお伝えして認識していただくブランディングが優先だろうと考えています。

─直営店舗はピーク時の約200店舗から大幅に減らしました。チャネル改革の方向性は。

 最高の顧客体験を提供する視点でいかに組み合わせるかがポイントになります。現状でいえばホールセールは業績的にもかなり堅調に推移しています。ヘルスケア中心にサプリでは卸流通のシェア30%を占めています。そこはNo.1ブランドとしての戦い方をしていきます。

 翻って通販の業績はここ数年、非常に厳しい状況にあります。とくに化粧品領域の低迷は大きな課題です。直営店は、ダイレクトマーケティングの一環としてリアルな世界観を体現し、通販と連動して顧客体験を提供します。通販でカバーできない市場の開拓を進めるメディアとして重要な役割もあります。コロナ禍に収益性の観点から適正な規模(95店舗、7月末時点に予定)に集約してきました。反転攻勢にでやすい環境になっており、スクラップ&ビルドの中で優良な商圏に出店していきます。

─顧客構造の課題は。

 中心は中高年層だが、前出の通販大手2社と比較して、少し上の印象です。ヘルスケア領域が多くを占める影響もあり、ブランドを継続するファンが大きなシェアを占めています。とくに化粧品は事業開始から40年経ちます。年齢を重ねた固定客に支えられており、かなり上というのが実際のところです。現状がベストではありませんが、若年層はブランドスイッチしやすい面もあります。このビジネスモデルにおいて、いかに40~50代の顧客をボリュームとして持つかは継続性の観点から重要だと考えています。

─新規獲得の状況は

 CPOの高止まりに加え、ここ数年は、前会長の発信が注目されたこともあり、出稿を強化できない環境から思ったように進んでいません。体制刷新もあり、近くアクセルが踏めるため積極化してきます。

─広告の投資戦略は。

 一方通行型の広告出稿、メディア活用は効率が合わなくなっています。5大メディアに広告を流せば顧客が反応する時代ではありません。いかに魅力的なコンテンツ、情報を流通させるかです。本来の企業、事業、商品がお客様にオープンな状態になっており、会社の表裏はすぐに見えてしまう環境にあります。そうなると自分達のありよう自体をきちんとしなければ、時代を勝ち抜けません。SNS、顧客間の情報の流通としてのCtoCを含め、いかに全体としてブランド浸透を図るかだろうと考えています。

─市場の競争環境に対する評価は。

 ヘルス・ビューティケアの領域はやはり成長市場であるし、やり方次第です。また、この領域は日本が海外で戦える数少ない領域の一つでもあります。海外展開の成否は、これからの企業成長の大部分を占めると考えています。

─強化の方針でしょうか。

 まずは中国が重要になります。オフラインで200店舗を展開し、想定していたよりも業績があります。ただ、これまで十分注力できていたわけではありません。オンラインとの連携、商品ポートフォリオの見直しなど伸ばせる余地は十分あります。

─海外売上高比率は。

 現時点では開示していません。

─市場におけるライバル企業は今もファンケル、オルビスでしょうか。

 特定の1社をコンペティターとして見るというより、各面で対峙すべき相手は違うかもしれません。自らの価値をもう一度紡ぎだすことが今は重要という思を思っています。

─オリックスグループとのシナジーは。

 「ProjectBright」をはじめ、PMIの円滑な進行には深い知見が生きています。もう一つ、オリックスの投資対象となる成長市場としてITとヘルスケアを柱に考えている。「医療」、「予防」の各領域で買収案件を持ち、「未病」を担うのがDHCとすると、実業としてヘルスケア領域をかなり持つことになります。DHCとして医療、予防に踏み出す想定はありませんがシナジーを発揮できる環境は作れます。

業界、社会と接点、長期視野で改革へ

─改革のゴールと達成のめどは。

 年内に中期経営計画の策定を進めていく中でメド値を含め定めていきます。

─DHCは不動産を中心に総資産が約1400億円あります。オリックスとしてはこれら売却益だけで十分収益を上げることができます。長期保有で取り組めますか。

 それは私が答える立場にありませんが、これまで手掛けた投資案件の多くは長期視点です。一般的なファンドのように、2、3年という時間軸を前提にはバイアウトやIPOは考えてはいないと思います。

─今期(23年7月期)の業績見通しは。

 無理をしてトップラインをあげるフェーズではありません。将来の成長を見据え、しゃがむ時はしゃがむ必要があります。業績を悪化させてよいとは考えていませんが、年内に急激な成長は目指していません。

─社会から見たDHCの企業イメージなど改革の先にある理想像は。

 前会長の発言を含め、個人的な政治信条にコメントはありません。ただ、法人格として発信したことは真摯に反省すべきと思っています。社会的責任を負う企業としてのガバナンス、前提となるコンプライアンス強化に徹底して取り組む大きな転換点になります。とくにダイバーシティの問題は、社会だけでなく、社内的にも尊重することがイノベーティブな会社であろうとするほど必要になります。行動で示すことにより、自ずと顧客や社会からの見え方が変わることを期待したいと考えています。

─業界との関わりはどう変わりますか。

 より社会に開かれた会社として日本化粧品工業会や日本通信販売協会など業界、団体との関係性はしっかり作っていきたいと考えています。

─最後に髙谷会長自身の信条、関係者へのメッセージを聞かせてください。今回どのような気持ちで参画を決意されたのでしょうか。

 やはりこの会社でやっていくかについて非常に悩んだ部分はあります。それだけの重責でもあります。ただ、ヘルスケア、ビューティケアの業界でお世話になってきた人間として、もしかしたら最後に近い形での関わりになるかもしれません。その中で最終的に引き受けたのは、DHCという会社のDNAに共感するものを感じた時だと思います。人生100年時代となる中で、そこには健康や、身体だけではない心の豊かさが必要になります。その意味で、より多くの市井の人々が生き生きと人生を歩むための商品・サービスを提供できる仕事、自分の存在意義を賭けて、自分が信じる価値の実現にチャレンジできる環境をこの会社に見出せた気がしました。これをDHCの従業員、関係者とともにやり切れるとすれば、こんなに素晴らしく、楽しいことはありません。それが信条といえばそうだろうと思います。


髙谷成夫(たかたに・しげお)氏

1964年6月生まれ。88年、ポーラ化粧品本舗入社。04年、オルビス代表取締役社長。12年、ポーラ取締役。16年に同社を退社後は、アイスタイル、ライザップ、FiNCTechnologies、MTGなどで要職を歴任。21年、戦略コンサルティングを行うエスアンドコーを設立。代表取締役社長に就任。現在に至る。



◇ 取材後メモ

DHCは、強い個性とカリスマ性を持つ吉田前会長が一代で築いたワンマン経営で知られる。再成長は、「事業・組織・業界」の各面で生じた課題への対処が必要になる。髙谷氏は、オルビスのECや店舗の立ち上げを指揮し、ファンケル、DHCと並ぶ三強時代の礎を築くけん引役を担った。今回の就任には業界関係者からも「通販の知見、力量含め適任」、「人間力が高く、信念を貫く強さもある」との声がある。通販業界は個性の強い創業者、経営者らが築いた独自の企業文化の集合体として発展してきた。再成長に向けた舵取りは容易ではないが、事業承継の課題を持つ企業が少なくない中、今後の改革の行方が注目される。

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