「ばらまき」やめて客離れの泥沼ーー沈みゆくヤフーショッピング

  • 2023年6月25日
  • 2023年8月25日
  • 特集1

ヤフーが運営する仮想モール「ヤフーショッピング」が冴えない。出店料や売上手数料を無料化した2013年の「eコマース革命」以降、大きく流通額を伸ばしてきた同モールだが、ヤフー負担によるポイントの「ばらまき」をやめたため、直近の四半期では流通額が大幅に減少している。拡大路線から利益重視に切り替えたことで、実質的に「国内EC市場の1位を狙う」という方針を取り下げたわけだ。当然、出店者の不満は溜まっており「、周囲からは『ヤフーからは早く逃げた方がいいのでは』とまで言われている」(ある出店者)といった声まで出てくる始末。ヤフーショッピングはどうなってしまうのか。(写真は「eコマース革命」を掲げて出店料金を無料とし、仮想モールで国内首位を目指すと宣言した孫正義氏=2013年当時)

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「優良配送」優遇裏目かモール内での出店数制限に反発も

 ヤフー親会社のZホールディングス(ZHD)によると、ヤフーショッピングやグループ傘下の通販事業者の売上高を合計した2023年3月期「ショッピング事業取扱高」は前期比0.2%減
の1兆6946億円に。特に第4四半期(1~3月)の取扱高減少率は前年同期比13.3%と大きい。出店者に開示している3月度の同モール単体の月次流通額に関しては、前年同月比で3割減という結果となった。グラフにあるように、「ゾゾ」買収やコロナ禍もあり、順調に成長してきた同モールの成長にストップがかかった格好だ。

失速の要因はポイント戦略の転換にある。昨年まで同モールは、ソフトバンクの携帯電話契約者向けに、10%還元キャンペーンを毎週日曜日に実施。他の施策も合わせると、20%以上のポイント還元となるため、日曜日に同モールで買い物をする消費者が多く、出店者は日曜日に合わせた販促を展開していた。

「高額商品が売れない」

 方針を転換したのは22年10月。「PayPayモール」と「ヤフーショッピング」を統合する形で仮想モールを刷新した際、グループの決済サービスやクレジットカードを使用した場合の還元率を5%に引き上げるとともに、毎週日曜日の高還元施策を廃止した。

 さらに23年2月からは、毎月5日、15日、25日に実施するセール「5のつく日キャンペーン」に関して、PayPayポイントの付与上限が5000ポイントから1000ポイントに減少。同キャンペーンでは、購入額(税別)の4%が還元されるため、これまでは1日あたり12万5000円(同)の購入までポイントが付与されていたが、2月以降は2万5000円(同)分までしかポイントが付かなくなった。当然、出店店舗からは「毎週日曜日の買い物習慣が無くなってしまった」「高額商品が売れにくくなった」との声が出ている。

 ZHDでは「これまでの方針から成長と収益性をバランスさせる方針に転換したため、成長率は下がらざるを得なかった」とし、今期におけるヤフーショッピングの流通額も「流通額減少のトレンドが続く」としている。

 ヤフーショッピングの流通が落ち込んでいる要因として、もう一つ挙げられるのが「優良配送」に対応した商品の検索優遇だ。21年12月から開始した同制度は、出店者が顧客に提示する商品の配送日を示す「お届け希望日」を、受注日プラス2日以内としている商品かつ当該出店者の出荷遅延率が一定水準未満(5%未満)である場合にのみ出店者が設定できる表示で、商品検索結果で上位表示されやすいような優遇措置を講じている。しかし、「大手はともかく、中小店舗のほとんどは対応していない」(出店者A)のが実情。実際、ヤフーショッピングの優秀店舗「ベストストア」に選ばれるような大手や、ナショナルブランドのメーカーの扱う商品が「優良配送」として検索上位に表示されることが多い。

 一方で、知名度が高くない店舗の販売する商品に「優良配送」マークが表示されることもある。例えば次ページ左下画像の象印マホービンの炊飯器、ヤフーショッピングのアプリにおいて型番で検索すると、「優良配送」マーク付きで上位に出てくるのは知られていない店舗ばかり。同商品はアマゾンにおいて、2万7000円で販売されており、「楽天市場」のアプリでも最上位に表示されるのは約3万円の店舗(検索結果と価格はいずれも6月13日現在)。「優良配送」というだけで、他モールより2万円近くも高い店舗が最上位に表示されるのは不自然だ。これでは他モールに顧客が流れるのが当然で、ある業界関係者は「ヤフーは消費者にとって非常に買いにくいモールになっている」と指摘する。

 同商品の検索上位で「優良配送」マークが表示されている店舗の中には「FBAを利用しているのでアマゾン倉庫からの発送となる場合がある」と明記している店舗もある。ただ、ジャンルを問わず、10万点程度の商品を扱っている店舗ばかりという点は共通している。品揃えや配送日数、価格などからみて、同モールでは禁止されている「自社では在庫を持たず、出店者がアマゾンなどで代理購入した商品を直接消費者に配送する“無在庫転売”を行う店舗」が含まれている可能性が高い。

「優良配送」の商品が検索上位に並ぶ

「商品券」でさらなる客離れか

 流通額の減少が止まりそうもないヤフーショッピング。ところがヤフーでは、消費者の同モール離れに拍車をかけそうな施策を行う計画だ。まず、7月から一部イベントにおいて、PayPayポイントではなく、ヤフーショッピング商品券を付与する。商品券は、同モールでのみ利用できるため、出店店舗からすれば、リピート購入が期待できるわけだ。

ヤフーショッピング商品券の導入を告知している

 ただ、同社では従来、同モールで貯めたPayPayポイントを、消費者がオフラインなどで利用することによる「PayPay経済圏」の拡大を目指していたはず。利用シーンが限られる商品券の付与は消費者にとってはサービスの低下だ。さらには「商品を買った店舗でしか使えないクーポンのみを購入後に付与するプランもあるようだ」(出店者B)という。これでは消費者離れが加速しかねない。

 もう1つは、「モールへの出店数の制限」だ。同社では6月上旬、一部店舗に対してウェブアンケートを実施。「商品の探しやすさの向上や不正ストア防止などのため、原則1事業者あたり1店舗までなど、出店数に制限を設けることを検討」しており、出店者に意見を求めるという趣旨だ。

 さらにアンケートでは、「特定の条件に限り有料で2店舗目以降が出店できる特別プランを検討」していることも説明。「1店舗あたりどのくらいの月額利用料であれば2店舗目以降を継続するか」と質問している。ヤフーでは「ストア向けにヒアリングしている段階で、現状特に何も決まっていない。ストアの声などを踏まえたうえ検討していく予定」(広報室)として、詳細を明かしていない。ただ、施策が実行されれば、複数店舗を出店するEC企業にとっては大きな打撃となる。

 同一モールに多店舗展開して売り上げを高める手法は昔から行われており、「ジャンルや顧客層で店舗を分けることで専門店化する」「モール内検索やランキングにおける自社商品の比率を高める」といった狙いがある。同モールのベストストアに選出される上位店が2号店や3号店を構えているケースも珍しくなく、中には20以上運営している企業もある。出店数の制限はモール全体の流通額に大きく影響しかねない。

 ただ、13年に実施した出店料無料化以降、出店者数が急拡大した同モールだが、同時に質の良くない店舗が増えたという事実もある。とはいえ「不良ストアを追い出すなら審査を厳しくするのが先決だし、検索結果が問題ならロジックを変えればいい。結局、成功報酬型の広告『PRオプション』を今よりも伸ばすのが難しくなったので、もっともらしい理由をつけて店舗から金を徴収したいだけではないか」(業界関係者)との声も。

 限られた店舗のみ複数出店を認めるとしても、高額な出店料を徴収すれば店舗を絞る事業者も出てくるだろう。同モールで複数の店舗を運営する上位店は「出店料を取られるのはもちろん痛い。ある程度の負担は受け入れるが、あまりに高いなら店舗の建て付けを変えざるを得ない」と牽制する。ヤフーとしても難しい舵取りを迫られそうだ。

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「ヤフー店は前年対比で 70%減」、「迷走」に厳しい指摘も、は本誌にて→

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