昨年の電通社員の過労自殺問題を契機に様々な企業で進む労働環境の見直し。世間的な関心度の高さももちろん、働きやすい職場を作り優秀な人材を確保、または離脱を防ぐことは企業にとって業績に直結する非常に重要で注力すべき経営課題の1つだ。EC各社も様々な施策を取り入れ、社員の働き方改革を進めているようだ。注目すべき各社の“職場作り”とは。
海外企業に学んだ「ノー残業」が生む働きやすさ
【事例① ベガコーポレーション】
家具・インテリアの通販サイトなどを運営するベガコーポレーションでは、「ノー残業」推進による働き方の効率化をはじめ、社員の自己研鑽や成長をバックアップする体制づくりに力を入れている。日ごろから職場環境への細かな目配りを図ることで、優秀な人材を集めて永続的に成長できる会社を構築していく。
同社では福利厚生として、創業時から毎年夏に全額会社負担で行っている海外への社員旅行や、土日とつなげることで最大9連休まで取得可能な連続休暇制度などがある。加えて、社員の書籍購入費用の補助やMBA取得・経営を学ぶためのビジネススクールの学費もその人の成長に応じて負担。平均すると毎年2~3人がビジネススクールへ行っているという。
実際に学びに行った社員を以前と比較すると社内での働きにも大きく反映されているようで、「会議の様子や日常の仕事ぶりを見ていればどこが成長したのかはすぐ分かる。例えば、納期を守ることに前よりも神経質になったり、数字の管理が細かくなるといった変化がある。ビジネススクールでは色々な会社の様々な役職の人と出会えるので社内での自分の立ち位置が客観的に見えるのだと思う」(浮城智和社長)とする。
密度と効率性を重視した仕事
また、日ごろの働き方への提案として、5時45分の定時で帰る「ノー残業」制度も推進している。現状では数年前に導入した頃よりも30分~1時間程度、帰るのが遅くなっているようだがそれでも極力残業しない働き方をするように奨励している。
導入のきっかけは、浮城社長が実際に外国での働き方を目の当たりにしたことだった。同社では以前、シンガポールに(ゲームアプリ開発の)子会社を持っており、浮城社長も現地に移り住んで毎日14カ国ほどのメンバーと一緒に仕事をしていた。その会社の定時は18時であったが、18時1分にはもう次々と社員が帰り始めていったという。定時前から帰り支度を始めていた社員もいたようで、それほど残業をするという文化が海外にはなかったのだ。「欧州出身の幹部社員とも話をしたが『欧州の企業などは残業なしでよく成長ができたね』と聞くと、『それが当たり前』だと言われる。日本人の働き方について経営者として改めて考えるきっかけになった」(浮城社長)と振り返る。
また、実際に仕入れなどで欧州に行った際に、デンマークの家具工場が朝8時の始業で1時間の昼休憩をはさんで14時半にはもう終業となっていたこともあったという。それでいて会社の業績自体は黒字だったようで、こういった働き方でうまくいっていることに衝撃を受けたとする。対して日本では、残業も含めると1日12時間働くのは当たり前で、早く帰ることに対して周りに気を遣ってしまうことも珍しくなく、常識の概念が大きく異なる。「当社は成長段階なので本来は働けるだけ働いた方が良いのかもしれないが、一般職など全社員がするべきではないとも思う。就業時間内でしっかり働いて定時にきちんと帰り、その後は自分の時間にすることができるというメリハリのある会社にしていこうと考えた」(同)とした。
残業のない海外の企業で成果が出ている理由について浮城社長は、仕事の密度の高さが鍵になっていると考えている。やるべきこととやらなくてもよいことの見極めがしっかりとできるからこそ、仕事を効率的に進めることができ、その後の成果につながるのだという。
最近では同社でも生産性について議論になることが多いようで、無駄を省くという観点から、例えば会議を行う上でその会議資料を作ることが目的の仕事になっていないか、本当にそれはパワーポイントで作るべきものなのかなどを検証。最近では「社内Wiki」による情報一元管理や、社内チャットツールで全員が揃わなくても空き時間でそれぞれが議論できる仕組みなど各種ツールの発達も進んでいることから、同社でも少しずつ社内での効率化に向けた取り組みに反映させていっているようだ。
「目安箱」で社員の意見吸い上げ
社員との意思疎通や誰もが自由に意見を出しやすい社風をつくるといった観点では「目安箱制度」を以前から導入している。これはメールを通じて一般の社員が匿名で取締役に様々な提案ができるようになっているもので、これまでも目安箱から多くの意見が採用されてきた。
LINEでの受注対応や月末の定例会議の時間短縮、(置き菓子サービスの)「オフィスグリコ」の導入、有料での家具組み立てサービスの導入、(楽天の出店企業向けイベントの)「楽フェス」の参加メンバーに店舗運営者だけでなく受注担当者や商品企画担当者も出席できるようにするなど様々なものがあるという。直近では副業を認めてほしいという意見もあったようで、会社に支障をきたさない形であれば今後認めていく方向で検討しているようだ。
関連して、商品開発についても正社員、契約社員、アルバイト、派遣など雇用形態・部署を問わずいつでも誰でも提案できるようになっている。直近ではアウトドア好きの一般職の社員が発案者となって開発チームを組織して企画したテントがある。
持ち運び時の軽量性やデザイン性だけでなく、同クラスのサイズ・機能のテントよりも価格を抑えた値付けにするなど、市場特性を分析した上でユーザー目線の商品開発を展開。さらには実際に開発チームで山に行って一泊し、同テントの設営の様子や使用中の状況を撮影して、通販サイトの画像にも使用。サイトでの露出方法までプロデュースするこだわりようでアウトドア入門者も含めて多くの顧客を獲得し、結果的に想定以上の売り上げを記録。「やはりその商品の分野が好きで、ニーズが分かっている人が企画したものは非常に手堅い」(浮城社長)とし、アウトドア分野については今後、同社の成長ジャンルとしても期待されるようになった。
そのほかにも店舗運営者が発案したハンガーラック付きの引き出し収納や、ウェブデザイナーの社員が企画したクリスマスツリーもヒット。16年12月末までにシリーズ累計で約42万2000枚を出荷しているロングセラーの着る毛布「グルーニー」については、一般職社員の提案から新たにカップル用も企画して追加発売するなどシリーズの横展開も実施。
社員が自由に発言しやすい環境を作ることで、ヒット商品という形になってその成果を会社に還元することができているようだ。
仕事以外の時間が新しい発想の源泉にも
ベガコーポレーションの浮城智和社長が語る
色々な会社があると思いますが私が社員に提案したいことの1つとして、仕事だけで人生を終わって欲しくないというものがあります。仕事は確かに人生の中で一番ウェイトの重いことなので充実した時間にしてもらいたいのですが、世の中には仕事以外にも楽しいことがたくさんあります。クリエイティブな会社なので、そういったことを味わってもらわないと新しい発想は出てきません。英語を学びたかったり、ビジネススクールに行きたいという気持ちがある社員を、いつまでも社内に拘束することが正しいとは思えないのです。もちろん、新卒社員には定時で家に帰ってただテレビを見ているだけでは意味がないし、漫然と遊ぶだけの時間にしてはいけないとは伝えています。やはり、上を目指すのであれば時間を有効に使って自分の成長につながるようなことを探してほしいです。
また、当社も今はまだ私が色々と見ていなくてはいけない段階ですが、いずれは失敗してもいいからどんどん自由にやってくれと社員に任せていくようになることが必要です。今後時間をかけてそういった社風にしていきたいですし、きっと10年経った頃にはそれができる素晴らしい会社になっていると確信しています。