イーベイの「Qoo10」、リアル展開強化――コスメECでトップ目指す

 仮想モールの「Qoo10」を運営しているイーベイジャパンでは2024年度より、リアルイベント企画やライブ動画配信のてこ入れを進めており、顧客接点の高度化を図っている。背景には、主力のコスメカテゴリーでEC市場のトップシェアを獲得するという大きな目標があり、購買だけでなく印象的な体験も同時に提供できるようなビジネスモデルの確立が大きな突破口となっている。

 同社が重点施策の一つに掲げているリアルイベントの活用に関しては、以前より、日本で開催されている「K─POP(韓国のポピュラー音楽)」のライブイベントなどについて、年に数回ほどスポンサーとして参画しており、モール内でのチケット販売も担っているが、今期はさらに一歩踏み込んだ内容に進化させていく。

 もともと、参画するリアルイベントについては同モールがそのチケットの販売窓口となるため「ここから得られる顧客とのエンゲージメントは効果があり、クロスカテゴリーセルの割合が高くなる」(キム・テウンBO本部長)と説明。実際にスポンサーとして参画した2024年5月のK─POPの大型イベント「KCONJAPAN2024」では、同モールでチケットを購入した顧客の内、約20%がコスメやファッション、エンタメグッズといったチケット以外の商品をモール内であわせて購入したという。

 イベント自体の告知については主催者が中心となって行い、同社ではプレスリリースやSNS、モール内での告知だけだったが、チケット販売の窓口となったことを機会に休眠顧客や新規顧客からの流入が想定以上に大きくあったとする。今回販売されたチケットでは5万6000人分の内、休眠・新規会員の購入によるものも相当数あったとした。

 こうした知名度のあるリアルでの大型イベントをきっかけに、モール内の流入客数が一気に増加することは既存の出店者にとっても大きなメリットとなる。同時期にアーティストの関連グッズや親和性の高い商品を打ち出すことはもちろん、出店者自身がそれらのリアルイベントに参加することもある。

 実際にいくつかのイベントでは、同社が会場でスペースを確保して、希望する出店者に対して有料でブース出展を割り当てたこともあった。来場者の多くが10~20代の若い女性であることから、コスメや美容グッズ、ファッションなどを取り扱うブランドが数多く出展し、サンプリングの提供や新商品の案内などを行ったという。EC発のブランドにとっては、リアルで顧客接点が持てる貴重な機会となったようだ。

 現在は韓国にエンタメ関連のチームがあることから、日本でのイベント開催を検討しているような集客力を持つK─POPグループの情報が入手しやすく、今後も規模を問わずスポンサードからチケット販売、ブース運営まで様々な形でリアルイベントに関わっていくことを計画している。「顧客に購買だけでなく体験も与えたい。我々はエンタメ会社ではないが、『イベントを見たいからQoo10会員になりたい』と思われるように、こうしたエンゲージメントを作れる会社であるという位置付けを作ることが大切だ」(キムBO本部長)とした。

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夏にはコスメのイベントを主催

 そして、2024年度はスポンサーとしてだけでなく、自社が主催する形で初めて大規模なリアルイベントを行うことも計画している。7月に都内の「ビックサイト」で行うもので、コスメに特化した内容で国内外のブランド出展を誘致。出展者は商品体験や著名なインフルエンサーを招いてのトークショー、ライブ配信企画などを行うという。

 特に目玉となるのはライブ配信の企画。同社では2024年2月に出店者が利用できるライブコマース専用のスタジオを都内・渋谷に開設している。同イベントではこれと同様の設備を会場内に設置して、同社や出展者が公開生放送を行える仕組みを設けていく。

 当日は生配信のゲストとして、モデルの藤井サチさんをはじめ、美容系ユーチューバーのヒョクさん、タレントの村重杏奈さん、村瀬紗英さんの出演が決定している。

 なお、現在、渋谷のスタジオについては、開設以来、出店者からの依頼を受けて毎日配信を行なっている状況。4月にあった同モールの大型セール企画「メガ割」では、4時間のライブコマース配信の中で2億円の売り上げを達成したという。同モールの利用者である若い女性層とライブコマースの親和性は非常に高いと見ており、今回主催するリアルイベントにおいても、これまで培ったライブコマースのノウハウを活用し、著名なインフルエンサーも起用しながら独自目線の配信企画を行うことを予定している。

2024 年2月に開設したライブコマース専用のスタジオ
過去のリアルイベントに参加した際の動画配信ブースの様子

若い女性から学ぶ最新トレンド

 リアルイベントに関しては、EC専業ブランドだけではなく、実店舗を持つような大手企業にとっても参加メリットが高いと見ている。

 同社によると、老舗のコスメブランドの中には顧客の新陳代謝が中々進まず、10~20代の若年女性層の比率が年々落ち込むなど、そこに対してのアプローチや集客手段に悩み始めているブランドは少なくないという。「今の若い人達は韓国コスメに寄ってきている。その少し上の年齢層も徐々に来ている傾向。そうした年齢層から見捨てられてしまうブランドは、今後のコスメ市場の中で生き残るのが難しくなる」(同)とし、例え中高年向けのハイエンド価格商品が中心の大手ブランドであっても、若年層の顧客を一定数抱えることができていないと、市場の中でトレンドイメージから大きく引き離されてしまうというのだ。

 そのため、若い女性に特化したリアルイベントを幅広いブランドに向けて解放することは、各ブランドが最新のニーズを分析したりマーケティング感覚を磨ける最良の機会になると考えている。

日本の大手ブランド誘致を図る

同社では、今後の大きな目標としてコスメEC市場においてトップシェアを獲得することを目指している。「Qoo10が今一番上手く売り上げを作れていて、顧客認知も進んでいるコスメカテゴリーはもっと力を入れていく。特に日本の大手ブランド開拓をしたい」(同)と説明。そのためには、リアルイベントを通じた新たな顧客接点の創出に加え、モール内で積み上げた有益な顧客データを出店者に対してどれだけ提供できるかも大きなカギとなる。

 これまでは、販売数量をはじめとした基本的なデータの共有はできていたが、今後は顧客レビューなどをベースに作成した詳細なレポートを共有することを考えている。

 一例として、コスメが購入された後に顧客が使用感や質感、色感などを細かく入力できるフォームを以前からモール内に導入するようになった。すでに膨大な顧客からのレビューを受けて、データ量の蓄積自体は進んでいたものの、現時点では出店者やブランドごとに一つの統計化されたレポートとして提供することができていなかった。

 そのため、今は一部の出店者に対して先行でヒアリングを行い、顧客から聞き出したい具体的な項目などの選定作業を実施。2024年中には正式なレポートサービスとしてローンチする予定で、「なぜこれが売れるのか」が詳細に見える化されたデータとして出店者に提供する計画。「今後は日本の大手コスメブランドの出店誘致も強化していき、早期に『コスメ=Qoo10』の位置付けを確立したい」(同)とした。

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