清水清人●歯愛メディカル代表取締役社長ニッセン社員の「マインド」変える

 歯科医院向け通販を展開する歯愛メディカルが攻勢に出ている。7月1日付でニッセンホールディングスを約42億円で子会社化。2023年12月には、肌着のネット通販を手掛ける白鳩の株式を小田急電鉄より取得し、関連会社化している。BtoB通販で売り上げを拡大してきた歯愛メディカルが、消費者向け通販を強化する意図はどこにあるのか。売上高1000億円を視野に入れる同社の成長戦略とは。

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ニッセン・白鳩が当社のインフラ活用すれば売り上げは伸ばせる

ニッセンの顧客リストは魅力

─ニッセン買収の意図を教えてください。

 当社は成長戦略として、石川県能美市に昨年12月竣工したロジスティクスセンターと、歯科技工向けソフトウエアの2つを掲げています。新センターの完成で、出荷能力がこれまでの約3倍となります。当社自身が成長していくことはもちろんですが、それでも出荷能力には余裕があるわけで、子会社化したニッセンや出資した白鳩の商品を出荷するようにすれば、利益率がかなり向上するのではないかと考えています。

─新センターの建設はBtoCビジネスへの強化を前提としていたのでしょうか。

 約240億円の投資をしているので、センターを計画している段階から、いずれはBtoCに活用したいと考えていました。

─旧センターからの移行は完了したのですか。

 システムや設備の立ち上げに想定以上に時間を要したことや、能登半島地震の影響で旧センターからの移行が遅れていたのですが、ようやく完了しました。旧センターについては、今後3PL事業に参入した際に活用したいと考えています。

─なぜBtoC通販を強化しようと考えたのでしょうか。

 当社のメイン事業はBtoBですが、消費者向けに歯科医院専売品をネットで販売する子会社として、デンタルフィットがあります。この会社が近年非常に成長していることが後押しとなりました。また、ニッセン・白鳩が当社のインフラを活用すれば、売り上げが伸ばせる余地があるのではないかと考えました。

─ニッセンを買収することで、目標としている売上高1000億円にも近づきますね。

 もちろん、そういった狙いもあります。やはり売上高が1000億円を超えると、仕入れにおけるスケールメリットなどのアドバンテージも生まれますから。

─ただ、ニッセンの売り上げは、全盛期の2000億円超から大きく減少しており、400億円を下回ってしまいました。現状のニッセンの強みをどうみますか。

 会員数が非常に多いことですね。また、看護師向けなど医療系のリストもあるので、もう一度掘り起こしていきたいと思っています。また、当社では介護事業も展開しているのですが、高齢者向けでも、ファッション性の高い下着に関して、需要があることが分かってきたので、そこにもニッセンの資産を活かしていきたいですね。

─とはいえ、長い低迷を考えるとアクティブ顧客はかなり減少しているのでは。

 それは理解しています。ただ、母体としては大きいので、当社にとっては魅力的です。。

─休眠顧客の掘り起こし策については。

 そこはこれからの課題となります。現在行っている施策としては、当社の顧客に対してニッセン商品の販売を始めました。当社は医院・歯科医院・動物病院・調剤薬局、さらにはエステサロンなどにも販路があるので、そういったところにも販売していきます。当社ではダイレクトメールなどの紙媒体を活用しているので、ニッセンとの相乗効果もあるはずです。例えば、コーヒーや酒類といった食品も販売しているのですが、配送料が上昇する中で、ニッセンの衣料品の取り扱いは、1つのダンボールにたくさん荷物を入れてもらうために、バリエーションを増やすという狙いもあります。また、医療ジャンルにいおいても、オリジナル商品開発ができるのではないかと思っています。

─歯愛メディカルのプライベートブランドとして展開していくということでしょうか。

 グループ共通ブランドとしてやっていきたいですね。医療や介護で使っている商品の中でも、一般消費者に認知されれば、もっと広まるものは多々あるでしょうし、さらには今後介護人口が増え、老人施設から注文を受けるケースも増えるはずです。これまで、介護関連の通販の分野では、ファッションはあまり扱っていなかったはずなので、ニッセンとの協業は非常に大きいと思っています。今まで無かったような商品や便利な商品を作っていきたいですね。

─ニッセンのMDをどう評価しますか。

 まだ何ともいえないのですが、ニッセンのブランドは健在ですし、これまで進めてきたメーカーとの協力体制も残っています。

─売り上げ規模が縮小していますし、人材の流出も進んでいるのではないでしょうか。

 それも精査中です。ただ、新しい取り組みを行うことで、社員の刺激にもなると思います。

─ニッセンはカタログなど、紙を使った通販が不振だったことで企業規模を大きく縮小させてしました。加えて、昨今は用紙代や印刷代の値上がりといった逆風も吹いています。ニッセンという会社の将来性をどう見ているのでしょうか。

 ただ、ここに来てネット広告がありふれてきたこともあり、紙によるコマーシャルの価値は上がってきているのではないかと思います。また、高齢化が進むと、ネットでいろいろと調べるよりも、紙の一覧性に頼る消費者も増えるはずです。ニッセンはかつて2000億円以上の売り上げがあったわけですが、今のサイズに合わせる形でもっと経費を削減できるのではないかと思っています。

─まだまだ身の丈に合っていない部分がある、と。

 やはり、今までのやり方を見直さなければいけない部分は多々あるのではないでしょうか。例えば、当社のカタログ制作スピードやコストをニッセンと比べると、当社の方がかなり上回っています。そういった部分を共通化することで、規模拡大につなげていきたいですね。

ニッセン顧客に歯科用品販売

─ニッセンが改善すべきポイントについて、もう少し具体的に教えてください。

 まずはコスト。オーナーが代わったことをきっかけとして、再度相見積もりを取ったり、リサーチし直したりするべきです。カタログの作り方についても、現状の会社の規模に合わせた作り方があるはずです。

─確かに紙の一覧性は魅力ですが、用紙代は今後も上がり続けていく可能性が高いですよね。こうした状況で、どうやって紙媒体で利益を出していくのですか。

 紙からネットへ誘導するのは一般的ですが、紙媒体には目を引く商品や訴求力のある商品を掲載するなどの工夫をし、1ページずつの利益率を高めていきます。また、撮影室を統合したり、さらにはニッセンと白鳩は本社の距離が近いので、社屋など被っている部分を統合したりすることもできるのではないでしょうか。

─ニッセンの顧客数は減少し続けていると思いますが、ここから反転できますか。

 日本の人口が減っているので、顧客数が減るのは仕方ない部分もあります。ただ、ニッセンの顧客も高齢化しているのに、カタログの文字を大きくするといった工夫をしていないのが気になります。また、年齢を重ねると好みも変化するわけだが、そこに対応できているのか、という感じもあります。当社とニッセンで人材交流をすることで、適材適所を見極める必要があるでしょうね。

早急に利益が出る体質へと変えなければいけない

─ただ、アパレルは市場が縮小している上に過当競争です。ニッセンはファストファッションなどとの競争に敗れたという面もあるわけで、もっと根本的なところから立て直さなければいけないのでは。

 社員のマインドを変えていかなければいけないのではないでしょうか。社員のマインドは売り上げにかなり影響してくると思っています。これはあくまで一般論ですが、斜陽企業の社員はマインド的にもアクティブではなくなってくるわけです。例えば、稲盛和夫氏が日本航空を再生させた手法なども参考にしながら、再建を進めなければいけないと思っています。

─その他、ニッセンの問題点については。

 早急に利益が出る体質へと変えなければいけないでしょうね。変革には時間のかかるものもありますが、利益についてはすぐに結果を出す必要があります。子会社化後に急きょ始めたのは、ニッセンのカタログを当社のカタログに同封する施策です。両社の商品のやり取りも始めました。また、即効性があるのはコストカット。例えば、人員の割にオフィスのスペースが大きいといったこともあるかもしれないので、すぐに手当てをしていきたい。長期的には、先ほど説明したように、アクティブなマインドの企業に変えていきたいですね。

─両社商品のやり取りとは、具体的にどんなものですか。

 当社の商品をニッセンで販売し、ニッセンの商品を当社で販売します。当社はオーラルケア商品が強いわけですが、健康寿命に歯科は大きく関わっています。例えば、介護施設における死因は、誤嚥性肺炎によるものが非常に多いんですよ。そのため、食べ物を詰まらせないためのきちんとした口腔清掃が重要になってくるわけですが、当社では誤嚥性肺炎を予防するための口腔洗浄器を介護施設などに販売しています。こういった商品は家庭向けにも売れると思っています。物販だけではなく、セミナーやフリーペーパーを使った啓蒙など、ニッセンの顧客も含めて、一般消費者向けにさまざまなアプローチができるのではないでしょうか。今後、日本では高齢者人口がどんどん増えていくので、開発を考えている商品は多々あります。そういった商品を、医療介護の分野からニッセンの顧客へと展開していきたいですね。当社の顧客に比べて圧倒的にニッセンの顧客の方が多いので、こうした商品がヒットすれば両社の利益増につながるのではないでしょうか。

─両社の顧客数は。

 歯愛メディカルは20万人弱ですが、医療機関のスタッフも含めると約100万人に商品を販売する機会があります。一方で、ニッセンはその10倍以上の顧客リストがあるはずなので、有効活用していきたいですね。ニッセン自体の売り上げを伸ばしていくのはもちろんですが、当社はニッセンとは別のマーケットを持っているので、そこで展開できるというのがメリットとなるわけです。また、医療や歯科、介護、理美容の視点から、「一般消費者にも受けるのではないか」という商品を持ち込むことができます

─2023年12月に関連会社化した白鳩のECノウハウはどのように活かしていくのでしょうか。

 白鳩はEC一本でやってきた会社なので、学ぶ部分は大きいです。今後、AI活用やDX化を進めていく中で、当社とニッセン、白鳩がそれぞれ違う視点を持ち、皆で高めていければいいのではないでしょうか。

─今後、アパレル以外の分野でM&Aを行う計画はありますか。

 今すぐには考えていません。まずは早急にニッセンを利益体質に変える必要があるので、そこに集中したいと考えています。。



清水清人(しみず・きよひと)氏
1960年生まれ、石川県出身。1978年金沢泉丘高校卒。1984年岐阜歯科大学歯学部卒。1987年歯科医院開業。2000年株式会社歯愛メディカル設立。

◇ 取材後メモ

かつてはカタログ通販の雄であり、業界のリーダーだったニッセン。セブン&アイ・ホールディングスの傘下に入ったものの、流通の巨人をもってしても業績悪化を食い止めることはできませんでした。

 BtoB通販を主軸としてきた歯愛メディカルにとって、ニッセンは全くの畑違いのようにも思えます。しかも、大幅な債務超過となっていた企業です。しかし、清水社長は「ニッセンの顧客リストを得られたことは非常に大きい」と明快に語ります。長年の低迷で休眠顧客は多いはずですが、清水社長は「工夫できる余地はある」と断言します。

 歯科医院向けの材料通販からスタートし、売り上げを拡大してきた歯愛メディカル。ただ、BtoB通販のノウハウがBtoC通販にそのまま適用できるのか、という問題もあります。清水社長は「当然心配はあるが、まずはやってみて、修正を繰り返していけばいい」と前向きです。

 白鳩を関連会社化し、ニッセンを子会社化と立て続けに大きな動きを見せた同社。「今すぐのM&Aは考えていない」とはいうものの、通販業界において台風の目となりつつあるだけに、今後の動向が注目されます。

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