“買ったことのない人”に買ってもらう【渡辺英樹NTTドコモスマートコミュニケーションサービス部ネットサービス企画担当課長】

NTTドコモがネット販売に本腰を入れ始めた。展開するスマートフォン向けのデジタルコンテンツ販売サイト「dマーケット」内に直販サイト「dショッピング」を12月19日に新設。日用雑貨や食品などの販売を開始した。携帯電話キャリアならではの“やり方”で他のEC事業者ではリーチし得ない「ネット販売でいまだモノを買ったことがない層」を取り込み、2年後をメドに100~200億円程度の流通総額を目指すようだ。勝算はいかに―。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

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ネット販売の不安をドコモが“取り去る”

ECは「dマーケット」の強化

――物販サイト「dショッピング」を新設しました。ドコモ自ら物販サイトを持つ狙いとは何ですか。

我々が以前から運営しているスマートフォン利用者などにアプリや電子書籍、音楽、動画などのデジタルコンテンツを販売・配信するためのポータルサイト「dマーケット」の中に物販の専用コーナー「dショッピング」を(12月19日から)新設しました。スタート時点では日用雑貨を中心に約10万点を販売しています。“狙い”ですが、「我々がECで革命を起こすんだ!。イーコマースのマーケットのシェアを取りに行くぞ!」というものではありません(笑)。あくまで「dマーケット」の商材拡充による強化という意味合いが強いです。

これまで販売してきたデジコンのほかに、「dマーケット」を通じてドコモの利用者に提供できるモノは何かと常に考えています。11月から「dマーケット」内に「dゲーム」というものを新設して、ソーシャルゲームサービスも始めましたが、考え方は同じです。中でも特に「ショッピング」というのは利用者に最も分かりやすい。「携帯で音楽を聞きませんか」「動画をスマホで見ませんか」と言うよりも「スマホでショッピングできますよ」というのは、非常に分かりやすいわけです。そういった意味で「ショッピング」がそこにないのは不自然ですから、今回追加したということです。

アマゾンとの勝負に勝算は?

――ネット販売ではすでに楽天やアマゾンなどが先行していますが、勝算はあるのでしょうか。

「dショッピング」は2、3年後に年間流通総額を数百億円(※100~200億円とみられる)までにしたいという目標は持っていますが、この数字は既存のEC市場からシェアを奪って作るというものではありません。我々はドコモのキャリアメニューに来て頂けるたくさんのお客様にショッピングを提案して購入頂くという積み上げ型のイメージで目標値を設定しています。「dショッピング」のターゲットはライトユーザー層です。ECを使いこなしているコア層は楽天やアマゾンで買い物していると思います。それはそれでいいと思ってます。我々としては、楽天でもアマゾンでも(商品を)買ったことない方をターゲットにしています。年齢で言うと30代後半や40代前半くらいの主婦層や50、60代の中高年層でかつECの経験がない方。ECはかなり一般化しました。しかし、そうはいってもいまだECを利用したことのない層は大勢います。こうした層に1度でもECを利用して頂ければ十分に大きなビジネスになるのではないかと思っています。

ではそうした方々にECを使って頂くためにはどうすべきか。それには「不安の払拭」が必要だと思います。ECでモノを買った経験のない人は不安ですよね。どのサイトなら安心なのか、会員登録のやり方がわからない、決済の仕方がわからないなどですね。そこについてはキャリアである我々、ドコモ自身がECをやります、ということで不安を取り除けると思います。会員登録についても「dショッピング」の場合は、すでに登録を頂いている携帯電話契約時の個人情報があるので、面倒な会員登録は必要なく、すぐに商品を購入できると。また決済もクレジットカードのほか、毎月の携帯電話代金と一緒に商品代金を徴収する「ドコモケータイ払い」(決済上限額は3万円)にも対応しており、非常に簡単に支払いができます。

また、日々、貯まっていくドコモのポイント「ドコモポイント」でも代金を支払ってもらうことができます。初めてのECの利用の際にハードルとなっていたそうした部分をすべて取り去ることでライトユーザーの不安感を払拭できると思っています。また、これからはスマートフォンでのショッピングというものがキーになるだろうと思っています。これまでPCや携帯電話でECをやっていなかった方々も、携帯電話をスマートフォンに変えた時が1つのきっかけとなって、ECを利用する機会もあるようです。やはりスマホに変えると色々やりたくなるじゃないですか。そうした時に我々、キャリアがECの機能を用意しておけば、先ほど申し上げたような安心感から利用頂けることもあるだろうと考えています。

――客単価はどの程度になると見ていますか。

(1客あたりの月間の客単価は)低めになるだろうと見ています。恐らく楽天やアマゾンよりも500円くらい低い客単価(2500円前後)になるのではないでしょうか。申し上げた通り、利用者の多くはライトユーザーになると思うので。ただ、そこは今後、上がっていくと思います。セールやポイントキャンペーンも行いますし、現状ではどこまで行うがわかりませんが「dマーケット」のデジコンと「dショッピング」の物販を連携させた拡販策も行っていきたいと思います。まだ販売は始めていませんが、例えば書籍を販売する際に、「これを購入頂ければ電子書籍でもお楽しみ頂けます」とか、デジコンとの合わせ技も考えています。

モールではなく直販モデル

――「dショッピング」ではグループでテレビ通販大手のオークローンマーケティングや野菜宅配のらでぃっしゅぼーや。また、日用品などを販売する爽快ドラッグなど3社の商品を販売していますが、「楽天市場」のような“仮想モール形式”ということになるのでしょうか。

違います。ドコモによる「直販」です。そもそも「dマーケット」自体がドコモによる直販モデルなんですね。各パートナー企業さんと組んで、我々がコンテンツプロバイダーとなって、ドコモとしてしっかりと我々のお客様にワンストップでデジコンを提供しているのが「dマーケット」の基本的な思想です。「dショッピング」でも考え方は同じです。ただ、もちろん、ドコモが直接、在庫を持って、自ら販売するというわけではないので、爽快ドラッグさんなどのパートナー企業に事業委託をしているようなイメージです。

――“ドロップシッピング”のような形ですか。

契約の詳しいことは言えませんが、一部、ドロップシッピングに近い部分はあろうかと思います。あくまで我々が販売主体で顧客情報は我々が持ち、爽快ドラッグさんは完全に裏に回ってもらう形となります。

――「dショッピング」では傘下の通販企業の商品も販売していますが、品揃えのほとんどは爽快ドラッグの日用雑貨です。資本関係のないサイトの商品をメーンとした理由は。

先ほども申し上げた通り、「dショッピング」の目的は「dマーケット」全体のラインアップとサービスの拡充になります。ですから、「dショッピング」で販売する商品は何か尖ったモノというよりは多くの人々にとって生活に身近な商材を販売したかったわけです。オークローンマーケティングもらでぃっしゅぼーやの商品もよい商品ですが、そうした理由から特にスタート時点では日用雑貨を中心にしっかり提供するのが必須だろうと様々なパートナーさんと話していた中で爽快ドラッグとの話がまとまったのでこうした形でスタートを切ることになりました。

1ジャンル1事業者をパートナーに選定する

次はアパレル、書籍へ

――「dショッピング」で商品を販売したいと考えるEC事業者は多いと思います。

お陰様で非常に多くのEC事業者から「参加させて欲しい」というお問い合わせを頂きました。もちろん、事業者さんとは話し合いはしていきたいのですが、現時点で急にパートナーや商材を増やそうとは考えていません。我々としては取扱点数が多いことがよいだとは思っていません。大切なのは、お客様にとって必要なモノがあるかどうかです。同様のものが複数の企業で販売して価格競争を行っている状態は想定しておらず、同じモノは1つあればいいと思っています。例えば、家電を扱う事業者は1社でいい。我々は我々が決めた商材ジャンルに応じて、1社をパートナリングしていく形で今後、進めていこうと思っています。

――スタート時点では日用雑貨や有機野菜などのジャンルを取り扱っていますが、次はどんなジャンルを。

アパレルは日用雑貨の次に身近で、嗜好性はある程度高いものの、ECで買って頂ける可能性が非常に高いジャンルです。書籍なんかもそうですね。ですので、次はこの辺に広げていきたいと考えています。本当はすべてのジャンルがあった方がいいのですが、順番論だけの話です。キッズとかベビーなども絶対的なニーズがあると思うので、興味はあります。ただ、「dショッピング」は中長期の事業ですから、あまり焦って色々と立ち上げるというよりはひとつひとつ足元を固めながらしっかりやっていきたいですね。

――例えばアパレルと言っても多くのEC事業者がいますが、パートナーに選ぶ基準は何ですか。

特にないですね。話し合いに時間をかけて様々な部分を見て選んでいます。「dショッピング」のコンセプトは売上第一ではないので、お客様への価値提供をどうしていけば互いにハッピーになれるか、というところではないでしょうか。楽天やアマゾンのようなモール型であれば、ダメなら退店するということになりますが、我々はモール型ではなく共同展開ですから基本的に長く一緒にやっていただきたいと考えています。あとはやはりお客様への配送がきちんとできるなどのバックエンドの部分がしっかりされていることは重要です。とは言え、まずはスタートした日用雑貨を安定的に提供することが先決で、これにはある程度、時間がかかると思っていますので、次の展開などは正直、まだ何も考えていないです(笑)。

――しかし、日用雑貨などは利益率が低そう。ある程度、早い段階で商材を増やさないと儲からないのでは。

先ほども申し上げましたが、“儲け”というよりは、我々の様々なサービスを使って頂けるシーンを増やしていくためにまず日用雑貨を選びました。ですので、そこで飛躍的な儲けを出すというよりは間口を広げて、様々なサイトやサービスを使って頂いて、総合的に“儲け”を出していける構造にできればと思っています。単純にその事業だけでも儲けるよりも、基本はドコモのファンになってもらうことがベースだと思っています。

我々からアマゾンに行ってもいい

――今後の戦略について教えてください。

「dショッピング」はEC全体の需要喚起だと思っています。今、すでにECを利用している人たちのアクティビティを上げていくというフェーズは今でもかなり各社、行っていますので、ここだけでは飛躍的にECの売り上げを伸ばすことは難しいでしょう。今以上にEC売上を伸ばすには、全体数を増やすしかないわけです。それには冒頭の話に戻りますが、いまだECを利用していない方々、例えば、50、60代の方々にどうアプローチして、ECを使っていただけるか。その部分を“彫る作業”をしなければならない。

しかし、この作業をEC事業者がやるのは体力的にもアプローチ的にも相当コストが掛かり、きついものです。そこの役割は我々が担うべきだろうと思います。キャリアである我々には“そういった方々”にリーチできるわけです。それでEC市場全体が少しでも伸びていけばと思っています。アマゾンや楽天は競合だとは思っていません。「dショッピング」でECに慣れたお客様はアマゾンや楽天に行って頂いても全然、よいと思っています。繰り返しになりますが我々はショッピングだけで戦っているわけではないですし。我々は我々のECを行なっていきます。

取材後メモ

NTTドコモが始めた直販サイト「dショッピング」。確かに「ECを利用したことのない層」にアプローチできるというのはキャリアならではの試みと言えそうですし、注目度は高そうです。しかし、本当にこれまでECを使わなかった層が「キャリアがちょっと物販をやったくらいで使うようになるのか」と懐疑的な声も多いようです。しかし、ドコモがすでに行っている「デジタルコンテンツのEC」では、やはりドコモがデジコン販売を始めたことで新たにデジコン購入者が増えたという結果も出ているようです。「dショッピング」にもまずは期待してみたいです。

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