楽天グループは8月1~4日、都内の「東京ビッグサイト」で、体験イベント「楽天オプティミズム2 LINEヤフーが運営する仮想モール「ヤフーショッピング」では、今年から始めている「無在庫転売」対策が功を奏しているという。商品の「在庫証明審査」を今年1月から導入したほか、4月15日に「ストア運用ガイドライン」を改定。個人事業主の出品数は500点を上限とし、それ以上扱いたい店舗に対しては審査を行うようにした。同モールでは昨年度、無在庫転売を行う事業者が効果していたが、こうした対策により「大幅に減少した」(執行役員でコマースカンパニーショッピング統括本部長の畑中基氏)という。
「転売屋」が大幅減
無在庫転売とは「自社では在庫を持たず、出店者がアマゾンなどで代理購入した商品を直接消費者に配送する」というもの。無在庫転売をする店舗はヤフーショッピングだけにあるわけではないが、出店費用が他の仮想モールより安いこともあり、同モールをターゲットにする「転売屋」が目立っていた。
畑中執行役員は「今年度、どれくらいの無在庫転売店舗を退店させたかは答えられない」としながらも、「取り組みを始める前は、他の出店者やメーカーから問い合わせ・申告・クレームが来ていた。ただ、現状は無在庫転売に関するクレームはほぼ無くなっている」と説明。さらには、無在庫転売店舗で起きがちな「注文後のキャンセル」が減少。無在庫転売店舗に、一定基準を超える配送サービス「優良配送」のマークが付与されるケースも減っている。畑中執行役員は「対策をすり抜けている店舗があるのは事実なので、さらに対策を強化していきたい」とした。
また、こうした店舗で消費者が購入できないようにするため、モール内検索に関してもロジックを変更している。「検索結果に出さないようにするため、リアルタイムで(無在庫転売店舗を)検知できるようにしていきたい」(畑中執行役員)。
出店・途上審査を強化
9月12日の記者会見では、同モールにおける不正対策の現状が説明された。同社が進める「安心・安全への取り組み」は、「信頼できる店舗の厳選」「不適切な店舗や商品の排除」「不正行為の防止」の3つ。「信頼できる店舗の厳選」については、在庫証明審査の実施、携帯電話やフリーアドレスからの申し込み禁止により、出店審査の合格率が25.2%から11.2%まで低下。畑中執行役員は「審査が厳格化したことが広まり、悪意ある事業者の申し込みが減った」と説明、不正が疑われる店舗の出店が抑制されているという。
「不適切な店舗や商品の排除」に向けては、出店後の途上審査を厳格化。オンライン上で本人確認する仕組みであるeKYCを導入したほか、不審なアクセスログなどをもとに、不正疑い事業者をリスト化した。こうした取り組みにより、2024年上半期におけるガイドライン違反による休店数は253店で前年同期比50%減、同じく退店数は684店で同41%減となっている。
また、商品面ではブランド審査の強化を進めている。22年12月より個人業主の受け入れを不可としたほか、23年4月からは仕入れ書類の提出を必須化。また、23年10月にはファッション以外のブランドを追加した。さらに、24年9月からは審査対象商材に化粧品を追加している。審査基準を満たさない場合は、商品削除・非公開の上、休店や退店を実施している。24年上半期におけるブランド審査合格率は、前年同期から14.7ポイント減の74.3%、同じくブランド未審査ストアの商品削除数は、前年同期比31%増の2292となった。幅広い商品の審査が可能となったことで、仮想モールとしての安全度が高まったとしている。
偽ブランド品対策も進めており、権利者からの申告に基づき出品物削除などを実施。出品審査の厳格化や途上審査の強化、個人事業主への出品数制限等の対策により、1権利者あたりの権利侵害に関する平均申告数は、23年上半期の46.1から24年上半期は10.2まで低下した。
やらせレビュー対策も
「不正行為の防止」では、23年10月に景品表示法が改正され、ステルスマーケティング行為が違法となったこともあり、やらせレビュー対策を強化している。データを分析しながら、一定のしきい値を設けて「やらせ」を判定。やらせと定義したレビューについては一括で削除している。昨年10月1日~9月12日までの合計で、対象店舗数は3150、削除したレビュー件数は59万7234件にのぼるという。畑中執行役員は「レビューは以前よりもかなり公正公明になったのではないか」と評価する。
不正決済への対策も進めている。同モールでは「自社開発の不正検知システム」「EMV3Dセキュア」「24時間365日体制で人の目視による判定」という3段階の判定フローで不正取引を監視している。一昨年8月にEMV3Dセキュアを導入したことや、今年4月に不正検知システムの判定精度を改善したことなどにより、24年上半期の被害発生金額は前年同期比82.9%減となった。
トラブル「ゼロ」へ
今後の不正対策については、グループ企業と連携した出店審査を実施。また、無在庫転売店舗の情報を集めるために、店舗専用の通報フォームを設置する。さらに、発送遅延などクレームを繰り返し発生させる店舗への対応も新たに開始するという。
既存の取り組みも強化。偽造品など、顧客に不利益が発生する商材への審査を導入。やらせレビューに関しては、やらせかどうかの自動判定と、ヤラセレビューを繰り替えるユーザーへのペナルティーを行う。また、モール内パトロールにおいてはAIを導入。過去取引データの学習で不正の疑いがある商品を判定、パトロールの効率化と不正検知の精度向上を図る。
同社ではこうした取り組みを通じ、2027年までに店舗とユーザー間の取引トラブル「ゼロ」を目指すとしている。