サントリーホールディングス(以下、サントリー)が医薬品事業に進出する。OTC医薬品大手の第一三共ヘルスケアの全株式を取得。長期的に酒類市場の縮小が見込まれる中、
「食」から「医」をつなぐ健康領域で、2035年に売り上げ倍増を目指す。
健康領域の事業、35年に売上倍増へ
サントリーは、2026年6月に第一三共ヘルスケアの発行済株式の30%を取得する。27年6月に40%、29年6月に30%と段階的に所有割合を引き上げる。取得価格は、2465億円に上る。
第一三共ヘルスケアは、解熱鎮痛剤「ロキソニン」、風邪薬「ルル」、胃腸薬「ガスター10」などOTC医薬品をドラッグストア中心に手掛ける。ボディケアの「ミノン」、第一類・第三類医薬品の「トランシーノ」、サプリメント、オーラルケアの有力製品も幅広く展開する。

25年3月期の連結売上高は約867億円で、営業利益率は約15%(個別業績は、前年比15.7%増の約760億円、営業利益は同7.6%増の約129億円)。3期連続の増収増益で好調に推移する。
サントリーは、主力の酒類事業が世界的なアルコール規制の強化で、長期的に市場のシュリンクを避けられない。グループには国内外売上高約1400億円、健康食品通販トップシェアのサントリーウエルネスがあるが、グループ連結に占める売上比率は約4%。ここ2年は国内売上が減収着地。広告価格の高騰、少子高齢化、競合増加に伴う新規獲得の悪化で苦戦する。24年に発生した紅麹事件もサプリメント全体に対する消費者の不信感を高め逆風だ。
サントリービバレッジ&フードも「セサミン」、「ロコモア」等のブランドを活用して健康志向飲料の開発を進め、健康領域で事業を強化し始めている。
買収を通じ、予防から不調時の対処にいたるセルフケア・セルフメディケーション領域で成長を図り、「意気込みとしては2035年までに健康領域の売上高を現在の倍にしたい」(同)としている。
第一三共ヘルスケアは、独立した研究開発、品質管理体制を持つ。健食の品質・製造管理が厳しくなる意味でもプラスだ。「現時点で組織変更、将来的な合併・再編の予定はない」(サントリー)としているが、早期にPMI(統合プロセス)タスクフォースを立ち上げ、両社が持つ商品開発力、ブランド力、マーケティング力を融合させる。
第一三共ブランド、3年で変更へ
健食通販最大手による買収に業界関係者の多くは驚きを隠さない。「2期連続の減収。相当の危機感があるのでは」、「健食市場は頭打ち、酒類市場は縮小する中で成長を医薬品に求めるのは理解できる」という声がある。買収額には「単純計算で投資回収に20年以上。高い買い物になるのでは」といった見方もある。
買収の成否に関わる重要なファクターは、「第一三共ブランド」からの転換だろう。「第一三共を含むブランド名、商品名は100%譲渡までに変更される予定」(サントリー)としている。
「ロキソニン」など第一三共ヘルスケアの製品は高い知名度を持つが、顧客の支持は製薬会社に対する信頼にひもづいてもいる。業界関係者は、「サントリーのロキソニンが消費者に受け入れられるかだ。競合医薬品もある中で勝ち残れるか。統合を進めサントリーのワンブランドでつなげた時に失うものもあるのではないか」、「酒類メーカーとして高い認知がある中で大衆薬市場に踏み込むのは、リスクがある一方、明確にポジショニングしなければシナジーも作れない」といった見方を示す。
「国内企業前面に」要望も
長期的に酒類市場の縮小が見込まれる中、酒類各社は事業の多角化を進めている。
サントリーウエルネスは、酒類のほか、飲料・食品を展開するサントリービバレッジ&フード、健康食品通販を行うサントリーウエルネスを持つ。健康食品市場は、約2兆円あるが中小を含め市場を分け合っている市場だ。サントリーウエルネスがトップシェアだが、市場は、少子高齢化、競合増加、広告価格の高騰などを背景に各社苦戦している。こうした状況が続く中、サントリーも国内で飛躍的に成長を果たすのは難しいとみられる。
医薬品事業で先行しているのはキリンホールディングスだ。80~90年代、事業多角化の一般で酒類各社は医薬品事業に参入したが、サントリー、アサヒホールディングスは撤退。サッポロは、不動産事業を除き、酒類事業に全振りしている。
キリンホールディングスは、酒類や飲料の事業利益率が11~12%であるのに対し、「医薬品」は同20%超と利益面で稼ぎ頭の事業に成長している。同社もファンケルの完全子会社化で「食」と「医」をつなぐ事業を強化している。
ただ、キリンの場合、医薬品事業は医療用医薬品、サントリーはOTC医薬品という違いがある。キリンがファンケルの健康食品事業を含め、事業間の関連性が薄いのに対し、サントリーは、OTC医薬品で食品、飲料などを含め顧客接点が近い。飲料、食品の流通販路とのシナジーも生み出しやすい素地がある。それぞれの強みを活かし、食品から医薬品領域をつなぐ事業をどう育成するか注目される。
「食」から「医」をつなぐ事業実現へ
サントリーは、これまで酒類に対する厳しい広告規制がある中でブランドを磨いてきた。マーケティングの知見は、同様に表示規制の厳しい健食でも活きており、ほかのメーカー系健食通販が100億円前後の売上高でとどまる中、1000億円を超える巨大企業に成長させている。
今回、参入したOTC医薬品市場も消費者認知を目的とした広告投資が購買を左右する市場でもある。すでに「ロキソニン」など高い知名度のある製品があり、マーケティングに長けたサントリーとも相性がいい。「第一三共ブランド」から「サントリーのロキソニン」へとどのように転換を図るか注目される。
一方で、「医薬品は、薬機法を所管する厚生労働省による品質、広告監視が厳しく、グレーというより白黒はっきりした世界。今以上のコンプライアンスを求められる。厳しいルールがさまざまな面で足を引っ張る可能性はあるのでは」と見る関係者もいる。
第一三共は、OTC医薬品、化粧品・に費用品の流通販売を中心に事業展開しており、この点ではチャネルシナジーを発揮しやすそうだ。サントリーは、通販では圧倒的地域を築くが、流通では、ファンケル、DHC、大塚製薬など総合サプリメント企業の後塵を拝してきた「単品リピート通販モデル」を軸としている企業でもある。
最近のドラッグストアはダイエット、アイケアなど〝悩み別〟の棚づくりが浸透しており、、「健食の棚で健食を買わない」。目薬の横に機能性表示食品「ロートV5」を置き、内外ケア提案で成功したロート製薬のように、流通チャネル開拓の余地はある。第一三共とのシナジーで酒類、飲料に続き健康領域事業をどう収益の柱に育てるかも注目される。