適格消費者団体の消費者機構日本(COJ)では、ネットプロテクションズ(NP)の後払い決済サービス「NP後払い」の支払いを利用者が滞納した際、遅延損害金に加えて手数料の支払い義務を課す条項が消費者契約法に反していとし、NPを相手取り東京地方裁判所に提訴した。(5月号で既報)。利用シーンが広がる後払い決済。判決によっては、サービスを利用する通販企業にも影響を及ぼす可能性がある
「一般的な慣行」と主張
NPでは、提訴を受けて「真しに受け止めている。現在内容を精査して対応を進めているところだ」(マーケティンググループの真田紀子氏)と説明。COJとは2025年6月と10月に協議を実施していた。ただ「差し止め請求にまで至るとは考えていなかった。協議を続けていけば落としどころはあるのではないかと思っていた。両者の主張が対立する中で、すり合わせられるポイントがあるのではないかと考えていた」(同)と明かす。
COJでは、延滞事務手数料に関するNP規約のほか、NP軽過失の全部免責条項、消費者の抗弁権を放棄させる条項にしても「不当条項のため無効」だとし、裁判外での申し入れを行ってきたものの、是正措置が取られなかったことから、東京地裁に提訴することにしたとしている。
今回の裁判で大きな論点となるのが「延滞事務手数料」の解釈だ。NPでは3月17日に公表したプレスリリースにおいて、「期限までに支払われない場合、利用者から手数料を徴収することは、他の後払い決済事業者やクレジットカード発行会社においても広く行われている一般的な慣行であると認識している。当社はこれまでも弁護士等複数の専門家と継続的かつ多角的に協議を重ね、消費者契約法
が目的とする『消費者保護』の立法趣旨を損なうことのないよう、手数料の金額や適用条件等について常に慎重な検討を行なってきた。」と説明した。
手数料は役務への対価
そもそも、NPは延滞事務手数料をなぜ設定しているのか。「損害賠償の予定や違約金という観点ではなく、『NP後払い』における役務の対価という考え方で徴収している。裁判でも最大の論点となるだろうが、係争中のためこれ以上の考えは示せない」(同)。
後払い決済の場合、消費者に請求書を発行するわけだが、未払いの場合は再度請求書を発行しなければならない。請求書の再発行、さらには督促メールなどの業務コスト、つまり回収業務という「役務」への対価が発生することになる。ただ、延滞事務手数料は1回あたり税込297円。支払い期限日より2週間程度で、1回目の延滞事務手数料が加算、最大で3回まで発生するというルールだ。回収業務だけを「役務」と捉えると、それを補てんするための延滞事務手数料は「損害賠償の予定」と解釈される余地も出てくる。さらには、300円近い手数料は「実際に要するコストだけを徴収しているのか」という問題もある。
そのためNPでは「延滞時における役務・サービスの提供があり、それに対して当社は対価を徴収している。あくまで当社自身が『NP後払い』という支払い方法を引き続き提供する、ということが『役務』であり『サービス』。その対価だと理解してもらいたい。それ以上の部分については、係争における重要論点なので、詳しい回答は差し控えたい」(法務グループ法務グループ統括責任者の門倉紘子氏)とする。
NP延滞事務手数料を徴収するようになったのは、2024年7月1日からだ。同社では当時「昨今の物価高騰の影響による費用の上昇に伴い、支払い期限を過ぎて一定期間が経過した場合に延滞事務手数料を加算することになった」と説明していた。手数料算定の根拠については「サービスレベルや、債権管理の事務対応を踏まえたもの」(真田紀子氏)という。
手数料は役務への対価
CPJにでは、「NP後払い」を利用した消費者から「支払いを遅滞した際に、遅延損害金に加えて『延滞事務手数料』の支払いを求められた」という情報提供があったことを契機にNPとの意見交換を開始した。
COJでは、差し止め請求に踏み切った理由について「NP側から改善する意思がない、という回答があったため、提訴に至った」(堀川直資弁護士)と説明。同時に申し入れを行っていた、NP軽過失の全部免責条項、消費者の抗弁権を放棄させる条項についても、「変更する」という明確な返答がなかったことから、あわせて提訴している。「当機構とすれば『条項を削除するかどうか』なので、折衷案はありえない。そういう意味での歩み寄りはなかった」(同)。
争点となる「延滞事務手数料」に関しては「損害賠償の額の定めであると捉えている。遅延損害金以外にこうした手数料を取る行為は、消契法9条1項2号に抵触している」(同)と主張。「役務の対価である」とのNPの言い分については「役務を提供するにあたり生じる損害に関する規定にすぎないので、損害賠償の予定だと認識している。延滞した際に生じる費用は事業者にとって損害になるので、それに対してあらかじめ損害賠償を定めているのではないか」と一蹴する。
NPが延滞事務手数料を導入したのは24年7月。同年12月には「GMO後払い」も延滞事務手数料を導入している。B2C後払い決済の場合、加盟店からの決済手数料収入が収益源となっている。
そのため、延滞が増えれば回収コストが増大し、収益をむしばむことになる。そのため「損害賠償の予定」をあらかじめ約款に組みこむ形で、事業者が負担すべきコストを消費者に転嫁しているのではないか、というのがCOJの主張だ。「NPは『業界全体の慣行』というような言い方もしていたが、法律に照らして問題がある条項であり、業界全体で悪いことをしているという認識だ。延滞時に発生する費用は、遅延損害金の中で解決すべきだろう」(堀川弁護士)。
COJによれば、延滞事務手数料の是非を巡る裁判については「把握していない」という。COJでは22年、「メルペイ」に延滞事務手数料に関する申し入れを行い、「遅延損害金ではない」との回答があったものの、遅損害金の定めを廃止し、初回の手数料を控除した上で返金する対応を行ったことから、協議を終了したという経緯がある。
宮城朗弁護士は「金額は小さいので、裁判所に『重い問題』と捉えてもらえるかどうか、という心配はある。ただ、債務者側の事情に関わらず、一律手数料を徴収するのはおかしい。債権回収費用は事業者が負担すべきコストであり、金額は小さくとも間違っている」と語気を強める。堀川弁護士も「今回は小さな金額だが、こうした規定が許されるなら、もっと高額の手数料を徴収する規定を設ける事業者が出てくる可能性もある。いろいろな名目で消費者の負担が増えるのはよろしくないので、歯止めをかけたい。今回の訴訟は別の事業者に与える影響も大きいのではないか」と話す。
業績への影響も?
延滞事務手数料が認められない場合、後払い決済事業者のコスト構造に影響する可能性がある。実際に、NPでは延滞事務手数料を徴収するようになった2025年3月期の決算説明資料において「延滞事務手数料などが寄与し粗利が増えた」と説明している。延滞事務手数料が認められないとなれば、業績への影響が出る恐れもある。
今回の提訴について、後払い決済事業を手掛ける企業の幹部は「必要経費と考えて徴収してきたし、弁護士にも確認は取っているので、業界内でも問題と捉える風潮はなかった」とした上で、「裁判の結果次第では対応を考えなければならないだろう。督促のやり方を変える必要もある」と話す。さらには、加盟店手数料の見直しや与信の厳格化につながる恐れも。NPでは「(今回の訴訟に対して)適切に対応した上で、(加盟店に対して)説明責任を果たしていきたい」(真田氏)とする。