金坂瑞樹●大網代表取締役社長兼CEO  「人材」、「商材」の両軸でグローバル化推進

 アニメ、フィギュア商品や玩具などを取り扱う大網は、6月1日付で社長交代を行い、金坂瑞樹代表取締役副社長が代表取締役社長兼CEOに就任した。近年、同社では大型物流倉庫への移転や、実店舗事業の横展開など、次の成長に向けた戦略を次々と打ち出しており、着実に成果を上げている。同業界は国内だけではなく、海外も含めて拡大が続いている有望な市場であるだけに、今まで以上にグローバルな視点を持った広い視野での舵取りも求められている。同社が思い描く今後の成長戦略に迫る。

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国内3店舗それぞれで特色を持った運営図る

売上高は前年比で2桁成長を維持

─近年の市場の推移や業界の共通課題、トピックスなどについて

 当社通販事業の主取扱商品であるアニメのキャラクターグッズやフィギュアなどのホビー通販市場は堅調です。少子化の影響を受ける男児女児玩具市場とは異なり、キャラクターホビー商品の購入金額は、日本では全年代性別問わず、また世界規模でも増え続けていると考えられ、市場は健全に推移していると言えるでしょう。

 一方で、フィギュアについては商品価格の高騰が著しいことが、ここ数年の業界の課題です。数年前まで標準的な8分の1スケールのフィギュアの価格は、1体1万円台に収まっていましたが、今は2万円台が標準になり、3~4万円台も多くあるような状況です。原材料費や製造国の中国での人件費の高騰が背景にあり、また、メーカーとしても少しでも顧客満足度を上げるために、高額化に見合うだけの商品サイズの大型化を志向し、結果としてさらに高額化が進んだ面もあります。安価であれば何でも良いというような代替品がありえない特殊な趣味嗜好品なので、既存顧客は本当に欲しいモノはいくら高くなっても買うという消費行動に支えられて当店の売上高も伸び続けています。ですが、現在の売り上げが維持できても、フィギュアの初回購入が高いハードルとなり新規顧客層が入り辛くなっては、中長期では問題になるでしょう。今は大手を中心にフィギュアメーカー各社が取り組む、スケールフィギュア市場の入口商品となる低価格帯のミニフィギュアブランドの開発に合わせ、販売店としての当社もそれらの新規顧客層への普及に向けて、販促活動を行っている状況です。

─前期の2024年5月期の通販業績を振り返って。

 通販事業売上高は前年比で11パーセントの成長を遂げて393億円となりました。その前の3期と比べると成長率は緩やかになりましたが、2桁以上の成長率が続いていることに変わりはありません。

 売上増の要因としては、期間中に人気の原作タイトルは常にあったのですが、少数の特定のタイトルの売上割合がすごく高かったということではなく、万遍なく売り上げを伸ばしたと感じています。長期視点で振り返ると、もともと当社販売事業は、開始当初より通販店ならではの低コスト体制で、成長分野でありながらまだニッチであったホビージャンルに絞り一番店を目指して大規模かつ効率的に展開しました。それにより当時の競合他社と比べてコストカットが可能となり、薄利多売のディスカウントプライス店戦略で支持を集め、成長し続けてきました。一方で、ある程度事業規模が大きくなった時点から、正反対の戦略として、他店と競合しないための当社限定特典施策や独自商品の調達販売展開も、手間はかかるものの高利益と中長期での安定成長をもたらす要素として重視してきました。ディスカウント戦略と高付加価値独占戦略の組み合わせが、機能し続けていることも、変わらず成長要因としてあったと考えます。独占戦略での売上増加要因を直近数年に絞ると、新興海外メーカーのフィギュア商品を独自輸入し、有利に販売できたことが大きかったです。

倉庫移転で出荷能力が向上

─日本から海外に向けて販売する越境ECの近況について教えてください。

 コロナ禍により世界中で在宅娯楽需要が高まった時期とネット映像配信サービスの拡大時期が重なったことで、アニメ視聴が世界的に隆盛となり、そこから当店でも越境ECの注文数が爆発的に増えました。2009年に海外事業を始めた際には、ゼロから始めた海外事業の方が成長率は高くなり、早々に国内事業の売上高を追い越すかと考えていました。しかし、国内売上も期待以上に堅調に伸び続けたため、国内海外の売り上げはおよそ1:1までいった後に、直近3期ほどは同比率を維持しています。

─海外販売が成長する中での課題とは。

 海外販売の成長では、やはり出荷が一番の課題となりました。もともと海外への出荷は顧客の国際送料節約のために、まとめて注文されることが多かったです。そこへ、注文量自体が大幅に増えたことと、主力商品のフィギュアが大型化したことによって、一時は出荷能力向上が追いつかず、予約されていた新商品が入荷しても出荷までに多くの日数がかかってしまう時もありました。しかし、2023年11月に「大網相模原物流センター」(神奈川県相模原市)と名付けた床面積2万3,100m2超の大型の物流センターに移転したことで、主物流拠点の出荷能力が倍に向上し、以降は徐々に出荷状況も改善して、今では突発的なケースを除いて配送の遅れもほぼ無くなっています。

 特に海外向け出荷はどうしても途中の配送日数が多くかかるので、せめて出荷するまでの日数を減らすことで、早く届けることができるよう努めています。

─国・地域別で見た販売先の伸びや、利用しているチャネルは。

 海外事業開始当初から変わらず、アメリカが圧倒的な割合で売上が一番高いです。二番手以降も、カナダやメキシコの北米地域で、アジアヨーロッパといった他の地域も伸びていますが、北米の伸びが上回っています。メインの海外販路は、自社運営の英語版通販サイトです。

─海外製の商品は日本市場でも認知があるのでしょうか。

 日本作品に影響を受けた中国や韓国発のスマホゲームが日本でもヒットを連発しています。それらの作品のキャラクターがグッズ化・フィギュア化されて、当社売り上げにも貢献しています。日本では当店でしか入手できない商品が、その作品のファンの当店初利用に結びつき、既存の顧客層に対しても当店を利用し続ける動機となったことも、近年の継続した成長に結びついていると考えています。

─実店舗事業との相乗効果について。

 実店舗事業は、全店舗で非常に好調です。実店舗に来店して当社の通販を知る。また、通販を利用して当社の実店舗を知る。その両方のパターンがあります。実店舗内で開催する展示販売イベントも、その店内だけで完結するものではなくて、より売り上げの大きい通販とも連動して行うことで、実店舗・通販の双方の顧客と売り上げの増加を目指すことが当社O2Oの基本方針です。

─実店舗に関して、7月にフィギュアを専門に取り扱う「あみあみ秋葉原フィギュアタワー店」を開設しました。

  「フィギュアタワー店」は当社の実店舗事業で初めて、秋葉原の目抜き通りである中央通りに面したビル1棟を丸々使って出店した名前の通りのフィギュア大型専門店です。上層階にはコアユーザ向け商品を配置していますが、中央通りに面した1階は、ライトなアニメファンとファミリー向けの商品を主に置いてあり、訪日客の方も気軽にお土産として買えるよう心がけています。

─現在、池袋店と合わせて3店舗ありますが、それぞれの店舗の役割や位置付けとは。

 

 フィギュアタワー店以外の残りの2店舗について、まず、秋葉原のもう1つの実店舗である「ラジオ会館店」は旗艦店のような位置付けで、フィギュアやキャラクターグッズのほか、プラモデルや模型など通販で扱っているホビー商品ジャンルをほぼ網羅しており、イベントスペースも一番広くとっています。

 また、池袋の新店舗「池袋miniフェア・グッズ店」については、立地重視で売り場が小さめのアンテナショップ的な役割です。東京都心では、同じオタク街でも「秋葉原は男性客」、「池袋は女性客」が多いという傾向を受けて、女性向けや男女ともに人気の作品のグッズなどをメインに取り扱っています。

 そして、当店の顧客層は男性の割合が多いため、売り上げよりも新規女性顧客の当店認知や女性向け作品の版権元・メーカーとの関係強化を重視しての運営となっています。各店ともすでに当店顧客である層のリピート購入を見込むということだけでなく、実店舗を訪れたが当店を認知していない訪日客、自分の好きな作品のイベントで初めて実店舗を利用した国内客など新しい顧客層も取り込んでいくことを期待しています。

─特に印象に残っている成功した実店舗イベントとは。

 直近では、(育成シミュレーションゲームの)「アイドルマスター」のグッズの展示販売イベントです。商品化の対象となる登場キャラクター数がとても多い作品ということもあり、通常はラジオ会館店のみで行うグッズの展示イベントを、秋葉原の2店舗と池袋店の計3カ所で同時開催しました。商品点数が多くても自分の推しキャラの展示が省かれることなく、すべてのキャラのグッズ展示を、各店舗を巡って余すことなく見られる内容のため、作品のファンの方々に好評であったと考えています。展示品の予約販売自体は、通販でも行うなど、前述の通販と実店舗で連携した施策が、実際に売り上げにつながりました。また、定番催事としては、年末年始に“フィギュア福袋”企画を通販と実店舗で行っています。これは、よくある売れ残りセール品の詰め合わせの福袋ではなく、人気商品のセットを通常価格の半額以下などで販売しているもので毎回好評です。何が入っているか分からない開封行為自体にエンタメ要素があって面白いため、ホビー系のインフルエンサーの方々に取り上げていただくことも多くあります。それが当店自体や当店がこうしたイベントを行っていることを広く認知してもらえるきっかけにもなっています。

─今の話に関連しますが、ステマ規制が施行された中、インフルエンサーを使ったマーケティングの仕組みは変えているのでしょうか。

 もともと、こうした販売品紹介や当社の展示イベントの取材などを企業案件としてお願いするということはほとんどなくて、インフルエンサーの方が面白いネタとして、自主的に取り上げてくれていました。もちろん案件としてお願いする時は必ずプロモーションの表記をつけるなどの法令順守はしています。

─自社でライブコマースや配信番組を行うことはありますか。

 ホビー商品は基本的に各店舗が予約を受けてから、メーカーが取りまとめた数量を生産する、いわゆる受注生産体制です。そのため、大量に在庫を準備して配信プロモーションで一気に販売する形のライブコマースの販売手法とは相性があまり良くなく、自社で積極的に行ってはいません。代わりに新作商品情報や、フィギュアの展示イベントをオウンドメディアとして取材して、「X」などのSNSで発信したり、「YouTube」で動画配信したりすることは、当店ならではのコア顧客層へのサービスを兼ねた販促・ブランディング施策として積極的に行っています。

流通事業、メーカー事業の新規分野で拡大目指す

成長期から、安定期へと移行

─今期(2025年5月期)の事業見通しについて。

 ここ4期ほどは通販売上高が前年比で10~30%と毎年2桁成長することができていましたが、今期の通販売上高については、前期比5%増程度の想定を持っています。継続して毎年2桁成長することを目指していることは変わらないのですが、この4年にその想定成長率を大きく超える成長が続いた結果として、前述の通りに注文の急増に物流体制が間に合わず、顧客の期待に応えられないこともありましたので、まずは次の5年の安定成長のために、物流センターの本格稼働の効率化調整期間としたい。そして急増した売り上げの中には在庫リスクの高い商品群もあるため、利益率の観点から精査を行い、一部の商品売上の増加傾向には意図的にブレーキもかけています。

 通販事業以外については、実店舗事業がグループ事業全体の中で通販につぐ二番手の売り上げに育っています。訪日客需要も衰えず、越境ECとの親和性も高いため、新店舗も増やしながら、今後も安定して伸ばしたい事業です。

 そのほかの注力事業としては、「流通事業」と「メーカー事業」があります。今までは急増する通販事業を支えることを第一目的として人材配置を行っていたのですが、新規事業として成長が見込めるこの2つの分野にもそれぞれリソースを割いていきたいと考えます。

 流通事業に関しては、前述の通り中国メーカーから独自に仕入れた商品を、日本国内や、中国以外の世界各国での販売元的立ち位置として販売し、売り上げを伸ばしていますが、顧客対象が広い商品については、あえて短期利益重視の当社のショップ専売とせず、一般流通とすることでそのメーカー商品の世界販売数量の最大化を共に目指すことで、メーカーや卸先となる当店とは性格の異なる各国の大型ショップとの長期パートナーシップを続けることを重要視しています。一方で独占販売としない場合でも、代わりに当店専用の店舗特典や限定バージョンを用意してもらう施策は変わらず行っています。

 自社のメーカー事業についても、当社が大手ショップとして持っている膨大な販売データをもとに、こういった商品を消費者は求めているのではないか、生産小売りの形だから実現するニッチな商品化があるのではないか、という新しい考えも導入しながら進めています。場合によっては、そういった商品を自社ではなく、提携メーカーに作ってもらうコラボメーカー事業も始まっています。仕入先の既存のメーカーと競合関係になるのではなく、むしろ共存関係として新しい市場を広げられないかという想いがあり、実際に売り上げも伸びています。

─海外で日本文化を認知したり好きになる場合、日本のアニメやゲームなどが入口になることもあるかと思います。大網のようなビジネスモデルだと、他の業種と比べて海外の人材を取りやすい面はありますか。

 それはかなりあると思います。海外出身スタッフの多数は、アニメなどの日本発のポップカルチャーが好きで、日本の大学に留学したい、日本企業で働きたいという夢を叶えてきており、かなり勉強もされています。母国語と日本語のほかに英語も堪能なトリリンガルの方も少なくありません。アニメも吹き替え版ではなく日本語のオリジナルを聞きたいと勉強されてきたような方も多いので、日常会話も非常にうまくて、日本の取引先とも楽しくやりとりできているようです。

─国際人材を積極的に起用する意味とは。

 主業の通販事業売上の半分を占める越境EC事業のためだけではなく、流通事業やメーカー事業などの新規事業でも、海外割合を高めていく目的があります。一方で、実際に海外出身の社員は増えていますが、海外出身者だけを集めた事業部を作って日本事業と切り分けそれぞれ独自の道を行くという方針ではありません。全社全スタッフで常にグローバル意識が持てること、組織のグローバル化を意図して人材配置を行っています。

次世代に向けて若手の活躍を後押し

─2024年6月に社長に就任されました。

 当社は、もともとセールスプロモーション事業が本業であったのですが、EC黎明期の1999年末に私が社内ベンチャー的な形でホビー通販事業を始めたところ、売り上げが急拡大して通販事業が当社主業となった経緯があります。これまでも私の立場が代表権をもった副社長だったので、代表取締役社長就任で経営方針が大きく変わるというようなことは、実はあまりありません。

 しかし、キャラクター業界は若い感性で動いているところがあり、EC事業もグローバルな展開も、最新の知識と柔軟な発想が重要です。そのため、私が社長に就任したばかりではありますが、次代に向けてより若く、より多様なスタッフが活躍できる体制にできるだけ早く組織変革していく姿勢は社内外に明確に示していきます。

─就任後に社内に向けて声掛けしていることなどは。

 主に新卒入社の若い人たちに特に伝えていることがあります。今は日本のポップカルチャーが人気となって、その商品を世界に向けてECで販売したり、訪日客に実店舗で販売したりして成功をおさめてきました。しかし、アニメ系カルチャーの発信国が日本だけという時代は過ぎていて、今は他国から発信された日本スタイルのアニメやゲームも世界各国で流行しており、日本の消費者にも受け入れられています。アニメのキャラクターグッズ・フィギュアなどのホビー商品を主商材としていくことには代わりありませんが、日本発の作品の商品を海外に届けるという考えから一歩進んで、全世界にある良いものを全世界の消費者により便利な形で販売し、時には新たに作り出して、全世界に広めていく。そうした取り組みが常に新しいチャレンジを続ける当社の次の使命であり、また今後の成長戦略であると考えています。



金坂瑞樹(かねさか・みずき)氏
1974年生まれ、1999年に入社し、事業部長や代表取締役副社長などを経て、2024年に代表取締役社長兼CEOに就任

◇ 取材後メモ

アニメやゲーム、キャラクターグッズなどは日本が誇るカルチャーの1つとして世界中の支持を得ています。趣味系商品でありながら、国内外に多数のコアファンを抱えているため、物価高で低迷する現在の小売市場の中でも堅調な成長を維持しています。しかしながら、金坂社長の言葉にもあったように、業界の将来を見据えると、新しい顧客層の開拓は欠かせないテーマです。入口商品の企画開発や、海外作品の開拓などはまさにその打ち手となるでしょう。さらなるファン拡大に向けた同社の次の展開が注目されます。

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