流通額ではアマゾンと楽天市場が2強、離された3位がヤフーショッピング。ここ最近のEC業界はこの構図が続いてきた。こうした中で、C2Cをメインとしてきたメルカリが、B2C向けEC市場の「3強」に挑戦状を叩きつけた。「初期費用・月額費用ゼロ」を武器に、「元楽(元楽天)」チームでヤフーショッピング、そして覇者であるアマゾンと楽天市場に挑む。
メルカリでは「メルカリ」上のECプラットフォームである「メルカリShops」を2021年から展開。当初は「コロナ禍で苦しむ地域の生産者のための販路」という色合いが強かったものの、近年は機能的にも「仮想モール」へと近づくとともに、大手EC事業者も続々参入。エディオンやアイリスオーヤマ、さらにはワインECの「京橋ワイン」や、海鮮ECの「甲羅組」、腕時計の「ななぷれ」といった知名度の高い大手ECも出店している。流通も右肩上がりとなっており、メルカリShopsの今年6月における流通総額は、昨年6月の約2.7倍まで拡大している。
また、人材面でも、2トップである江川嗣政執行役員は楽天(現・楽天グループ)出身、藤樹賢司MercariMerchantDirectorはロコンドCOOを務めた経験があり、どちらもEC業界出身だ。江川氏だけではなく、メルカリShops事業担当は「元楽」が非常に多いのも特徴で、極めつけは9月1日に発表された、高橋理人氏(=写真)のメルカリShops戦略顧問就任。高橋氏は楽天の元常務執行役員で、楽天には2007~16年に在籍。記録的な流通額を叩き出したイーグルス優勝セール時など、楽天市場のトップを務めた時期も長いことから、大手EC事業者トップにも知己が多い。メルカリのB2C向けECにかける「本気度」が伺える。
2024年8~9月に開催した買い物イベント「超メルカリ市」は、初めてB2Cにスポットを当てた企画だったが、新品の売上比率は64%に。炭酸水やワインセット、海鮮、わけあり商品などグルメが好調だったほか、新規出店したアイリスオーヤマは、50%割引の洗剤セット・ティッシュセット、1000円の家電などを販売、好調に推移したという。
こうした「まとめ買い商品」は楽天市場の「スーパーセール」などでランキング上位に入ることが多い。つまり、仮想モールにおける大型セール時に売れる商品と似通った傾向が出ているということ。「メルカリも楽天市場やヤフーショッピングと、売れるものは変わらないわけだ。(月間2300万人のユーザーがターゲットのため)ポテンシャルが高くて(他のプラットフォームと)売れるものが変わらないなら、出店すれば売れるはずなので、注力すれば見返りはあるのではないか」(メルカリの津田貴広氏)。
機能面での拡充も進める。まずは出店者からの要望が強かった、買い物カート機能を来年に導入。これにより同一店舗で複数購入が可能となる。さらに11月からは検索連動型広告が出稿できるようになる。他にもウェブ版メルカリの強化やランキングの導入、アフィリエイト施策なども予定している。
TOP3に迫れるか
メルカリShopsの場合、初期費用と月額費用が無料で、売れた場合のみ10%を支払う仕組みのため、他社の仮想モールよりも割安感がある。加えて、「メルカリ」とユーザーが重なるため、EC事業者にとっては若年層の取り込みが可能となるのも魅力だ。
ただ、すでに出店している店舗は「まだほとんど売れていないので、伸びていると言われてもあまり実感がない」と吐露。「他モールより割安」な手数料に関しても「売るためにタイムセールに参加するとなると、相応の割引をしなければいけないので、そこまでの割安感はない」。
なかなか売れない理由として大きいのは、やはり「メルカリ」内で露出するのが難しいことだ。検索画面から商品にたどりつく消費者が少なければ、売るのは難しい。「メルカリ」の場合C2CもB2Cも「出面」は同じであり、検索上位に来やすいのは新着商品。消費者にとってはC2CもB2Cを区別せずに検索できるのは利便性が高いだろうが、EC事業者にとってはそうではない。そこで「検索上位に自社商品を表示したい」というEC事業者からの要望にこたえるべく、11月からは検索連動型広告が始まる。
B2C向けECに本腰を入れるメルカリ。流通額の伸長が続けば、アマゾンと楽天、ヤフーに次ぐ、「仮想モール」として4位の座は遠くないだろう。そして、ヤフーを抜き、アマゾンと楽天に迫る日は来るのか。「どんな商材も売れる場」となり、多様なEC事業者を取り込むことができるかどうかにかかっている。