やずや × 北の達人コーポレーション × オルビス

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有力通販・ECのトップが語る “しくじり”からの復活

 通販・EC業界をリードする企業の経営者が過去に経験した失敗と、そこから得た学びとは──。売れるネット広告社が6月15日に開催したイベント「D2Cの会フォーラム2023」でオルビス代表取締役社長の小林琢磨氏、北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏、やずや代表取締役社長の矢頭徹氏と、モデレーターを務めたofficeK代表取締役の田岡敬氏が参加して行われた座談会「D2C業界のしくじり先生」で語られた内容をみてみる。(同座談会の一部を抜粋・要約して掲載)

自己満足からの脱却 お客様理解こそ最大の価値

データ分析に溺れて不振に

─OfficeK田岡敬氏(以下、田岡) ビジネスの世界に必勝法はありませんが、多くの失敗から学んだ方が成功確率は上がると思います。今回は経営者の方々に過去の失敗を赤裸々にお話しいただき、今後のビジネスの参考にしていただきたいと思います。

─オルビス小林氏(以下、小林): 私の失敗談はオルビスの社長に就任した当時、データ分析に溺れてしまったことです。就任前は単品販売のD2Cスキンケアブランド・ディセンシアを経営していましたが、こちらは社内起業で立ち上げたブランドで定期販売の比率が高く、商品数は25SKUで売上は約50億円、営業利益は約10億円。一方のオルビスは創業約30年と歴史も長く、商品数は1000SKUで売上は400億円規模。ビジネスモデルが全く違っていたのです。就任当時はオルビスの利益率が下がっていたため、何から手を付けようかと思案していた中で、アクティブ顧客250万人という膨大なデータに目を付けました。社内のデータ分析チームとデータを掘り、相関関係を分析し続けました。しかし、成果は一向に上がりませんでした。それもそのはずで、一番大切な『お客様にどのような価値を届けるのか』という観点が抜けていました。データドリブンという言葉がはやっていた頃で、自己満足に陥っていたと反省しました。

─田岡: 顧客理解がないとインサイトも取れないと実感されたわけですね。その後、何か変化は。

─小林: 今は四半期に1回、お客様イベントを開催しています。いろいろな仮説検証をしながら、取り組みを進めています。

ー小林: もう1つの失敗は、ディセンシア設立後に媒体選定に奔走したことです。顧客に刺さるクリエイティブが重要なのに手法を追い続け、本来はターゲットではない媒体にも「取れる」と聞いて投資を続けてしまいました。お客様に合う媒体を選ぶことが何よりも大事だと身に染みた経験です。

ー田岡: 媒体選定についての考えはいかがですか

ー北の達人コーポレーション木下勝寿氏(以下、木下): 常に新しいメディアが出てくる中で大事なことは、どんな媒体でも(新規が)取れるようなUI/UXを作ることです。その上で、今伸びている媒体にしっかりと当てることだと考えています。

ーやずや矢頭徹氏(以下、矢頭): 労力とのバランスが見合うかどうかを重視しています。部数が多ければクリエイティブをテストすることができますが、数万部程度の媒体にものすごく労力をかけても見合わないので、優先順位は低くなります。

アバウトなLTV計測で赤字に

ー木下: 商品のLTVを計測して、そこから逆算して上限CPOを設定し、上限CPO以下で集客を最大化したにも関わらず、売り上げが一向に上がってこなかったという経験があります。おかしいと思ってデータを調べ直すと、当時は広告媒体ごとにLTVが結構異なり、当初の計測よりもLTVがかなり下がっていることが分かりました。例えば、ポイント系サイトで集客時に購入額に応じたポイントバック施策を取ると、比較的低いCPOで新規を獲得できるものの、ポイント目的で購入する層のリピート率はかなり低い傾向にありました。こうした経験から、その後は広告媒体ごとにLTVを別々に計測し、上限CPOも広告媒体ごとに別々に設定して運用しています。また、初回半額などの価格面以外でも、初回購入に対するオファーを付けたら必ずLTVを計測し直しています。

ー矢頭: 当社では媒体別も見ますが、テレビの放映時間帯別や、チラシやDMなども全て見ています。3ヵ月程度で傾向が見えてくるので、そこまではしっかりと追うようにしています。

ー木下: もう一つの失敗談は、行き過ぎた効率化でクリエイティブ力が低下してしまったこと。効率的な広告配信のため、過去に当たった広告の踏襲を続けた結果、新しい切り口の広告をゼロから作れなくなりました。この経験から社内教育用に執筆したのが著書『ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティング』です。大前提として、ユーザーと商品を理解する重要性を伝えています。

ー田岡: 抜本的に新しい広告を作る方法とは?

ー木下: 顧客にマメにヒアリングしています。電話もするし、オンライン上で1体1の対話も頻繁に行っています。

ー矢頭: 広告に関しては現場が細かい最適化をしていますが、大きな方向性は皆で会議しながら決めています。アタックのさせ方を変えようなどの議論を経て、新しいクリエイティブに取り組むことが多いですね。

ー田岡: 新しい方向性の見つけ方は?

ー矢頭: 商品開発時のコンセプトを見直すようにしています。マーケットがあるはずだと思って商品開発をしたのに、テクニック論に走り過ぎてしまうことがあるため、(迷ったら)開発時に立ち戻るようにしています。最近は最初に商品のストーリーを作ってから商品開発に入るようにしています。

失敗のパターンを学び尽くして次に生かせば、成功が見えてくる

景表法違反で広告を全て停止に

ー矢頭: 通販で最初にメディアミックスを始め、テレビでは8000GRPという相当な量のCMを一気に流しました。DMやチラシなど(にも投資し)、費用を全部回収するというモデルでかなりの最適解を行っていました。しかし、ちょうど売上が拡大してきたタイミングで、「熟成やずやの香醋」が景品表示法違反に。見せしめ的な要素もあったと思いますが、とにかく平謝りで広告は全て停止しました。社員が疲弊する姿を見ることが何よりもつらかったです。

ー田岡: 影響はどの程度出ましたか。

ー矢頭: 顧客からのクレームは1ヵ月間も続かなかったと思います。応援の声も多く、あの件で退会した人は5%もいませんでした。また、会社としては通販だけに頼らないビジネスモデルを構築する契機となりました。当時は「熟成やずやの香醋」が売り上げの8割を占めていましたが、リスクヘッジのため商品数を拡大。現在は上位10個の商品で売り上げの8割を作っています。グループ会社は10以上となり、売上は約300億円。通販はそのうち約6割で、残りの4割はホテル事業や海外事業など。もし何かの商品が駄目になっても、事業は継続できるようになっています。

ー矢頭: 2010年の新卒採用で起きた炎上騒ぎです。当社では採用時に書類選考はせず、面接を重視していますが、不採用となった学生から再挑戦したいという希望があり、その姿勢を評価して“敗者復活戦”として自己PR動画を受け付けたところ、学生が誤って設定を一般公開にしてしまい動画が流出。それを見た人からの批判などを受けて制度は廃止し、よりクローズドに実施するようになりました。採用通知の際には私の直筆のDMを送るなど、通販企業らしいフォローアップを大切にしています。その後は、ある就職人気企業ランキングにも入りました。

ー田岡: 新卒採用の取り組みや方針などはいかがですか。

ー木下: この2年ほど登壇を増やしている目的は採用です。具体的なビジネス手法を説明し、考え方に共感してくれる人を採用したいという考えがあります。

ー小林: 商品企画で独創性を出せる人、デジタルに強く数字を見てマーケティングをする人といった感じで、タイプ別にバランスよく採用しています。

ー田岡: D2C企業の皆さんに激励の言葉をお願いします。

ー矢頭: 20年やっても分からないのが通販の魅力。通販はまだホテルやスポーツの領域には提供されていないので、その分野でも拡大余地があると考えています。皆さんも大いに突き進んでいただきたい。

ー小林: 多くの失敗から学んだのは、基本をやりきることの重要性です。先人の失敗した情報をキャッチアップして、基本をやりきってから、新たなことや、イノベーティブなことにチャレンジすることが一番だと考えています。

ー木下: 10回やれば9回は失敗するという前提で仕事をしています。できるだけスピーディーに、コストをかけずに失敗して経験値を積み重ね、失敗のパターンを学び尽くすこと。次からは、その失敗パターンを回避すれば自ずと成功できるという領域に入れると意識しています。皆さんもどんどんチャレンジして失敗を経験してください


やずや代表取締役社長矢頭徹氏
(やず・とおる=写真左から二人目)

1974年山口県生まれ。大学卒業後、広島県の商社に勤務。創業社長であった父の急逝に伴い、25歳で株式会社やずやの専務取締役に就任。2008年4月代表取締役社長に就任。広告戦略、顧客満足推進にとどまらず、化粧品・出版・ホテル事業など新しい分野にもチャレンジしており、アクティブシニア応援企業として、元気で楽しい豊かな人生を提案できるよう力を注いでいる。

北の達人コーポレーション代表取締役社長木下勝寿氏(きのした・かつひさ=写真左から三人目)

1968年神戸生まれ。大学卒業後は株式会社リクルートで勤務。その後、独立するも事業に失敗。Eコマースに勝機を見出して起業し、独自のWEBマーケティングで東証プライム上場を成し遂げ、時価総額1000億円企業に。また、独自の管理会計による経営で社員一人当たりの営業利益額2,332万円を実現。東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」1位。

オルビス代表取締役社長小林琢磨氏(こばやし・たくま=写真右)

2002年に株式会社ポーラ入社。2010年グループの社内ベンチャーで起ち上げた敏感肌専門ブランド株式会社DECENCIA代表取締役社長。2017年オルビス株式会社マーケティング担当取締役、2018年代表取締役社長に就任。EC向け出荷ラインに330台のAGV導入による物流センターの自動化などDXを牽引。ポーラ・オルビスホールディングス取締役を兼務。

モデレーター/officeK代表取締役田岡敬氏(たおか・けい=写真左)

リクルート、ポケモン法務部長&US子会社SVP、マッキンゼー、ナチュラルローソン執行役員、IMJ常務執行役員、JIMOS代表取締役社長、ニトリホールディングス上席執行役員、エトヴォス取締役COO、日立グローバルライフソリューションズ常務取締役CDOを歴任。
現在は個人事務所officeK代表取締役として、様々な企業の経営支援などを行っている。



◇ 取材後メモ

デジタルD2C市場規模は2025年に3兆円を突破する─。売れるネット広告社は、D2Cの主な販売手法であるネットメディアを通じて直販する事業の成長性をこう予測しました。同社がこの予測を発表した2020年のデジタルD2C市場規模は前年対比109%の2兆2,200億円。競争が激しさを増す一方、成長途上の市場だけに事業者側の知識やノウハウの不足も指摘されています。この座談会で業界をリードする有力企業の経営者が赤裸々に披露した“しくじり”エピソードからは、事業の最適化を求めて試行錯誤するリアルな姿を垣間見ることができました。事業拡大を目指す通販・EC企業にはぜひとも先人の経験や考え方を学び活かしてほしいです。

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