澤井理憲●澤井珈琲常務取締役 ーー コーヒーで100億円の売り上げ目指す

鳥取県の小さな喫茶店から始まった澤井珈琲は、2002年に楽天市場に「澤井珈琲Beans&Leaf」を出店。その後も順調にEC展開を加速し、今や各仮想モールにおける年間アワード受賞ショップの“常連”となった。各モールにおける成長率はいずれもプラスと、コーヒー通販市場で今なお成長を続ける澤井珈琲の魅力とは。同社の成長の軌跡と今後の展望に迫る。

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伝える人の最大値が売り上げの最大値になる

主要モールでプラス成長続く

─現状の業績について教えてください。

 2025年3月期のEC売上高55億円のうち、30億円が楽天市場、10数億円がヤフーショッピングでの売り上げです。楽天の売り上げ成長率は毎年3~6%増で推移しています。昨年は6%増でした。目標としては毎年10%増の成長を掲げています。auPAYマーケットやdショッピングもそれぞれ成長率は10%増と好調ですが、やはり母数が小さいので。auが月商2000万円、dショッピングが800万円ほどですね。

─自社サイトの売り上げはいかがですか。

 全体の1%にも満たないのではないでしょうか。利益が残りやすい自社サイトで多く売りたいと考える店舗も多いようですが、個人的には全く自社サイトで買い物しないので、強化する意味があるのかなと(笑)。実際にアフィリエイトや広告ツールを自分たちで運営するとなると、稼働時間や人的リソースが限られているのでなかなか難しいですね。楽天やヤフーの有料広告を活用した方が、より早く簡単に情報発信ができるのではないかと考えました。

─業績好調の理由をどのように分析しますか。

 我々がECを始めて、楽天市場に出店したのが2002年です。最初の一個が売れるまでにはなんと45日もかかりました。ゼロを知っているからこそ、“少しでも気を抜いたらまたゼロに戻る”という風に考えています。お客様に喜んでもらえる施策を愚直にやり続けた結果ではないでしょうか。

─当初はどのような施策を行っていたのですか。

 最初はプロモーションにかけるお金がなかったので、主に楽天の無料メルマガ配信を活用していました。転機となったのは「楽天グルメニュース」に広告を出稿したことです。それがきっかけで、売り上げが大きく跳ね上がりました。その時に、“伝える人の最大値=売り上げの最大値”ということを学びましたね。

─現在はLINEでの販促に注力しています。

 お客様にとって一番身近なツールであるスマートフォンで、より多くの人に当社の想いを伝えたいと考えています。利益とのバランスを見ながらではあるが、ある程度の広告費は出し続けています。

─サイト設計の工夫については。

 我々が美味しいと思うコーヒーの魅力を、お客様に丁寧に説明するよう心掛けています。ターゲットはいわゆるコーヒーマニアではなく、“コーヒーがちょっと好きな人”。ニッチになりすぎないよう、ライトな感じで訴求して、より多くのお客様が入り口に立ってくれるよう意識しています。お客様には楽天でコーヒーを買った、ではなく、楽天の澤井珈琲でコーヒーを買った、という風に思ってほしいので、サイトでは「澤井珈琲」の文字を前面に押し出しています。実際に、検索ワードの上位には「コーヒー」に続き「澤井珈琲」が2位にランクインしています。10位には「澤井」がランクインしていて、もはやコーヒー要素がなくなってしまいました(笑)。

─生産体制については。

 主力商品であるドリップバッグコーヒーの販売を始めたのが2005年くらい。当初は一個一個手作業でバッグに窒素を入れたりしていました。2006年に鳥取に第一工場を設立してから、その後も生産体制を強化し、現在は第四工場まで稼働しています。直近では1日30万個ほどドリップバッグが作れるようになるまで成長しました。

─コーヒー豆の価格は年々上昇しています。値上げの影響を最小限に抑える取り組みは行っていますか。

 3年前と比べて、原価は300%ほど上昇しました。異常気象による生産量の減少や、アジア圏におけるコーヒー需要の高まりなどが大きいようです。今後もコーヒーの仕入れ値が下がることはないでしょう。昨年は商品価格で30%ほど値上げしました。通常より小容量のパッケージを販売するなどして、顧客の購入ハードルを下げるよう工夫しています。さらに、昨秋からは定期販売を開始しました。一般価格より5%ほど安く買える仕組みで、ヤフーと楽天、アマゾンで提供しています。

定期販売が好調

─定期販売の売れ行きは。

 非常に好調です。ヤフーショッピングでは約7000人が定期購入を行っている。離脱は毎月2桁で、3桁に到達したことは一度もありません。定期販売ではPRオプションやストアマッチの手数料がかからない点もありがたいですね。楽天でも今年4月から定期販売を始めたのですが、2カ月で約1000人が申しこんでくれました。楽天はセールの時期にまとめて買う人が多いというイメージだったので、定期販売との相性は悪いと思っていたのですが、思いのほか好調で驚いています。

─東京・銀座などに店舗を出店しています。

 銀座に出店したのには3つ理由があります。1つ目は、もともと店舗の不振からECにシフトしたので、再度挑戦するなら日本で一番難しい場所に出店したいと考えたこと。2つ目は、ブランド価値のある銀座という土地でコーヒーを販売したいと考えたこと。3つ目は、海外の人からの知名度が高いこと。実際に銀座店を訪れるのは海外の人が多く、約56%が海外客というデータもあります。銀座以外にも東京ソラマチや浅草など、地域性の高いエリアに出店していますね。

─海外では台湾に出店しています。

 もともと19年に中国の大手仮想モール「アリババ」に出店しようと考えていたのですが、コロナで頓挫してしまいました。再度体制を整えて挑戦した形です。

─台湾以外での海外展開も検討しているのですか。

 店舗かECか定かではありませんが、そのように考えています。グルメショップが越境ECに踏み切れない理由として大きいのは賞味期限と温度帯の問題です。しかし、コーヒーならばその両方に耐えうることができます。アジア圏以外にも出店してみたい気持ちはありますが、やはり一番やりやすいのはアジアになるでしょう。我々は台湾で10年間コンテナ出荷を行ってきた実績がありますし、昨今は円安に非常に苦しめられているので、ドル支払いできる点は魅力的ですね。

─AI活用の取り組みは。

 顧客対応、社内マニュアル作成、レビュー分析などに積極的に活用しています。仮想モールにおける入り口は、トップページではなく商品ページだという風に考えています。お客様は自身の想起するワードから商品を検索、購入して、レビューを書きます。つまり、レビューには元となる検索キーワードが反映されているのではないかと考えました。レビュー分析の結果、よく見られたキーワードとしては、「大容量」、「コスパ抜群」、「職場」、「オシャレ」などがありました。「お値段は上がりましたがまだまだ応援します」など、若干皮肉のようなコメントも見られましたね(笑)。

─物流面における課題はありますか。

 楽天の「最強翌日配送」のように、翌日配送がマストとなってくると、コスト削減のため、ニッチな商材は削っていかなればなりません。コストに関しては、原材料高騰もそうですが、一番大きいのはやはり人手不足です。人的リソースを削らざるを得ないのに、さらに出荷を早めるというのは厳しい話ですね。

─「最強翌日配送」に対応するために取り組んだことはありますか。

 お客様の要望が大きい商品から順次対応を進めてきました。今のところ大きな成果があるわけではありませんが、楽天の売り上げ成長率は毎年106%前後と好調です。値上げが続く中にもかかわらず売り上げが伸びているのは、ある意味「最強翌日配送」の効果が出ていると言えるのかもしれません。

─「楽天スーパーロジスティクス」は使っていますか。

 使っていません。物流はすべて自社で行っています。鳥取県から配送できる範囲は広く、カバーできないのは北海道や沖縄、東北の北部くらいですね。鳥取は場所代や人件費が関東に比べて圧倒的に安いので、ありがたいです。とはいえ人口の少ない鳥取で人材を集めるのはなかなか難しい話。昨今は人材の流動化も進んでいるので、今後はハイクラス人材なども採用していきたいです。

動画マーケティングの時代はすぐそこまで来ている

動画コンテンツの活用図る

─さらなる成長に向け、今後注力していきたいことは何ですか。

 従来は楽天やヤフーの広告で訴求し、安く販売して、リピートを促し回収するというビジネスモデルでした。今後は動画などのコンテンツを活用して、澤井珈琲を買うベネフィットをサイト上で提案していきたいと考えています。

─YouTube上で「澤井珈琲チャンネル」を運営されています。

 澤井珈琲は何でも早めに挑戦して早めに失敗しておきたいタイプなので、2020年からチャンネル運営を始めました。最初に300万円を投資して撮影スタジオの設立を行いました。初期費用が回収できるまでは、絶対にYouTubeを辞めないようスタッフに伝えています(笑)。

 動画マーケティングの時代はすぐそこまで来ているように思います。今年3月には「楽天市場ショッピングチャンネル」でライブ配信を行ったのですが、30分で約2万人が視聴してくれました。売り上げも好調です。楽天では毎月18日の「市場の日」に30分のライブ配信を行っていますが、毎回300万円ほど売り上げることができています。

─最近は「TikTokShop」が注目されています。

 どこから手を出せばいいのか分からないので、とりあえずは様子見ですね。でも確実に澤井珈琲との相性はいいはず。成功パターンが見えたのちに、独自に進化させていきたいです。

─今後の目標は。

 昨今は仮想モール大手出店者の撤退が相次いでいます。しかしECというチャネルは顧客の数も、チャンスの数も桁違いだと考えているので、気を引き締めながらシェアを拡大していきたいです。短期目標は70億円の売り上げと、“お客様が見ていて楽しいサイト”の設計。今のサイトは理想の30%も実現できていないので、さらに内容を深めていきたいです。

 中期では100億円の売り上げが目標です。30~32年をめどに達成したいと考えています。あとは各仮想モールのアワードでグランプリを獲得したいですね。長期目標は世界中に進出することです。個人的には、小学生の「将来なりたい職業ランキング」にECショップ運営者がランクインするくらい、ECの価値を高めていきたいと考えています。

─単一商材で100億円に到達できると考えていますか。

 コーヒーだけで十分到達できると思います。一番の課題は人材確保です。正直、少子化がこんなに厳しいとは思わなかったですね。売り上げ拡大のためには生産体制の強化が欠かせません。売り上げが50億円規模になってくると、月商を1億円増やすのに10億20億の投資が必要になってきます。“これ以上頑張らなくても、今のままで食べていけるじゃん”と思うこともありますが、そこは弱い自分との闘いですね。



澤井理憲(さわい・まさのり)氏
1975年生まれ。高校卒業後、両親の経営する澤井珈琲に入社。実店舗の店長を経て、澤井珈琲のEC事業とブランド戦略を統括。楽天市場をはじめとする国内主要ECモールで年間アワードを多数受賞する。2025年現在、東京の銀座・浅草・ソラマチに実店舗を展開。コーヒー文化の普及と地域活性化にも尽力している。著書に『奇跡の澤井珈琲』(宝島社)がある。

◇ 取材後メモ

昨今は仮想モールにおける有力出店者の撤退が相次ぎ、通販業界に波紋が広がっています。「売り上げ拡大のためには生産体制の強化が欠かせません」と話す澤井常務。しかし原材料高騰や人手不足など、取り巻く環境は刻一刻と激化しています。その中でも定期販売を開始したり、小容量パッケージでの販売を行ったりと、顧客の購入ハードルを下げるための工夫を怠らない姿勢が印象的でした。「何でも早めに挑戦して早めに失敗しておきたい」という澤井珈琲の“攻め”の姿勢は他の企業のロールモデルとなりうるでしょう。ント開催などオフライン展開も加速していく同社の次の成長フェーズにも注目が集まりそうです。

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