ECノウハウを化粧品でも活かす
Hamee(ハミィ)は2021年12月22日、化粧品ブランド「ByUR(バイユア)」を立ち上げ、化粧品事業に参入すると発表した。近年、若年層を中心に韓国コスメがブームとなっており、若年層にファンが多いオリジナルのスマートフォンケースブランド「iFace」と親和性が高いとみられるほか、ネット販売をはじめとした、販売チャネルや営業マーケティングノウハウを活用できることから、参入を決めたという。主力のコマース事業(2021年4月期の売上高は約97億円)に次ぐ事業規模に育てるべく、強化を進める同事業。2021年7月に就任した水島育大社長が考える、同社の進む道とは。
市場が変化するタイミングだからシェアを伸ばすチャンスは大きい
認知高い「iFace」
─いつ頃から化粧品事業への参入を検討しはじめたのでしょうか。
2016年にiPhoneケースの人気ブランド「iFace」シリーズの商標権を韓国メーカーから取得したわけですが、日本市場で自分たちのブランドとして展開し、ブランディングやマーケティングを行ったことで、特に若い女性に浸透していきました。「これはいける」と実感しはじめた頃から「iFaceをスマホケースだけで終わらせるのはもったいない。
他のジャンルでもブランドを活かせるはず」と思い、他のカテゴリーへの進出も考えはじめました。それが2、3年前の話ですね。韓国で企画・開発し、日本で販売・マーケティングを行う形ですが、実際にプロジェクトがスタートしたのは2021年の夏頃です。
─化粧品、特に韓国コスメというジャンルを選んだ理由は。
iFaceのメインユーザーは10代後半から20代前半の女性です。日本の化粧品市場自体はさほど伸びていませんが、韓国コスメは数年前からかなり注目されており、相当な勢いで伸びていました。財務省の貿易統計によれば、韓国からの輸入化粧品は2016年頃から急激に伸びており、2020年の韓国からの輸入額は約500億円で、フランスに次ぐ2位となっています。これまでスマホケースのiFaceにおいても、日本市場の環境などをしっかりと韓国にフィードバックしながら、韓国のデザイナーや開発者たちが試行錯誤し、韓国のトレンドを活かした上で、日本の消費者にあわせた商品を販売してきました。こうしたやり方を日本の化粧品市場でも展開できるのではないかと思ったわけです。
─全くの異分野への参入ですから、苦労したことも多かったのでは。
韓国側では化粧品の企画・開発に携わっていた人材を採用し、日本側では化粧品のマーケティング・販売に関わった専門家を採用してチームを組みました。また、コロナ禍で消費者のニーズがどんどん変わっていった点も苦労しましたね。皆さん外に出る機会が少なくなり、必ずマスクをしているわけです。華やかに見せるメイクアップ商材よりは、肌に優しい化粧品や、スキンケアなどのお金を使うようになっています。また、これまでは店舗でタッチアップしてから化粧品を買う、というケースが主流だったわけですが、コロナ禍を受けて、指名買いが多くなっています。こうした購買行動の変化も意識しました。当社は創業時からECを手掛けてきて、そこにはノウハウがありますし、スマホケースの卸販売で雑貨を扱う量販店との付き合いがあります。こうした点は、化粧品市場に参入する上で強みとなっています。
─コロナ禍で化粧品の需要が落ちるという懸念はなかったのですか。
それもないわけではありませんでしたが、逆にコロナ禍で消費者のニーズが変わるというのは、当社にしてみれば入り込む大きなチャンスになるわけです。化粧品市場は競争環境が厳しいので、今ある市場に食い込むためには相当な販促費を投下しなければいけません。しかし、市場が大きく変化するタイミングであれば、もちろん宣伝費は必要にしても、シェアを伸ばすチャンスはより大きくなるのではないかと思っています。
─販促に関しては、どのような展開を考えていますか。
有名なモデルやクリエイターを採用したウェブCMの展開や、ユーチューバーと商品のレビュータイアップの実施、インフルエンサーによるSNS投稿などですね。また、大手美容ウェブメディアとのタイアップも検討しています。スマホケースはそこまで大きな広告宣伝費を投下するビジネスモデルではなかったわけですが、化粧品に関してはしっかり投資しながら、シェアを取っていきます。
─まずはiFaceユーザーに対してアピールするのですか。
そこに限定するわけではないですが、iFaceというブランドを認知している人が、一番接点が強いところではありますね。
─iFaceの認知度は。
日本マーケティングリサーチ機構が2020年2月に実施した、スマホケースに関するインターネット調査では、iFaceが3部門で1位になるなど、かなり高くなっています。iFaceのコンセプトは「ByYourSide」です。これには、人生のさまざまな瞬間を一緒にいるパートナーである、という意味を込めています。今回の化粧品のブランド名は「バイユア」です。iFaceのスマホケースが、いつもその人の身近な存在であるように、化粧品ブランドも「ビューティーメイト」として、ユーザーの輝く瞬間に一緒にいる、というコンセプトです。
─店舗販売に関しては。
まずはロフトからスタートします。その他の店舗についても、世界観が一致するような店舗を中心に、置いてもらえるようにしていきます。
マーケティングに優位性
マーケティングに優位性
─他の韓国コスメブランドと比較した際の強みは。
マーケティング力で優位性があるのではないかと思っています。また、ベースメイク、スキンケアからスタートするわけですが、コロナ禍を受けてる「きれいな素肌を保ちたい」「メイク中も素肌に負担をかけたくない」といったように、肌に優しい化粧品を手に取る傾向が、若年層の間でも強まっています。バイユアでは「毛穴ケア」を重視しています。
─日本の韓国コスメ市場において、いつ頃までに、どの程度のシェアを獲得する目標ですか。また、その際の事業規模は。
今期(2022年4月期)が終わった後に、2023年4月期を初年度とする3年間の中期経営計画を発表する予定なので、そこで明確にしたいと思います。
─投資回収までには何年かかりそうですか。
3~5年で黒字化したいですね。
─韓国コスメのブームは定着するのでしょうか。
定着すると思っています。ここ数年、韓国コスメはものすごい成長率を維持しており、このトレンドはしばらく続くでしょう。
─新たな商品ラインの開発は考えていますか。
まずはベースメイクカテゴリーからスタートし、スキンケア、そしてカラーメイク、ヘアケアと事業拡張を行うことで、安定性の高いポートフォリオを作っていきます。ただ、コロナ禍におけるニーズ変化もあるでしょうから、そこを見極めることも大事になってきます。例えばヘアケア商品はかなり競争が厳しいですし、価格も重要です。市場動向を良く見極めた上で展開していきたいですね。
─実店舗の展開は考えていますか。
顧客と継続的かつ直接の接点を持つことは重要だと思っています。チャンスがあれば、コンセプトショップ的な常設店も検討したいですね。
─日本以外での展開は検討していますか。
韓国でも販売していく予定です。ただ、国によってニーズが大きく変わってきますから、一気に海外展開していくというよりは、その国や地域の特色にあわせた化粧品を開発する必要があるので、もう少し先の話になるのではないでしょうか。
─その他のジャンルへのiFaceブランドの展開は。
何でもかんでもiFaceブランドでやっていくことは考えていませんが、他ジャンルにも興味はあります。スマホケースだけではなく、自分たちのブランドやEコマースのノウハウといった強みを活かし、どんどん進出してきたいですね。
サステナブルなサービスでないと世の中には受け入れられない
─iFaceのブランド価値をどのように高めていきますか。
10代後半から20代前半女性への高い認知度が一番大きな武器になっています。「iPhone新しくしたらiFaceだよね」という認識があり、2021年9月に発売された新型iPhone商戦においても、相当数のケースを販売できました。認知度を活かし、若年層に向けた新たなアプローチをしていきます。スマホケースは頻繁に買い換える人はあまり多くないですし、買い換えるにしても年1回です。顧客接点が限られてしまう点が課題となっていました。化粧品は継続的に使ってもらえるジャンルですから、それ以外でも継続的な接点をどんどん増やしていける商材に進出していきます。
事業の独立性高める
─2021年7月、2代目の社長に就任しました。ハミィをどういう会社にしていきますか。
携帯電話のストラップのネット販売からスタートし、スマホケースで大きく成長したわけですが、これまではニッチなカテゴリーに注力してきました。そして、川上から川下までのサプライチェーンを築き上げ、そこから生まれた「ネクストエンジン」というECプラットフォームを他のEC事業者に提供し、多くの企業から支持されたことでさらに成長しました。コマース事業とプラットフォーム事業のシナジーを大事にしながら、会社が大きくなったわけですが、ここからは新しいフェーズに入っていきます。コマース事業については、以前は「物を仕入れて売る」というビジネスモデルでしたが、今は自分たちが開発して売るというモデル、つまりメーカーになっています。ネクストエンジンについても、5000社以上のEC事業者が利用しており、当社はネクストエンジンのいちユーザーとなっています。ネクストエンジンをハミィの課題を解決するために改修するのではなく、5000社のために何ができるか、ということを考えなければいけません。つまり、シナジーを大事にしてきた両事業は、それぞれ別のものとして捉えるフェーズということです。また、成長とともに組織の規模も大きくなっていますが、一人ひとりの社員の熱量を維持できるような組織にしていくことで、変化の激しい時代に対応していきます。それぞれの事業の独立性を高めていくことに取り組んでいきたいですね。
─組織改編には取り組んでいるのですか。
現会長である樋口敦士から私への社長のバトンタッチも含まれていますが、「クリエイティブ魂に火を付ける」という、当社の経営理念を維持するだけではなく、魂がさらに燃え広がるよう、社内でもいろいろと取り組んでいます。
─2021年には、ハイエンドゲーミングモニターブランド「Pixio」を立ち上げました。スマホケースとゲーミングモニター、さらに今回の化粧品と、扱う商材の方向性がかなり違うように思います。
商品で区切るという考えが難しい時代になっているのではないでしょうか。確かにこの3つはジャンルがかなり異なる商材ですが、当社は新規事業を起こすにあたり重要視しているのは、「既存のブランドが活かせる分野」、「Eコマースのノウハウを活かせる分野」の2軸です。ゲーミングモニターや化粧品に関しても、全然違う分野に参入するというよりは、今までのノウハウやサプライチェーンが活かせる分野と考えています。
─スマホケースのリサイクルなど、近年はSDGsにも注力しています。
新しい事業を考えるにあたり、「サステナブルかどうか」という意識が社員に根付いています。環境負荷を下げる必要性はもちろん、そういったプロダクトやサービスでないと、世の中に受け入れられないし、仮にうまくいったとしても長続きしないということが、感覚的に分かっているのではないかと思います。
水島育大(みずしま・いくひろ)氏
慶応義塾大学卒業後、銀行勤務を経て2008年、StrapyaNext(現Hamee)に入社。CFOとしてIPOに向けた管理体制の構築を主導し、2015年に東証マザーズへのIPO、2016年に東証一部への市場変更を達成。2018年より事業担当取締役、2020年からはHameeGlobalの理事も兼任し事業成長をリード。M&A、スタートアップ企業への投資事業にも携わる。2021年に代表取締役社長に就任。
◇ 取材後メモ
樋口敦士氏が1998年に立ち上げた同社ですが、長らく名乗っていた「ストラップヤネクスト」という社名のとおり、ストラップを中心に携帯電話向けアクセサリーを販売していました。そこから、スマートフォンの普及に伴い、商材をスマホケースにシフト。さらには自社で使ってきたシステム「ネクストエンジン」も、複数の仮想モールに出店するEC事業者に支持され、利用企業を拡大。2015年には株式上場も果たしました。一時期ECで成功しても、環境の悪化から経営難に陥ったり、大手企業に売却したりという事業者も多い中で、出世頭ともいえる同社ですが、これまでとは全く毛色の違うジャンルへと進出します。競合の多い分野で販促費がかさむというリスクはあるものの、当たれば大きいのが化粧品。ブランド力やノウハウは別ジャンルでも活かせるのか。創業者である樋口氏からバトンタッチされた、2代目社長である水島氏の手腕に注目です。