小林製薬は2025年12月、自社通販から撤退する。事業売却は行わず、顧客情報は関連法令に基づき、適切な管理を行う。総売上高に占める通販の事業規模は小さいが、付加価値の高い高価格帯商品、通販専売品も扱っており、販売継続の判断を含む判断が注目される。
通販への投資は「非効率」と判断
自社製造の紅麹による健康被害問題の発生を受けた自社の業績、業界への影響を受けた判断とみられる。健康被害が発生した紅麹関連製品は、通販を中心に販売していた。小林製薬は撤退の理由について、「今から同規模の投資を行い追いつくことは非効率」(同社)と判断したとする。各社が通販領域で長年にわたる投資により強固なビジネスモデルを確立する中、紅麹事件を受け、事業ポートフォリオの見直しを検討する中、7月の取締役会で決めた。
今後は、全国の小売店との関係性を活かし「同じ土俵で戦うのではなく、ユニークな製品開発力を強みに、異なる戦略を選択する」(同社)。モールを中心とする外部ECは、日常的に消費者の利用が浸透しているため活用を継続する。
小林製薬は、事業ポートフォリオの検討過程では、「事業売却」も選択肢として視野に入れていた。ただ、通販は、製品・ブランドと一体して運営され、顧客情報もひもづく。売却は、顧客の個人情報保護、ブランドの一貫性の維持の観点で課題が多く、現実的ではないと判断した。顧客の個人情報は、厳重に管理する。過去の購入履歴も安全管理のため、必要な期間厳重に保管する。
現在、通販部門、コールセンター部門には、パートを含め、約60人の従業員が在籍する。コールセンターの運営委託、配置転換など体制の変更は、「回答を控える」(同社)。通販部門は、各従業員と面談を行い、今後のキャリア形成につながるサポートを進めるという。
新規会員登録は7月に終了した。都度購入、ポイントによる景品交換は12月、定期購入の新規申込みは7月に終え、10月末の配送で自動的に解約に移行する。
自社通販サイトとコールセンターの販売は12月に終了。同22日に通販サイトを閉鎖する。コールセンターの問い合わせは2026年3月末まで続ける。
通販サイトとコールセンターを終了するものであり、製品の販売は中止しない。一部製品の販売は外部ECなどで継続していく予定。25年12月期の業績への影響は、固定資産の除却損など特別損失の計上を予定しているが、軽微としている。
通販の一部商品、外部EC等で販売
今後は、これまで築いた小売店とのネットワークを活かし販売していく。広告は、5月中旬以降、ウェブ広告から再開し、6月から約10ブランドのテレビCMを再開、7月以降、対象製品を順次拡大している。通販は、スキンケアのウェブ広告を展開していた。「再開に概ね肯定的な反応をいただいている」としており、今後も継続するとみられる。
小林製薬は1993年、通販事業を本格化した。当初、エッセンシャルオイルやポプリ、ハーブ、アロマテラピー化粧品などを中心に展開していたが、サプリメント中心に転換。比較的短期間に事業規模が拡大した。健康食品通販大手のファンケル、ディーエイチシーらと価格競争を繰り広げたが、14年決算の107億円をピークに業績は上下した。
近年は、ピクノジェノールなど高付加価値原料を配合した「エディケアEX」(1万2960円)など4000円を超える中・高価格帯商品を中心に販売しており、店舗流通には向かない。どうなるか注目される。流通のプライベートブランドも増加しており、メーカー機能を活かした展開もあるとみられる。スキンケアブランド「ヒフミド」など通販専用商品については、外部EC等への卸販売を継続する。
小林製薬は日本通信販売協会に加盟しているが、今後の加盟の継続については、「現時点で決まったものはない」としている。