NTTドコモ、食品の通販に参入

エヌ・ティ・ティ・ドコモは1月30日、食品宅配大手のらでぃっしゅぼーやを買収すると発表した。株式公開買い付け(TOB)を実施し、完全子会社化を目指す。子会社化後、ドコモはらでぃっしゅ株式の最大20%分をローソンに譲渡する資本業務提携を締結した。3社が連携して野菜の販売を拡大していく。

通信と流通の大手企業がタッグを組んだ今回の買収および資本提携。ただ、業界関係者からは、「収益の拡大を目指しているドコモが、利益率の低い食品に参入するメリットがみえない」(ネット販売A社)と疑問の声が挙がっている。ドコモのらでぃっしゅぼーや買収の狙いとは?

収益性よりもノウハウ取得が狙い?

ドコモは1月31日から3月12日にかけて、TOB(株式公開買付)を行い、らでぃっしゅぼーやの発行済株式と新株予約権を合わせて51.0%(370万6600株)以上の取得を目指す。全株式を取得した場合の買収総額は約69億円となる見込み。子会社化後は、数人の役員を派遣する予定だが、らでぃっしゅぼーやの現経営陣は変更しない意向だ。

ドコモの狙いは、通信以外の新規分野に事業領域を広げ将来的な成長性を高めことだという。これまでも物販事業では、テレビ通販大手のオークローンマーケティングを買収した経緯がある。では、今回、なぜ“食品”だったのか。

らでぃっしゅぼーやの業績をみると、直近(2011年2月期)の売上高は前期比1.4%減の220億1400万円で、営業利益は同48.5%減の2億6100万円。それほど収益性が高い事業とは言えない。

ネット販売A社は「まず、食品販売のノウハウを買収で得ることが大きな意味を持っているのではないか。事業の収益性や成否よりも、組織として経験することが重要と判断したのだろう」とみる。ドコモが参入する日常食品の小売は大きな市場。しかも、食品の安心・安全への関心が高まっている昨今、今後の成長が期待できる事業とみているようだ。

モバイル通販のテコ入れを計画

買収後、ドコモはらでぃっしゅぼーやのモバイル通販を強化する予定。まずはアプリの開発などを視野に、これまで未対応だったスマホやタブレット端末での注文に対応させる。加えて、宅配の申込みをペーパーレスで行えるようにするなど手続きを簡略化することで高齢者などの新規客の開拓を目指していく。さらにタブレット端末などを活用し、生産者が申告する生産履歴などの情報をリアルタイムで収集することも検討するようだ。

加えてドコモはらでぃっしゅぼーやの顧客11万人にドコモ端末の利用を促進。利用頻度の高い日常食品の販売を通じて、ドコモがパケット定額制に誘導。「全体の底上げにつなげたい」(ドコモ)と、相乗効果も期待する。

だが、果たしてドコモの思惑通りになるのか。「食品を購入するユーザーはライフスタイルに合わせて購入場所を選んでいる。チャネルやインフラを理由に商品購入を決めるわけではない。考え方が違う」(食品通販B社)と厳しい意見もある。

物流を得たドコモは脅威的な存在に

ドコモのらでぃっしゅぼーや買収が注目されたもうひとつの理由が、ローソンの資本参加。「(今回の資本業務提携で)ドコモは通信と流通の両方のインフラを持つ。これまでその両方を持つ通販企業はなく、脅威」(ネット販売A社)と話す。ローソンは全国1万の店舗網に1日何回も商品を配送する配送網を持っており、通販でもそのノウハウを充分に活用できるとみるわけだ。

ローソンとの協業でらでぃっしゅぼーやはローソンの店舗に有機野菜などの自社商品を供給していく方針とする。これにより、らでぃっしゅぼーやがこれまで抱えていた「顧客層が限られる」という課題の解消を目指すようだ。有機野菜は高額のため数千億円程度の限定的な市場とみられていた。今後、ローソン店舗に供給することで流通量の拡大を図り、製造ロッドを増やすことによるコスト削減で低価格化を実現するもようだ。

とは言え、「コンビニで手軽に入るものをわざわざネットで購入する理由がわからない」(食品通販B社)との指摘もある。

ドコモは“食品宅配”を理解できるか

ドコモの食品通販成功のポイントはどこにあるのか――。「難しい食品を、ドコモがどれだけ理解できるかが、今後の成否を分けけるポイントになる」(食品通販C社)ようだ。実際、らでぃっしゅぼーやが展開する有機野菜の食材宅配事業は難しいビジネス。賞味期限のある生鮮品を扱うため過剰在庫や欠品がないように生産量を確保しなければならない。物流も精度の高い温度帯管理が求められる。また、低農薬野菜などの場合は生産量を一気に拡大するのは難しく、たとえ、自社農場を持つらでぃっしゅぼーやでも、急減に増える新規客に品質を維持しながら商品を安定して供給することは簡単ではない。

買収で大手メーカーの子会社になった通販企業D社は、「親会社のドコモが、らでぃっしゅぼーが既存顧客にどんな価値を与えているのかしっかりと評価することが重要」と指摘する。ドコモがらでぃっしゅぼーやの業績や利益などの“数字”に捉われすぎることで事業の軸がぶれることもあると指摘する。

ドコモの食品の通販参入――。成功すれば通販市場拡大の一翼を担うことになりそうだ。今後の動向に注視する必要がある。

通販各社に聞いたドコモの食品通販買収の課題は?

【ネット企業A社】

■     ドコモは食品通販を戦略的に展開する可能性もある。組織として食品通販の経験を積むことができる。大きな規模は望めなくとも、今後の通販事業の足がかりになりそう。

■     ローソンにとってモバイルとリアル店舗の連携は重要なテーマで、今回の出資は大きな意味を持つ。またドコモはこれにより、1つの物流網を持つことになり、脅威に感じる。

【食品通販B社】

■     ライフスタイルの変化に応じて、利用できる端末を複数設けることは重要。ただ、生活シーンに即して売り場を用意することがポイントで、インフラやチャネルが購入理由の一番にならない。端末に置き換えるとパケット定額制への移行を食品宅配で拡大するのは簡単ではなさそうだ。

■     コンビニで手軽に購入できるものを、わざわざネットで購入するでしょうか。身近で手軽に利用できるバリューを持つコンビニがあるのに、送料のかかる宅配を利用する価値が低くなるのではないか。

■     販路の拡大で、商品単価が下がる効果もあるようだが、単価の低い食品の低価格化がどれほどのインパクトがあるのか不明。

【食品通販C社】

■     難しい食品をどれだけドコモが理解できるか。食品は商品の確保や品質管理などオペレーションが複雑。急激な成長が難しいが、長い目で評価できるかが成否を分けることになりそうだ。

【通販企業D社】

■     ドコモが売り上げや利益、投資コストの回収など“数字”に捉われすぎるのは危険。親会社が子会社に対し、顧客の評価を理解できているかが重要。子会社化しても事業の軸がぶれなければ、今後、事業を拡大できる可能性も充分に考えられる。

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