行政介入に一丸となって声あげる 別所 直哉 eビジネス推進連合会事務局長

通販関係者の様々な活動も空しく、行政サイドの「思惑通り」の結果となった先の医薬品の通販規制問題。多くの批判を集めたが、同時に業界にいくつかの課題も浮き彫りにした。そのひとつが、軸になる業界団体の不在。効果的な働きかけをするためには、個別に声を上げるのではなく、「影響力を持った団体」の声が不可欠だ。こうした背景のもと、行き着いたのが様々なネット企業が結集したネット業界最大の団体となる「eビジネス推進連合会」。事務局長に就任したヤフーCCOの別所直哉氏は今後のビジョンとして「eビジネスの代表と見られることが重要」と語る。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)


「いつ同じことが起きてもおかしくない」認識で共通している


バラバラでは意味がない

――まず、改めて設立した経緯について教えてください。

今までは、eビジネス企業の集まりがなかったこともあり「ビジネスの推進」について声をあげる母体がなく、それぞれの会社でバラバラに対応しているのが現状でした。そうした中で、ひとつのきっかけとなったのが医薬品の通販規制問題です。あのときも各社がそれぞれ声をあげましたが、それがバラバラに声をあげているように見られてしまって、残念な結果になりました。そこで、「団体を作り共同で声を上げていくことが必要では」という話が出て、eビジネス推進のための集まりを作ろう、となったわけです。

――個別に対応するのは効果的ではない、と。

ええ。たぶん同じ想いを抱いている企業は多数あると思いますが、問題が立ち上がるたびにその都度集まって活動していくより、ベースになる団体があるほうが安定的に活動できますから。

――設立趣旨から考えて、柱となる活動はやはり政策提言が中心となるのでしょうか。

政策についての課題があれば、我々としては意見を申し上げていきたいともちろん思っています。ただそれだけではなく、せっかくいろいろな会社が参加しているので、自分たちでeビジネスを推進していくための活動ができれば、とも考えています。

――例えば勉強会など?

そうですね。勉強会もですが、ワーキンググループ(WG)を作っていろいろな研究をしていきたいとも考えています。主要なテーマについて関心を持った企業で集まり、いろいろな考え方を求めたり、いろいろな提案をしたり……その結果として現実にeビジネス推進につながればいいな、と。

――政策提言の話に戻りますが、今後は団体として行政サイドに対応していくことになります。どのように対抗していくのか、具体策は。

それは個別の案件ごとにいろいろ考える必要があると思いますが、ベースにあるのはeビジネスの重要性をできるだけ多くの方に理解していただく、ということです。ネット関連産業の振興は、諸外国でも成長戦略の要に据えています。当然日本でもきちんと考えていかないといけないでしょう。その前提で「どういう枠組みが望ましいのか」ということを考えていただければ、不合理・不当な規制ができる素地は減っていくのではないでしょうか。

――ただ、そのあたりの理解を行政サイドから得られるのはまだ時間がかかりそうです。会長の楽天の三木谷社長も不信を募らせているようですが。

今まで以上にご理解いただくためには、いろいろなことをやっていく必要があります。何もやらずに理解が深まっていくことはありません。どういったアプローチにするか考えつつ、できるだけ理解してもらえるようにしていくことが要諦になると思います。確かにeビジネスの産業としてのインパクトや規模が十分に伝わっていない可能性がありますので、そのあたりを伝えていくことが重要でしょうね。

――具体的には?

具体的な方法はまだこれからです。これからWGを開いていく中で、座長をいろいろな方にやっていただき、その方々に考えていただければ。

――WGはどれぐらいの規模と頻度を想定しているのでしょうか。

今、まさにどういう分野でWGを作ろうか、その検討を始めようとしているところで、まだ全体図は見えていません。各分野で、それぞれ座長になっていただける方々に手を挙げていただけるとありがたいですね。WGは当初は経済、政治行政、地域活性などの分野を考えています。座長や参加企業などは何も決まっていませんが、できれば3月中にはひとつ目のWGが立ち上がるといいなと、準備しているところです。会員の方々には、具体的な課題を挙げていただけるとありがたいですね。そして手を挙げた方に座長になっていただくイメージです。
あまり大きな規模は想定していません。会議体ですので、1つのWGの規模が30~40人になってしまうとまとまらず適切でないと思います。10~20人が数だけでいえば理想的でしょう。ただ、皆さんご関心があるところにはワーッと集まるかもしれませんので、考えている枠組みで進めるかどうかは分かりません。そこは、個別分野ごとに見つつでしょうね。WGに参加いただくうえでのご関心もいろいろあると思っています。例えばWGに入って積極的に活動したい企業もあるでしょうし、情報収集したい企業もあると思うので、そこはWGのやり方を工夫する必要があるでしょう。

――医薬品規制のほかに、今後顕在化しそうな規制はありますか。

新たな規制でどのようなものが出てくるかは分からないので、その都度考えていけばいいのではないでしょうか。ただ、全体的にはいつ、医薬品規制と同じようなことが起きても不思議ではない状況にいる、という危機感を皆さんお持ちだと思います。

――通販業界には既にJADMAなどの団体がありますが、連携などは。

いろいろな団体が存在しているのは我々も承知しています。他の団体と被らない活動をしていくことが重要でしょう。ただ、「ビジネスの推進」というテーマを全面に出している団体はまだ少ないので、そうした色をより強く出していきたいですね。もちろん、医薬品規制のような問題が立ち上がった際は協力していきたいと思います。

「国のために発言している団体」と見られるようにしたい


規模拡大は活動次第

――現在は一般会員の数は賛助会員の数に比べるとまだ多くはありません(2月17日現在で一般会員238社、賛助会員1427社)。各社、様子を伺っている状況では。

確かにそうですね。お会いした会社も「具体的にどういう活動をするか見てから検討させていただきたい」と仰っているところが多いです。我々の今後の活動次第ということでしょう。

――会員数の目標や獲得方法などは。

特に決めていません。できるだけ多くの方にご参加いただきたいですね。

――今は三木谷会長が盛んに目立つ活動をしているため、「楽天主導」というイメージもありますが。

いろいろ仰っていただいて有難いと思っています。三木谷社長が会長でこの団体の”顔”ですから、外へ向けてのアピールは会長としての職責でもあります。楽天として、というより会長として一生懸命仰っていただいているのではないでしょうか。誰が会長になってもそうなると思います。

――事務局は今後どこに置くのですか。

場所はまだ探し中です。発起人でもあるので、楽天さんと我々が今はそれぞれ作業分担している形ですが、落ち着いたら事務局をどこかにまとめたいと思っています。

――会員に、大手のネット販売企業ではアマゾンが入っていませんね。

お声がけはしたのですが、各社様にいろいろな考えがありますから。

「eビジネスの代表」に

――eコマースの部分で特に団体として積極的に行っていく施策はありますか。

具体策はまだまとまっていません。それらはWGの中で検討していく部分ですので、まだこれからですね。ただ、ひとつ挙げるとすると、「地方活性化」はかなり力を入れて取り組んでいく課題ではないかと考えています。

――地方活性化というと、例えば楽天が「まち楽」を展開していますが、ああいう形を描いているのでしょうか。

例えば、地方にあるお店がインターネットを使って商品を販売する環境の整備は今もだいぶ進んでいますが、より十分な活用をしていただくために、先進的な取り組みをご紹介させていただく、などそういうことができると思います。お店以外にも、例えば地方の行政機関でインターネットを使って効率化が図れるものがあれば、積極的に取り入れていただける活動をしていく、というのもあるでしょう。

――つまり、ネットを活用していない店舗などにネットの導入・活用を啓蒙していく、と。具体的にはどういったやり方になりそうですか。

適切な会員企業をご紹介するとか、そうしたアプローチができるのではないでしょうか。その先の具体的なビジネスとしてはそれぞれの会社さんでやっていくことになるでしょう。連合会としては紹介するところまで関与し、実際に個別の企業がその後を実行する、という形になると思います。

――ツイッターの利用については。

具体的な利用方法をご紹介するのがいいのか、会員の取り組み方を調査してまとめるのがいいのか、そこは今検討しているところです。賛助会員も合わせて約1600社になりますから、それだけの数の会社がツイッターをどんな形で使っているのか分かると、他の方々にとっても参考になるのではと思います。ただ、いわゆる「ツイッターの使い方」などの勉強会も開く予定ではいます。もちろんツイッターに限らず、ブログやSNSなどインターネット上のマーケティング手段については勉強会で取り上げていくつもりです。

――白書も発行する予定ですね。

他にはないものにしたいです。参加企業が多いので、会員企業を調査した結果などを掲載できれば面白いのでは。今の状態では、eビジネスという産業の規模や動向などを的確に捉えた資料はあまりないですから、そういうものを作って便利に使っていただきたいですね。経産省でも、電子商取引の規模に関する調査を始めましたが、まだそういう資料は足りないと思いますので、国とは別に、民間側でまとめられるものは民間でまとめていこうと。

――今後のビジョンは。

とにかく、eビジネス推進のための環境整備を進めていくこと。自分たちでできることはやりますし、政策としてやっていただきたいことについては働きかけていきます。働きかけをするときに相手側から見て、「eビジネスを代表している団体」と見られるような活動をしていきたいと思っています。直接的な利害関係を持っている会社が単に意見を言っているだけ、と見られてしまうのが非常に残念なこと。そうではなく、国のために意見を言っているきちんとした団体と見られるようになっていきたいですね。

――そのあたりのイメージはどう植えつけていきますか。

どういう主張をしていくか、に尽きるでしょう。いろいろな会社が集まっていますが、偏りのない声にしていくことが重要だと思います。何か意見を述べるとき、そこに近いビジネスをしている方もいれば全然関係ない方もいます。それらを全部混ぜて、「全体としての意見はこうです」と提出できるのが一番いいのではないでしょうか。

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