ネット販売の信頼性高めたい アンドリュー・ピポロ ペイパルジャパン マネージングディレクター

クレジットカード番号などの個人情報を流失してしまう通販サイトが増えている。こうした事件が相次ぐと、消費者は通販サイトへの信頼を失い、重要な情報を入力することにためらいを感じる恐れがある。個人情報を通販サイトに知らせず、さらには簡単に支払いができる決済手段として、最近注目されているのが、米国発の「ペイパル」だ。ネット決済では大手となる米ペイパルが日本法人を設立。いよいよ本格的な事業展開を開始する。サービスの詳細や、導入のメリットをマネージング・ディレクターのアンドリュー・ピポロ氏に聞いた。(聞き手は本誌・川西智之)


従来の決済手段と競争している意識はない

消費者はパスワードを入力するだけ

――ペイパルというサービスの概要を教えてください。

ペイパルはグローバルなオンライン決済システムで、世界190カ国、19種類の通貨に対応しています。全世界で7500万のアクティブに使われているアカウントがあります。ネット販売におけるセキュリティーを気にしている消費者や、高速で利便性の高いオンライン決済を望んでいる消費者のニーズを満たすサービスです。消費者は商品を購入する際にペイパル決済を選ぶと、パスワードを入力するだけで、ペイパルから通販サイトに支払いが行われ、消費者のクレジットカードからは代金が支払われます

――ネット販売専用の決済なのですか。

確かに、ネット販売での活用に主眼が置かれたサービスですが、個人に送金するために利用することもできます。ただ、現在日本では商業用途での利用に限られており、銀行口座からの引き落としもできません。日本以外では、例えば知人に50ドルを送金したいような場合でも、気軽にペイパルが使えるわけです。

――世界各国で利用されるサービスに成長した理由は。

セキュリティーが強固であること、利便性が高いこと、さらにはメールアドレスだけですぐに利用できる点も、消費者にとっては魅力的に映るのではないでしょうか。

――ペイパルの年商は。

2008年の売上高は約24億ドル(約2100億円)です。09年の第3四半期の売上高は6億8800万ドル(約605億円)となりました。

――消費者はどのようにペイパルを利用するのですか。

まずペイパルの口座を開設し、クレジットカード番号などを登録する必要があります。口座にお金を預けて、残高を利用するという形でも利用できます。実際に買い物をする際には、パスワードを入力するだけでペイパルの口座から店舗に代金が支払われる仕組みです。通販サイト側は顧客の個人情報を見ることはありません。もちろん、クレジットカード情報を保持することはないので、万が一サイトが不正アクセスを受けた場合でも、情報が漏えいする心配はありません。顧客はパスワードを入力するだけですから、非常に簡単です。

――携帯電話向けのサービスも行っているのですか。

 海外では大きな実績があります。当社にとってモバイルのビジネスは重要性が日に日に増しています。もちろん、日本でもサービスを展開する予定です。

――現状の日本での展開は。

市場調査を行っている段階です。日本で事業を行うためのライセンスも来年には得られる見込みです。ただ、一部では海外との決済業務で使われている実績があります。

市場に安心できる決済を提供

――この時期に本格進出をする理由を教えてください。

09年に銀行以外でも送金が可能になる「資金決済法」が成立したことで、海外との取引だけではなく、国内市場での参入の見込みがたったためです。現在、ライセンスの申請を予定しており、認可が降りた際には本格的なサービスを提供したいと思っています。ただ、今すぐに導入したいという企業は、決済代行のイーコンテクストとSBIベリトランスのサービスを利用すれば、国内の取引にも利用することができます。

――日本のネット販売をどう見ていますか。

非常に魅力的だと思います。世界で2番目に大きいネット販売の市場ですからね。市場規模はすでに6兆円を超えており、モバイル通販も1兆2000億円に達しています。今後も年に15%の成長が見込めますし、モバイル通販はさらに急成長を遂げるでしょう。国内だけではなく、海外との取引も増えるはずです。当社がネット販売への信頼度を高めることで、さらなる市場の拡大に貢献できるのではないでしょうか。

――日本のネット販売の場合、クレジットカード決済や銀行口座への振り込みを利用する消費者が多い。本格展開にあたり、こうした決済手段は競合となりませんか。

従来の決済手段と競争しているという意識はありません。市場に対して、より安心できる決済を提供しているだけだと思っています。ペイパルがネット販売への信頼性を高めることで消費者に安心を提供し、市場を大きくすることに貢献してきたと自負しています。実際に消費者がペイパルを利用する際には、クレジットカードからの引き落としなどを使うわけですから、こうした決済手段がなくなるわけではありませんよね。ですから、直接的な競合とはならないはずです。

――「クレジットカード番号を入力するのが不安」という消費者を取り込んでいく。

そうですね。クレジットカード番号のような長い数字を入力する必要はありませんし、高いセキュリティーを保ちながら簡単に決済が完了できるわけです。

――近年、通販サイトが不正アクセスを受け、クレジットカード番号などの個人情報が流失する事件が相次いでいます。こうした状況も追い風になりますか。

こうした事件はセキュリティーに対する消費者の関心を高め、重要性を知らせる意味があると思います。もちろん、事業者にとってもセキュリティー意識の向上という効果はあるでしょう。不正アクセスによる情報流出は、通販サイトにとっては一大事ですが、一方で小規模なサイトにしてみると、本格的な対策を講じるのはなかなか難しいですよね。店舗がペイパル決済を利用している場合、仮に情報が流失したとしても、盗まれるのはメールアドレスだけです。

安全、海外展開、即時入金 事業者のメリット多い

アカウント取得後すぐに利用可能

――通販サイトがペイパル決済を導入した際のメリットはどこにあるのでしょうか。

これまでも説明してきましたが、まずはセキュリティー面が挙げられます。そして、海外で事業をする際にも有利となります。いろいろな通貨での決済をサポートしていますからね。また、さまざまな調査で判明していることですが、支払い方法は選択肢が多いほうが、顧客は増える傾向にあります。さらに、事業者としては、決済が瞬時に成立するのも大きいのではないでしょうか。

――どのようなメリットがあるのでしょうか。

通常の決済代行を利用した場合、入金は月2回あると思いますが、ペイパルならすぐに代金が店舗に振り込まれるわけです。利用料金に関しても、固定の手数料は一切必要ありません、決済が発生した際の手数料のみをいただく形です。

――どのような企業が海外向けにネット販売でペイパル決済を導入しているのですか。

すでにユニクロがフランスとドイツ向けのネット販売にペイパル決済を導入しています。これらの国ではペイパルを利用する消費者が多いですからね。また、フィギュアやプラモデルなどのネット販売を手掛けるビッグビィも、09年11月に英語圏向けの通販サイトを開設するにあたり、ペイパル決済を導入しました。

――通販サイトがペイパル決済を利用する際に必要な手続きは。

中小サイトの場合は、オンラインで登録してペイパルのアカウントを取得すれば、5分程度で利用可能になります。大規模なサイトでは、リスクなどの評価をするために一定の時間をいただくことになります。規模や業種にもよりますが、リスク評価には1週間程度の期間が必要です。ほとんどのサイトの場合、すぐにサービスを利用できるのが、ペイパルの魅力のひとつでもあります。

5%のシェア確保を目指す

――ペイパル決済を消費者に周知するための宣伝はどのようなものになりますか。

ライセンスを取得したのちに、プロモーションを展開したいと思っていますが、まだ具体的にどのような手段を用いるかは決まっていません。日本の消費者に『ペイパルで何ができるのか』『どんな仕組みなのか』『どんなメリットがあるのか』を知らせる必要があります。もちろん、消費者だけではなく、ネット販売事業者にもサービスを導入することによるメリットを伝えなければなりません。

――サービスの本格展開はいつ頃になりそうですか。

事業者に関しては、決済代行などを通しての利用はすでに可能です。ただ、ライセンスを得られるのは10年4月頃になりそうなので、そこからでしょうね。

――ライセンスを取得したあとに展開するビジネスはどのようなものなのでしょう。

ペイパルを利用して、国内で個人向けの送金が可能になります。現状の法律は、個人間での送金は銀行経由でしかできませんからね。商業取引の場合は現在でもペイパルが利用できるわけです。

――日本での売上高目標を教えてください。

目標はありますが、公開はできない状況です。会社の方針として、国別の売上高目標などは発表していないからです。

――今後の目標は。

まずは日本でペイパルがしっかりとしたプレゼンスを持ち、広く知られるようにしたいと思います。また、優秀なスタッフによるチームも編成します。現在、日本法人のスタッフは増員しているところですし、今後もオンラインビジネスやネット販売の経験が豊富な、有能な人材を雇い入れていきます。さらには、当社の製品やサービスのすべてを日本で展開し、しっかりとしたカスタマーサポートも提供できるようにしたいですね。

――ネット販売の決済市場において、シェアの獲得目標はありますか。

例えば20%といった、すぐに大きなシェアを獲得できるとは思っていないので、堅実に展開していきたいと思います。ただ、3~5%のシェアが取れれば嬉しいですね。

――目標の数字は今後数年で達成できそうですか。

明確な目標があるわけではありません。ライセンスが得られれば、もっと具体的な計画が立てられるのではないでしょうか。

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