眼鏡をネットでここまで売るのはうちだけ 清川忠康●オーマイグラス 代表取締役社長

眼鏡のネット販売を手がけるオーマイグラスが順調に拡大を遂げている。従来は店舗を構えずにEC専業として展開していたが、昨今はリアル出店が続いており、昨年末から今年にかけて首都圏に4店舗を出店。通販サイと連携させてオムニチャネル戦略を進めている。こうしたネットとリアル双方での直営事業に加えて、眼鏡店向けのBtoB事業に着手。昨年からは試験的に海外展開も始めた。眼鏡ECの拡大に挑む同社の戦略とは。

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オムニチャ ネ ルに最適化し
業界でもトップの水準に

直営事業で月商1億円へ

――通販サイト「オーマイグラス東京」の商品数を教えてください。

商品数は現在、約470ブランド、1万種類以上扱っています。全体として商品を絞っており、ここ1年くらいは1SKUあたりの売り上げを伸ばすことに取り組んでいます。やはり通販サイトのロングテール戦略はある程度までいくと厳しいと考えています。Eコマースで幅広く売り上げるというよりも、より深くチャネルと商品を押さえていくという戦略に切り替えています。その考えのもと商品開発や店舗出店など地道に取り組んできた結果、全社的に売り上げの3割程度はプライベートブランド(PB)が占めています。実店舗はその割合がもっと高いです。こうして商品力が付いてくると、出店する際も非常にやりやすい。対お客様だけでなく、対ディベロッパー様に向けて、商品が強いと訴求できます。Eコマース自体は安定して成長を遂げており、毎年50~100%増で推移しています。まずはEコマースと実店舗を合わせた直営事業で月商1億円までもっていきます。これは来期(2017年6月期)中には実現させたいです。黒字化もある程度見えてきています。

――2014年11月に渋谷に直営店を開設し、現在では首都圏に合計5店舗を構えています。そもそもEC専業だったオーマイグラスがリアルに出店した理由は何だったのでしょうか。

Eコマースを伸ばすにあたり、リアル店舗は認知向上のためのショーケースになりうるのではないかと考えました。さらにEコマースの軸からすると店からの送客や屋号の認知向上ということがありますし、それ以外にも、提携する他の眼鏡屋さんと関わらせていただく中で自分たちであれば眼鏡店の経営をきちんとできるのではないか、いい店が運営できるのではないかと考えていました。インターネットに強い眼鏡屋のあり方はこうあるべきだというような。そのあたりを総合的に考えた結果、出店することにしたのです。

――実際に出店してみていかがでしたか。

いろいろと試行錯誤しながら我々の店舗運営マニュアルを構築していきました。例えば坪効率よく運営するために商品数を減らしたり、加工機を取り払ったり、内装や店舗設計の仕方を工夫しました。あとは採用する人材もどういう人材を選べばよいかを考えるなど、すべてオムニチャネルに最適化して行っていきました。そうすると収益性がグングングンと伸びていき、業界でもトップの水準にまで持っていくことができたのです。渋谷の店舗でうまくいったのでドミナント戦略で首都圏で5店舗体制にしました。5店舗になると認知やバイイングパワーも上がります。

――来期はさらに6店舗出店する計画です。

実は今期(2016年6月期)中にもっと店を出そうとしたのですが、担当者の負担なども考慮し、第4四半期(4~6月)は少し落ち着いて既存店の運営に注力しようと思っています。そして秋に向けての出店準備を進めていく予定です。

――通販サイトと店舗でMDも変えているのですか。

MDは全然違います。店はPB主体で、残りのNB(ナショナルブランド)は商業施設の場所に合ったものをセレクトしています。当社で「ダイナミックMD」と呼んでいる手法を使い、定期的に商品を入れ替えています。当社の場合ですと、店はSKU数が少ないのですが、底辺の数%の商品を売れ筋と入れ替えていきます。ダイナミックにビックデータ分析をして、最終的にバイヤーが確認して入れ替えるのですが、結果的にMDがどんどん最適化して進化していきます。通常、眼鏡は回転が遅く、街の眼鏡屋さんでも在庫はなかなか変わりません。当社はダイナミックMDシステムを使うことで、陳列する商品がどんどん新しくなります。駅ビルや地下街に出店しているのですが、通勤圏で毎日通る人が多い。そうなると同じ商品ばかりが並んでいると飽きてしまいます。MDを最適化することで、店を通りかかる際に「いつも変わっているな」という印象を持ってもらえます。

――客単価はEコマースと店舗で違ってきますか。

ECは2.5万円程度をキープしています。リアル店舗は店によって異なるのですが、ECよりも少し低い店もあります。

――2.5万円は高いと思いますが、ECで売れているのは眼鏡ですか。

当社は7割が度付き眼鏡です。サングラスは夏は増えますが、普段は少ししかありません。度付き眼鏡をネットでここまで売っているのはうちだけではないでしょうか。客単価の高さもそこに起因しています。

――そこまで度付き眼鏡を販売できている背景には、試着サービス(※ 5本まで無料で取り寄せて試着できる)なども大きいのでしょうか。

それもありますね。あとは細かいU(I ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)の改善をすごくやっています。ほかには検品のやり方や、レンズの加工の質、カスタマーサポート、箱のマイナーチェンジなど様々な要素があると思います。そこは一生懸命やっています。

――顧客層は30~40代でしょうか。

もう少し高い年齢の方も買ってくださるようになったので、主に30、40、50代でしょうか。当社の強みはダイナミックにMDが組めることですので、どのお客様に対してもデータ分析して最適な商品を選んでもらいます。今はまだ店頭接客の際はタブレット端末を通じて当社のECサイトから商品を検索してもらっています。そこのUIをダイナミックMDシステムを活用して店頭のお客様向けに改善することができれば、店での在庫数や在庫回転率はもっと最適化されていくはずです。

――ECと店舗とのシナジーは出ていますか。

例えば店からネットへの送客が増えています。つまり店で会員登録して検眼だけして、そのあとECで買うという形です。そこが1つの集客手段になってきています。

店でパーソナルデータをとる

――とはいえ、収益の柱はEコマースですよね。

そうです。収益エンジンはEコマースなので、極端に言うと、店でそれほど利益を出さなくても大丈夫という考え方もあります。もちろん利益は出ているのですが、店はショールームとして重要な顧客接点になっています。Eコマースではページビューや商品閲覧履歴など静的データしかとれません。しかし店という顧客接点を持つことで、パーソナルデータをとることができます。ただ単に店で商品を売っているだけであれば、他の眼鏡屋と差別化できません。

――店でとれるパーソナルデータというのは、検眼の数値以外だとどのようなものでしょうか。

お客様に対応した店員であれば、その人の“人柄”を把握できます。例えば「癖の強い人」という情報はネットではとれません。そうした情報は言語化が難しいのですが、店員を介することで言語化できるのではないかというのがパーソナルデータです。Eコマースの場合、レコメンドエンジンがありますが、レコメンドされた商品がユーザーにマッチしないことも多々あります。それがお店であれば、店員がリピーター顧客とちょっと話すと、「この人が次に何がほしいのか」ということを大体把握できます。実際、店員に商品を選ばせると選べるものです。パーソナルデータとはそういうことです。当社の場合、店舗という顧客接点を持っているのでうまくデータ化し、Eコマースの静的データと合体できるのではないかという構想があります。オフラインの顧客接点を持つとそういうことが可能です。

100店舗と提携して眼鏡の試着

――直営事業とは別に、眼鏡店向けのBtoBの取り組みはどのような状況でしょうか。

3、4カ月前から部分的にやっているのですが、提携している個店さんに当社でタブレット端末を置かせてもらい、お客様が来店するとそのタブレットを使って店主がお客様と一緒に当社のサイト「オーマイグラス東京」で商品を選び、5本取り寄せて試着するという取り組みを行っています。いわばBtoB向けの「仕入れプラットフォーム」のような形です。「オーマイグラス東京」を通じて、提携店に試着用の商品を送ってそこで検眼もできます。

――その場合、個店側のメリットは。

レンズを売って、儲けを得ます。

――なるほど。フレームは「オーマイグラス東京」で。

そうです。度数データも当社でいただきます。

――どのくらいの規模でやっているのですか。

最初は30店舗くらいで始めて、マイナーチェンジしながら首都圏中心に100店舗まで増やしました。関西も10店舗ほどあります。試験的にやっていて、個店さんが多いです。すべてにタブレット端末を置いているわけではなく、店のパソコンで対応しているところもあります。

――実績は。

ぽつぽつと出ています。今は提携する店をどんどん増やすというよりも、仕組みの再構築に向けて仮説検証をしています。今後はBtoB向けのECプラットフォームとしてうまくできないかと探っているところです。

単月黒字化すればBtoBと海外を

香港と台湾でPBを販売

――現状の海外の取り組み状況については。

昨年の秋から香港と台湾に進出しています。地元の眼鏡のセレクトショップ合計10カ所で当社のPBの「オーマイグラス東京」と「タイプ」を扱ってもらっています。10カ所合わせて海外で月商100万円程度の規模です。

――卸のような形で?

そのほうがやりやすいので、現地のパートナーさんに協力してもらいながらそういう形でやっています。

――お店の選定は。

面談しながら、「やりたい」と言ってくださってるところと。今は試験的にやっている形で、今後しっかりとやるやり方を模索しているところです。

――今後、日本でのように店舗の出店もあるのでしょうか。

あるかもしれませんし、Eコマースも検討しています。今はインショップでやっていますが、できれば当社のダイナミックMDシステムまで含めてやっていきたいと思っています。ただ、先行投資が終わって黒字化するまでは、Eコマースと店舗の国内直営事業に注力していきます。今、BtoB事業も海外も仕込んでいますが、単月黒字化するとBtoBと海外にリソースを振り向けてスケールさせていきます。今は準備に時間がかかるので、先行して少しずつ着手している段階です。

――今期の全体の売り上げは。

数億中盤くらいでしょうか。

――来期は10億円くらいのイメージでしょうか。

それくらいはいくと思います。店舗を増やしているので、その程度は行かないとダメでしょう。

プロフィール

清川忠康(きよかわ・ただやす)氏 1982年2月13日大阪府生まれ。2005年3月慶應義塾大学法学部卒業。2006年12月インデアナ大学大学院修士課程修了。UBS証券、経営共創基盤を経て、2009年8月スタンフォード大学経営大学院に学。2011年6月同大学院修士課程修了。同年7月ミスタータディ(現オーマイグラス)創業。代表取締役社長に任し、現在に至る

取材後メモ

古い取材手帳を見ると、清川社長に最初にお会いしたのは「2012年1月6日」でした。まさにこの日、通販サイト「オーマイグラス東京」が開設しています。当時オフィスだったマンションの一室から出てきた清川社長と二人で、向かいにある喫茶店で話したことを覚えています。サイトを立ち上げたばかりのタイミングだったためか、疲労と興奮が入り混じった様子で、眼鏡ECへの思いを語ってもらったように記憶しています。そこから4年以上が経過しました。今では眼鏡ECだけでなく、BtoBや海外も着手し今後さらに強化していくようです。その際もあのマンションの一室で立ち上がった通販サイトが武器になるのでしょう。

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