【2011年12月号】
“おせち”のネット販売が急成長している。大手仮想モールをみてみると、「楽天市場」でのおせちの売り上げは10月時点で前年同期比60%の増加。「ヤフー!ショッピング」でも同時期の取扱高は同30%増、「ぐるなび食市場」でも約2倍の成長とそれぞれ急激な伸びをみせており、ほとんど「おせちバブル」ともいえる勢いだ。背景にはいくつか理由があるが、まず挙げられるのが震災の影響。今年3月に起こった東日本大震災の影響で、これを機に家族団らんを見直すいわゆる「絆消費」が浸透。正月を実家で過ごす際には欠かせない舞台装置として、「おせち」の需要が高まっているようだ。また、夏場から予約を受け付ける事業者が増えたことも要因のひとつ。受注期間の長期化がその分売り上げに反映されているわけだ。これら以外では消費者のネットで食品を購入することへの心理的なハードルが下がっていることも一因にあると思われる。
おせちといえば、年明けのグルーポン・ジャパンの「スカスカおせち事件」が記憶に新しいが、風評被害などこれによる売り上げへの影響は「ほとんどない」というのが各社共通の意見。消費者の不安を払拭するため、各社がさまざまな施策で「安心・安全」をアピールしていることなどが奏功しているようだ。こうした取り組みを含め、急成長している今年の「おせち通販」のトレンドは何か。大手仮想モールの現状を見てみる。
前年同期比で60%増に
楽天では、8月から自社仮想モール「楽天市場」でおせちの予約販売を開始した。10月末時点でのおせちの売り上げは、昨年より約60%増加。「お試し」の実施や、早期割引特典など、早いタイミングでの仕掛けが売り上げ増に奏功しているという。
特に注目すべきは「お試し」サービスだ。8月ごろから10月上旬までの期間に、本商品から数品をピックアップして500~2000円程度で販売するというもので、実施する事業者は「昨年よりぐっと増えた」(楽天)。2007年ごろからの動きだが、ここ1~2年で急速に拡大している手法のようだ。
同社では、こうした背景には件の「スカスカおせち事件」の影響もあると指摘。「消費者の不安を払拭する目的で始めた店舗は多いのでは」(同)とみる。「届くまで分からない」のがネット販売が抱える弱点のひとつであり、「スカスカおせち」はそこを顕著に露呈させた事件といえる。おせちのような高単価商材では特に不利だが、事前にクオリティーを確認できる「お試し」でこうした弱点を克服。途中キャンセルの減少にも効果があるようで、今後、さらに実施する店舗が増えそう。「おせち通販」の定番として浸透する可能性は高そうだ。
「楽天市場」では現在、「おせち&年越し特集」を展開。送料無料商品や有名店の商品などをアピールしている。平均単価は1万5000円~2万円程度。4~5人用の3段重の商品が一番人気だが、「一人用」やフランス料理版の「洋風おせち」、さらには「子供用」「愛犬用」などのユニークなおせちも近年は伸びているという。
今後は売り上げが多い店舗をピックアップした「おせち選手権」の開催などを予定。結果は12月25日からサイト上で発表する。これから到来する受注のピークに向け、販促を強化して好調を維持したい考えだ。
「取扱高は100%増、200%増も」
同じくヤフーでも、11月から仮想モール「ヤフー!ショッピング」でおせち特集を展開、昨年を上回る取扱高を叩き出している。同社の10月の取扱高は、楽天には劣るものの前年同期比30%増と大幅に拡大。10月上旬は「(前年の)100%増、200%増もあった」(ヤフー)という。特に、「手ごろな価格で豪華」な商品や、有名シェフが手がける商品などが売れ筋だったようだ。
ヤフーでも楽天同様、1000円台で手軽に味わえる「お試し」サービスの実施店舗が増加。「お試し」おせちの取扱高は前年同期比で340%増まで伸長した。「お試し」が両モールで拡大しているのは、モール間で重複する店舗が多いため当然といえば当然の傾向。楽天同様、今後、急速に普及する可能性は高いだろう。
ヤフーでは今後、「年末年始特集」などで販促を強化する。年末のニーズを取り込み、さらなる成長を目指していく構想だ。
安心感高める工夫を実行
また、仮想モール「ぐるなび食市場」を運営するぐるなびも、今期おせち商戦は前年比2倍と大幅増を見込む。
おせち商戦を開始したのは8月24日から。11月現在は150店舗、492品を扱う。「スカスカおせち事件」受け、ネット購入に対する安心感を高めるため、出店数や商品数をサイトに掲載している。初出店店舗はテストマーケティングと位置付け、確実に販売できる数量のみ取り扱うことにした。
売れ筋は3~4人前の和洋折衷おせち。過去の人気店舗を中心に早期受注を獲得している。販促はポイントより送料無料が有効で、早期受注のお得感への理解が深まっているとしている。 11月と12月は限定おせちを販売。新コンテンツ「安心安全おせちランキング」も開始しており、ネット購入への不安の払拭に力を注ぐ。
昨年の売り上げを大幅に上回るなど「スカスカ事件」の影響を微塵も感じさせずに拡大する「おせち通販市場」。果たしてこれからも成長し続け、お正月の食卓の「定番」の座を獲得することができるのか。今後はいい意味で注目を集めそうだ。