1月11日、ケンコーコムとウェルネットが国を相手取って提起した医薬品ネット販売規制訴訟の上告審判決があり、最高裁判所第2小法廷の竹内行夫裁判長は、国の上告を棄却した。医薬品ネット販売を規制する省令は違法とし、ケンコーコムおよびウェルネットにネット販売を行う権利を認めた控訴審判決。国側がこれを不服として上告していたものだが、最高裁は改めて、省令による規制は改正薬事法の委任範囲を逸脱した違法なものと結論付けた。
ネット販売規制、薬事法立場が不分明
医薬品ネット販売訴訟で争点のひとつにとなったのは、ネット販売で扱える医薬品を第3類に制限する省令の規制が改正薬事法の委任を受けたものかどうかだが、今回の最高裁判決では改正薬事法の当該規定(36条の5、36条の6)で医薬品ネット販売の規制や対面での販売・情報提供を義務付けていないと指摘。その必要性に関する明示的な言及もなく「医薬品ネット販売に対する改正薬事法の立場が不分明」とし、国会での改正薬事法の可決された段階でも、医薬品通販・ネット販売を禁止すべきとする意思があったとは言い難いとした。
また、旧薬事法下で医薬品ネット販売が認められていた点にも着目し、改正薬事法の成立前後から一般消費者や専門家、有識者の間で医薬品通販・ネット販売の広範な規制への反対意見があり、副作用など事故の報告もなかったことなどから、「規制理由が乏しいとの見解が根強く存在していた」とするとともに、医薬品ネット販売への新たな規制はネット販売を主とする事業者にとって、憲法に基づく職業活動の自由を「相当程度制約するものであることは明らか」と指摘。医薬品ネット販売を一律に禁止する省令は改正薬事法の主旨に適合せず、法の委任の範囲を逸脱した違法なもので無効と断じた。
情報提供の面で、ネットは対面に劣るなどとして原告のケンコーコム側が全面敗訴となった1審判決。だが、規制の合理性を論点とした控訴審では、省令による規制は改正薬事法の委任範囲を超えた違法なものとし、東京高裁はケンコーコム側に医薬品ネット販売を行う権利があることを認めた。
今回の最高裁判決は、高裁判決を維持した形だが、規制の根拠やその経緯、憲法的な視点、法と省令の委任関係に踏み込むなど行政による安易な規制に警鐘を鳴らしたもので、裁判官全員一致という面からも極めて重い判決と言える。
精神的・経済的にも繰り死んだ3年半
「主文、本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする」。竹内行夫裁判長が判決文を読み上げ退廷すると、ケンコーコムの後藤玄利社長は訴訟代理人の関葉子弁護士、阿部泰隆弁護士と握手を交わし、最高裁前で待ち受ける報道陣に関係者が“勝訴”の垂れ幕を掲げるパフォーマンスを演じた。
判決後に厚労省で行われた会見で後藤社長は、「精神的にも経済的にも大変苦しんだ」とするとともに、「違法でもない新ビジネスを突然国がやめさせることを黙認すれば、どうやって若い人たちが夢を持って起業できるのか」と考えたことも、裁判を提起した理由のひとつとコメント。また、厚労省に対しては、「今の薬事法の枠組みの中でも省令を変えれば、ネットで医薬品を安全に販売できるしっかりとした規制はできると思う。一刻も早く、ネット薬局で正々堂々と販売できる環境を作ってほしい」と要望した。
ちなみにケンコーコムでは、医薬品ネット販売を行う権利が認められたことを受け、最高裁判決が出た同日午後から1、2類医薬品のネット販売を再開。再開後1週間の時点で、医薬品売り上げ構成比(日商ベース)が、規制導入前の水準(7~8%程度)を上回るなど、改めて医薬品ネット販売のニーズの高さが浮き彫りとなっている。
厚労省、ルール作りの検討会設置へ
一方、最高裁に医薬品ネット販売を規制する省令が違法と判断された厚生労働省は、判決のあった当日に田村憲久厚労相の談話として、最高裁判決の趣旨に従って必要な対応策を講じるため、医薬品ネット販売の安全確保策などのルール作りのための検討会を立ち上げる考えを表明している。
1月15日の閣議後会見で田村厚労相は、「非常に厳しい判決を頂いたと思う」とするとともに、「ルールが無い状況で、一般用医薬品のネット販売、郵便等の販売が行われているため、できるだけ早くルール作りをしていきたい」とコメント。2月中も検討会を設置し、数カ月間で結論を出したい意向で、「スピード感を持ってそれは決めて議論していただくように、そして一定の結論を出していただくようにお願いをしたい」とした。
すでに厚労省では、委員の人選に入っているようだが、過去に設置された「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」では、ネット販売を危険視する薬業関係委員とネット販売関係委員の主張が対立。検討会としての意見がまとめられない事態となった。その意味では、新たに立ち上げる検討会でも偏りのない委員の人選、公正な議論の推進など、厚労省は難しい舵取りを迫られる可能性もある。
ネット販売解禁に向け動き出す各社
また、今回の最高裁判決を受け、ネット販売や薬業の関係団体などがコメントを出しており、有力ネット関連事業者が加盟する新経済連盟では、最高裁判決を歓迎するとともに、厚労省に「判決を厳粛に受け止め、早期に省令の見直しを行うことを強く求める」とコメント。漢方薬局などで構成する日本漢方連盟でも、「最高裁判決によって、漢方薬が従来通り送れるようになるのであれば、非常に喜ばしいこと」と歓迎の意向を示している。
これに対し日本薬剤師は、従来からのネット販売反対のスタンスを維持し、「今回の最高裁判決は誠に遺憾と言わざるを得ない」とコメント。ネット販売に懐疑的な見方をしていた日本チェーンドラッグストア協会では、改正薬事法の主眼となる「安全性」と「セルフメディケーションの推進」に寄与するネット販売のルール化(法令化)などを厚労省に働きかけていく意向を示している。同協会では、独自に設けた有識者検討会でまとめた医薬品ネット販売のルール案を厚労省に提示しているが、今後の検討作業での一定の影響力を保ちたい考えのようだ。
一方、ネット販売関連の事業者では、仮想モールを運営する楽天とヤフーが出店事業者の安全性確保のルールに則った形での1、2類医薬品ネット販売を行うための準備を進める意向を表明しており、一部のドラッグストアでネット販売子会社を設立するなど、本格的な医薬品ネット販売解禁を見据え、各社が動き出している状況だ。
紆余曲折を経てようやくルール整備の段階に入った医薬品ネット販売。今後、厚労省が立ち上げる検討会でどのような枠組みが作られるのか、議論の行方が注目される。