「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイは7月16日、通販サイト作成サービスなどを手がけるブラケットの全株式を取得して完全子会社化すると発表した。小規模なアパレルブランドを多く抱えるブラケットのサービスを取り込むことで、これまで「ゾゾ」がリーチできていなかったアパレルブランドのEC市場もカバーしていく狙いだ。
「ゾゾ」への出店も可能に
ブラケットが運営する「STORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)」は、専門知識がなくても誰でも簡単に通販サイトを開設できるというもの。通販サイトに掲載する商品が5アイテムまでであれば利用料は無料となっており、月額980円のプレミアム版ではアイテム数無制限で掲載・販売ができる。プレミアム版ではさらにクーポンやメルマガなどのマーケティング機能、アクセス解析機能などの利用が可能で、独自ドメインの取得もできる。
「ストアーズ」は2012年9月にサービスを開始し、これまでに約4万の通販サイトが開設されている。そのうちおよそ70%がアパレル関連の商品を扱っているという。
スタートトゥデイはそうした点に着目。これまで「ゾゾ」に出店できないような規模のブランドであっても、「ストアーズ」を使うことで安価で手軽に自社通販サイトを持つことができる。そのためブラケットを子会社化して「ストアーズ」の利用者拡大を後押しすることで、これまでリーチできていなかった小規模なアパレルブランドもカバーしていく意向だ。
さらに、「ストアーズ」でサイトを開いているブランドが「ゾゾ」への出店を希望した場合には、通常よりも簡単な審査で出店できるようにする。一方で「ゾゾ」の出店店舗が「ストアーズ」上に自社通販サイトを開設するケースがあった際には、「ゾゾ」と在庫情報を連動させた状態で自社通販サイトが簡単に開設できるというわけだ。どちらの場合も在庫情報を連携することにより、それぞれのサイトで在庫ロスによる機会損失を最小限に抑えることも見込める。
スタートトゥデイではすでに、ブランドの通販サイト開設や運用を請け負うサービスを手がけており、ユナイテッドアローズやビームスといった大手アパレルの公式通販サイトの運用業務を行っている。今回の子会社化によって、規模が小さなブランドであっても自社の通販サイトを立ち上げるサービスを持ったことで、自社サイト開設に関してサービスメニューを2つ持ったことになる。
スタートトゥデイでは今後、「ストアーズ」の拡大を図るため、ブランドに紹介を行うなど営業面でバックアップをしていく。同時に「ゾゾ」の出店ブランドに対しても自社通販サイトを持つことを提案していくことも予定している。
“アパレル以外”の進出も
「ストアーズ」を利用する約70%のアパレル企業以外は、扱う商材は多種多様という。
そのため、スタートトゥデイではこれを機に「アパレル以外の新しいカテゴリーについても進出のきっかけになるということも想像しています」(前澤社長)としている。
そして、スタートトゥデイが8月か9月のスタートを予定しているスマートフォンアプリを使った新サービス「WEAR(ウェア)」と「ストアーズ」との連携も行う考え。
なお、子会社化は8月15日を予定しており、子会社化に伴ってスタートトゥデイの前澤友作社長がブラケットの取締役に就く。前澤氏がスタートトゥデイ以外の事業会社で役員に就くのは初めて。代表取締役は引き続き光本勇介氏が就く。
ブラケットは「ストアーズ」のほかにも、女性向けに靴のカスタマイズサービス「Shoes of Prey(シューズ・オブ・プレイ)」など複数のサービスを展開しているが、これらについては運営方針が決定次第、発表していくとしている。
スタートトゥデイによる買収案件は2010年4月にクラウンジュエルを持分法適用会社化してアパレルの古着市場に参入して以来となる。今回のブラケットの子会社化により、スタートトゥデイでは「ストアーズ」を「ゾゾ」に続く第二のECプラットフォームに育てる方針だ。
スタートトゥデイ・前澤友作社長とブラケット・光本勇介社長に聞く 子会社化の背景は?
小規模なブランドにスポット
前澤氏:以前から光本社長とは面識があり、システムの一部を作ってもらうなど取引もありました。そういう中で「ストアーズ・ドット・ジェーピー」が去年の9月に始まったサービスで1年が経っていないんですが、最近メキメキと成長しています。しかも(開設されたサイトの)70%がアパレルのカテゴリーだということで、これは僕らが力添えすればもっともっと大きなサービスになるぞということで今回の資本提携に至りました。我々としては、「ゾゾ」には出店できないような小さなブランドさんやショップさんが「ストアーズ」を使って、オンラインストアを持つことができるようになることを一番期待しています。また、「ゾゾ」ではファッション関連商品だけを取り扱ってきましたが、「ストアーズ」ではいろいろなカテゴリーのストアさんがいらっしゃるので、アパレル以外の新しいカテゴリーについても進出のきっかけになるということも想像しています。
──小さいブランドというのは「ゾゾ」だと敷居が高いようなという意味でしょうか。
前澤氏:リソース的に難しい、例えば展示会に行く時間がないといったブランドさんもたくさんあります。あと、バイヤーが買い付けに行く“買い付け部門”が年々縮小傾向にあるので、どうしても小規模なブランドさんにスポットが当たりにくくなりつつありました。そういうタイミングで「ストアーズ」に出てもらえればいいなと思っています。
──ブラケット側の狙いはいかがでしょうか。
光本氏:去年の9月にサービスをリリースして、有難いことにストアの数も順調に推移しています。規模が大きくなるに従って課題がいくつか出てきています。その1つとして、素晴らしい商品を持っているストアさんも人に見てもらえる機会がなかなか作りづらいということがありました。そういう意味で売る導線を作ってあげるのが私たちの課題であり、目標でした。あとは今、約4万ストアほど開設していただいていますが、もっともっと数を増やしていけばいくほど実現できる可能性も見えていくので、いかに最短でストアの数を増やしていけるのかというのを模索していました。そこで結果的にアパレルカテゴリーのストアさんが多かったことから、スタートトゥデイさんとご一緒させていただくことで私たちが持っている課題を解決すると同時に、さらにジャンプしていけるのではないかと考えています。
──以前、子会社化されたクラウンジュエルの際には、「二次流通」という新しい市場を取りに行くということでした。今回に関しては、まだ日の目を見ていないような小さいブランドのEC市場を取りに行くということになるんでしょうか。
前澤氏:そうです。「ゾゾ」ではやり切れなかった部分、ロングテールの部分と言ってもいいかもしれませんが、そこにも関与できるということで楽しみです。
──「ストアーズ」でサイトを開いているブランドが「ゾゾ」に出店したり、あるいはその逆の場合のスキームはどういうものになるのでしょうか。
前澤氏:「ストアーズ」に出ていると「ゾゾ」に簡単に出店申請が出せるというようなイメージです。「ゾゾ」は条件が必要になるので、そこをチェックした上で問題がなければ、ボタン1つ押すだけで「ストアーズ」のいろいろな情報が「ゾゾ」と連携してすぐに出店ができるというイメージです。逆の場合はもっと分かりやすくて、「ゾゾ」にすでに出ているブランドさんであれば、「ストアーズ」でもECやりたいというボタンを押してもらえれば、「ゾゾ」で売っている商品情報や在庫情報が連携されたまま、自社ECサイトがすぐに作ることができるというものです。
──ゾゾとして「ストアーズ」について、コンサル面などで関与していくのでしょうか。
前澤氏:ブランドさんを「ストアーズ」に紹介といった具合に営業の部分では大きな協力ができるかなと思っています。ただ、コンサルティングまでは今のところ計画していません。あくまで新規のお客さんをとっていきつつ、「ゾゾ」にすでに出ていただいているブランドさんに対しても自社でオンラインストアを持ってみてはいかがですか、という働きかけも予定しています。
光本氏:オンラインストアは今さら目新しいものではないと思いますが、実はやろうとするとまだ敷居が高いものだと思います。それを身近なものにして、広めていきたいという思いがあります。
前澤氏:オンラインストアを作るのではなくて売ってもらわないと意味がないと思います。売れるストアをたくさん作りたいです。
光本氏:中長期的には1人1個、オンラインストアを持つというようなカルチャーを作りたいと思っています。1人1個、ブログを持っていたり、1人1個フェイスブックのアカウントを持っていたり、1人1個ツイッターのアカウントを持つような感覚で1人1個ストアを持ってもらえればと考えています。