地デジ化や家電エコポイントによる“テレビ特需”の反動などにより、2期連続の減収減益となった苦境からの脱却を図るため、2013年を”覚悟の年”とし、過去最高益の達成を目標に掲げ、それができなかった場合、「社長をやめる」と髙田明社長が自らの進退をかけることで大きな求心力を生み、大胆な商品構成の転換など様々な戦略を推し進め、2013年12月期の経常利益は目標通り、過去最高額となる150億円超で着地したジャパネットたかた。目標達成の中心的な役割を担い、今後の同社を背負う髙田旭人副社長に現状と今後のジャパネットたかたの方向性などについて聞いた。 (聞き手は本誌・鹿野利幸)
社長の頭の中を形や組織にせねば会社は続かない
13年は大幅な増収増益に
――前期(2013年12月期)は期初の目標通り、過去最高益を達成するとのことでしたが、実際の着地は。
売上高は1423億円、経常利益は154億円で着地しました(※2012年12月期は売上高1170億円、経常利益73億円)。大きかったのはやはり“商品”でしょう。「ジャパネットの強みは何だろう」と原点に立ち返り、幅広い商材でなく、選び抜いた競争力のある商材をとことん説明し、訴求し販売していきました。そうすることで当該商品の販売量が膨らみ、商談の交渉力も高まっていきました。そうした売り上げをけん引した商材がテレビに代表されるこれまでのデジタル家電から、白物家電などとなったことで全体の原価率を押し下げたことが利益面では大きなインパクトとなったと思います。
――中でも際立った商品などはありましたか。
色々とありますがやはり掃除機でしょうか。特に東芝のサイクロン式掃除機「トルネオ」と布団専用ダニ取りクリーナーの「レイコップ」は販売数量としても大きく柱となった商品でしたね。「トルネオ」は一般的な掃除機のカテゴリーで“最強の1台”を作ろうということで東芝さんと一緒に取り組ませて頂いた結果、ヒットに至ったもので、「レイコップ」はこれまでまったくなかった布団用ダニ取り掃除機という商品についてきちんと良さを伝えることができ、ヒットに至ったもの。同じ掃除機でもタイプや意味合いは違います。こうした2つのパターンの商品をそれぞれ強化していくことが今後の当社の競争力を高めていく上で重要だと考えており、前期の中では象徴的な商品だったと思っています。
再現性ある仕組みを
――これまでの商品はデジタル家電がメーンでした。メーン外のジャンルで売り上げをけん引できる商品を作り出せた理由とは。
一昨年8月に東京・六本木に東京オフィスを構えた直後から、バイヤー部門と番組制作部門の組織の切り口を変え始めました。バイヤーも番組制作も商材のカテゴリーごとに担当を設けました。特定商材に特化したカテゴリー担当制とすることで、バイヤーも制作も特定のカテゴリーにのみ集中すればよくなりました。会議も常に同じメンバーが顔を合わせることになりました。このことは大きかったと思います。バイヤーが考えていること、例えば「なぜ、この商品を販売することにしたのか」などを番組の制作側にも知ってもらうことが、訴求力を高める番組作りには大事です。
これまでは(髙田明)社長が結局、その部分をすべて担い、つないでいました。商談をし、商品を紹介し、番組制作もやってきました。そうしたことは普通の人はできません。まして、東京には社長はいないわけですから、ではどうしようかと考えた時に、商品選びはバイヤー、番組作りは制作担当、商品の紹介はMCが担い、そこの連携を取りやすい形を作ることが重要なのだろうと考えました。
同時に商品選定の方法も変え、バイヤーが選んできた商材はとにかく信頼してやらせる、という形にしました。これまでは社長や担当部長のフィルターがあり、バイヤーが 「こういう新しい商品をやってみよう」と思ってもはじかれることも多かったわけですが、東京オフィスには社長はいませんし、私は商品のことは少なくとも私よりバイヤーが詳しいだろうと思っておりまして、よっぽどコンセプトからずれていなければ「とにかくやってみたら」というスタンスでやらせました。
先ほどお話した通り、カテゴリー担当制としたため、これまでとバイヤーの動き方も変わってきたことも大きいです。これまでは1人が担当するカテゴリーが多かったため、メーカーなどから提案される商材について白黒をつけることが主な仕事になっていましたが極端な話、提案が来なければ終わりで優れているが埋もれている商品は埋もれたままだったわけです。カテゴリー担当制にして各バイヤーごとに明確な目標設定をしたことで、当該カテゴリー内でその目標を達成するために、 自分から商品を探しに行く頻度が増えました。もちろん、あまり売れなかった商品もありましたが、予想以上に非常に売れた商品も出てきました。「レイコップ」や調理家電「ザイグル」などもこの仕組みの中から生まれました。
私はまずは道を整えてみんなが走りやすくなればと思っていましたが、正直、いきなりこんなにできるんだという印象でした。こうした仕組みの中で、商品選定を“感性”だけに頼るのではなく、やってみて実績ベースで検証できるサイクルが作れたというのも大きいかったですね。前期はこのように“再現性”にこだわりながら様々な種まきをし、それが芽吹き始めてきたところです。
――再現性とは何ですか。
当社は社長が中心となって事業を行ってきました。社長が会社にいる間に、社長の頭の中にあるものを形や組織に起こさねば、この会社は続かないとずっと思ってきました。繰り返しになりますが、社長はすべての中心を担ってきたわけです。例えば先ほど制作やMCの連携の話をしましたが、佐世保ではMCがディレクターです。MCである社長が自分を俯瞰し、商品を紹介しながら番組の構成も組み立てていく。しかし、東京ではいくらベテランMCであっても番組ではディレクターの指示を聞くという形にしました。 そのことでそれぞれのMCを自分を
俯瞰して見れるように変えていきたい。結局、社長みたいな人でなくとも結果を出すためには“再現性のある仕組み”を作っていく必要があるということです。
ネット、専門チャンネルは今年から攻める
――自身が管轄して強化してきたネット販売の現状はどうですか。
去年は「過去最高益の達成」という目標もあったために、まずはネット独自で売り上げを作るよりも、受注ツールとしての機能を強化することにしました。当社の番組を見て、通販サイトに来て頂いたお客様にとって、どうしたら買いやすい環境になるかを考えて様々な改善を行いました。例えば、4人からなるユーザビリティチームを作り、購入導線を改善したり、何となくテレビで見た商品がどんなものだったのかネットで確かめられるよう45秒とコンパクトに要点をまとめた動画の充実などですね。受注ツールとしての機能強化も一定のメドがつき、これからはネット独自で売り上げを作ろうと“攻め”に切り替えているところです。
――何をしたのでしょうか。
年始の1月1~3日まで、通販サイトで初売りセールを行いました。在庫商品を“2014円”というありえない価格で紹介したり、媒体コストなどがかからないネットだからこそ出せる価格で人気商品を販売するなどし、去年の年始のセールの2倍の売り上げとなりました。年始はテレビや折込チラシなど他の媒体はやっていないため、純粋にネット単独の売り上げとなります。この結果を受けてネット部門のみんなで年始から盛り上がりました。今年は様々な試みを積極的に行ってネット販売を強化していこうと思っています。
――昨年12月にスマホ向けアプリ「ジャパネットアプリ」をリリースしましたがこれも“攻め”の一環ですか。
「ジャパネットアプリ」の目玉の機能は「テレビにかざして買い物カメラ」という機能で、放送中の通販番組(※CS専門放送のみで地上波番組は未対応)の画面をスマホのカメラで写すと、紹介中の商品の通販サイトの詳細ページをスマホに表示して詳しい商品情報を確認できたり、そのままネットで商品を購入できる仕組みです。
お客様にとって買いやすい環境を作る受注ツールとしての要素が今のところは大きいですが、第2フェーズとして、そこにコミュニケーションツールとしての機能を持たせたいと考えています。例えばログインすれば過去に購入した商品のFAQの動画が見られるとか、愛用者の声が閲覧できるなどですね。今年中にもやりたいと考えています。
――同じく副社長が管轄するCS専門チャンネル「ジャパネットチャンネルDX(ジャパチャン)」の状況は。24時間、自由に枠を使える自社チャンネルで新しい形の番組作りを模索していたようでしたが。
昨年前半は新しい試みに色々とチャレンジしたが結果としてはうまくいきませんでした。中途採用で入社してきたテレビ局出身の番組制作スタッフなども増え、ロケを多用した番組などを放映しました。面白い番組・企画でしたが「商品が主役」で商品の良さを見せることが最重要だという認識がない中でやっていたため、売れませんでした。
ネットと同じで去年は最高益達成という目標があり、後半からは新しいことよりも従来までの1時間の通販番組を作り込んで、商品の良さをとことん追求する当社のやり方を徹底的に突き詰める形で売り上げの拡大を図りました。実際にそうした番組を作り、「商品の良さを徹底的に伝えれば売りにつながる」ことをみんなが実感し、そうした成功体験が積み上がってきました。この1年間の経験などを活かしながら、再度、「ジャパチャン」独自の新しい面白い番組にチャレンジしようと皆でまさに企画しているところです。
土台できれば年商1兆円でも、どこまでいけるか楽しみ
2年後には社長になる
――昨年末に佐世保で開催した有力取引先などを招いた会合で、髙田明社長は2年後には社長を辞め、副社長を後任に推すと発表しました。
高校生くらいから「親の会社を自分が守りたい」と考えていたのでその“覚悟”はできています。当社に入社してからも佐世保の本社を離れ、社長がいないところで、ジャパネットの良さを残しながら、仕組み化するなど私のやり方を実践してきました。特に経営に関しては、ずっと意識してやってきているので、イメージはあります。ただ、やはり“売る”という最後の部分については、常に中心に社長がいました。一番の不安は「消費者における社長の存在の大きさ」ですね。こればかりはやってみないと分かりません。ただ、(髙田明)社長は「退任しても“出て”と言われれば、きちんと協力するからね」と言ってくれているので、そこはあまり心配していないです。
昨年10月から私は人事の担当役員も兼務しており、新たな人事制度の設計を始めたところです。多様な働き方や雇用形態の整備、社員や部署の目標設定の方法やまだまだ役員や部長が少ないため、そうした幹部となる人材の育成なども進めています。私はこの2年でこの会社の“土台”を作りたいと考えています。皆が自分の意志で走ることができる環境です。私には社長ほど皆を引っ張っていくパワーはありません。ですから土台を作り、会社の方針とさえ合致していれば、社員それぞれがやりたいことを、その人の意志で新しいことでもチャレンジできるようにしていきたいと思っています。それができればこの先、売り上げは5000億円でも1兆円でも行けるイメージがあります。本当にこの会社はどこまでいけるのだろうと、とても楽しみでワクワクしています。
◇プロフィール◇
髙田旭人(たかた・あきと)氏
1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、証券会社へ入社。03年にジャパネットたかたへ入社。販売推進統括本部、商品開発推進本部の本部長などを経て、10年に総合顧客コンタクト本部本部長及び配送管理を行う商品管理部部長を兼任。同年、ジャパネットコミュニケーションズ設立時の代表取締役。12年にはジャパネットたかた取締役副社長兼ジャパネットコミュニケーションズ取締役に就任。現在は主に東京オフィスでバイヤー部門、インターネット企画制作部門、自社チャンネル企画制作部門の統括を行っている。
◇編集後メモ◇
毎年、年末に開催される恒例のジャパネットたかたの「大望年会」。昨年末は目標を達成できた安堵感や達成感の中で始まりましたが、髙田社長は冒頭のあいさつで「長くとも(社長を続けるのは)2年」とし、その後は髙田旭人副社長に引き継ぐという方針を示しました。偉大な父親からバトンを引き継ぐことになる副社長にその覚悟を問うと「そのことは高校くらいから考えていた」とし、とっくに覚悟もそのための準備もしてきたとのこと。「私と社長の性格は真逆」と話す旭人氏。恐らく経営のやり方も変わってくるでしょう。同氏がどのように導き、父が築き上げたジャパネットたかたをどう変えていくのでしょうか。楽しみです。