“つながり”で売買されるモールへ【島村武志 LINE 上級執行役員コマース・メディア担当】

LINEは仮想モール「LINE MALL(ラインモール)」で法人の出品に対応する。8月末に開催された新サービス発表会で、「グループ購入」「ギフト」「マルシェ」「セレクト」の4つの新サービスを開始し、それぞれ法人からの出品を受け付けることを明らかにした。国内で5000万人以上の利用者を持つLINEが仕掛けるラインモールの法人戦略とは。上級執行役員コマース・メディア担当の島村武志氏に法人対応の内容や今後の方針などについて聞いた。(聞き手は本誌・比木暁)

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売れるという手応えはある

売り場をはぐくむには順番がある

――昨年12月末にプレオープンしましたが、これまでのラインモールの状況について印象を聞かせてください。

開始時から試行錯誤をしてきました。まずは誰でも簡単にモノを売り始めることができて、それがシンプルに買えるということをしっかり作り込もうとしていました。その中で業界の常識ではなかなかないことにチャレンジしようとしていましたが、基本的なパッケージングをしっかり作り込まないとその上になんの建物も建てられない。コンセプトがあって始めたというよりは基礎パッケージングの作り込みをしていました。今は自分たちのビジョンをこういう方向で具体化していこうというものが見えてきました。

始める前は何も分からず自信を持てる根拠もなかった時点から比べると、今はものすごくプリミティブな状態にも関わらずしっかりと回っています。モノが入れば売れるという手ごたえはある。今、セール品に関しては、ニーズに対してモノのほうが少ない。本当はもっと並べたいのですが、我々の条件に合うものを確保するのが難しく、供給のほうが少ない状況です。しっかりとマッチするものが供給できると売れる、ということが確認できています。

――流通総額は想定どおりに伸びているのでしょうか。

最初はそれこそゼロ円の可能性もあると思ってスタートしましたが、規模感としては予測していたよりも出たというのが事実です。今は外に向けて大きく発表するタイミングではなくて、成果をより最大限作っていくための礎いしずえを築いているところです。

――新たに始める「グループ購入」(※「LINE」でつながっている者同士で共同購入ができるサービス。8月28日に開始)などは企業が出品するサービスになりますが、問い合わせの状況は。

発表時は全窓口に電話がかかるような状態でした。ただ、今はまだご案内ができる状態ではないので、「少し待ってください」とお伝えしています。あくまで「ショーケース」(※LINEが8月27日に開催した戦略発表会の名称)は戦略の発表の場で、機能ができて受け付けの準備が整ってスタートするのは「グループ購入」しかありません。こちらに関してはやれるところは少しずつ始めています。ですが、まだ制作中のため機能ができて展開できるようになれば改めてご案内して出品していただく予定です。

――準備が整うまで時間がかかるということでしょうか。

まずは価値を作るところをしっかりとやらせていただきます。最初に価値を作らず商品を並べても
お客さんは戸惑います。売りたいという側と買いたい側は、良い商品があって、「こういう場なんだ。こういう経験ができるんだ」と思えば買っていただけますが、そのイメージを作るために何でもかんでも商品が並んでいるのでは、「ここはどういう出会いができる場なのだろうか」と疑問に思っ
てしまいます。新たな売り場をはぐくんでいいくには順番があります。

――出品したいと考えている企業は、LINE側が門戸を開くのを待つ必要があるということでしょうか。

例えばスタンプ(※絵文字の一種)も最初はそういう話がたくさん出ました。公式アカウントも当初はそういう風に言われました。「スタンプは有名なキャラクターしか出せないのですか?」「1000万円を月に払える企業しか公式アカウントを持てないのですか?」といった具合です。

私たちもビジネスのことを考えていますが、消費者の方がいらっしゃるので、その方々の価値は何かということを通じてしかお話ができません。つまりこの場でどういうことが起きるのかをちゃんと知ること。それが分かってからご案内するという順番にならざるを得ない。

最初から先行きが見えているビジネスをやるのであれば、すぐにご案内できますが、LINEは新しいことを始めています。実績もなく先駆者もいないわけです。そういう意味で最初からこうすればいいということをお伝えできないのも事実です。

――企業はLINEにアプローチしたほうがいいということでしょうか。

LINEがすでに始めていることに対して「こういうことがありますよ」というご提案をいただくことに対して、拒否したことはありません。つまり、今形になって出ているものを見て、「LINEさんはこうされてますが、当社だったらこういう風にできるんですがやりませんか?」という提案を拒否したことはありません。

商品ラインアップは流動する

――「グループ購入」での出品の進め方は、「ギフト」(※「LINE」でつながっている相手にモノを送ることができるサービス。今秋以降に開始予定)に関しても同じイメージになるでしょうか。

最初に募集を積極的にさせていただいて商品登録が集まってから、はいスタートという形にはならないでしょう。これもお客様に対しての新しいサービスなので、ギフトという領域で気軽に売買が行われる環境になるかという新しいチャレンジになります。

今まであったようなフレームワークの中でのギフトサービスがLINEでもできるということならやらなくてもいい。LINEだからこそ始まった何かがあるべきです。そうするためにはどういう商品が良いのかということから考えなければなりません。

まずはそれを計測するために、分かりやすく結果として現れる商品の置き方をする必要があります。やってみないと分からないところがあるので、まずはイニシャルセットとしてある程度仮説を検証できるようなラインアップでスタートします。

――ギフトなので浮かぶのは、誕生日プレゼントや結婚・出産祝い向けの商品になるでしょうか。

そういうものもあります。コミュニケーションを円滑にするようなものをそろえることができないかと考えています。入退社、誕生日、還暦祝いなどいろいろなお祝いのシーンもありますし、“割り勘”で良いものを買いましょうという利用シーンも想定できます。もっとLINEらしくできることもあるかもしれません。そのあたりは企画やプロモーションなどいろいろな角度で検討しています。

――「グループ購入」や「ギフト」は常時、どの程度のアイテム数がそろうイメージでしょうか。

「ショーケース」でこのサービスを“プッシュコマース”と置き換えましたが、言い換えると「商品が常にそこにあるべきなのか?」という疑問の提示です。「常時何品あるか」はその時に出会える接続可能点の話であって、フル在庫の話ではありません。ラインモールが対象にしようとしている商品のバリエーションは“無限奥行き”に近いイメージです。

ただ、それを検索的にピックアップするという概念ではなく、その日一日で出会える絶対量の中で日々いろいろな変化をもたらしていくという概念です。つまりアプローチが少し違っています。扱っている商品の幅も奥行きも非常に大規模なものになるべきだと考えていますが、そこに対する接し方は検索を通じてではなく、“つながり”や“出会い”を通じてというイメージです。

――例えば「グループ購入」はどのくらいの頻度で商品ラインアップは変わるのでしょうか。

モノがどう動くのか、どのくらいのサイクルで1つ1つが在庫としてさばけていくのか。それはサービスの規模感によっても訪れる来場者数によっても、かなり違いが出てきます。我々がルールやパターンを決めるのではなく、お客様の動きに合わせて最適化し続けていくという流れになっています。システム的に決められた形で商品が出たり入ったりはしません。ほぼ手運用しています。お客様が望むなら毎時間でも毎分でも商品が変わるようにしたいです。

――そこは流動的に動いていくと。

非常に強く流動すると思います。「セレクト」(※セレクトショップの店頭商品を購入できるサービス。年内に開始予定)のコンセプトもそうです。こちらはオフラインのセレクトショップをやられているところに参加を限定しようと思っていますが、その店員さんがどんどんリアルタイムに商品をアップしていく。そしてリアルタイムに出会って、リアルタイムに買うという風にできればできるほどいいと考えています。あらかじめ商材がカテゴリー的に存在するのではなく、どんどんその店員さんが入荷したモノを案内するというイメージです。

小さい力が活躍できる環境に

法人の無料化は考えたことがない

――「セレクト」では、売れた商品は店頭から顧客のもとに発送するのですか。

もちろんそうです。その際にご自分で発送してもらってもいいし、「LINE配送」(※LINEがフェリシモと共同で展開する定額配送サービス)を使ってもらってもいいです。

――その商品がネットではなく店頭で売れた場合は。

商品をラインモールから下げてソールドアウトになります。地方で数人で運営されているようなセレクトショップさんで、実際に買付に行って本当にセレクトして集めているような店舗さんの商品でなければ、「そこに行かないと出会えない」という商品構成になりません。スタート時点では、都内に限らず地方の店舗さんも出品されます。当社の営業マンが地方をあちこちまわっています。

――「セレクト」についてもリアルショップなどから問い合わせがきているのですか。

セレクトショップさんから問い合わせがくることは少ないです。連絡が多いのは通販系の企業さんですね。ただ、「今の段階ではこの枠にははまらない」とお話させてもらっています。オフラインを持たれていない企業さんからも関心を持っていただくのは有難いのですが、サービスの趣旨をご説明している状況です。

――それぞれのサービスで出品時の手数料は。

「グループ購入」「ギフト」「マルシェ」(※産地の農作物や魚介類を購入できるサービス。年内に開始予定)「セレクト」とサービスのジャンルによってそれぞれ料率は異なりますが、現時点では初期費用をとる計画はなく、純粋に販売手数料だけをいただきます。ただ、規模感が大きくてシステム連携が必要な場合などには別途、つなぎこみの費用など細かな金額が発生することはあり得るでしょう。

――法人向けで手数料を無料にしようと考えたことはありますか。

それは一度もないです。

――今後、中長期的にラインモールの目指すところは。

小さい力が活躍できる環境にしたいです。総論として、規模の大きいところが規模感を活かして広げていく傾向が強い中で、一色に染められてしまう方向に進むよりは多様性を生み出したい。LINEはつながりを広げていく。つながりをはぐくんでいく。そう考えています。

◇プロフィール◇

島村武志(しまむら・たけし)氏
2004年4月NHN Japanに入社。2007年11月ネイバージャパン設立に伴い、ネイバージャパンへ移籍。2012年1月傘下のNHN Japanグループ3社の経営統合に伴い、NHN Japanに移籍。2013年4月NHN Japanの商号変更により、LINE執行役員サービス企画1室室長に就任。2014年4月現職に就く。

◇編集後メモ◇

LINEが運営する「ラインモール」で法人出品の具体的な取り組みが動き出しました。ラインモールの動向を気に掛けていた事業者からすると、“待ちに待った”展開かもしれません。

実際、アパレルや雑貨など実店舗向けのサービスである「セレクト」に関して、店舗を持たない通販企業からの問い合わせが多かったことからも、注目度の高さがうかがわれます。

島村氏によると、各サービスの趣旨や戦略上、スタート時から多くの企業が出品して商品がずらりと並ぶわけではないようです。それでも、多くのユーザーを抱えるLINEの仮想モールが新たなビジネスチャンスとなり得るのか、注視しておいてもいいかもしれません。

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